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15. 祓い人の少年 【ハノーク】 ♡
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咄嗟の事だった。
今まで、人に口移しで水を与えるなどしたことは無かった。
いずれは神殿に仕える身となるため、人との関りには一線を引いていた。
辺境伯の子息であった自分には、幼い頃から縁談の話は多かった。多くの令嬢や子息の釣り書きも父宛には届いていたらしい。
帝国では異性婚も同性婚も両方できた。貴族であっても継承すべき爵位は限られているため、後継を残す必要が無い子女達も多い。一夫多妻も一妻多夫も認めない代わりに、同性婚を認めて青い血が薄まるのを防いでいる。青い血の直系こそが貴族として認められる。それが今の帝国法だった。
その為か、同性の恋愛も一般的で特に学院や神殿、騎士団などでは男同士の関係もタブーでは無かった。但し、この国には15歳で成人とみなされるので、それ以下の少年少女に無体を働くことは出来ない。
表向きは、だが。
事実、ハノークも学院では上級生や同級生、果ては教師から声を掛けられることもあった。辺境伯家の特徴でもある銀色の髪に碧い瞳。美しいと言われた事もあったし、髪や頬、身体を触られる事も少なくなかった。領地から遠く離れ、帝都の学院で寮住まいである身としては貞操を守るのにも苦労をした。しかし、幸いにも生まれ持っての法力が強くあった為、邪な心持を持って近づく者達をいなす術も覚えられた。
当然貴族の子息として、成人前の閨教育も受けていたが、自分の意に沿わない付き合いはしなかったし、安易に契りを結ぶこともしなかった。特に神殿への出仕が確定し、神官となるのが決まってからは……
ハノークはふるりと頭を振った。
あれは、単に祓い人様を助けるためだ。少年に水分を摂らせる必要があったからだ。
彼が自分で、自分の手で飲めていればしなかった。
力の入らない首を支え、仰け反りそうな白い喉から絞り出すように聞こえた、
『ちょう、だ……い』という水を欲する言葉。
薄い唇は渇いていて、小さく開かれた奥には真っ赤な舌先が見えた。頬に影を落とす長い睫毛の間で、焦点が合わなくなっている黒い瞳にぞくりと背中が震えた。
熱っぽい身体を支え、リモン水を口に含むと意識を失う寸前の彼の唇に、思わず自分の唇を合わせた。含んだリモン水を薄く開かれた唇から注ぎ入れると、渇いた身体がもっともっとと欲しがるのが判った。
さっきまで動かなかった唇と、小さな熱い舌がハノークの口の中の水分迄欲しがるように動く。舌に残るリモン水の雫さえも舐め尽くす様に。
何度も、何度もハノークはリモン水を口に含むと、それを欲しがる少年に口移しで飲ま続けた。そして大きなグラスを粗方飲みつくすと、少年はほうっと溜息を漏らして完全に意識を失った。
飲み切れなかったリモン水が、少年の唇から零れて滴った。濡れた唇が艶やかに光って大層艶めかしく見えた。
「ああ、水が……」
零れてしまったと、指で拭おうと顔を寄せた。
なのに。
ハノークは少年に口付けていた。そして零れた雫を舌で拭うと、そっと彼の頬を撫でた。
「おやすみなさいませ、ハルカ様」
傍に佇むギドゥオーンは、2人のその光景をじっと見ていた。
今まで、人に口移しで水を与えるなどしたことは無かった。
いずれは神殿に仕える身となるため、人との関りには一線を引いていた。
辺境伯の子息であった自分には、幼い頃から縁談の話は多かった。多くの令嬢や子息の釣り書きも父宛には届いていたらしい。
帝国では異性婚も同性婚も両方できた。貴族であっても継承すべき爵位は限られているため、後継を残す必要が無い子女達も多い。一夫多妻も一妻多夫も認めない代わりに、同性婚を認めて青い血が薄まるのを防いでいる。青い血の直系こそが貴族として認められる。それが今の帝国法だった。
その為か、同性の恋愛も一般的で特に学院や神殿、騎士団などでは男同士の関係もタブーでは無かった。但し、この国には15歳で成人とみなされるので、それ以下の少年少女に無体を働くことは出来ない。
表向きは、だが。
事実、ハノークも学院では上級生や同級生、果ては教師から声を掛けられることもあった。辺境伯家の特徴でもある銀色の髪に碧い瞳。美しいと言われた事もあったし、髪や頬、身体を触られる事も少なくなかった。領地から遠く離れ、帝都の学院で寮住まいである身としては貞操を守るのにも苦労をした。しかし、幸いにも生まれ持っての法力が強くあった為、邪な心持を持って近づく者達をいなす術も覚えられた。
当然貴族の子息として、成人前の閨教育も受けていたが、自分の意に沿わない付き合いはしなかったし、安易に契りを結ぶこともしなかった。特に神殿への出仕が確定し、神官となるのが決まってからは……
ハノークはふるりと頭を振った。
あれは、単に祓い人様を助けるためだ。少年に水分を摂らせる必要があったからだ。
彼が自分で、自分の手で飲めていればしなかった。
力の入らない首を支え、仰け反りそうな白い喉から絞り出すように聞こえた、
『ちょう、だ……い』という水を欲する言葉。
薄い唇は渇いていて、小さく開かれた奥には真っ赤な舌先が見えた。頬に影を落とす長い睫毛の間で、焦点が合わなくなっている黒い瞳にぞくりと背中が震えた。
熱っぽい身体を支え、リモン水を口に含むと意識を失う寸前の彼の唇に、思わず自分の唇を合わせた。含んだリモン水を薄く開かれた唇から注ぎ入れると、渇いた身体がもっともっとと欲しがるのが判った。
さっきまで動かなかった唇と、小さな熱い舌がハノークの口の中の水分迄欲しがるように動く。舌に残るリモン水の雫さえも舐め尽くす様に。
何度も、何度もハノークはリモン水を口に含むと、それを欲しがる少年に口移しで飲ま続けた。そして大きなグラスを粗方飲みつくすと、少年はほうっと溜息を漏らして完全に意識を失った。
飲み切れなかったリモン水が、少年の唇から零れて滴った。濡れた唇が艶やかに光って大層艶めかしく見えた。
「ああ、水が……」
零れてしまったと、指で拭おうと顔を寄せた。
なのに。
ハノークは少年に口付けていた。そして零れた雫を舌で拭うと、そっと彼の頬を撫でた。
「おやすみなさいませ、ハルカ様」
傍に佇むギドゥオーンは、2人のその光景をじっと見ていた。
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