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第三章

オズ様のよしよしは最強です

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 一度にたくさんの人に力を向けるというのは、まだ私には難しい。
 だいたい十人程度が限界だ。

 まる子が十人ほどのグループにまとめると、私は1グループずつ丁寧に魔力を流し込んでいく。
 もう何グループ見ただろうか。
 かなりの人数を見たけれど、一向に波は収まらない。
 思ったより重病患者が多いみたいだ。

「セシリア、頑張って。あと少しだよ。もう病院の外には誰もいない」
「!!」

 外にまであふれかえっていた患者はもういない。
 ということは、ここにあふれかえった人だけ?
 着実に終わりが見えてる……!!

「まる子、ありがとう!! あと少し、頑張るね!!」
「うん。早く終わらせてオズによしよししてもらいたいもんね!!」
「は!?」

 なんでオズ様!?
 よしよしって……!!
 それを想像した刹那、私の身体から一気に漏れ出る光の粒子。

 ロビー全体に降り注いだそれは、苦しむ人々の頭上へとシャワーのように降り注ぎ、吸い込まれていった。
 するとロビーに飾られたドライフラワーが色を取り戻し、苦しんでいた人々の顔色も良くなってくるというミラクルな光景に、私は頭を抱えた。

「オズによしよしされる想像だけでこれって、すごいよね」
「うぅ……」

 恥ずかしい……!!
 でもオズ様に頭を撫でられるのは好きなんだから仕方がないじゃないか。

「よしよしだけでこれなら、この場にオズがいて抱きしめられでもしたら、この国中に魔法が届くくらい放出されちゃうんじゃない?」
「もうやめてぇぇええええ」

 私の想像力を刺激しないでほしい。
 本当に。

 顔を厚くしながらまる子と話をしていると、さっきまでぐったりと寝ていた者たちがゆっくり起き上がり始めた。

「苦しくない……!! 治ってる……!?」
「熱くないわ……身体が、すっきりしてる……!!」
「聖女様だ!! 聖女様が治してくれた!!」

 口々に飛び出す驚きの声と聖女という言葉。

 出る、わよね、そりゃ。
 でも、否定も肯定も私はしない。
 ただ──。

「ローゼリア様だ!!」
「聖女ローゼリア様!!」
「あれ、でもこの顔……!! ローゼリア様の妹の……出涸らし姫!?」
「出涸らし令嬢か!! だが、こんなに綺麗な人だったか……?」

 違う。
これだけは否定させて。

 私は出涸らしでも、ローゼリアでもない──!!

 否定しようと顔を上げた瞬間、私の肩に大きな手がそっとかけられた。

「勘違いしてもらっては困る。彼女はローゼリアなどではない。出涸らしなんてものでもない。彼女はセシリア。ただの、セシリアだ」
「!! オズ……様……」

 見上げれば眉間にしわを寄せ、彼らをまっすぐに見るオズ様。
 にじみ出るのは憤怒と嫌悪。

「ローゼリアの妹の顔を知っているということは、彼女が一人出涸らしと呼ばれ小間使いにされているのを知っていたということか? 君たちは知っていて何をした? ただ出涸らしなどと呼び、噂話に花を咲かせ、自分たちに何をするでもなく日々夜会にふけっているローゼリアを崇めた。だが、現実はどうだ? 君たちを助けたのは、聖女とあがめられたローゼリアではない。蔑まれ嘲笑の的にされた、セシリアだろう」

 ピリピリと流れてくる魔力の波動。
 オズ様が、怒ってる?
 私の……ために……?
 …………あったかい……。

 私がそっとオズ様の手に触れると、そのぴりついた波動はゆっくりと静まっていく。
「セシリア?」
「ありがとうございます、オズ様」

 そう言ってほほ笑むと、さっきまで硬く憎悪をにじませていた表情が少しだけ和らいだ。

「……あぁ。……帰るぞ。ジュローデル公爵領へ」

 私にそう言うと、今度は病院の受付の女性に視線を向けた。

「薬茶の残りはここに置いていく。あとは自分たちでなんとかするんだな」

 そう言うと、私の手をきつく握りしめ、私はオズ様に手を惹かれるがまま、病院を後にした。





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