悪女さま、手筈は整えております

西原昂良

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建国祭(フィナーレ)

第10話ー9

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「リティ。それは戸惑うのも無理は無いよ。別の人格が君の中に現れるわけだし、何より……。何より僕を意識するきっかけになったのなら僕は良かったと思う」
「ヴェル、ほんとうにごめんなさい」
「うん、いいよ。でも僕もシュベリー卿を見つめる君に嫉妬したから……。あれ、でも、僕は君の事をよく見てるからわかるんだ。リティ。君は確かにシュベリー卿に視線を送っていた」
「ええ。何だか初めて会った気がしなくて。安心する顔立ちで。あんなに整った顔立ちなのに、なぜか安心するの。懐かしいような……。それに、彼の話す言葉は心地よくて……。そう言えば彼、私が使った通じないはずの言葉をすんなり理解していたわ。どうしてかしら」
「……ひょっとするとリティ、君は生まれ変わる前はシュベリー卿の母上の国の人だったのかもしれないね」
 ヴェルターは軽く思いついて言っただけだったが、リティアはそうかもしれない、と思った。長く悩んでいたことをヴェルターに打ち明けるとこんなにあっさり解決するのかとおかしくなった。

「ありがとう、ヴェルター。受け入れてくれて」
「当然だ。君は君なのだから」
「ヴェル……」
 ヴェルターの顔がリティアに近づく。目を閉じたのは二人同時だった。ぎこちなかったキスにも次第に慣れ、ヴェルターのキスは手慣れた男のそれのように深く深くなっていった。リティアの身体が傾き、やがて天井を見上げるほどになると、ヴェルターはリティアを真下に見下ろしていた。

 リティアが覚悟を決めた時だった。ヴェルターは満面の笑みで
「久しぶりだね。二人で一緒に寝るなんて」
 と言った。ヴェルターの“寝る”は子供の時と同じ純粋な“寝る”だった。リティアはまた一人先走った勘違いに顔を赤くした。
「ええ、そうね」
「リティ。続きは結婚してからね」
 ヴェルターはリティアに深いキスをしてからそう言った。今度は男の顔をして色っぽく笑った。

「っ! また! 」
 ヴェルターはすべてお見通しだったのだ。

 二人はしばらく童心に返ってじゃれあったが、やがてお互いの体温に安心していつのまにか眠ってしまっていた。

 ――――翌朝。

 朝日を浴びてキラキラしているヴェルターは幸せで内側からも発光しているようだった。リティアは隣が眩しくてなかなか目を開けられなかった。
 
 ヴェルターに呼ばれ窓際に立つとそこから二人で植えた記念樹が見えた。
「大きくなったね、あの木も」
「そうね。思えば二本も植えるだなんて、私たちは気が合わないのかしらって思っていたわ」
 記念樹は、いつもはリティアファーストのヴェルターがあの木がいいと譲らなかった。それはリティアも同じで結局両者譲らずで二本植えたものだった。

「リティアが大好きなフルーツの木を植えたかったんだ。毎年二人で収穫出来たら素敵だなって」
 リティアの目が驚きで見開かれた。
「ヴェル、まさか私のためだったの? 」
「……うん」
「……私も。ヴェルターと初めて会った日にくれた花。その苗木だったの。ヴェルターが一番好きな花だって言うから」
「あ……」

 ふたり顔を見合わせた。お互いがお互いを想ってのことだった。

「馬鹿ね」
「ああ。今年からは花が咲いたら一緒に見て、実がなったら二人で食べよう」
「ええ。何だか私の方が食いしん坊みたいで恥ずかしいけれど」
「ふ、君が食いしん坊なこと、僕が知らないとでも思った? 」
「もう! 」
 リティアがヴェルターにこぶしを振り上げが、ヴェルターは軽々受け取り、その腕を捕まえると自分の方へ引いた。リティアはヴェルターの胸に抱き留められ、ぎゅっと自分もヴェルターへ抱きついた。一秒だって離れたくない心境だった。

 が、侍女たちの到着に適度な距離を保たねばならなくなった。ヴェルターがちっと不似合いな舌打ちをしてリティアを笑わせた。

 ラゥルウントの一行の見送りに外へ出るとアンとペールは憚ることなく、わかりやすく仲直りの成功を体現していた。

「良かった」
 とアデルモが苦笑いした。

「また、近々お会いしましょう。国王に謁見賜ることになるでしょうが」
「ええ。お待ちしています」
 ヴェルターとアンは公式的な別れの挨拶をした。
 
 アデルモとリリーラがどうなったはわからなかった。リリーラが早々に馬車に入って出てこなかったからだ。だが、後に風の噂でアデルモが更に屋敷の手入れに気を配っていると聞いた。特に夫婦専用の祈祷室や寝室を念入りに……。これも公式の発表がそのうち出るだろうか。アデルモは甥に自分のことを話すのは苦手としていたので情報は公式を待つしかないようだ。

 歴史に残るになることだろう。

 もう一つ、歴史に残る結婚が執り行われることになるのだが、

「小さい頃から見ていた二人がついに結婚するのね」
 国民たちは喜んだ。
「ずーっと仲良しで微笑ましいわ」
 国民たちは口にした。

「やっとだな」
 近しい貴族たちは胸を撫でおろした。

「まさか、本願敵って結婚出来るなんて夢のようだ」
 ヴェルターは胸を震わせた。
「王太子妃教育は王太子妃になってこそ一番生かせるのよ」
 リティアはぐっとこぶしを握り締めた。


 ――――建国祭が終わってすぐ、ヴェルターは贈り物がたくさん詰まった馬車を率いて、建国祭よりも長い日にちをかけてリティアにプロポーズし続けた。それこそ、オリブリュス公爵が止めるまで。これもまた歴史に残るプロポーズとなった。



 
 ◇ ◇ ◇ ◇

 過去の記憶はリティアの今世に影響を及ぼさなかった。生まれながらの婚約者と予定通り結婚したのだから。ただ、なぜかヴェルターは好んで濃い色の衣装を着る様になった。誰がどう見てもお似合いの二人だった。



 
 


 
 Fin
 
 
番外編へつづく
 
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