39 / 60
建国祭(前半)
第8話ー6
しおりを挟む
リティアが剣を持って修練場へ出ると、子供たちは適切にアンからではなくヴェルターから剣を教わっていた。リティアの背後にはぴったりとペールが付き、高い位置から監視されている。
「ペール、大丈夫よ。私、これでも昔は剣術が得意だったの」
ペールはただでさえ低い視線を更に低くしてリティアの全身を確認すると、今までで一番変な顔をした。
「本当だってば、ペール。見ていて」
リティは昔習った通りに剣術の型式を披露した。ひゅっと空気が綺麗に割れる音がする。しばらく、リティアの地面に強く踏み込む音と空気を割く音だけが聞こえた。あくまで、実践ではなく見せる方の剣術だったが、子供たちに見せるには十分だった。が、長く使っていなかったリティアの筋肉は直ぐに悲鳴を上げた。
「ああ、ダメだわ。腕が攣りそう」
リティアが全部言い終わらないうちにペールがさっと剣を引き取った。だが、子供たちもヴェルターもペールまでも褒め湛えてくれた。
「リティ、まだ健在じゃないか」
「ふふ、体は覚えているのもね。三つ子の魂百まで……。」
「……三つ子の魂? なんだい、それ」
「あ、はは。何でもないわ。ああでも、たったこれだけで明日は太ももと腕が筋肉痛でしょうね」
「そうかい。えー……そうか、それは心配だな」
ヴェルターの瞳が“たったこれだけで?”と驚愕している。
「仕方ないじゃない。もう何年もティーカップより重いものは持ったことがないんだもの」
「……そうだね。時々はこうやって動けたらいいんだけど。気分転換にもなるし」
「ええ、そうね」
ええ、そうね。でも色白で儚いことが良しとされる貴族間で、王太子妃になる私には剣なんて必要ないのよ。ましてや傘もささずに外にでるなんて許されることじゃないわ。リティアはぐっと唇を噛んで言葉を呑む。
バンっと体に弾力のある衝撃を感じて、俯いて唇を噛んでいたリティアは、唇を噛み切ってしまうところだった。
「いっ」
「リティアー!! なんって素敵なの!! ありがとう、ありがとう、ありがとう!! 」
アンが全力で抱きついてきたのだ。リティアは状況が読めず、この人、豊満なものまでお持ちだわ、と体感していた。
「お礼を三度も言われるようなことは何もしていないわ」
ようやくアンの弾力から解放されたリティアは息も絶え絶えで言った。すっと指で自身の唇を確かめたが無事でほっとした。アンは、うっとりリティアを見つめると子供たちには聞こえないように声を落とした。リティアはアンに見つめられ胸がどきどきした。同性でも見つめられると恥ずかしくなるくらいアンは美しかった。至近距離ではなおさらだ。
「子供たちを見て]
アンに言われた通りに子供たちを見る。元気いっぱいだ。なんだろうか、とリティアは意図がわからずアンに答え求めた。
「男の子も女の子も同じくらいの比率でいるの」
言われればそうだ。それぞれが剣を持って真剣な顔をしている。そうか、と悟った。
「確か、もう少し幼い時は剣を持つことに抵抗はありませんでした。けれど、年齢が上がるにつれて剣を持つことななくなりました。私たちレディは」
アンはその通り、とばかり頷いた。
「わが国でもそうなのです。だから、女性だからといって剣を持ってはいけないということはない。そう教えたかったのですが……。失敗してしまいましたわ。代わりにあなたが素晴らしい技を見せてくれた。女でも出来てもいいし、出来なくてもいい。それぞれ目指すところに行けばいいのです。その見本になってくれた」
アンは自分のさっきの姿を醜態とばかり頬を赤らめたが、お忍びとはいえこの外交に身分も性別も能力さえばらばらの子どもたちを連れて来るにはそんな思惑があったのだろう。
「でも、私の剣術なんて幼いころのもので、今は全然」
「ええ、でも、無駄ではなかったわ。ほら女の子たち、あなたみたいな可愛らしい人が剣を持ったことで俄然やる気をだしてくれた。だから、あなたには、ありがとう」
そうか、女の子だって剣を持っていいという意識だけでも向けられたなら、役に立ったのかもしれない。リティアは少しばかり明るい気持ちになった。あの頃のリティアには剣を続けるという選択肢が無かった。だが、それを当たり前だと受け入れていたリティアにとって剣を置くことが辛いとも悲しいとも思わなかった。本当は続けたかったのだろうか。剣を置くことを惜しむ人もいなかった。自分には大して才能が無かったのだ。
「いいえ、お役に立てて良かったわ」
リティアはそう気持ちに折り合いをつけるとやっと笑顔を作ることが出来た。
「リティア、あなたはどうして剣術をやめたの? 」
今まさに自分に問いかけていたことを聞かれて、リティは直ぐに応えた。
「王太子妃教育に剣術は入っていなかった。それに、才能もなかった」
「そう……。では、あなたはやめたかった? それとも続けたかった? 」
リティアは言葉に詰まった。そうだからそうした。でも、あの時自分はどう思っていたのだろうか。剣術だけでなく、手放したことは多い。剣術も大人になるにつれて無くなる興味の移行の一つだったのだろうか。
「わからない」
リティアはわからなかったのだ。
「ペール、大丈夫よ。私、これでも昔は剣術が得意だったの」
ペールはただでさえ低い視線を更に低くしてリティアの全身を確認すると、今までで一番変な顔をした。
「本当だってば、ペール。見ていて」
リティは昔習った通りに剣術の型式を披露した。ひゅっと空気が綺麗に割れる音がする。しばらく、リティアの地面に強く踏み込む音と空気を割く音だけが聞こえた。あくまで、実践ではなく見せる方の剣術だったが、子供たちに見せるには十分だった。が、長く使っていなかったリティアの筋肉は直ぐに悲鳴を上げた。
「ああ、ダメだわ。腕が攣りそう」
リティアが全部言い終わらないうちにペールがさっと剣を引き取った。だが、子供たちもヴェルターもペールまでも褒め湛えてくれた。
「リティ、まだ健在じゃないか」
「ふふ、体は覚えているのもね。三つ子の魂百まで……。」
「……三つ子の魂? なんだい、それ」
「あ、はは。何でもないわ。ああでも、たったこれだけで明日は太ももと腕が筋肉痛でしょうね」
「そうかい。えー……そうか、それは心配だな」
ヴェルターの瞳が“たったこれだけで?”と驚愕している。
「仕方ないじゃない。もう何年もティーカップより重いものは持ったことがないんだもの」
「……そうだね。時々はこうやって動けたらいいんだけど。気分転換にもなるし」
「ええ、そうね」
ええ、そうね。でも色白で儚いことが良しとされる貴族間で、王太子妃になる私には剣なんて必要ないのよ。ましてや傘もささずに外にでるなんて許されることじゃないわ。リティアはぐっと唇を噛んで言葉を呑む。
バンっと体に弾力のある衝撃を感じて、俯いて唇を噛んでいたリティアは、唇を噛み切ってしまうところだった。
「いっ」
「リティアー!! なんって素敵なの!! ありがとう、ありがとう、ありがとう!! 」
アンが全力で抱きついてきたのだ。リティアは状況が読めず、この人、豊満なものまでお持ちだわ、と体感していた。
「お礼を三度も言われるようなことは何もしていないわ」
ようやくアンの弾力から解放されたリティアは息も絶え絶えで言った。すっと指で自身の唇を確かめたが無事でほっとした。アンは、うっとりリティアを見つめると子供たちには聞こえないように声を落とした。リティアはアンに見つめられ胸がどきどきした。同性でも見つめられると恥ずかしくなるくらいアンは美しかった。至近距離ではなおさらだ。
「子供たちを見て]
アンに言われた通りに子供たちを見る。元気いっぱいだ。なんだろうか、とリティアは意図がわからずアンに答え求めた。
「男の子も女の子も同じくらいの比率でいるの」
言われればそうだ。それぞれが剣を持って真剣な顔をしている。そうか、と悟った。
「確か、もう少し幼い時は剣を持つことに抵抗はありませんでした。けれど、年齢が上がるにつれて剣を持つことななくなりました。私たちレディは」
アンはその通り、とばかり頷いた。
「わが国でもそうなのです。だから、女性だからといって剣を持ってはいけないということはない。そう教えたかったのですが……。失敗してしまいましたわ。代わりにあなたが素晴らしい技を見せてくれた。女でも出来てもいいし、出来なくてもいい。それぞれ目指すところに行けばいいのです。その見本になってくれた」
アンは自分のさっきの姿を醜態とばかり頬を赤らめたが、お忍びとはいえこの外交に身分も性別も能力さえばらばらの子どもたちを連れて来るにはそんな思惑があったのだろう。
「でも、私の剣術なんて幼いころのもので、今は全然」
「ええ、でも、無駄ではなかったわ。ほら女の子たち、あなたみたいな可愛らしい人が剣を持ったことで俄然やる気をだしてくれた。だから、あなたには、ありがとう」
そうか、女の子だって剣を持っていいという意識だけでも向けられたなら、役に立ったのかもしれない。リティアは少しばかり明るい気持ちになった。あの頃のリティアには剣を続けるという選択肢が無かった。だが、それを当たり前だと受け入れていたリティアにとって剣を置くことが辛いとも悲しいとも思わなかった。本当は続けたかったのだろうか。剣を置くことを惜しむ人もいなかった。自分には大して才能が無かったのだ。
「いいえ、お役に立てて良かったわ」
リティアはそう気持ちに折り合いをつけるとやっと笑顔を作ることが出来た。
「リティア、あなたはどうして剣術をやめたの? 」
今まさに自分に問いかけていたことを聞かれて、リティは直ぐに応えた。
「王太子妃教育に剣術は入っていなかった。それに、才能もなかった」
「そう……。では、あなたはやめたかった? それとも続けたかった? 」
リティアは言葉に詰まった。そうだからそうした。でも、あの時自分はどう思っていたのだろうか。剣術だけでなく、手放したことは多い。剣術も大人になるにつれて無くなる興味の移行の一つだったのだろうか。
「わからない」
リティアはわからなかったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる