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第二章 死する狼のための鎮魂歌
遭遇①
マリアンルージュとレティシアが戻るまで読書でもしよう。
そんなことを考えてゼノがソファに腰を下ろした、その矢先のことだった。
「それにしてもお前、やるときはやるヤツだったんだな」
唐突にリュックに声を掛けられた。
何の話かと不思議に思い、ゼノが顔を上げると、ベッドに腰を掛け、ズボンの裾を捲り上げながら、期待に満ちた眼差しを向けるリュックと目が合った。
「……なんの話ですか?」
先刻までとは違う意味で嫌な予感を覚えながら訝しむように尋ねるゼノに、待ってましたと言わんばかりににやにやと笑ってリュックが言う。
「ちゃっかり一緒の部屋に泊まってんじゃん。当然、ヤることやったんだろ?」
「……は?」
場の空気を全く読まないリュックの言葉に、ゼノは思わず真顔になった。
まさか先刻のあの話の直後にこのような話題を振ってくるとは、本当にこの少年は何を考えているのかわからない。
「きみが期待しているようなことは一切ありません。そもそも、同室に泊まらざるを得なくなったのは昨夜が初めてですから」
若干苛立ちを覚えながら険のある言葉を返すと、ゼノは本を開き、ページに連なる文字を追った。
そう、リュックが期待するようなことなど何もなかったのだ。確かに昨夜は良い雰囲気になりはした。けれど、初めてのキスは結局未遂に終わったのだから。
月明かりが水飛沫にきらめく幻想的な景色を思い出し、ゼノは溜め息をついた。
夜が明けた今でも、あのひとときを思い出せる。
頬を染めてはにかむマリアンルージュの笑顔も、誘うような甘い香りも、指先から伝わった温もりも、一枚絵のように鮮明に、ゼノの記憶に刻まれていた。
「……そういえば、きみはどうしてここに……この部屋に、俺たちが居るとわかったんですか?」
ふと昨夜のことを思い返し、ゼノは疑問を口にした。
『羊の安らぎ亭』はこの街で唯一の宿屋だ。旅の途中のゼノとマリアンルージュが宿泊する施設である可能性は間違いなく一番高い。それは理解できる。
だが、宿泊する部屋まで特定するとなれば、そう簡単にはいかないはずだ。考えられる可能性といえば――
「広場で偶然お前らを見つけてさ。運が良かったよ」
眉を顰めて答えを待つゼノに、リュックは満面の笑みで答えた。
「全然良くない!」と口に出しかけた言葉を飲み込み、本のページに突っ伏したゼノの耳が真っ赤に染まっていく。その様子を眺めながら、リュックは目を細めて更に続けた。
「良い雰囲気だったじゃん。キスして手を繋いで部屋に戻って……、そのあとのことはだいたい想像つくよ」
「……勝手な想像はやめてくださいキスなんてしていないし手も繋いでいません」
「え、マジで……?」
本の上に突っ伏したままゼノが反論すると、今度はリュックが真顔になった。
「目的を果たすまで、マリアとの関係をどうこうするつもりはありませんから……」
小生意気なリュックのことだ。奇異なものでも見るような、憐れむような視線を向けるか、或いは指をさして笑い出すのだろう、とゼノは思っていた。
けれど、リュックはきょとんとしたまま「ふぅん」と声を漏らしただけで、ゼノをからかうような素振りは一切見せなかった。それどころか、顔を上げないゼノに向かって、思いのほか真面目に話しはじめた。
「でもさ、二人ともいつまで一緒にいられるかなんてわからないだろ? もしかしたら、その目的とやらを果たす前に、お前かマリアが死んじまう可能性だってあるんだぞ」
「死ぬなんて、そんな縁起でもない……」
いつになく真剣な声色で語られたリュックの言葉に、ゼノが顔を上げ、ちから無く口を挟む。
「……そうだな。ごめん」
そう言って頭を下げたリュックの顔は、どこか大人びて見えた。
***
入浴を終えると、マリアンルージュはレティシアを連れて厨房へと向かった。
厨房では、ダニエルとヴァネッサが既に朝の仕込みをはじめていた。柱の影からひょっこりと顔を出して厨房を覗き込むふたりに気がつくと、ダニエルはふたりを厨房へと招き入れた。
「おはようさん。えらい早起きじゃないか」
ご機嫌な様子で挨拶しながら小鍋に四人分の野菜スープを取り分けると、ダニエルはその小鍋をマリアンルージュに手渡した。
「おはようございます、おじさん。お客さんが増えて大変じゃない? 手伝おうか」
「そりゃありがたい。嬢ちゃんたちの朝飯が済んだら、よろしくお願いしようかな。なぁ、ヴァネッサ」
マリアンルージュの言葉に大声で笑って頷くと、ダニエルは厨房の奥にいたヴァネッサに声をかけた。
石窯から鉄板を取り出したヴァネッサが、一息ついて顔を上げる。
「そうだね。せっかくだからお願いしようかね」
言いながら、焼きたてのマフィンを四つ紙袋にいれると、ヴァネッサは厨房の入り口にやって来て、ふたりの前にその紙袋を差し出した。
紙袋を受け取り、ヴァネッサに笑顔で礼を言う。「またあとで」と手を振ると、ふたりは厨房を後にした。
四人分の食器を重ねたトレイをバランス良く右手で支え、左手に紙袋を抱えて、マリアンルージュは足早に階段を昇った。両手で小鍋を持ちながら慎重に階段を昇るレティシアが、やや遅れ気味に後をついて来る。
早朝の廊下はしんと静まり返っており、床を軋ませるふたりの足音が、長々と続く廊下の奥まで響いていた。
「お待たせ。朝ごはんもらってきたよ」
部屋に戻ると、マリアンルージュはローテーブルに紙袋とトレイを下ろし、朝食の準備をはじめた。
温かいスープとマフィンがテーブルの上に並び、食欲をそそる匂いが部屋中に広がった。ベッドの上で寛いでいたリュックがテーブルの側にやってきて、ソファに身を預けて本を読み耽っていたゼノの隣に、何の躊躇いもなく腰を下ろす。僅かばかり眉を顰め、おもむろにゼノが席を立った。
「すみません、食材の仕入れを頼まれてるので」
マリアンルージュにそう告げて、半分に割ったマフィンを口に放り込むと、ゼノは湯気の立つスープをすすり、そのまま上着を羽織って部屋を出て行ってしまった。
「なんだよ、感じ悪ぃなあ」
音を立てて閉まる扉に目を向けるリュックは、どことなく楽しそうだ。
人懐っこいリュックに対してゼノは鬱陶しそうな態度を取ってはいるが、なんだかんだでふたりは仲が良いように思える。森で行動を共にしていたときも、ふたりはまるで兄弟のようだと、マリアンルージュは羨ましく思ったものだ。
「良いなぁ」
「……なにが?」
マリアンルージュの呟きに、リュックが間の抜けた声を出す。その声に釣られたように、レティシアに怪訝な眼差しを向けられ、マリアンルージュはちからなく曖昧な笑みを浮かべた。
マフィンを頬張り首を傾げて、リュックが確認を取るようにマリアンルージュに訊ねる。
「ねえちゃんは、ゼノのことが好きなんだよな?」
「……うん」
「それならさ、なんで好きだって言わねえの?」
さも不思議そうにそう言って、リュックはもう一口マフィンにかぶりついた。
マリアンルージュは小さく唸ると、両手でカップを包み込み、顔を俯かせた。カップを満たしていたお湯が微かに揺らぎ、映り込んだ顔が僅かに歪む。
それができたら、どんなによかっただろう。
簡単に伝えられる想いなら、こんなに悩むこともなかったのに。
深々と溜め息をついて、マリアンルージュはぽつりと呟いた。
「ゼノはわたしのことを、あまり良く思っていないだろうから……」
「はぁ?」
リュックが素っ頓狂な声をあげたが、構うことなくマリアンルージュは話し続けた。
「ゼノがわたしをそばに置いてくれているのは、わたしがゼノと同じ目的で里を出たと思っているからなんだ」
呆然として、リュックとレティシアが目を瞬かせる。出会って日も浅いふたりに、このような話を聞かせてどうなるわけでもない。そんなことは理解していた。
ただ、ふたりが真摯に耳を傾けてくれるものだから、誰かに胸の内を打ち明けたくて、マリアンルージュは切々と続けた。
「もうだいぶ昔のことだけどね、わたしはある男性に求婚したんだ」
そんなことを考えてゼノがソファに腰を下ろした、その矢先のことだった。
「それにしてもお前、やるときはやるヤツだったんだな」
唐突にリュックに声を掛けられた。
何の話かと不思議に思い、ゼノが顔を上げると、ベッドに腰を掛け、ズボンの裾を捲り上げながら、期待に満ちた眼差しを向けるリュックと目が合った。
「……なんの話ですか?」
先刻までとは違う意味で嫌な予感を覚えながら訝しむように尋ねるゼノに、待ってましたと言わんばかりににやにやと笑ってリュックが言う。
「ちゃっかり一緒の部屋に泊まってんじゃん。当然、ヤることやったんだろ?」
「……は?」
場の空気を全く読まないリュックの言葉に、ゼノは思わず真顔になった。
まさか先刻のあの話の直後にこのような話題を振ってくるとは、本当にこの少年は何を考えているのかわからない。
「きみが期待しているようなことは一切ありません。そもそも、同室に泊まらざるを得なくなったのは昨夜が初めてですから」
若干苛立ちを覚えながら険のある言葉を返すと、ゼノは本を開き、ページに連なる文字を追った。
そう、リュックが期待するようなことなど何もなかったのだ。確かに昨夜は良い雰囲気になりはした。けれど、初めてのキスは結局未遂に終わったのだから。
月明かりが水飛沫にきらめく幻想的な景色を思い出し、ゼノは溜め息をついた。
夜が明けた今でも、あのひとときを思い出せる。
頬を染めてはにかむマリアンルージュの笑顔も、誘うような甘い香りも、指先から伝わった温もりも、一枚絵のように鮮明に、ゼノの記憶に刻まれていた。
「……そういえば、きみはどうしてここに……この部屋に、俺たちが居るとわかったんですか?」
ふと昨夜のことを思い返し、ゼノは疑問を口にした。
『羊の安らぎ亭』はこの街で唯一の宿屋だ。旅の途中のゼノとマリアンルージュが宿泊する施設である可能性は間違いなく一番高い。それは理解できる。
だが、宿泊する部屋まで特定するとなれば、そう簡単にはいかないはずだ。考えられる可能性といえば――
「広場で偶然お前らを見つけてさ。運が良かったよ」
眉を顰めて答えを待つゼノに、リュックは満面の笑みで答えた。
「全然良くない!」と口に出しかけた言葉を飲み込み、本のページに突っ伏したゼノの耳が真っ赤に染まっていく。その様子を眺めながら、リュックは目を細めて更に続けた。
「良い雰囲気だったじゃん。キスして手を繋いで部屋に戻って……、そのあとのことはだいたい想像つくよ」
「……勝手な想像はやめてくださいキスなんてしていないし手も繋いでいません」
「え、マジで……?」
本の上に突っ伏したままゼノが反論すると、今度はリュックが真顔になった。
「目的を果たすまで、マリアとの関係をどうこうするつもりはありませんから……」
小生意気なリュックのことだ。奇異なものでも見るような、憐れむような視線を向けるか、或いは指をさして笑い出すのだろう、とゼノは思っていた。
けれど、リュックはきょとんとしたまま「ふぅん」と声を漏らしただけで、ゼノをからかうような素振りは一切見せなかった。それどころか、顔を上げないゼノに向かって、思いのほか真面目に話しはじめた。
「でもさ、二人ともいつまで一緒にいられるかなんてわからないだろ? もしかしたら、その目的とやらを果たす前に、お前かマリアが死んじまう可能性だってあるんだぞ」
「死ぬなんて、そんな縁起でもない……」
いつになく真剣な声色で語られたリュックの言葉に、ゼノが顔を上げ、ちから無く口を挟む。
「……そうだな。ごめん」
そう言って頭を下げたリュックの顔は、どこか大人びて見えた。
***
入浴を終えると、マリアンルージュはレティシアを連れて厨房へと向かった。
厨房では、ダニエルとヴァネッサが既に朝の仕込みをはじめていた。柱の影からひょっこりと顔を出して厨房を覗き込むふたりに気がつくと、ダニエルはふたりを厨房へと招き入れた。
「おはようさん。えらい早起きじゃないか」
ご機嫌な様子で挨拶しながら小鍋に四人分の野菜スープを取り分けると、ダニエルはその小鍋をマリアンルージュに手渡した。
「おはようございます、おじさん。お客さんが増えて大変じゃない? 手伝おうか」
「そりゃありがたい。嬢ちゃんたちの朝飯が済んだら、よろしくお願いしようかな。なぁ、ヴァネッサ」
マリアンルージュの言葉に大声で笑って頷くと、ダニエルは厨房の奥にいたヴァネッサに声をかけた。
石窯から鉄板を取り出したヴァネッサが、一息ついて顔を上げる。
「そうだね。せっかくだからお願いしようかね」
言いながら、焼きたてのマフィンを四つ紙袋にいれると、ヴァネッサは厨房の入り口にやって来て、ふたりの前にその紙袋を差し出した。
紙袋を受け取り、ヴァネッサに笑顔で礼を言う。「またあとで」と手を振ると、ふたりは厨房を後にした。
四人分の食器を重ねたトレイをバランス良く右手で支え、左手に紙袋を抱えて、マリアンルージュは足早に階段を昇った。両手で小鍋を持ちながら慎重に階段を昇るレティシアが、やや遅れ気味に後をついて来る。
早朝の廊下はしんと静まり返っており、床を軋ませるふたりの足音が、長々と続く廊下の奥まで響いていた。
「お待たせ。朝ごはんもらってきたよ」
部屋に戻ると、マリアンルージュはローテーブルに紙袋とトレイを下ろし、朝食の準備をはじめた。
温かいスープとマフィンがテーブルの上に並び、食欲をそそる匂いが部屋中に広がった。ベッドの上で寛いでいたリュックがテーブルの側にやってきて、ソファに身を預けて本を読み耽っていたゼノの隣に、何の躊躇いもなく腰を下ろす。僅かばかり眉を顰め、おもむろにゼノが席を立った。
「すみません、食材の仕入れを頼まれてるので」
マリアンルージュにそう告げて、半分に割ったマフィンを口に放り込むと、ゼノは湯気の立つスープをすすり、そのまま上着を羽織って部屋を出て行ってしまった。
「なんだよ、感じ悪ぃなあ」
音を立てて閉まる扉に目を向けるリュックは、どことなく楽しそうだ。
人懐っこいリュックに対してゼノは鬱陶しそうな態度を取ってはいるが、なんだかんだでふたりは仲が良いように思える。森で行動を共にしていたときも、ふたりはまるで兄弟のようだと、マリアンルージュは羨ましく思ったものだ。
「良いなぁ」
「……なにが?」
マリアンルージュの呟きに、リュックが間の抜けた声を出す。その声に釣られたように、レティシアに怪訝な眼差しを向けられ、マリアンルージュはちからなく曖昧な笑みを浮かべた。
マフィンを頬張り首を傾げて、リュックが確認を取るようにマリアンルージュに訊ねる。
「ねえちゃんは、ゼノのことが好きなんだよな?」
「……うん」
「それならさ、なんで好きだって言わねえの?」
さも不思議そうにそう言って、リュックはもう一口マフィンにかぶりついた。
マリアンルージュは小さく唸ると、両手でカップを包み込み、顔を俯かせた。カップを満たしていたお湯が微かに揺らぎ、映り込んだ顔が僅かに歪む。
それができたら、どんなによかっただろう。
簡単に伝えられる想いなら、こんなに悩むこともなかったのに。
深々と溜め息をついて、マリアンルージュはぽつりと呟いた。
「ゼノはわたしのことを、あまり良く思っていないだろうから……」
「はぁ?」
リュックが素っ頓狂な声をあげたが、構うことなくマリアンルージュは話し続けた。
「ゼノがわたしをそばに置いてくれているのは、わたしがゼノと同じ目的で里を出たと思っているからなんだ」
呆然として、リュックとレティシアが目を瞬かせる。出会って日も浅いふたりに、このような話を聞かせてどうなるわけでもない。そんなことは理解していた。
ただ、ふたりが真摯に耳を傾けてくれるものだから、誰かに胸の内を打ち明けたくて、マリアンルージュは切々と続けた。
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