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建国祭(前半)
第8話ー4
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外から賑やかな催促が聞こえる。子供たちは剣の稽古をとても楽しみにしているようで、リティアはのんびりもしてられないと着替えに急いだ。
滞在先には自分の侍女は連れてこなかった。ヴェルターが用意すると言ってくれたし、アン女王とヴェルターの様子を見てミリーが何かを悟るかもしれない。リティアはここに滞在する間くらい、穏便に過ごしたかった。
軽装に着替え、侍女が部屋を出て行くと、リティアはパンと両頬を叩いた。
「よし! 今は何も考えずに楽しまなくっちゃ」
部屋から出ると、そこにヴェルターが立っていた。
「……待っていてくれたの? ごめんなさい、待たせてしまったわ」
「まさか。こんなに早く出てくると思わなかったよ」
ヴェルターは柔らかく笑う。市民のようなシャツとトラウザーズという軽装でも隠し切れない美貌に“お忍び”なんて無理じゃないかしら、とこの日からの予定を案じた。ヴェルターはリティアの一つに結い上げた髪を見ると、懐かしいなと呟いた。
「昔に戻ったみたいだね、リティ」
「ほんと、とても身軽で動きやすい」
激しく動くことなんて長く必要としなかった。令嬢は病人のように白い肌が求められ、活発であることは良しとされなかったのだ。
「そうだ、リティ。さっき言おうと思ったんだけど」
ヴェルターはここで足を止め、くるりと体をリティアの方へ向けた。それ倣いリティアもヴェルターを見上げた。
「確かにアンはとてもきれいな人だけど、僕は君もとっても綺麗だと思うんだ」
ヴェルターはそう言っていたずらっ子のように笑った。リティアはあまりのことにポカンとしたがすぐに顔がリティアの髪色のように染め上がった。
「ヴェ、ヴェルったら! もう。いつの間にそんなことを言えるようになったのかしら。いいのよ、いいの。こんな格好の時まで褒めてくれなくても! あ、あなたも素敵よ。どんな格好でもあなたは王子様なのねって思っていたの。ああ。何を言ってるのかしら。子供たちが待ってるわ。行きましょう」
リティアは急かすようにヴェルターを追い立てた。
「はははは」
ヴェルターは上機嫌で声を出して笑っていた。
リティアはヴェルターの背中を押しながら、呼吸を整えた。
ヴェルターったら、今日会ってからずっと子供みたいなんだから。彼なりに羽目を外しているのかもしれない。気持ちが浮ついているのだろうか。
リティアはパタパタと顔を仰いだ。
「あら、どうしたの? リティアは顔が真っ赤だし、ヴェルターはなんだか満足そうね」
修練場で待っていたアンが言うと、ヴェルターは噎せこみ、アンをじとりと睨む。アンはそれにおかしそうに肩を揺らした。そして、ヴェルターに何やら耳打ちし、ヴェルターは顔を覆い、手でやめろとアンをいなした。
親し気な二人の様子にリティアはヴェルターの上機嫌な訳をアンと紐づけた。
「さあ、誰から教えようか」
ヴェルターが大きな声で言うと、子供たちはさっきと打って変わって勇ましい声を上げた。リティアは、ヴェルターが恥ずかしいとああやって違うことに意識を向ける癖があったのを思い出した。よく見ると、色の白いヴェルターは耳がほんのりと赤くなっていた。
一番勇ましい声を上げたのは子供、ではなくペールだった。ヴェルターは呆気にとられたようで、ペールを見つめるも、ペールは何も言わないため、アンに説明を求めた。アンはおかしそうに笑うと
「ペールったら、さっき私がヴェルターのことを強い強い剣士で、あとで稽古をつけてもらうって言ったのを、なんというか、すごく楽しみにしてたのよ。ねぇ、ペール誰よりおりこうにしてたのよね」
アンがからかったにも関わらず、大男はこくりと素直に頷いた。
「彼、剣バカなのよ」
アンは小さな声で“可愛いでしょ”と言った。リティアはペールの外見から一番縁遠い言葉に一瞬喉が詰まったが、待ちきれない様子のペールとなんてことを言ってくれたんだとばかりにアンを恨めしそうに見るヴェルターとについに吹き出してしまった。
ペールとヴェルターが熱い戦いを繰り広げているのを前にアンは呑気に言った。
「ペールを見てると剣が小さく見えるわね」
剣はペールのために誂えたものではなく模造したものであるため、ペールには少し小さい。リティアはまた吹き出してしまい、慌てて口を押えた。
「大口開けて笑ったっていいのよ、リティア。私たち、今は平民だもの」
アンはけらけら笑う。
「平民はこんな宮殿に入れな……」
リティアはつい真面目に答えてしまった。アンはにこにこ笑っている。……綺麗な方。そう思うと知らずに顔が赤くなってしまう。
「どうかした? 」
「いえ、そうね、アン。私たちは平民」
「よし! みんなペールを応援して! 」
アンは子供たちをけしかけ、固唾を呑んでみていた子供たちから活気があふれた。
「王子様、頑張って!! 」
ペールを応援するはずの一人の女の子が声を張り上げた。ペールの眉間に皺が寄り、チッと舌打ちをする。
「女の子は好きよねぇ、王子様。あそこまで見た目が王子様な人も珍しいけど。きっとあの子にとって始めて見るくらい美しい男性なんじゃないかしら。子供って、正直ね」
アンの言葉が聞こえたのか、ペールはもう一度舌打ちをすると力強く剣を振り下ろした。ヴェルターは素早く脇に入るとペールの剣を叩き上げ、剣はくるくる回って飛び、 落下するのに勢いがついた剣は地面にぐさりと刺さる。
ペールがふう、と息を吐いた。
滞在先には自分の侍女は連れてこなかった。ヴェルターが用意すると言ってくれたし、アン女王とヴェルターの様子を見てミリーが何かを悟るかもしれない。リティアはここに滞在する間くらい、穏便に過ごしたかった。
軽装に着替え、侍女が部屋を出て行くと、リティアはパンと両頬を叩いた。
「よし! 今は何も考えずに楽しまなくっちゃ」
部屋から出ると、そこにヴェルターが立っていた。
「……待っていてくれたの? ごめんなさい、待たせてしまったわ」
「まさか。こんなに早く出てくると思わなかったよ」
ヴェルターは柔らかく笑う。市民のようなシャツとトラウザーズという軽装でも隠し切れない美貌に“お忍び”なんて無理じゃないかしら、とこの日からの予定を案じた。ヴェルターはリティアの一つに結い上げた髪を見ると、懐かしいなと呟いた。
「昔に戻ったみたいだね、リティ」
「ほんと、とても身軽で動きやすい」
激しく動くことなんて長く必要としなかった。令嬢は病人のように白い肌が求められ、活発であることは良しとされなかったのだ。
「そうだ、リティ。さっき言おうと思ったんだけど」
ヴェルターはここで足を止め、くるりと体をリティアの方へ向けた。それ倣いリティアもヴェルターを見上げた。
「確かにアンはとてもきれいな人だけど、僕は君もとっても綺麗だと思うんだ」
ヴェルターはそう言っていたずらっ子のように笑った。リティアはあまりのことにポカンとしたがすぐに顔がリティアの髪色のように染め上がった。
「ヴェ、ヴェルったら! もう。いつの間にそんなことを言えるようになったのかしら。いいのよ、いいの。こんな格好の時まで褒めてくれなくても! あ、あなたも素敵よ。どんな格好でもあなたは王子様なのねって思っていたの。ああ。何を言ってるのかしら。子供たちが待ってるわ。行きましょう」
リティアは急かすようにヴェルターを追い立てた。
「はははは」
ヴェルターは上機嫌で声を出して笑っていた。
リティアはヴェルターの背中を押しながら、呼吸を整えた。
ヴェルターったら、今日会ってからずっと子供みたいなんだから。彼なりに羽目を外しているのかもしれない。気持ちが浮ついているのだろうか。
リティアはパタパタと顔を仰いだ。
「あら、どうしたの? リティアは顔が真っ赤だし、ヴェルターはなんだか満足そうね」
修練場で待っていたアンが言うと、ヴェルターは噎せこみ、アンをじとりと睨む。アンはそれにおかしそうに肩を揺らした。そして、ヴェルターに何やら耳打ちし、ヴェルターは顔を覆い、手でやめろとアンをいなした。
親し気な二人の様子にリティアはヴェルターの上機嫌な訳をアンと紐づけた。
「さあ、誰から教えようか」
ヴェルターが大きな声で言うと、子供たちはさっきと打って変わって勇ましい声を上げた。リティアは、ヴェルターが恥ずかしいとああやって違うことに意識を向ける癖があったのを思い出した。よく見ると、色の白いヴェルターは耳がほんのりと赤くなっていた。
一番勇ましい声を上げたのは子供、ではなくペールだった。ヴェルターは呆気にとられたようで、ペールを見つめるも、ペールは何も言わないため、アンに説明を求めた。アンはおかしそうに笑うと
「ペールったら、さっき私がヴェルターのことを強い強い剣士で、あとで稽古をつけてもらうって言ったのを、なんというか、すごく楽しみにしてたのよ。ねぇ、ペール誰よりおりこうにしてたのよね」
アンがからかったにも関わらず、大男はこくりと素直に頷いた。
「彼、剣バカなのよ」
アンは小さな声で“可愛いでしょ”と言った。リティアはペールの外見から一番縁遠い言葉に一瞬喉が詰まったが、待ちきれない様子のペールとなんてことを言ってくれたんだとばかりにアンを恨めしそうに見るヴェルターとについに吹き出してしまった。
ペールとヴェルターが熱い戦いを繰り広げているのを前にアンは呑気に言った。
「ペールを見てると剣が小さく見えるわね」
剣はペールのために誂えたものではなく模造したものであるため、ペールには少し小さい。リティアはまた吹き出してしまい、慌てて口を押えた。
「大口開けて笑ったっていいのよ、リティア。私たち、今は平民だもの」
アンはけらけら笑う。
「平民はこんな宮殿に入れな……」
リティアはつい真面目に答えてしまった。アンはにこにこ笑っている。……綺麗な方。そう思うと知らずに顔が赤くなってしまう。
「どうかした? 」
「いえ、そうね、アン。私たちは平民」
「よし! みんなペールを応援して! 」
アンは子供たちをけしかけ、固唾を呑んでみていた子供たちから活気があふれた。
「王子様、頑張って!! 」
ペールを応援するはずの一人の女の子が声を張り上げた。ペールの眉間に皺が寄り、チッと舌打ちをする。
「女の子は好きよねぇ、王子様。あそこまで見た目が王子様な人も珍しいけど。きっとあの子にとって始めて見るくらい美しい男性なんじゃないかしら。子供って、正直ね」
アンの言葉が聞こえたのか、ペールはもう一度舌打ちをすると力強く剣を振り下ろした。ヴェルターは素早く脇に入るとペールの剣を叩き上げ、剣はくるくる回って飛び、 落下するのに勢いがついた剣は地面にぐさりと刺さる。
ペールがふう、と息を吐いた。
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