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62. 天使の迎撃
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「白・パ・ン・ダ、ですわ。普通に聞けば、揶揄っていると言うか、馬鹿にしていますわね? それも女の子にですものね?」
「うっ。た、確かにそう聞こえてしまうかもしれないが」
「かも? でなくて、そうにしか聞こえませんわよ? そう言えば、確かお詫びのカードを頂きましたわね」
紅茶を飲んで喉を潤します。ああ、さすがマシューの淹れてくれたお茶は美味しいですわ。
「うっ!! あ、あ、あのカードについては ― 」
フェリックス殿下の顔色が青くなりました。思い出しましたか?
私のリベンジノートの最初のページに今も取ってありますわよ。
「とっても、誠意のこもったカードでしたわね? 今も大事に取ってありますの」
そう言って目の前にいるフェリックス殿下に、天使130%で微笑みます。
「そう言えば、パンダって実物は見たことありませんし、触ったこともありませんけど。手足が短くて? ずっしり大きくて? 言い方を変えれば、大層丸々と太っていて? まあ、当時の私の姿ですわね?」
笑顔のまま、嫌味たっぷりに尋ねました。何でしょう、フェリックス殿下のグリーントルマリンの瞳がウルウルになってきましたわ。
泣いちゃうかしら? ……というか、泣けばいいのに!!
「で? フェリックス殿下のおっしゃったパンダって、どんな意味がおありだったのでしょう?」
さあ! 何とか言ってみやがれ!
「すまない!!」
そう言うとフェリックス殿下は、椅子を蹴るように立ち上がり、私に向かって片膝をついて跪きました。
ティーカップを持ち上げて口に運ぼうとした私ですが、思わず目を見張りました。だって、本日二度目の王子様のお詫びですもの。
「君がそう言うのはもっともだ。そう取られても仕方が無いと思う!!」
やっぱり。
「でも、私はそう言う意味で、パンダと言ったのではない!! 決して、悪い意味で言ったのではないんだ! だって、君を見つけた時、私は―!」
そこまで言うとフェリックス殿下は、顔を上げて私の目を見詰めました。その目は少し潤んでいました。真剣な眼差しに見えなくもありませんけど……いえ、まだ判りませんわ!
「その時の私は……君を見つけた時、ほっとしたのだ」
ほっとしたとは? 意味が判りません。あの時初めて会ったのに。
「あの日、婚約者候補を決めるのだと陛下から言われていて、私はそれがどういうものか良く判らずにあの場にいた。沢山の女の子達が並んでいたけれど、皆同じようなピンクのドレスに、大人びた化粧をしていた。正直、10歳の私には誰が誰だか判らず、皆同じ顔に見えていた」
確かに、示し合わせたように、皆さんピンクのドレスでしたわ。勿論、私もでしたけど。
「化粧品臭くてイヤだな。みんな同じに見えると彼女達を見ていた時に、君がいたんだ」
そりぁいましたわ。今から思えば、高位貴族の娘達は王族の皆様の目につきやすい、中央近くにいたように思います。
「化粧をしていない君がいた。誤解しないで欲しいが、あの時の君は、年相応の瑞々しい10歳の少女だった。無理やり大人びた格好をさせられて、気取った貴婦人の様な女の子達の中で、緊張して震えていたのも知っているけど」
「……」
「だから、君を見つけた時、ほっとしたんだ。等身大の10歳の女の子がいるって」
で? それとパンダがどう関係するのですか?
「昔、幼い頃に異国の土産として貰ったパンダのぬいぐるみを思い出した。温かくて肌触りが良くって、丸くて可愛い目をしていたんだ。いつも抱きしめて眠っていたのだが、抱きしめると凄く気持ちが落ち着いて……気が付いたら、君の頬を触っていた。……ごめん」
「……」
「ほっとしたことを思い出したんだ。君を見つけた時の気持ちと一緒だった」
フェリックス殿下は言い終わると、胸ポケットから何かを出しました。
「何ですの? これ」
「5年前の、本当の気持ちを記したカードです。本当はこのカードを君に送るつもりだった。でも、渡せずに、今まで私の手元にずっとあった」
それは、少し角のヨレた小さなカードで、封に使われた蜜蠟も隅が剥げた箇所が見えました。確かに5年前に貰ったカードと見た目は似ています。ええ。傷み具合も。
「本当の気持ち?」
「そうです。でも、ガキでへそ曲がりな私は、違うカードを君に渡してしまった。凄く後悔して直ぐに、こっちのカードを届けようとしたけれど、君に会わせて貰えなかった。後から聞いたが、君は体調を崩して寝込んでいたと。私のせいだと思った」
そう言うと、フェリックス殿下はカードを私に差し出しました。受け取れという事でしょうか。
でも、これを受け取ってしまったら……
「私の気持ちは、今言った通りだ。君を侮辱したつもりも、揶揄ったつもりもなかった。でも、それは私の気持ちであって、君を傷つけてしまったこと、ずっと謝れなかったことについては私が悪い。悪かった」
もう一度、そう言って頭を垂れます。
「許して欲しい。シュゼット嬢」
フェリックス殿下は、カードを差し出したままずっと俯いています。
「……」
カードをそっと受け取ります。5年前の本当の気持ちとやらは受け取りましょう。
「シュゼット嬢?」
「……」
許すとは口に出来ません。
「どうしたら、君は許してくれるのだ? 教えてくれ、どうしたら良い?」
「ゅ、ゆ?」
許すも、許さないも、何か変な感じじゃなくって?
これって双方の思い違い? というか、私の思い込み違い? イヤイヤ、そう思われても仕方ない言い方だったわよ? それは、フェリックス殿下も認めている?
はっきり言いましょう。一言で言えば、すんなり許すのは嫌ですわ! 5年分のコノキモチの持って行き所が判りませんもの!!
どうする? ドウシタイ!? フェリックス殿下に対して!?
「こ、婚約者候補を辞めさせて頂きますわっ!!」
これで如何でしょう?
悪役令嬢っぽい?
「うっ。た、確かにそう聞こえてしまうかもしれないが」
「かも? でなくて、そうにしか聞こえませんわよ? そう言えば、確かお詫びのカードを頂きましたわね」
紅茶を飲んで喉を潤します。ああ、さすがマシューの淹れてくれたお茶は美味しいですわ。
「うっ!! あ、あ、あのカードについては ― 」
フェリックス殿下の顔色が青くなりました。思い出しましたか?
私のリベンジノートの最初のページに今も取ってありますわよ。
「とっても、誠意のこもったカードでしたわね? 今も大事に取ってありますの」
そう言って目の前にいるフェリックス殿下に、天使130%で微笑みます。
「そう言えば、パンダって実物は見たことありませんし、触ったこともありませんけど。手足が短くて? ずっしり大きくて? 言い方を変えれば、大層丸々と太っていて? まあ、当時の私の姿ですわね?」
笑顔のまま、嫌味たっぷりに尋ねました。何でしょう、フェリックス殿下のグリーントルマリンの瞳がウルウルになってきましたわ。
泣いちゃうかしら? ……というか、泣けばいいのに!!
「で? フェリックス殿下のおっしゃったパンダって、どんな意味がおありだったのでしょう?」
さあ! 何とか言ってみやがれ!
「すまない!!」
そう言うとフェリックス殿下は、椅子を蹴るように立ち上がり、私に向かって片膝をついて跪きました。
ティーカップを持ち上げて口に運ぼうとした私ですが、思わず目を見張りました。だって、本日二度目の王子様のお詫びですもの。
「君がそう言うのはもっともだ。そう取られても仕方が無いと思う!!」
やっぱり。
「でも、私はそう言う意味で、パンダと言ったのではない!! 決して、悪い意味で言ったのではないんだ! だって、君を見つけた時、私は―!」
そこまで言うとフェリックス殿下は、顔を上げて私の目を見詰めました。その目は少し潤んでいました。真剣な眼差しに見えなくもありませんけど……いえ、まだ判りませんわ!
「その時の私は……君を見つけた時、ほっとしたのだ」
ほっとしたとは? 意味が判りません。あの時初めて会ったのに。
「あの日、婚約者候補を決めるのだと陛下から言われていて、私はそれがどういうものか良く判らずにあの場にいた。沢山の女の子達が並んでいたけれど、皆同じようなピンクのドレスに、大人びた化粧をしていた。正直、10歳の私には誰が誰だか判らず、皆同じ顔に見えていた」
確かに、示し合わせたように、皆さんピンクのドレスでしたわ。勿論、私もでしたけど。
「化粧品臭くてイヤだな。みんな同じに見えると彼女達を見ていた時に、君がいたんだ」
そりぁいましたわ。今から思えば、高位貴族の娘達は王族の皆様の目につきやすい、中央近くにいたように思います。
「化粧をしていない君がいた。誤解しないで欲しいが、あの時の君は、年相応の瑞々しい10歳の少女だった。無理やり大人びた格好をさせられて、気取った貴婦人の様な女の子達の中で、緊張して震えていたのも知っているけど」
「……」
「だから、君を見つけた時、ほっとしたんだ。等身大の10歳の女の子がいるって」
で? それとパンダがどう関係するのですか?
「昔、幼い頃に異国の土産として貰ったパンダのぬいぐるみを思い出した。温かくて肌触りが良くって、丸くて可愛い目をしていたんだ。いつも抱きしめて眠っていたのだが、抱きしめると凄く気持ちが落ち着いて……気が付いたら、君の頬を触っていた。……ごめん」
「……」
「ほっとしたことを思い出したんだ。君を見つけた時の気持ちと一緒だった」
フェリックス殿下は言い終わると、胸ポケットから何かを出しました。
「何ですの? これ」
「5年前の、本当の気持ちを記したカードです。本当はこのカードを君に送るつもりだった。でも、渡せずに、今まで私の手元にずっとあった」
それは、少し角のヨレた小さなカードで、封に使われた蜜蠟も隅が剥げた箇所が見えました。確かに5年前に貰ったカードと見た目は似ています。ええ。傷み具合も。
「本当の気持ち?」
「そうです。でも、ガキでへそ曲がりな私は、違うカードを君に渡してしまった。凄く後悔して直ぐに、こっちのカードを届けようとしたけれど、君に会わせて貰えなかった。後から聞いたが、君は体調を崩して寝込んでいたと。私のせいだと思った」
そう言うと、フェリックス殿下はカードを私に差し出しました。受け取れという事でしょうか。
でも、これを受け取ってしまったら……
「私の気持ちは、今言った通りだ。君を侮辱したつもりも、揶揄ったつもりもなかった。でも、それは私の気持ちであって、君を傷つけてしまったこと、ずっと謝れなかったことについては私が悪い。悪かった」
もう一度、そう言って頭を垂れます。
「許して欲しい。シュゼット嬢」
フェリックス殿下は、カードを差し出したままずっと俯いています。
「……」
カードをそっと受け取ります。5年前の本当の気持ちとやらは受け取りましょう。
「シュゼット嬢?」
「……」
許すとは口に出来ません。
「どうしたら、君は許してくれるのだ? 教えてくれ、どうしたら良い?」
「ゅ、ゆ?」
許すも、許さないも、何か変な感じじゃなくって?
これって双方の思い違い? というか、私の思い込み違い? イヤイヤ、そう思われても仕方ない言い方だったわよ? それは、フェリックス殿下も認めている?
はっきり言いましょう。一言で言えば、すんなり許すのは嫌ですわ! 5年分のコノキモチの持って行き所が判りませんもの!!
どうする? ドウシタイ!? フェリックス殿下に対して!?
「こ、婚約者候補を辞めさせて頂きますわっ!!」
これで如何でしょう?
悪役令嬢っぽい?
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