来世に期待します~出涸らし令嬢と呼ばれた私が悪い魔法使いに名を与えられ溺愛されるまで~

景華

文字の大きさ
19 / 67
第一章

Sideオズ

しおりを挟む

「寝たか……」
 俺の腕の中で泣きつかれてすやすやと眠り始めたあどけない寝顔を見て、ふぅ、と息をつく。
 こういうのは慣れてないんだ。

 約二週間前、森で寝る前の散歩をしていると、一人の女性を見つけた。
 白銀の長い髪。
 雪のように白い肌。
 そして赤い瞳。
 ゼイオンとクレンシスがいつも話していた女性だと、すぐにわかった。

 いつもいつも俺のところに来ては、その女性の話をしていたからな。
 料理が絶品だということも。
 いつも理不尽に怒鳴られていることも。
 よくぶたれていることも。

 彼らは人とは違う。
 姿かたちも違えば考え方もまた違うし、何より人の醜さを長い間見てきた彼らは、俺以上にあまり人を好まない。

 そんな彼らが、彼女のことだけはいつも気にかけていた。
 だからこそ、俺も気になってしまったんだ。
 赤い瞳は魔力が高い証。
 俺や以外にそんな人間がいるということが、嬉しかったのもあるんだと思う。

 実際に会った彼女は、俺を見るなりにこう言った。

“あなたが……悪い魔法使いさん、ですか?”

 思わず思考が停止した。
 それは俺が、俺に近寄らせないように流した噂だからだ。
 近寄らせないように流したというのに、逆に噂を知っていながら俺を探す人間がいるとか思わないだろう!?
 よっぽどの変人か、あるいは妙な正義感で悪い魔法使いを倒しに来た阿保か、それとも好奇心に駆られてきてしまった残念な奴か。

 だが彼女はどれも違った。

 俺に用事があるから探していたと言われて話を聞こうと屋敷に連れて帰ったが、抱き上げた彼女の身体は細く軽く、到底健康そうには見えなかった。
 誰かを抱きかかえたことなんてないから、どれが正解かなんてわからないが。
 抱き上げられて涙目で顔を赤くして見上げる彼女に、少しばかり動揺したのは俺の心の内に留めておこうと思う。

 至近距離で見た彼女の顔。
 目の下にうっすらとクマができていることに気づいた俺は、屋敷に戻ってすぐ、就寝前に飲む用に作っていた魔法薬茶を彼女に出した。

 寝る前に森を散歩してから体力を使ってこの茶を飲んで眠ると、悪夢に起きたとしても身体をすっきりとした状態で、短い時間でもしっかり眠ることができる。

 そうして聞いた彼女の話は、俺が想像していたよりもずっと濃く、重かった。
 ゼイオン達から話は聞いていたが、彼女の扱いは娘や妹への扱いではない。
 メイド、いや、奴隷のような扱いだ。

 聖女だという彼女の姉のことは知っている。
 王太子がよく自慢していたからな。
 未だ聖女の力を使えたことはないが、とても美しく可憐な女性なのだと。
 
 身体を弱くして生まれたが、いつか自分は聖女と結婚した史上最も幸福な王として君臨するだろうとか馬鹿なことを言っていたが、あれは見かけに騙されて肝心なものが見えていないんだろうな。
 悪気のない悪意ほど質の悪いものはない。

 彼女は自分を出涸らしだと言った。
 名前を呼ばれなくなって、いったいどのくらいの年月が経っていたのか……。
 とっさに俺が『セシリア』とつけていた。

『セシリア』。
 薬草の中で最も美しく、聖なる薬草と呼ばれる幻の薬草。
 なぜか、彼女にぴったりだと思ったんだ。
 弱弱しくて、今にも消えそうなほど自身なさげですぐに謝る。
 だけど芯の強さと心の美しさは、隠せるようなものではなかった。

 それから約二週間、彼女の前世の知識というものに助けられて、町の季節病も少しずつ落ち着き始めた。
 今回は少し疲れていたのもあり、病が移って俺も倒れてしまったが……。

 それもこれもあのバカ王女のせいだな。
 やっぱり王都なんかに行くもんじゃない。
 俺のこの赤い瞳に畏怖しながらも、その地位と容姿に群がってくる女性の筆頭──ルビィ・フォン・アーレンシュタイン。

 濃い化粧に、もつれないか心配になる程のぐるぐる巻いた髪。
 甲高い声に傲慢な態度。
 兄である王太子は気弱で温厚だが、そんな彼らが甘やかしたからこそ出来上がったモンスター王女。

 まぁ、聖女と言われているセシリアの姉があぁなるのも時間の問題だろうな。
 優しいふりをした悪意の塊である分、こちらの方が質が悪いが……。
 今はまだちらほらと患者がいるぐらいだが、王都の病のピークはこれからになるだろう。
 今年の病は少しばかり治りが遅く広がりやすい。
 その時王家がどう出るか……はぁ、頭が痛い。

「……とりあえず、これをどうすべきか」
 俺は腕の中ですやすやと眠る女性を見る。

 俺のために危険な水中エリアにまで入って薬草を採り、薬茶を作ってくれたセシリア。
 彼女の魔力が、まさか聖女の力だったなんてな……。
 図らずも、その名がぴったりと合う人間だったということか。

 俺の両親のこと、俺の罪を話すことができたというのは、俺が彼女を信用しているということなのか……自分でも驚いた。
 そして『悪い魔法使い』の噂の意図と意味に気づいても尚、彼女は俺を『良い魔法使い』だと言う。

 彼女に現実を突きつけたというのに、泣きながらも、こんなにも無防備に俺に縋り付く。
 まったく、予測不可能だな、この女性は。
 これはあれか。刷り込みか?
 名を与えたから俺を母のように思うとかそういう……?
 ……考えるのはやめよう。

「まったく……本当に、無防備なものだな」
 出会った時に抱き上げた時よりもいくらか柔らかくなった感触に安心を覚えながらも、妙に顔に熱が集まる。

 まさか……下、着てないのか!?
 っ、そうか、水中エリアで!?
 大方ドレスだけ脱いで入って、薬草を取って出てきた後にでも下着を脱いでまたドレスだけ着たんだろうがそれはダメだ!!

 女性は身体を冷やすべきではないと母上が言っていたし、何よりそんな姿で男の部屋に来るとか何考えてるんだ!?

 と、とりあえず離さねば……!!
「!?」
 離れない!?
 何だこれは……!!
 すごい力で俺の服にしがみついてて離れない!!

「くそっ、なんて力だ……!! まる子!! カンタロウ!!」
 たまらずにまる子とカンタロウを呼べば、「はいよー」と軽い返事をしながら現れた二匹。
 俺もこの二匹のこの呼び名にすっかり慣れてしまった。

「これをなんとかしてくれ……!!」
 なんて力してるんだ。
 これが長年の家事で鍛えた力だというのか……!!

「あらぁ……。もうラブラブって感じ?」
「オズ、がっついたら嫌われるよ」
「何もしてない!! そんな関係じゃない!! 早く何とかしろ!!」

 ニマニマとした笑みを浮かべてこっちを見るな。
 俺は何もしていない。

「もー、意気地なしね」
「そんなだから彼女できないんだよ」
「お前ら……」

 余計なお世話だ。
 そもそもそんなものいらないし、この家を継ぐ者がいないなら養子でもとって継がせればいいとも思っている。
 それに、俺の見た目にしか興味のない女性に来られても逆に迷惑だ。

「仕方ないなぁ」
 言いながら二匹は人型に変身すると、二人がかりでセシリアを離しにかかる。が──。

「……しっかり張り付いてるわね」
「離れたくないっていう確固たる意志を感じるよ。これはダメだね」
 諦めた!?

「とりあえず布団に入れたげて。風邪ひくから。じゃ、私たちはこれで」
「ごゆっくりー」
「は!? ちょ、お、おい!!」

 信じられん……。
 この状態を投げて出ていってしまった。

 とりあえず彼女まで身体を壊してもいけない。
 俺は彼女をそのまま布団に引き入れると、抱き込んだ状態でベッドに一緒に転げた。

「……」

 これは仕方ないんだ。
 別にやましい気持ちはない。
 彼女の手が緩んだら、すぐに離れて俺はソファに移動しよう。

 そう必死に意識を保っていた俺だが、セシリアが作った薬茶のおかげか何なのか、押し寄せてきた眠気には勝てず、そのまま眠りに落ちてしまうのだった。


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される

守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」  貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。  そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。  厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。  これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 アルファポリス様で10話以上に肉付けしたものを読みたいとのリクエストいただき大変嬉しかったので調子に乗ってやってみました。 小説家になろう様でも投稿しています。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

家族から冷遇されていた過去を持つ家政ギルドの令嬢は、旦那様に人のぬくもりを教えたい~自分に自信のない旦那様は、とても素敵な男性でした~

チカフジ ユキ
恋愛
叔父から使用人のように扱われ、冷遇されていた子爵令嬢シルヴィアは、十五歳の頃家政ギルドのギルド長オリヴィアに助けられる。 そして家政ギルドで様々な事を教えてもらい、二年半で大きく成長した。 ある日、オリヴィアから破格の料金が提示してある依頼書を渡される。 なにやら裏がありそうな値段設定だったが、半年後の成人を迎えるまでにできるだけお金をためたかったシルヴィアは、その依頼を受けることに。 やってきた屋敷は気持ちが憂鬱になるような雰囲気の、古い建物。 シルヴィアが扉をノックすると、出てきたのは長い前髪で目が隠れた、横にも縦にも大きい貴族男性。 彼は肩や背を丸め全身で自分に自信が無いと語っている、引きこもり男性だった。 その姿をみて、自信がなくいつ叱られるかビクビクしていた過去を思い出したシルヴィアは、自分自身と重ねてしまった。 家政ギルドのギルド員として、余計なことは詮索しない、そう思っても気になってしまう。 そんなある日、ある人物から叱責され、酷く傷ついていた雇い主の旦那様に、シルヴィアは言った。 わたしはあなたの側にいます、と。 このお話はお互いの強さや弱さを知りながら、ちょっとずつ立ち直っていく旦那様と、シルヴィアの恋の話。 *** *** ※この話には第五章に少しだけ「ざまぁ」展開が入りますが、味付け程度です。 ※設定などいろいろとご都合主義です。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...