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親衛隊隊長と風紀委員長

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今、俺の真横にとても美しい顔がある。


そう………真横だ


こんなに近い必要はあるのだろうか。


家族以外と関わりが全くない人生を送って来ているので、他人とのこの距離が正しいのか正しくないのか、さっぱり分からない。


最初、隣に座れと暗に言われたので、人一人分の距離を開けて先輩の隣に座ったら、眉を潜めた先輩に腕を引かれて真横に座らされた。

近すぎて先輩の肩と俺の肩が密着している。


先輩から微かに甘い香りがする……香水かな。
綺麗な人って香りにまで気を遣う物なんだろうか。努力が凄い。


口元を仄かに緩ませ、目尻を下げて俺を見ている先輩を、俺も戸惑いながら見つめ返す。


俺、何で第1隊のお茶会ここに呼ばれたんだろう。


「あの……姫乃塚先輩……」

「雪」

「はい?」

「雪って呼んで。姫乃塚って長くて呼び辛いでしょう?」


なぜ急にそんな事を

先輩の事を名前で呼んでもいいのだろうか……ましてや、姫乃塚先輩は親衛隊隊長だ。

ちょっと……いや、だいぶハードルが高い。


名前で呼ぶ事を躊躇っていると、姫乃塚先輩のカップを持っていない方の手が顔に伸ばされる。
掌に頬を包まれ数回撫でられ、白くて長い親指が俺の唇をなぞった。

意外とごつごつして骨ばったその感触に、どれだけ美人でも男なんだよなぁと妙な所で感心してしまう。


それにしても近い。


これはあれか?
名前で呼ぶまで離さない的なあれか?


人によってはご褒美だろうが、俺は先輩をそういう目で見ていないので、この距離にただただ戸惑うだけだ。

「………ひめ…」

「ゆき」


言ってごらん


姫乃塚先輩と呼ぼうとした俺の言葉を、親指で唇
を塞ぐ事で物理的に止められてしまった。

更に近付いた顔に驚いて思わず仰け反るが、逃さないとばかりに先輩の綺麗な顔が追い掛けてくる。


眼の前で囁き混じりに催促される


これは……流石に不味いのでは。

このままではキスしかねない勢いにこちらが折れるしかないと諦める。

先輩は俺から気安く話しかけられるような存在ではないので、名前を呼ぶ機会は訪れないのでは?

それなら…そんなに心配する事ではないかもしれない。

第一、このままではいつまで経っても本題に入らせて貰えない。


「………………雪先輩」


「まぁ今はそれでもいいかな、うん」


言われた通りに名前で呼んだのに、眉を寄せて残念そうな顔をされた。


何でだよ。
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