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建国祭(前半)
第8話ー5
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「あらあら」
アンはにっこり笑って、すっと立ち上がった。
「ペール、集中が切れたね」
ヴェルターが額の汗を拭った。
「いや、見事でした」
「はは。まさか。君の力を逃してばかりで、情けない。まともに受けた最初の一撃で手のしびれがまだ取れない。強くて重い剣だ」
「あなたの剣はとても繊細だ。学ぶことが多い」
二人は握手し、子供たちからは拍手が聞こえた。アンはペールをねぎらっているようだった。リティアもヴェルターの元へハンカチを持って行った。
「ありがとう」
それから、小さな声で怪物だよ、あの人と愚痴を言った。
「ふふ、同等に渡り合ってたじゃない」
「まさか。加減したと思う。無礼講とはいえ僕は“王子様”だからね」
リティアはアンの言葉が聞こえていたのか自分で言うヴェルターに笑ったが同時に納得もした。確かに、こんなきれいな人と剣を交わせると緊張しそうだ。絶対に顔には傷をつけられないって……。
「さあさ、みんなの番ですよ。剣を持って」
アンが言うと年齢も体格もバラバラの子どもたちは好きな剣を手に取った。子供用のあまり重くない木製の物だ。
「私が見本を見せましょう」
アンは模造ではない真剣をペールが止めるのも聞かずに物色している。しなやかに美しいアンは剣術にも覚えがあるのだろう。リティアは羨望の眼差しを向けた。アンはやがて気に入った剣が見つかったのか一本を手に取った。
リティアはああ、と感嘆する。真のヒロインはなんだって出来るのだ。美しく気高い姿に信仰心さえ芽生えそうだった。素敵だわ。
が、ペールが血相を変えてアンに駆け寄った。アンは、剣が重たかったのか、剣を立てかけたところから持ち上げるのに悪戦苦闘していた。
「大丈夫よ、ペール。このくらい私だって持ちあげられるわ」
ペールはアンには逆らえないのか渋々剣を持つのを手伝い、アンの後ろに回った。
アンは、右へふらふら、左へふらふら、ついには剣を地面に突き刺してしまい抜けなくて四苦八苦していた。見兼ねたペールがすっと地面から抜いて剣を一番軽い物、おそらく子供用に作られたもの――をアンに渡し、アンはその剣をを満足そうにそれっぽく振り回して見せた。剣術を学んだことのある者なら、子供だましであることがわかる。
「ふっ」
ヴェルターが吹き出し、アンの手から剣を抜き取ると模造剣に変えた。アンの不服そうな顔を見ると、ヴェルターはこらえきれずに声を上げて笑った。
「あはは、あははははは。アン、出来ないならペールに頼めばいいのに。全く、剣術も出来るなんて、君はなんて完璧なんだと感心していたのに。君って本当に面白い人だ。あはは! 」
ヴェルターはのけぞって笑い、アンは赤面した。ペールまでそっぽを向いて肩を揺らしている。子供たちの中には模造剣を持ってよろめくアンの真似をする者もいた。アンはそれにますます顔を赤くした。
あんな風に笑うヴェルターを見るのはいつぶりだろうか。王宮を出てからのヴェルターは子供の様で、リティアの胸はぎゅっと絞られたようになった。
「やっぱり、あのセリフ、本当に言うんだなぁ」
リティアはヴェルターの心からの笑顔にアンに夢中だと顔に書いてあるのでは、と思った。可愛い。美しく凛としたアンも今は子供の様に恥ずかしさにむくれている。あんな可愛い顔を見せられたら、ヴェルターもきっとたまらないだろう。
リティアは二人を客観視するように努めた。清麗で柔らかな雰囲気のヴェルターと凛々しくも可憐なアンは二人とも素朴な装いにも関わらず、そこだけ光で照らされているようだった。似合いの恋人そのものだった。
「お似合いだなぁ。ほらやっぱりヴェルターの真珠色は鮮やかな紅と釣り合うの……」
リティアはぼうっと二人を眺めながら、「紅白……。っておめでたい感じ……」と呟いてはっとした。
「何言ってるんだろう」
リティアは立ち上がると、剣をしまっているペールの元へと入った。ペールは近くで見ると更に大きかった。……規格外の大きさにここだけ時空が歪んでいるのかしら、と見上げると、ペールは視線を留めるところを探しているようだった。最も、顔が上の方にありすぎてリティアからもはっきりは見えなかった。だが、ヴェルターの言う通り彼がヴェルターの顔に傷をつかないよう配慮したならば、常識のある優しい人だ。
「あの、私もペールとお呼びしても? 」
「ええ、勿論です」
かすかだが、ペールは微笑んだ。
「私の事も、リティアで結構ですので」
ペールは迷いはあったが頷いた。リティアはきっと呼んでくれることはないだろうと思ったが、それでよかった。
「私も剣を一つ。子供用でないもの。どれがいい。ペール? 」
リティアは気安く過ごすことを決めた。ペールは困ったとばかり眉を下げた。それはそうだろう。アンが持つことも出来なかった剣をアンより小柄なリティアが持つというのだ。ペールは宝飾が美しい、飾るための剣を勧めたがリティアは首を横に振った。ペールは渋々、子供用でない者の中から一番安全な剣を取ってリティアに手渡した。
が、なかなか手を離さず、リティアと無言の押し問答の末、渋い顔をさらに渋くして
「お気をつけて。この刃は切れます」
と、当たり前のことを地鳴りの様に低い声で言った。
アンはにっこり笑って、すっと立ち上がった。
「ペール、集中が切れたね」
ヴェルターが額の汗を拭った。
「いや、見事でした」
「はは。まさか。君の力を逃してばかりで、情けない。まともに受けた最初の一撃で手のしびれがまだ取れない。強くて重い剣だ」
「あなたの剣はとても繊細だ。学ぶことが多い」
二人は握手し、子供たちからは拍手が聞こえた。アンはペールをねぎらっているようだった。リティアもヴェルターの元へハンカチを持って行った。
「ありがとう」
それから、小さな声で怪物だよ、あの人と愚痴を言った。
「ふふ、同等に渡り合ってたじゃない」
「まさか。加減したと思う。無礼講とはいえ僕は“王子様”だからね」
リティアはアンの言葉が聞こえていたのか自分で言うヴェルターに笑ったが同時に納得もした。確かに、こんなきれいな人と剣を交わせると緊張しそうだ。絶対に顔には傷をつけられないって……。
「さあさ、みんなの番ですよ。剣を持って」
アンが言うと年齢も体格もバラバラの子どもたちは好きな剣を手に取った。子供用のあまり重くない木製の物だ。
「私が見本を見せましょう」
アンは模造ではない真剣をペールが止めるのも聞かずに物色している。しなやかに美しいアンは剣術にも覚えがあるのだろう。リティアは羨望の眼差しを向けた。アンはやがて気に入った剣が見つかったのか一本を手に取った。
リティアはああ、と感嘆する。真のヒロインはなんだって出来るのだ。美しく気高い姿に信仰心さえ芽生えそうだった。素敵だわ。
が、ペールが血相を変えてアンに駆け寄った。アンは、剣が重たかったのか、剣を立てかけたところから持ち上げるのに悪戦苦闘していた。
「大丈夫よ、ペール。このくらい私だって持ちあげられるわ」
ペールはアンには逆らえないのか渋々剣を持つのを手伝い、アンの後ろに回った。
アンは、右へふらふら、左へふらふら、ついには剣を地面に突き刺してしまい抜けなくて四苦八苦していた。見兼ねたペールがすっと地面から抜いて剣を一番軽い物、おそらく子供用に作られたもの――をアンに渡し、アンはその剣をを満足そうにそれっぽく振り回して見せた。剣術を学んだことのある者なら、子供だましであることがわかる。
「ふっ」
ヴェルターが吹き出し、アンの手から剣を抜き取ると模造剣に変えた。アンの不服そうな顔を見ると、ヴェルターはこらえきれずに声を上げて笑った。
「あはは、あははははは。アン、出来ないならペールに頼めばいいのに。全く、剣術も出来るなんて、君はなんて完璧なんだと感心していたのに。君って本当に面白い人だ。あはは! 」
ヴェルターはのけぞって笑い、アンは赤面した。ペールまでそっぽを向いて肩を揺らしている。子供たちの中には模造剣を持ってよろめくアンの真似をする者もいた。アンはそれにますます顔を赤くした。
あんな風に笑うヴェルターを見るのはいつぶりだろうか。王宮を出てからのヴェルターは子供の様で、リティアの胸はぎゅっと絞られたようになった。
「やっぱり、あのセリフ、本当に言うんだなぁ」
リティアはヴェルターの心からの笑顔にアンに夢中だと顔に書いてあるのでは、と思った。可愛い。美しく凛としたアンも今は子供の様に恥ずかしさにむくれている。あんな可愛い顔を見せられたら、ヴェルターもきっとたまらないだろう。
リティアは二人を客観視するように努めた。清麗で柔らかな雰囲気のヴェルターと凛々しくも可憐なアンは二人とも素朴な装いにも関わらず、そこだけ光で照らされているようだった。似合いの恋人そのものだった。
「お似合いだなぁ。ほらやっぱりヴェルターの真珠色は鮮やかな紅と釣り合うの……」
リティアはぼうっと二人を眺めながら、「紅白……。っておめでたい感じ……」と呟いてはっとした。
「何言ってるんだろう」
リティアは立ち上がると、剣をしまっているペールの元へと入った。ペールは近くで見ると更に大きかった。……規格外の大きさにここだけ時空が歪んでいるのかしら、と見上げると、ペールは視線を留めるところを探しているようだった。最も、顔が上の方にありすぎてリティアからもはっきりは見えなかった。だが、ヴェルターの言う通り彼がヴェルターの顔に傷をつかないよう配慮したならば、常識のある優しい人だ。
「あの、私もペールとお呼びしても? 」
「ええ、勿論です」
かすかだが、ペールは微笑んだ。
「私の事も、リティアで結構ですので」
ペールは迷いはあったが頷いた。リティアはきっと呼んでくれることはないだろうと思ったが、それでよかった。
「私も剣を一つ。子供用でないもの。どれがいい。ペール? 」
リティアは気安く過ごすことを決めた。ペールは困ったとばかり眉を下げた。それはそうだろう。アンが持つことも出来なかった剣をアンより小柄なリティアが持つというのだ。ペールは宝飾が美しい、飾るための剣を勧めたがリティアは首を横に振った。ペールは渋々、子供用でない者の中から一番安全な剣を取ってリティアに手渡した。
が、なかなか手を離さず、リティアと無言の押し問答の末、渋い顔をさらに渋くして
「お気をつけて。この刃は切れます」
と、当たり前のことを地鳴りの様に低い声で言った。
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