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39. 脱出
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「ならば、参ろう」
ずっと黙って僕を見ていた議長さんが口を開いた。そして、腰に下げた小さなナイフを出すと僕の両手を拘束していた組紐を切った。
「えっ?」
驚いているのはハノークさんもギドさんも一緒だ。僕は痛みの走る首に顔を顰めながら、目線だけで議長さんを追った。
「エルアーザール殿! 何を!?」
我に返ったハノークさんが、慌てた声で議長さんの腕を押えたけど……
「出るぞ」
僕の身体は軽々と議長さんに抱き上げられた。
力の入らない僕は、議長さんの腕に抱えられると首元に額を付ける形で凭れ掛かった。首の角度を変えるとツキンとした痛みが走る。もしかしたら少し弦で切れたのかもしれない。
でも、このヒトなんて言った? 出るって言っていなかった?
僕は首の痛みを堪えて、議長さんの顔を見ようとゆっくりと額を上げた。すると、その気配に気付いた議長さんの茶色の眼と視線が合った。
ふっと、その目が細められた気がした。そして、近くに見える議長さんの顔に息を呑んだ。男らしいイケメンだと思ったけど、そんな軽い言葉じゃ例えられない。男らしい鋭さのある綺麗な顔立ち。ハノークさんやギドさんみたいに華やかな色合いの美しさじゃないけど、琥珀や上質なお酒に例えられる様な深みのある容貌だ。
多分、このヒトも帝国では無くてはならない程の優れた人なんだろう。要らなくなったら、容赦なく打ち捨てることも平気にできる。そんな冷徹さを持ったヒトかも……
「で、る?」
そんな人が今何をしている? 僕を抱えてこの部屋を出るって言ってない?
掠れた声で聞けば、議長さんはじっと僕を見詰めた。僕の真意を探るみたいだ。彼の茶色い瞳に僕の顔が映っているのが見えた。
このヒトが僕を出してくれるかも。この息の詰まる空間から……
「で、出たい……です」
議長さんの胸元を掴んで、僕ははっきりと伝えた。
「ならば、参ろう」
そう答えると、開け放たれたままだった壁扉に向かって進んで行った。
「ハルカ殿は私が預かろう。ハノークは神殿の片付けが終わったら私の屋敷に来い。ギドゥオーン、大弓を持って一緒に来い」
部屋を出る前に一瞬止まると、後ろにいるハノークさんとギドさんに向かってそう言った。
「し、しかしっ! エルアーザール殿、それはっ!」
「このままでは駄目だ。それはお前も判っていることだろう。その為に根回ししていたのだろうが。石造りの堅牢な巣では、黒い小鳥は弱まるばかりだ。帝国の鷲に攫われた。そう説明して上手く立ち回れ、辺境の白百合よ」
何だか判らない単語が並んだ。でも、議長さんとハノークさんには判るんだろう。言われたハノークさんは何も言わず、僕の傍まで駆け寄った。
「ハルカ様、少しお傍を離れますが直ぐに参ります。それまで、エルアーザール殿とギドゥオーン殿とご一緒に」
僕は議長さんに抱かれ夢現のまま、この白い部屋を出た。
そして、そのまま幾つかの部屋を抜け、細い廊下の先に……
「ハルカ殿」
耳に響く、僕を呼ぶ声。瞑っていた瞼をゆっくりと開くと……
そこは、白い石畳の真っ直ぐに伸びた広い公園のような庭だった。そうだ、ヨーロッパのお城の前にある刈り込まれた植栽で造られた庭園みたいな。
微かに風が吹き、頬を撫でていく。
「ああ、空、だ」
頭上には、青い空が広がっていた。綺麗な青い、雲一つない青空だ。
僕の目から、一筋涙が零れた。
(確かに、ここは僕がいた世界じゃない)
だって……空に、大きな太陽と白い二つの月が浮かんでいたのだから。
ずっと黙って僕を見ていた議長さんが口を開いた。そして、腰に下げた小さなナイフを出すと僕の両手を拘束していた組紐を切った。
「えっ?」
驚いているのはハノークさんもギドさんも一緒だ。僕は痛みの走る首に顔を顰めながら、目線だけで議長さんを追った。
「エルアーザール殿! 何を!?」
我に返ったハノークさんが、慌てた声で議長さんの腕を押えたけど……
「出るぞ」
僕の身体は軽々と議長さんに抱き上げられた。
力の入らない僕は、議長さんの腕に抱えられると首元に額を付ける形で凭れ掛かった。首の角度を変えるとツキンとした痛みが走る。もしかしたら少し弦で切れたのかもしれない。
でも、このヒトなんて言った? 出るって言っていなかった?
僕は首の痛みを堪えて、議長さんの顔を見ようとゆっくりと額を上げた。すると、その気配に気付いた議長さんの茶色の眼と視線が合った。
ふっと、その目が細められた気がした。そして、近くに見える議長さんの顔に息を呑んだ。男らしいイケメンだと思ったけど、そんな軽い言葉じゃ例えられない。男らしい鋭さのある綺麗な顔立ち。ハノークさんやギドさんみたいに華やかな色合いの美しさじゃないけど、琥珀や上質なお酒に例えられる様な深みのある容貌だ。
多分、このヒトも帝国では無くてはならない程の優れた人なんだろう。要らなくなったら、容赦なく打ち捨てることも平気にできる。そんな冷徹さを持ったヒトかも……
「で、る?」
そんな人が今何をしている? 僕を抱えてこの部屋を出るって言ってない?
掠れた声で聞けば、議長さんはじっと僕を見詰めた。僕の真意を探るみたいだ。彼の茶色い瞳に僕の顔が映っているのが見えた。
このヒトが僕を出してくれるかも。この息の詰まる空間から……
「で、出たい……です」
議長さんの胸元を掴んで、僕ははっきりと伝えた。
「ならば、参ろう」
そう答えると、開け放たれたままだった壁扉に向かって進んで行った。
「ハルカ殿は私が預かろう。ハノークは神殿の片付けが終わったら私の屋敷に来い。ギドゥオーン、大弓を持って一緒に来い」
部屋を出る前に一瞬止まると、後ろにいるハノークさんとギドさんに向かってそう言った。
「し、しかしっ! エルアーザール殿、それはっ!」
「このままでは駄目だ。それはお前も判っていることだろう。その為に根回ししていたのだろうが。石造りの堅牢な巣では、黒い小鳥は弱まるばかりだ。帝国の鷲に攫われた。そう説明して上手く立ち回れ、辺境の白百合よ」
何だか判らない単語が並んだ。でも、議長さんとハノークさんには判るんだろう。言われたハノークさんは何も言わず、僕の傍まで駆け寄った。
「ハルカ様、少しお傍を離れますが直ぐに参ります。それまで、エルアーザール殿とギドゥオーン殿とご一緒に」
僕は議長さんに抱かれ夢現のまま、この白い部屋を出た。
そして、そのまま幾つかの部屋を抜け、細い廊下の先に……
「ハルカ殿」
耳に響く、僕を呼ぶ声。瞑っていた瞼をゆっくりと開くと……
そこは、白い石畳の真っ直ぐに伸びた広い公園のような庭だった。そうだ、ヨーロッパのお城の前にある刈り込まれた植栽で造られた庭園みたいな。
微かに風が吹き、頬を撫でていく。
「ああ、空、だ」
頭上には、青い空が広がっていた。綺麗な青い、雲一つない青空だ。
僕の目から、一筋涙が零れた。
(確かに、ここは僕がいた世界じゃない)
だって……空に、大きな太陽と白い二つの月が浮かんでいたのだから。
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