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疑似恋愛
第7話ー5
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リティアを見送ると、レオンとランハートは顔を見合わせ、お互いの背中を叩いた。
「とにかく、ヴェルターが多忙で窓の外を見てなきゃいいんだけど」
「そうだな。見える所で会ってるくらいの純粋な二人だし、かわいいもんだが」
「……なぁ、ラン。どう思う」
「そうだな。色々思うことはあるが、結局のところ俺たちが何もしなくてもヴェルターとリティアは結婚する、ということだ」
「まぁ、そうだな。ヴェルターが変なことはともかく、リティアはどうしたというのだろうか。疑似ではない恋愛をすればいいじゃないか、ヴェルターと」
「初恋はこじれるんだろ。ラン」
「お前の方が恋には詳しいんじゃなかったのか」
「……」
「……」
「戻るか」
「そうだな」
二人はもう一度肩をたたき合ってその場を離れた。
◇ ◇ ◇ ◇
ランハート・ヴェッティン及びレオン・フリューリングの危惧していたことはその通りになっていた。
……見たくないものほど見てしまうものだ。
見たくないのに見える場所にわざわざ行ってしまう。この自傷行為ともいえる行動を繰り返し、ヴェルターはひどく傷ついていた。
なぜ、リティアは宮廷に来るのだろうか。その疑問を持つのは一度や二度ではなかった。その都度理由から自分は除外されるとわかっているのに自問してしまう。だが、ここ最近は自分が除外されるだけでは無かった。自分の婚約者であるリティアは確実に他の男に会いに宮廷に来ていた。
初めはわざわざ宮園で会うなんて自分への当て付けかとまで思ったが、自分のことなどリティアの頭の隅にもないだろう事を知って余計に落ち込むことになった。ヴェルターは見なければいいのはわかっているが、敢えて見える所へ体が動いてしまうという矛盾を繰り返していた。
ウォルフリック・シュベリーとリティアは何度か庭園で逢瀬を楽しんでいた。(ようにヴェルターの目には映った)リティアの馬車がこの王太子宮側に停まると、優秀な侍従たちがヴェルターに訪問があるかもしれないと、いつリティアが来てもいい準備をするのだ。ヴェルターはリティアが来たことを嫌でも悟ってしまう。わずかな期待が裏切られるこれほど虚しい事は無かった。……少し前、リティアが宮中でウォルフリックについてあちこちで尋ねているらしいと耳にした。噂にも満たない小さな情報だったが、ヴェルターは聞き逃さなかった。
窓際に立って、庭園を見下ろす。ヴェルターの目はどんなに遠くにいてもリティアを一瞬で見つけられる特殊機能がついていた。この日も横には、ウォルフリック・シュベリーの姿があった。ヴェルターは、この時初めて彼も笑うのだと知った。はにかむような笑顔は同性からみても大層に魅力的で、至近距離であの顔を向けられると、たまらなくなるに違いなかった。そこで目を逸らしていればよかったのに。ヴェルターは深く後悔をした。
リティアが、リティアの方からシュベリー卿の手を取った。
ヴェルターの目はそこから貼り付けたように動かなくなってしまった。ちょうどそのタイミングでノックされたドアに正気を取り戻した。
「殿下、そろそろお茶を用意させましょうか」
入って来たエアンに頷くと、エアンはすぐに部屋を出て行った。直ぐに侍女がお茶を持ってくるだろう。早く、席に着かなければ。そうは思ってもヴェルターは目の前が真っ暗になったようで上手く体を動かせなかった。
以前、王太子側ではない馬車庫にリティアの馬車が停められていたあの時もシュベリー卿に会っていたのだろうか。ヴェルターの疑心は募るばかりだった。侍女の持ってきたお茶はリティアがここへ寄ることも想定されたリティアの好みのもの。この香りがこの日ほど苦痛に感じることはなかった。
ヴェルターの脳裏にリティアとウォルフリックが初めて会った時のことが思い出された。リティアのどこか惚けたような顔、“あなたと真逆ね”確かにリティアはそう言った。
「悪い予感というのは当たるのだな」
ヴェルターは、こんなことなら、と後悔した。こんなことなら宮廷に遊びに来るように言うんじゃなかった。ヴェルターは久しくリティアの心から笑った顔を見ていなかった。それどころか、あんなはにかんで高揚した表情は見たことが無かった。リティアが異性を特別な感情で見つめる、そんな顔だった。
ヴェルターはどうしようもない黒い感情に吞まれそうになった。自分の真珠の髪も、淡い色の瞳も何もかも気に入らず手荒に髪をかきまぜた。ヴェルターには苦しい胸の内を打ち明けられる相手は誰もいなかった。
次に侍女がティーカップを片づけに来た際には、乱れを正したいつものヴェルターだった。
「あら、お飲みにならなかったんですね」
「ああ。すまないが、もう一杯お茶を入れなおしてくれないか」
「ええ、冷めてしまいましたね」
「この茶葉以外のもので頼む。出来れば頭がすっきりとするものを」
「かしこまりました」
侍女が出て行くと。ヴェルターは空を仰ぎ、目を閉じた。目を閉じるとさっきのリティアとウォルフリックの姿が浮かび、苦く笑った。自虐的な心情だった。今度は俯きもう一度大きなため息を吐いた。いくら吐いても心の靄は胸にずっと張り付いて出て行きそうには無かった。
ヴェルターは、一、二、と指を追った。リティアと婚約してどのくらいの月日が経っただろうか。そして、リティアと婚姻を結ぶ日まであとどのくらいだろうか。
「あと、半年ばかり。ここまで待ってこんな理不尽なことがあるだろうか」
あと半年。その日をずっとずっと待っていた。ようやく念願叶いこの想いが成就するのだと思っていた。神の前で愛する人に永遠の愛を誓い、両手で、この腕で抱きしめられるのだと。……神は残酷だ。今になってこんな出会いをわざわざ用意するのだから。
ヴェルターはの指折り数えた手は止まったままだった。
「とにかく、ヴェルターが多忙で窓の外を見てなきゃいいんだけど」
「そうだな。見える所で会ってるくらいの純粋な二人だし、かわいいもんだが」
「……なぁ、ラン。どう思う」
「そうだな。色々思うことはあるが、結局のところ俺たちが何もしなくてもヴェルターとリティアは結婚する、ということだ」
「まぁ、そうだな。ヴェルターが変なことはともかく、リティアはどうしたというのだろうか。疑似ではない恋愛をすればいいじゃないか、ヴェルターと」
「初恋はこじれるんだろ。ラン」
「お前の方が恋には詳しいんじゃなかったのか」
「……」
「……」
「戻るか」
「そうだな」
二人はもう一度肩をたたき合ってその場を離れた。
◇ ◇ ◇ ◇
ランハート・ヴェッティン及びレオン・フリューリングの危惧していたことはその通りになっていた。
……見たくないものほど見てしまうものだ。
見たくないのに見える場所にわざわざ行ってしまう。この自傷行為ともいえる行動を繰り返し、ヴェルターはひどく傷ついていた。
なぜ、リティアは宮廷に来るのだろうか。その疑問を持つのは一度や二度ではなかった。その都度理由から自分は除外されるとわかっているのに自問してしまう。だが、ここ最近は自分が除外されるだけでは無かった。自分の婚約者であるリティアは確実に他の男に会いに宮廷に来ていた。
初めはわざわざ宮園で会うなんて自分への当て付けかとまで思ったが、自分のことなどリティアの頭の隅にもないだろう事を知って余計に落ち込むことになった。ヴェルターは見なければいいのはわかっているが、敢えて見える所へ体が動いてしまうという矛盾を繰り返していた。
ウォルフリック・シュベリーとリティアは何度か庭園で逢瀬を楽しんでいた。(ようにヴェルターの目には映った)リティアの馬車がこの王太子宮側に停まると、優秀な侍従たちがヴェルターに訪問があるかもしれないと、いつリティアが来てもいい準備をするのだ。ヴェルターはリティアが来たことを嫌でも悟ってしまう。わずかな期待が裏切られるこれほど虚しい事は無かった。……少し前、リティアが宮中でウォルフリックについてあちこちで尋ねているらしいと耳にした。噂にも満たない小さな情報だったが、ヴェルターは聞き逃さなかった。
窓際に立って、庭園を見下ろす。ヴェルターの目はどんなに遠くにいてもリティアを一瞬で見つけられる特殊機能がついていた。この日も横には、ウォルフリック・シュベリーの姿があった。ヴェルターは、この時初めて彼も笑うのだと知った。はにかむような笑顔は同性からみても大層に魅力的で、至近距離であの顔を向けられると、たまらなくなるに違いなかった。そこで目を逸らしていればよかったのに。ヴェルターは深く後悔をした。
リティアが、リティアの方からシュベリー卿の手を取った。
ヴェルターの目はそこから貼り付けたように動かなくなってしまった。ちょうどそのタイミングでノックされたドアに正気を取り戻した。
「殿下、そろそろお茶を用意させましょうか」
入って来たエアンに頷くと、エアンはすぐに部屋を出て行った。直ぐに侍女がお茶を持ってくるだろう。早く、席に着かなければ。そうは思ってもヴェルターは目の前が真っ暗になったようで上手く体を動かせなかった。
以前、王太子側ではない馬車庫にリティアの馬車が停められていたあの時もシュベリー卿に会っていたのだろうか。ヴェルターの疑心は募るばかりだった。侍女の持ってきたお茶はリティアがここへ寄ることも想定されたリティアの好みのもの。この香りがこの日ほど苦痛に感じることはなかった。
ヴェルターの脳裏にリティアとウォルフリックが初めて会った時のことが思い出された。リティアのどこか惚けたような顔、“あなたと真逆ね”確かにリティアはそう言った。
「悪い予感というのは当たるのだな」
ヴェルターは、こんなことなら、と後悔した。こんなことなら宮廷に遊びに来るように言うんじゃなかった。ヴェルターは久しくリティアの心から笑った顔を見ていなかった。それどころか、あんなはにかんで高揚した表情は見たことが無かった。リティアが異性を特別な感情で見つめる、そんな顔だった。
ヴェルターはどうしようもない黒い感情に吞まれそうになった。自分の真珠の髪も、淡い色の瞳も何もかも気に入らず手荒に髪をかきまぜた。ヴェルターには苦しい胸の内を打ち明けられる相手は誰もいなかった。
次に侍女がティーカップを片づけに来た際には、乱れを正したいつものヴェルターだった。
「あら、お飲みにならなかったんですね」
「ああ。すまないが、もう一杯お茶を入れなおしてくれないか」
「ええ、冷めてしまいましたね」
「この茶葉以外のもので頼む。出来れば頭がすっきりとするものを」
「かしこまりました」
侍女が出て行くと。ヴェルターは空を仰ぎ、目を閉じた。目を閉じるとさっきのリティアとウォルフリックの姿が浮かび、苦く笑った。自虐的な心情だった。今度は俯きもう一度大きなため息を吐いた。いくら吐いても心の靄は胸にずっと張り付いて出て行きそうには無かった。
ヴェルターは、一、二、と指を追った。リティアと婚約してどのくらいの月日が経っただろうか。そして、リティアと婚姻を結ぶ日まであとどのくらいだろうか。
「あと、半年ばかり。ここまで待ってこんな理不尽なことがあるだろうか」
あと半年。その日をずっとずっと待っていた。ようやく念願叶いこの想いが成就するのだと思っていた。神の前で愛する人に永遠の愛を誓い、両手で、この腕で抱きしめられるのだと。……神は残酷だ。今になってこんな出会いをわざわざ用意するのだから。
ヴェルターはの指折り数えた手は止まったままだった。
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