【更新中】悪役令嬢は天使の皮を被ってます!! -5年前「白パンダ」と私を嗤った皆様に今度は天使の姿でリベンジします! 覚悟は宜しくて?-

薪乃めのう

文字の大きさ
121 / 121

番外編 7. ライバルは突然に

しおりを挟む
『帰って来ましたの』

 たったそれだけの挨拶状だった。



°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°


 見覚えのある家紋で封蝋された淡い水色の手紙が届いた。それは半年前まで在学していた母国のクラスメイトからだった。

「よし! ようやく帰って来たか! これでまた試験勉強に張り合いが出るな」

 僕は手紙を握り締めるとガッツポーズをした。

 手紙の主は、この国の公爵令嬢からだ。名前をシュゼット・メレリア・グリーンフィールドと言って、隣国であるコレールから我が母国ダリナスに駐在していた外交大使の令嬢だ。




 彼女は優秀な学生だった。転入してすぐの試験でいきなり高得点を叩き出し成績上位者となった。

「なっ!? 何で僕が3位!? 今回の試験の出来は悪くなかったはずだ! 何が起こったんだ!?」
「セドったら落ち着きなさいよ。あら? セドは3位なのね。珍しいわね」

 発表された試験の結果は、廊下の先にある学年の共有ホールに掲示される。先日行われた試験結果を見る為、たくさんの学生達が集まっていたのだ。

「へえ。見掛けない名前が載っているね?」
「転入生でしょ? 凄いのねぇ、転入して直ぐの試験で2位につけるなんて。そう思わなくて? ねえ、エーリック」

 僕を挟んで両隣から声がした。右にカテリーナ王女と左にエーリック殿下だ。このお二人は学院に入る前から親しくさせて頂いている。

「セド、お前 『今回の試験は殿下より良いはずですから!』 とか言っていなかったか?」

 くるりと視線を寄こしたエーリック殿下は、明らかに面白がっている。何故なら黒い瞳が黒水晶みたいにキラキラしているからだ。普段は冷静で温和な雰囲気なのに、興味がある事や珍しいことには目の表情が変わる。こういう時の殿下はちょっと厄介だが、そんなキラキラした目で見ないで欲しい!

「うっ」
「そうね。確かにセドはそう言っていたわね。今回はエーリックより点数は上だって。でも……違ったわね。やっぱり1位がエーリックだったじゃないの」

 言葉に詰まった僕に、更にカテリーナ様が追い打ちをかける。今回もエーリック殿下に負けた! これで2回連続でだ。

「まあまあ。それより、彼女凄いね。まだ学院に来てから7日位でしょ? 確かコレールから来た公爵令嬢だったよね? 優秀な令嬢なんだね」

 エーリック殿下が感心した様に言ったけど、確かに言われる通りだ。
 学院のクラス分けは成績順に決まっているが、彼女は一番成績の良いSクラスに転入してきた。学院は2ヵ月に1度行われる模擬試験の結果でクラスが変わる。
 つまり、成績の出来不出来によってSからA、B、C、Dと在籍クラスが変わり、追試クラスのDになったら1学年度に6カ月間の在籍期間が決定した時点で留年になってしまう。
 因みに僕、エーリック殿下、カテリーナ様もSクラスだ。入学してからずっと同じSクラスをキープしている。
 
「へえ。彼女、7教科中5教科がセドより良いのね? まあ、歴史学は他国の方なら仕方ないわね」
「本当だ。現代語と美術、音楽は彼女の方が私より上だ。凄いな」
「っくっぅうう! でも! 歴史学と数学は僕が1番です!」
「ええそうね。それ以外はエーリックと彼女の方が上ね」
「くうううっ!……はい……」

 ざわざわと賑やかなホールで、僕達3人がそんな話をしていた時だった。

「それで試験結果ですが、このように結果は掲示されます」
「まあ!」

 辺りのざわつきが一瞬シンっとなった。
 女の子の小さな驚きの声が聞こえた。思わず皆の視線が一斉に声のした方に注がれたのが判った。

 そこにいたのは……、担任の先生に連れられたあの、転入生だった。
 眩く光るフワフワの金色の髪に、海の色みたいな碧い瞳の女の子だ。

「君達も来ていたのですか」

 僕達に気付いた先生が、彼女を連れて近寄って来た。

「ええ。この前の試験結果を確認しに来ました」
「先生、御機嫌よう。ついさっき来たところですわ」

 エーリック殿下とカテリーナ様が答えるのを聞きながら、僕の視線は先生の隣にいる彼女に向いていた。
 彼女の視線は僕達を素通りし、試験結果の貼られた掲示板を見ていた。
 珍しい。
 そう思った。彼女は目の前にいるエーリック殿下とカテリーナ様に目もくれていない。普通の女の子だったら、まずはエーリック殿下に目を奪われる。
 ダリナス王家特有の黒髪黒目の綺麗な王子なんだから。誰もが目を奪われる人形の様に綺麗な顔立ちと、その柔和な表情や優雅な身のこなしはさすがは一国の王子殿下だと思う。勿論カテリーナ様だってよく似た美貌のお姫様だけド……如何せんその性格が……強烈なのは一言でも言葉を交わせば判る。多分だけど……残念だけど。
 そんな目立つ二人に全く目を向けず、彼女はじっと順位表を見上げていた。

 そして、自分の名前を確認できたのか右手をお腹の辺りでグッと握り締めた。まるで『よしっ!』 とでも呟くように唇が動くと、同時ににんまりと唇の端を上げた。
 それは、僕が女の子に初めて見る表情だった。どういう意味だ? アノ表情は?
 僕がそう感じたと同時に、彼女の瞳とバッチと視線が合った。

『ゲッ』 

 気のせいかもしれないけど、唇がそう動いた様な気がした。ん? まさか?

「先生。彼女、転入生ですよね? 私達に紹介して下さいませんか?」

 エーリック殿下がにこやかにそう言った。
 クラスでは紹介されたけど、直ぐに試験が始まったから中々話も出来ない環境だった。その為、彼女とは全く話が出来なかったので、クラスメイトは遠巻きに様子を伺うしか出来なかったんだ。さすがに隣国の公爵令嬢だしね。誰が彼女に最初に声を掛けるか、皆が牽制をしていたらしいと知ったのは随分後のことだった。
 先生に紹介を受けて、エーリック殿下とカテリーナ様が挨拶を交わしている。彼女もさっきの変な表情なんか感じさせないにこやかさで自己紹介をしている。
 うーん? 

「同じクラスの、セドリック・シン・マラカイトだ。転入して最初の試験で総合2位にになるなんて、君は凄く優秀なんだね? でも残念ながら歴史学は僕には敵わなかったようだけど、まあそれは君がまだこの国に来て間もないから致し方ないだろう。もし君が、どうしても望むのならば僕が教えてやっても良いが……とにかく次回の試験では僕は君には負けないからな。君も一生懸命勉学に励みたまえ。えっと、シュ、シュ?―ーー」
「シュゼット・メレリア・グリーンフィールドですわ。セドリック様?」
「そ、そうだ。とにかく何か判らない事があったら僕達、僕に何でも聞き給え! いいか? シュゼット・メレリア・グリーンフィールド」
「……はい……?」
「セドリック……お前、何て言い方を……」
「セドったら、何でそんなに上から目線なのかしら」

 目をぱちくりとしている彼女。僕を残念なモノを見るみたいな目で見ているエーリック殿下。そして両手を広げて肩を竦め、お姉さんみたいな口振りのカテリーナ様が僕を囲んでいる。

 へっ? そんなに変な事言った?

「うふふ。セドリック様って楽しそうな方ですのね? もし宜しければ歴史学は一緒に勉強して下さると嬉しいですわ。それに、まだまだ学院には馴れていませんので、お友達になって頂けると嬉しいです。まだダリナスに来てから友人と呼べる方がいませんの」
「ん、まあ! そうなの? でしたら私達とお友達になりましょ? ねえ、シュゼットと呼んで宜しいかしら? 私が貴方の一番最初のお友達になるわ!」
「ええ、シュゼットとお呼び下さいませ。カテリーナ様」
「カテリーナだけじゃなく私とも友達になって欲しいな。いいかな?」
「まあ、勿論ですわ。こちらこそよろしくお願いしますね、えっと、エーリック王子殿下」
「ああ、エーリックで良いよ。私もシュゼットと呼ばせてもらうから」
「あの、さすがにそれは……。それではエーリック殿下と呼ばせて頂きますね」
「じゃあ、シュゼットこれから昼食にご一緒しましょ? 先生、宜しいですわね?」

 さくさくと話が進んでカテリーナ様がランチに誘っている。気が付けばカテリーナ様が彼女と手を繋いでいる。少し困ったみたいに顔を赤らめながら、僕の方をチラチラ見ているけど何か言いたいのか? どうしたいんだろう。

 ああ、そうか!?

「仕方ないな。さあ手を貸したまえ! 食堂は向こうだぞ」」

 まったく世話が焼ける転入生だ。僕はカテリーナ様が握っている反対側の手を掴んだ。

「えっ!?」
「なっ!?セド?」
「あっ。おい!」

 もう。さっさと食堂に行かなければ、シェフのお薦めランチが終わってしまうではないか。僕は彼女の手を引きながらエーリック殿下とカテリーナ様を振り返った。

「シュゼット・メレリア・グリーンフィールド! 僕が食堂に案内してやろう。さあ、殿下達も早く行きましょう!」


 あれが彼女と言葉を交わした最初の時だった。



°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°




 あれから5年近く経った。
 
 待っていた。本当に待っていた。近い内に母国であるコレールに帰国するとは聞いていたが、ようやく帰って来た。

 よし! 彼女と離れている期間に僕がどれだけ精進し、いかに洗練された紳士になったか見せてやらねば。そして磨かれたセンスもだな。

「初めて訪れる公爵家本邸だ。ここはやはり気の利いた手土産を持って行かなければ」

 何にするか? これこそがセンスの見せ所だ。そう言えばクラスの女子達が新しいキャンディーショップが人気だと騒いでいた。確かイチゴ味のキャラメルが一番人気だと言っていたような。

 よし。多分彼女も帰国したばかりで知らないだろう。ここは一つ女子学生の流行も教えてやらなければ。

「我がライバルよ! 明日は待っていたまえ!」


 そして翌日、僕とエーリック殿下は……。


 女性だらけのキャンディーショップで自爆することになった。
 


しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

m-holly
2022.03.07 m-holly

このお話大好きです‼️
なろうでも読んでましたが、こちらでもお見かけして、久しぶりに一気読みしました‼️
以前はシルヴァ様押しだったのですが、今はセドリックかなぁ、でもエーリックもいいなぁと思ってます。
子どもたちの次世代も、楽しそうですね

2022.03.07 薪乃めのう

m-holly様

まあ! 別サイトでもお読み頂いておりましたか。
ありがとうございます。<m(__)m>

「大好き」って言って頂けるなんて感激です。

別サイトでは、一番人気はセドで、二番目はシルヴァだったでしょうか。
因みに作者の推しは、エーリック君ですの。

こちらで初めての感想です。とっても嬉しいです。
これからも応援して頂けると
頑張れます(^_-)-☆

解除

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。