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第1話 王子様との出会い
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フィオラント王国の北には大きな森がある。
ファナの森と名付けられたその森には獰猛な魔獣が棲んでいて、その昔、近隣の村人は魔獣の襲撃に怯えて暮らしていたけれど、昨今では魔獣の襲撃による被害は殆どないと言われている。その理由はふたつ。
ひとつは、八年前の王国騎士団による大規模な魔獣討伐で魔獣の数が激減したから。もうひとつは、ファナの森に住む偉大な魔女が魔獣が森の外に出ないよう常に結界を張っているからだ。
結界により森の外に出られなくなった魔獣は、陽の当たらない森の奥を日夜徘徊する。そんな危険な森の奥に足を踏み入れるなんて大馬鹿者のすることで、賢い人間は森には足を踏み入れない。だから、万が一この森で魔獣に襲われたとしても、助けが来ることなんてあり得ない。
そう、あり得ないのだ。
***
「いやぁぁああああ!」
甲高い悲鳴をあげながら、少女が樹々のあいだを駆けていく。道を覆う木の葉や枯れ枝を蹴り散らかして、地面を這う木の根を飛び越えて、彼女は無我夢中で逃げ惑う。
少女の名前はロッテ。ファナの森の魔女リーゼロッテを師と仰ぐ魔女見習いだ。
当然のことながら、この森で暮らす彼女は森に巣食う危険な魔獣のことも知っている。毎日の日課である薬草の採取だって、普段なら魔女の結界に守られた近場の森でしか行わない。けれども今日は、調薬に使う薬草が少しだけ足りなくて、すぐに戻るつもりで結界の外に出てしまった。森の中が思っていたよりもずっと穏やかだったから、ちょっとした出来心でほんの少し森の奥まで足を延ばしてしまったのだ。
それが、ロッテの命運を分けてしまった。
落ち葉に覆われた路が茂みのあいだに見え隠れしている。服や手脚が木の枝で傷付けられることにも構わずに、ロッテはがむしゃらに細道を駆けた。
右手に提げていた編みかごが茂みから突き出した木の枝に引っかかり、後方に腕が引かれる。手から離れた編みかごが、摘みたての草花を撒き散らして地面に転がった。ロッテが慌てて振り返ると、同時にがさりと音がして、茂みの奥から大きな影が現れた。
道に散らばった摘みたての草花が、獣の蹄にぐしゃりと踏みにじられる。ふごふごと鼻息荒く現れたのは、人のかたちに似ているものの、およそ人とは思えない醜い姿の魔獣だった。
「ひぃっ!」
短い悲鳴をあげて、ロッテが咄嗟に後ずさる。その拍子に、ひとつに結わえた薔薇色の髪が木の枝に絡まって、蝶を捕らえる蜘蛛の巣のようにロッテを茂みに縫い付けた。暗闇から這い出た幾つもの黒い影が、ロッテの琥珀色の瞳に映り込む。瞬く間にロッテは獣たちに囲まれてしまった。
目の前に群がる魔獣は豚か猪に似た頭をしており、背骨が緩やかな弧を描いた不恰好な姿勢で立っていた。露出した上半身は人間の男のものに似ていて、丸まった背中と同様に腹肉がぽっこりと突き出ている。下半身は硬い毛で覆われており、歪んだ二本の脚は豚や猪のものと酷似していた。布一枚身に付けてもいないくせに道具を使う知能はあるらしく、手には鉈のような得物を握っている。
身動きひとつ取れないロッテを見ると、魔獣はにたりと笑い、長い舌で舌舐めずりをした。手にしていた得物を投げ捨てて、のしのしとロッテに歩み寄り、眼を細めて不気味にうすら笑う。舐め回すように身体を視線で犯されて、ロッテは恐怖に身を震わせた。
そういえば昔、師であるリーゼロッテが言っていた。
ファナの森の魔獣には雌が存在しない。彼らは繁殖期になると人間の女を村から攫い、子種を植え付けて自分の子を産ませることで種を存続させるからだ。
けれども魔女が張った結界により、彼らは森を出られなくなった。雌と交わることが出来なくなり、繁殖が困難になったことで、彼らは以前にも増して人間の女に飢えている。それ故に、決して女は森に立ち入ってはならないのだと。
たったひとりで森に足を踏み入れたロッテは、飢えた魔獣たちの格好の餌食だった。熟しきらない少女が放つほのかな雌の匂いに、獣たちはこれ以上ないほどに興奮していた。
先頭に立っていた魔獣が毛むくじゃらの腕を怯えるロッテの首筋へと伸ばす。先のひび割れた爪が襟元に引っ掛けられて、ベストとブラウスが胸元までひと息に引き裂かれた。白い肌が晒されて、小ぶりな乳房が露わになる。ロッテは顔を蒼褪めて、髪を振り乱して泣き叫んだ。
「いやっ! いやああああ!」
枝に絡まった髪がぶちぶちと音をたてて千切れ、ロッテはようやく茂みから解放された。けれども今さら遅すぎた。すでに魔獣はロッテの目と鼻の先で爛々と目を光らせており、裂けた口から粘着質な涎をだらだらと溢れさせている。鼻息はさらに荒く、おそるおそる下へと目を向けると、反り返った赤黒い怒張の先で透明な液体がぬらぬらと輝いていた。
これから獣たちはグロテスクなそれでロッテの身体を貫いて、胎内に子種を植え付けるつもりなのだろう。何度も何度も、その欲望が枯れ果てるまで。
「助けて……」
唇から掠れた声が零れ落ちる。あふれ出る涙で視界が歪み、ロッテは祈るように空を仰いだ。けれど、見上げた空はロッテを見下ろす魔獣の影に黒く塗り潰されてしまっていた。
これほどまでに、絶望という言葉に適した状況があるだろうか。
ロッテの眦に涙が浮かぶ。蒼白になった頬を雫がひと粒流れ落ちた。
奇跡が起きたのは、そのときだった。
周囲を取り囲んでいた獣が奇怪な声をあげ、荒々しく土を踏み鳴らしはじめる。その刹那、耳を覆いたくなるような不気味な悲鳴が次々にあがり、ロッテの視界を覆っていた魔獣の影が真っ二つに切り裂かれた。
一瞬の出来事だった。まばたきのあとロッテの目に映ったのは、地に倒れ伏した魔獣の死体と激昂する魔獣たち。そして、真っ白なマントをたなびかせて剣を振るう逞しい青年の姿だった。
乙女のピンチに駆け付けるヒーローのことを王子様に例えることがあるけれど、ロッテの目には魔獣と戦う青年の姿が例え話の王子様のように見えた。少し乱れた彼の髪は明るい胡桃色で、端整な顔には涼しげな橄欖石の瞳が鋭く光る。鍛えられた長身に纏った上等な衣服はフィオラントの騎士装束によく似ており、胸元に飾られた紋章には片翼の鷹が描かれていた。
「片翼の……鷹……?」
呟いて、ロッテは目を瞬かせた。恐怖に怯えて凍り付いていた思考が、ようやくまともに動きはじめる。
片翼の鷹はフィオラント王家を象徴するもので、それを掲げることが許されるのは、騎士をはじめとする王家に仕えし選ばれた者か、王家の人間しかありえない。
状況から考えれば、青年は魔獣討伐の任務を受けた騎士と考えるのが妥当だろう。実際に、ロッテも八年前の大規模な魔獣討伐の際、フィオラントの騎士に助けられた。
——そういえば。
魔獣と渡り合う青年の姿を目で追いながら、ロッテは遠い昔を思い出していた。
襲い来る魔獣に向けて剣を振るうこの青年は、あのときの——八年前、魔獣に襲われていたロッテを助けてくれた騎士とよく似ていた。
当時のロッテはまだ幼くて、おまけに恐怖ですぐに気を失ってしまったから顔こそ覚えていないけれど、あのときの騎士の軽々とした身のこなしと鮮やかな剣さばきだけは、今でもはっきりと覚えている。
あのときもロッテは今と同様に、顔も知らないその騎士を王子様みたいだと思ったものだ。そして、幼くて夢見がちだったロッテは、その騎士に初めての恋をした。
ぐしゃりと泥を撒き散らし、魔獣の身体が地に沈む。がさがさと騒がしい音をたてながら、黒い影が散り散りに森の奥へと姿を消した。周囲に魔獣の影がなくなったのを確認すると、青年は長い剣を一振りして獣の血をふるい落とし、剣身を鞘に収めた。一息ついて顔をあげ、立ち竦むロッテを振り返る。
「お怪我はありませんか?」
橄欖石の瞳をまっすぐにロッテに向けて、青年は落ち着いた低い声で言った。あたたかくて優しい言葉に安堵したせいか、気が付けばロッテは大粒の涙を溢して泣きだしていた。破れたブラウスの胸元を掻き集め、ロッテはこくこくと頷いた。
「……そう、間に合って良かった」
青年の整った顔に穏やかな微笑みが浮かぶ。
いつの間にか、あたりには黄金色の陽の光が雨のように降り注いでいた。まばゆい光を背にマントをたなびかせる青年は、まるで歴史書に描かれていたフィオラントの英雄王のようで、ロッテはただただ呆然と青年を見上げることしか出来なかった。
「魔獣は鼻が利く。ここに留まるのは危険だ。森の外まで送るから、歩けるようならすぐにでも出発しよう」
素早く周囲を見渡してそう言うと、青年は立ち竦むロッテの手を取った。突然の出来事に、心臓がとくんと大きく胸を打つ。躊躇いがちに青年の手を握り返したロッテの頬は、ほんのりと熱をもっていた。
ファナの森と名付けられたその森には獰猛な魔獣が棲んでいて、その昔、近隣の村人は魔獣の襲撃に怯えて暮らしていたけれど、昨今では魔獣の襲撃による被害は殆どないと言われている。その理由はふたつ。
ひとつは、八年前の王国騎士団による大規模な魔獣討伐で魔獣の数が激減したから。もうひとつは、ファナの森に住む偉大な魔女が魔獣が森の外に出ないよう常に結界を張っているからだ。
結界により森の外に出られなくなった魔獣は、陽の当たらない森の奥を日夜徘徊する。そんな危険な森の奥に足を踏み入れるなんて大馬鹿者のすることで、賢い人間は森には足を踏み入れない。だから、万が一この森で魔獣に襲われたとしても、助けが来ることなんてあり得ない。
そう、あり得ないのだ。
***
「いやぁぁああああ!」
甲高い悲鳴をあげながら、少女が樹々のあいだを駆けていく。道を覆う木の葉や枯れ枝を蹴り散らかして、地面を這う木の根を飛び越えて、彼女は無我夢中で逃げ惑う。
少女の名前はロッテ。ファナの森の魔女リーゼロッテを師と仰ぐ魔女見習いだ。
当然のことながら、この森で暮らす彼女は森に巣食う危険な魔獣のことも知っている。毎日の日課である薬草の採取だって、普段なら魔女の結界に守られた近場の森でしか行わない。けれども今日は、調薬に使う薬草が少しだけ足りなくて、すぐに戻るつもりで結界の外に出てしまった。森の中が思っていたよりもずっと穏やかだったから、ちょっとした出来心でほんの少し森の奥まで足を延ばしてしまったのだ。
それが、ロッテの命運を分けてしまった。
落ち葉に覆われた路が茂みのあいだに見え隠れしている。服や手脚が木の枝で傷付けられることにも構わずに、ロッテはがむしゃらに細道を駆けた。
右手に提げていた編みかごが茂みから突き出した木の枝に引っかかり、後方に腕が引かれる。手から離れた編みかごが、摘みたての草花を撒き散らして地面に転がった。ロッテが慌てて振り返ると、同時にがさりと音がして、茂みの奥から大きな影が現れた。
道に散らばった摘みたての草花が、獣の蹄にぐしゃりと踏みにじられる。ふごふごと鼻息荒く現れたのは、人のかたちに似ているものの、およそ人とは思えない醜い姿の魔獣だった。
「ひぃっ!」
短い悲鳴をあげて、ロッテが咄嗟に後ずさる。その拍子に、ひとつに結わえた薔薇色の髪が木の枝に絡まって、蝶を捕らえる蜘蛛の巣のようにロッテを茂みに縫い付けた。暗闇から這い出た幾つもの黒い影が、ロッテの琥珀色の瞳に映り込む。瞬く間にロッテは獣たちに囲まれてしまった。
目の前に群がる魔獣は豚か猪に似た頭をしており、背骨が緩やかな弧を描いた不恰好な姿勢で立っていた。露出した上半身は人間の男のものに似ていて、丸まった背中と同様に腹肉がぽっこりと突き出ている。下半身は硬い毛で覆われており、歪んだ二本の脚は豚や猪のものと酷似していた。布一枚身に付けてもいないくせに道具を使う知能はあるらしく、手には鉈のような得物を握っている。
身動きひとつ取れないロッテを見ると、魔獣はにたりと笑い、長い舌で舌舐めずりをした。手にしていた得物を投げ捨てて、のしのしとロッテに歩み寄り、眼を細めて不気味にうすら笑う。舐め回すように身体を視線で犯されて、ロッテは恐怖に身を震わせた。
そういえば昔、師であるリーゼロッテが言っていた。
ファナの森の魔獣には雌が存在しない。彼らは繁殖期になると人間の女を村から攫い、子種を植え付けて自分の子を産ませることで種を存続させるからだ。
けれども魔女が張った結界により、彼らは森を出られなくなった。雌と交わることが出来なくなり、繁殖が困難になったことで、彼らは以前にも増して人間の女に飢えている。それ故に、決して女は森に立ち入ってはならないのだと。
たったひとりで森に足を踏み入れたロッテは、飢えた魔獣たちの格好の餌食だった。熟しきらない少女が放つほのかな雌の匂いに、獣たちはこれ以上ないほどに興奮していた。
先頭に立っていた魔獣が毛むくじゃらの腕を怯えるロッテの首筋へと伸ばす。先のひび割れた爪が襟元に引っ掛けられて、ベストとブラウスが胸元までひと息に引き裂かれた。白い肌が晒されて、小ぶりな乳房が露わになる。ロッテは顔を蒼褪めて、髪を振り乱して泣き叫んだ。
「いやっ! いやああああ!」
枝に絡まった髪がぶちぶちと音をたてて千切れ、ロッテはようやく茂みから解放された。けれども今さら遅すぎた。すでに魔獣はロッテの目と鼻の先で爛々と目を光らせており、裂けた口から粘着質な涎をだらだらと溢れさせている。鼻息はさらに荒く、おそるおそる下へと目を向けると、反り返った赤黒い怒張の先で透明な液体がぬらぬらと輝いていた。
これから獣たちはグロテスクなそれでロッテの身体を貫いて、胎内に子種を植え付けるつもりなのだろう。何度も何度も、その欲望が枯れ果てるまで。
「助けて……」
唇から掠れた声が零れ落ちる。あふれ出る涙で視界が歪み、ロッテは祈るように空を仰いだ。けれど、見上げた空はロッテを見下ろす魔獣の影に黒く塗り潰されてしまっていた。
これほどまでに、絶望という言葉に適した状況があるだろうか。
ロッテの眦に涙が浮かぶ。蒼白になった頬を雫がひと粒流れ落ちた。
奇跡が起きたのは、そのときだった。
周囲を取り囲んでいた獣が奇怪な声をあげ、荒々しく土を踏み鳴らしはじめる。その刹那、耳を覆いたくなるような不気味な悲鳴が次々にあがり、ロッテの視界を覆っていた魔獣の影が真っ二つに切り裂かれた。
一瞬の出来事だった。まばたきのあとロッテの目に映ったのは、地に倒れ伏した魔獣の死体と激昂する魔獣たち。そして、真っ白なマントをたなびかせて剣を振るう逞しい青年の姿だった。
乙女のピンチに駆け付けるヒーローのことを王子様に例えることがあるけれど、ロッテの目には魔獣と戦う青年の姿が例え話の王子様のように見えた。少し乱れた彼の髪は明るい胡桃色で、端整な顔には涼しげな橄欖石の瞳が鋭く光る。鍛えられた長身に纏った上等な衣服はフィオラントの騎士装束によく似ており、胸元に飾られた紋章には片翼の鷹が描かれていた。
「片翼の……鷹……?」
呟いて、ロッテは目を瞬かせた。恐怖に怯えて凍り付いていた思考が、ようやくまともに動きはじめる。
片翼の鷹はフィオラント王家を象徴するもので、それを掲げることが許されるのは、騎士をはじめとする王家に仕えし選ばれた者か、王家の人間しかありえない。
状況から考えれば、青年は魔獣討伐の任務を受けた騎士と考えるのが妥当だろう。実際に、ロッテも八年前の大規模な魔獣討伐の際、フィオラントの騎士に助けられた。
——そういえば。
魔獣と渡り合う青年の姿を目で追いながら、ロッテは遠い昔を思い出していた。
襲い来る魔獣に向けて剣を振るうこの青年は、あのときの——八年前、魔獣に襲われていたロッテを助けてくれた騎士とよく似ていた。
当時のロッテはまだ幼くて、おまけに恐怖ですぐに気を失ってしまったから顔こそ覚えていないけれど、あのときの騎士の軽々とした身のこなしと鮮やかな剣さばきだけは、今でもはっきりと覚えている。
あのときもロッテは今と同様に、顔も知らないその騎士を王子様みたいだと思ったものだ。そして、幼くて夢見がちだったロッテは、その騎士に初めての恋をした。
ぐしゃりと泥を撒き散らし、魔獣の身体が地に沈む。がさがさと騒がしい音をたてながら、黒い影が散り散りに森の奥へと姿を消した。周囲に魔獣の影がなくなったのを確認すると、青年は長い剣を一振りして獣の血をふるい落とし、剣身を鞘に収めた。一息ついて顔をあげ、立ち竦むロッテを振り返る。
「お怪我はありませんか?」
橄欖石の瞳をまっすぐにロッテに向けて、青年は落ち着いた低い声で言った。あたたかくて優しい言葉に安堵したせいか、気が付けばロッテは大粒の涙を溢して泣きだしていた。破れたブラウスの胸元を掻き集め、ロッテはこくこくと頷いた。
「……そう、間に合って良かった」
青年の整った顔に穏やかな微笑みが浮かぶ。
いつの間にか、あたりには黄金色の陽の光が雨のように降り注いでいた。まばゆい光を背にマントをたなびかせる青年は、まるで歴史書に描かれていたフィオラントの英雄王のようで、ロッテはただただ呆然と青年を見上げることしか出来なかった。
「魔獣は鼻が利く。ここに留まるのは危険だ。森の外まで送るから、歩けるようならすぐにでも出発しよう」
素早く周囲を見渡してそう言うと、青年は立ち竦むロッテの手を取った。突然の出来事に、心臓がとくんと大きく胸を打つ。躊躇いがちに青年の手を握り返したロッテの頬は、ほんのりと熱をもっていた。
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