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第三章
医師不在の王立病院
しおりを挟む王都にある王立病院は、国内最大規模の病院だ。
そんな大きな病院に入りきらないほどの人が押しかけ、入り口は大混雑。
入りきらずに外にまで長蛇の列ができている状態だった。
「セシリア、行くぞ」
「はい!!」
馬車から降りて近づくと、次々と罵声が飛び交っていた。
「医者を出せぇー!!」
「こっちは赤ん坊がいるのよ!! 早く診てちょうだい!!」
「年寄りだっているんだ!! 医者はまだか!?」
怒号飛び交う中、ロビーの至る所で倒れ込んでいる人もいる。
地獄絵図、というやつだろうか。
それにしてもひどい状況だ。
「オズ様、まる子、カンタロウ、マスクを」
「あぁ」
私たちまで倒れては元も子もない。
持ってきた布を口元に巻きマスクにすると、私たちは人込みをかき分け奥へと入っていった。
「おい何があった。話せ」
近くで叫んでいる男を捕まえて話を聞こうとするオズ様。
「うるせぇな!! 今取り込みちゅ──っ!? 赤い目……!! じゅ、ジュローデル公爵様!?」
男はオズ様の赤い目を見た途端にひゅぅっと息を吸いこみ、後ずさる。
やっぱり有名なんだ、オズ様って。
それが良い意味でか悪い意味でかは分からないけれど。
「何があった? 医師はどうした?」
「そ、それが……全員、貴族街に出払っていて、誰も平民を見る人間がいないんです。力のない赤ん坊一人、助けちゃくれない……!!」
うなだれる男の腕には、まだ生まれて幾日かの赤ん坊。
顔を赤くして息も苦しそう……。
早く何とかしてあげないと。
「オズ様」
私がオズ様を見上げると、オズ様も同じことを考えていたように深くうなずいてくれた。
私はそれにこたえるように頷き返すと、男に向いて口を開いた。
「おじ様、その子、少し失礼しますね」
「は? え、おい、何を──」
私は戸惑う男性の腕の中で苦しむ赤ん坊に手をかざすと、光魔法をゆっくりと送り込む。
手の平からあふれ出した光が静かに赤ん坊に吸い込まれていくうちに、荒かった息は落ち着き始め、真っ赤だった顔は元の肌の色へと戻っていった。
「はい。これでもう大丈夫ですよ」
「へ? あ……熱くない……? 熱が……熱が引いてる!? そんな……え……!? あ、あなたはいったい……」
「と……通りすがりの悪い魔法使いの助手です!!」
「おい……」
とっさに出た返しがこれって、我ながらコミュ力が低すぎる。
だけど間違いではないのだからまぁいいだろう。
オズ様は呆れているけれど。
「さ、さぁオズ様!! 次々やっちゃいましょう!!」
「あ、あぁ。そうだな」
オズ様は頷くと、近くにあった椅子の上に立ち、大衆に向かって声を上げた。
「ジュローデル公爵家のオズ・ジュローデルだ!! ここの患者たちは引き受ける!! これから指示を出す!! 落ち着いて指示に従ってくれ!!」
オズ様の言葉に、さっきまで怒鳴り散らしていた人たちが口を閉ざす。
彼の赤い目を見て、彼が王家に連なるジュローデル公爵家の人間だということをすぐに理解したのだろう。
誰も反論する様子はない。
「まず、動けぬほどの重病人はその場で座って待つように!! 風邪症状の軽度の者は第一治療室前のロビーへ!! 回復効果のある薬茶を配る!!」
オズ様が大声で指示を出すと、皆首を傾げ不安そうにしながらも、大人しくそれに従い始める。
さっきの子どもを治した様子を見ていたのと、オズ様の権力のおかげだろう。
「まる子はセシリアについてやってくれ。カンタロウはこっちで薬茶の準備を手伝ってくれ」
「わかったよ」
「まかせて」
頷く二匹を見てからオズ様に視線を移すと、私たちは深くうなずきあった。
「無茶はするなよ」
「はい!! オズ様も!!」
そして力強く微笑みあうと、私たちは背を向け、それぞれのやるべきことをするため動き始めた。
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