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猫化けちゃた
しおりを挟むマリが消えて一週間が過ぎた頃だった。何時もの様にバイトを終えて帰って来た僕を、灯りの付いた部屋が迎えてくれた。
「今朝は消し忘れたかな。」
独り言を言いながら鍵を開けようとした時、異変に気が付いた。
『鍵が開いてる。』
僕は最悪の状態を覚悟してドアを開けた。
すると部屋には女の子が寛いでいた。
「お帰りなさい。」
いきなりそんな事言われる筋合いはなさそうだが、一応丁寧に尋ねてみた。
「どなたですか。」
彼女は会心の笑みを浮かべながら、
「わからない?」
と一言のたまった。
『わかりたいさ、こんなラッキーな事は滅多にあることじゃない。いやほとんど奇跡に近いだろう。自分の部屋のドアを開けたら、いきなり素敵なコスチュームの女の子が挨拶してくれるなんて、頼んでも無理だよ。大体頼み先がわからない。』
「ええと、以前どこかでお会いしましたっけ。」
僕は、弛みそうになる口元に力を集中しながら答えた。
「うん、あなた私を踏んだでしょ。」
僕は一度にすべてを理解した。コスチュームの意味さえ。猫だ。
「マリ?」
彼女は猫パンチの手をして笑った。
僕は改めて彼女?をみた。
『そう言えば、顔はともかく、胸から腰のラインはマリを彷彿とさせる。』
「何?どしたの?」
「いや、あまりにビックリしたものだから。」
僕はドギマギしながら答えた。
『それにしても素敵です。猫のコスチュームはバニーガールに匹敵するか、いやそれ以上なのではないかと思う。しかも二人きりの部屋の中では尚更な気がする。この後の成り行きについては君の妄想力にまかせるよ。でも一つ言えることはアンビリバボーな展開の夜だったという事。』
ヤレヤレ
アンビリバボーな夜を過ごした翌朝、部屋にはマリが布団の上で丸くなって眠っていた。僕は白く霞む目を擦り彼女を見たが、やはり『猫』に戻っている。
「おはよう、マリ。」
僕は彼女の背中を撫でながら呼んでみた。しかしマリは所謂、猫としての正しい振る舞いをするだけだった。
『もう、彼女には会えないのかな。』
やや悲観的な観測を抱きながら僕は朝食を作り、マリにも所謂『猫メシ』を作った。僕らは黙々と食べ終え、それぞれの生活を始めた。つまり僕は大学に向かい、彼女は散歩に出かけた。
「悪い猫に気を付けてるんだよ。」
僕は彼女を見送った。
その日のバイトを終え、疲れた体を何とかアパートまで引きずるようにして帰ってきた。階段を上がり部屋の前に立つと中から明かりが見えた。僕は部屋にマリの居ることを願いながらドアを開け、その向こうに彼女の存在を探した。
「お帰りなさい。」
彼女の声だ。
「ただいま。」
今までの疲れなど一瞬で吹き飛ぶようだった。
「いたんだ。もう会えない様な気がして、心配したよ。」
「あら、ごめんね。話さなかったかな。」
彼女は淡々と話した。
「こうしていられるのは夜の間だけなのよ。朝には猫に戻るの。」
「そうだったの。うん、わかるような気がする。」
『それはそうだよ。やはり怪しげな振る舞いは夜でしょう。それに昼間から彼女がいたら、僕は家から出られなくなりそうだ。』
何れにせよ、彼女との再会を果たした僕は、再びアンビリバボーな夜をすごしたのだった。
フゥ
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