【更新中】悪役令嬢は天使の皮を被ってます!! -5年前「白パンダ」と私を嗤った皆様に今度は天使の姿でリベンジします! 覚悟は宜しくて?-

薪乃めのう

文字の大きさ
38 / 121

37. 天使は知らない

しおりを挟む
「セドリック、お前には言っておきたかった」



 目の前にいる殿下は、いつもの柔らかな雰囲気と違っていた。
 幼い頃から知っているエーリック殿下は、いつも微笑みを絶やさない温厚な人柄だ。しかし、只優しそうな雰囲気の人物では無い。この方は大国であるダリナス王国の第三王子。世が世ならば、その優秀さと美貌、そして今は少なくなってしまった魔法術の使い手として、王位継承に大きく関わる程の人物だ。

 平和な世で良かった。
 そして、エーリック殿下の性格が争いごとに興味を持たない、学者肌なところが幸いした。

『セドリック、私はシュゼットの事が大好きだ。一人の女性として好きだよ』

 その彼に真っ直ぐな目でそう言われた。

 そして、



『シュゼットにはこの気持ちを伝えてある』

 本人にも告白したと。そうも言った。













「セドリック? お前、泣いているのか?」



 殿下に言われて瞬きをした時、ポロっと涙が零れた。
 そうだ。この前もそう問われたことがあった。
 シュゼットが、フェリックス王子の婚約者候補の一人であると聞いた時だった。あの時は、なぜ涙が零れたのか判らなかった。
 ただ、他国の王族の婚約者になってしまうかもという距離感に、胸の奥がぎゅーと掴まれたような気持ちがした。目の前にいるシュゼットが、いきなり秒速で遠くに連れ去られたような喪失感にも似た感覚がしたから……

(手が届かない。二度とこうして会えない。声も聴けない)

 そう思った。

 それどころではない。彼女の柔らかな笑顔も、はじける様な笑顔も、蕩ける様な笑顔も……どんな笑顔も見ることが叶わなくなってしまう。と感じたから。







(寂しくて)







 他国の大使の息子である自分には、どうすることも出来ないと思ったから。

 あれから、ずっと考えていた。彼女が婚約者になりたくないと言ったときには、ほっと安堵した自分がいたから。

 そして、今日。自分の気持ちに気付いてしまった。ずっと、彼女の事をどう思っていたかを。

(シュゼットの事が大切なのだ。ライバルなんかじゃない)

 そうだ。一人の女性として。どこが良いかなんて、本人の前でも殿下の前でも言いつくしている。今となっては全身が燃えるように恥ずかしい!! 羞恥心に火が着くとはこういうことか。

 やっと自分の気持ちに気付いたのに、長年一緒にいた殿下の気持ちも、本人から聞いて今初めて気付いた。



「セドリック? 大丈夫か?」



 少し、心配しているような瞳で問われた。

「大丈夫です……でも、気が付きませんでした。殿下がシュゼットの事をそう思われていたことを」

 涙で滲んだ目をハンカチで擦こする。ポケットに入っていたのは、この前シュゼットに涙を拭いてもらったハンカチだ。洗ってプレスして、彼女の好きそうな金木犀きんもくせいの香り紙を挟んでいたのだ。今日返そうとずっと持ったまんまだったのに。返しそびれた。





「そうか。そうだろうな。私も気付いたばかりだから。でも、シュゼットの環境が急に変わって来たからね。今までと同じ付き合い方では駄目だと思った。だから、彼女に自分の気持ちを伝えた。お前の気持ちも知っていながら」
「僕の気持ち?」

 殿下は、何を言っているんだ? というように片眉を上げた。

「お前、ずっと気付いていなかったろう? でも、彼女への気持ちなんて盛大にダダ洩れだったぞ?」



 やっぱり。

 そうだろうなと思った。殿下も知っている以上、これからどうすれば良いのだろう。諦めて、この気持ちに蓋をした方が良いのだろうか。彼は、自分のあるじであるのだから。





「セドリック? お前、変な遠慮は絶対するなよ? お前はお前でどうにかしろ。 ただ、私は一歩前を行ったからな?」

 殿下が、自分が手に握り締めていたハンカチをスルリと取り上げると、まだ涙で乾かない目元を拭ってくれた?


「『あら、こんなところに黒子ほくろがありますのね?』 だっけ?」


 それ、シュゼットが酔っ払ったあの時に言った言葉だ。いきなりそう言われて、思い出した途端に顔がぶわっと熱くなった。

「お前、ズルいぞ? あんなことをされて」

 右目の黒子辺りをゴシゴシと拭かれた。殿下は笑っていた。いつもの昔から見ている笑顔だった。


「そうでしょう? でした。あんなに近くで彼女の顔を見たのは初めてでしたね。物凄く可愛かったですけど?」





 だから、自分もいつも通りに答えた。







 そして、この瞬間から、エーリック殿下と僕は……ライバル同士になった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

処理中です...