令和日本では五十代、異世界では十代、この二つの人生を生きていきます。

越路遼介

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第二十四話 トシ、我が子と対面する

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東大陸西端の港町を出発して二日目。スキル『地図』で自分の位置を確認すると、大陸間の海路、半分以上は来られたようだ。
今日の飛行を止めて、収納魔法から船を出して海に浮かべた。その後は夕食の支度、お手製のハンバーグとご飯とサラダ。
幸いに東大陸に稲作文化はあった。米は家畜の餌にされていたので大量に買ったよ。

『やはり時速五十キロ程度では三日ぐらいかかるのう』
「そうだな。最初は大海原のうえを飛ぶなんて素晴らしいと思っていたけれど三十分で飽きたし」
俺の飛行魔法は平均速度五十キロほどだ。これでも早い方らしい。特撮ヒーローみたいにマッハで飛べればいいんだけど空気抵抗で体が爆散するし。

「ん」
『また来おったか』
海棲モンスターが海中から襲い掛かってきたが俺が魔法で構築した結界に阻まれて船体に手出しできない。
甲板に出ると
「すげぇ、ジョーズじゃないか」
巨大な鮫がむきになって結界が張ってある船に頭突きを繰り返している。
≪ああ、テリトリーに入って済まない。話し合いを≫
≪……?≫
一瞬、動きが停まった。何というか『ギョッ』として俺を見た。魚類だけに。
ん、鮫って哺乳類だっけ?いや魚類のはずだ。まあ、どのみち魔物化した鮫だからどちらでもないけれど、結局ジョーズは結界に対して頭突きを続けている。
「だめか。これまで出くわした海棲モンスターとは全部交渉決裂、沈没船の財宝とかの情報を持っているかもと思っていたんだけど」
取引材料として収納魔法内には魔物の亡骸が何体もある。食料を出す代わりにと思っていたんだが
『とりあえず仕留めて収納魔法内に入れておけ。南大陸は暑い国が多いし、内陸ともなれば鮫の肉はご馳走じゃろ』
「そうだな。ごめんな、ジョーズ」

ピシャーン!

雷を落としたらジョーズはプカプカと浮いた。収納魔法に入れておいた。これで巨大蟹二体、大王イカ二体、ジョーズ一体か。案外ひと財産になるかも。


「さて、寝るかな」
明日も一日中空を飛ばなければならない。休息大事だ。
幸い、その後に海棲モンスターは襲ってこず、ぐっすり眠ることが出来た。

翌朝、朝日を眺めつつ歯を磨いている俺。
「いい天気だな…」
梨穂を失い、自ら命を絶ってセイラシアに送還されて、そろそろ一年だ。
それから多くの人命を助けて、そして多くの女性と睦みあってきた。そのおかげか梨穂を失った悲しみから、ようやく立ち直りつつあるよ。
「立ち直りつつあるけれど、俺は君のことはずっと忘れないよ」
そろそろ朝食の準備をするか。

びゅうううん

飛行魔法で南大陸を目指す。この大陸でも色んな出会いがあるだろう。
ちなみに途中にあった島にも立ち寄ったけれど、すべてが無人島だった。これ幸いに薬草や果樹を採取して飛行魔法での旅を続ける。船でもう一泊して、翌日ついに南大陸の陸影が見えてきた。

「シゲさん、南大陸だ。地図スキルによると、こちらから見て右方向に大きな町があるな」
『おそらくサウスレッド王国じゃろう。魔王軍が攻め込んで、だいぶ破壊してしまったが今はどうなっておるか』
「復興が進んでいるといいな」
今までいた東大陸は魔王軍の侵攻はなかったけれど南大陸は侵攻を受けている。
復興作業に人手が必要なら、俺も加わりたいものだ。

俺はサウスレッド王国近くに降り立ち、背中に『ハイゼル教信徒諸国漫遊中』の幟を立てて徒歩で王国の城門へと向かった。城門の入国審査の列に並んでみると、チラホラと同じ幟を立てている者がいる。ハイゼル教は南大陸でも一般的な宗教なんだな。まぁ、セイラシア最大宗教と聞くし。
『トシ、ここでは設定を変えた方がいい』
「確かに大陸間の移動が出来ない世界で東大陸の者がいるのは変だよな。どうする?」
『南大陸南端の国、ディアラバ王国出身ということにしておけ。あそこは真っ先に魔王軍が襲った国だから、こちらに流れてきても不思議じゃない』
「分かった」

それにしても、総大将として攻撃した国に訪れるというのは、どんな気分なのかな。
『本当に南大陸の者たちにはすまないことをした。儂に呪詛を言いながら死んだ者も多かろう』
「…シゲさん」
『困っている者がいたら助けてやってほしい』
「分かったよ」
かつての殺戮の魔王も昭和日本に転生して家族と奥さんの愛により慈悲の心が芽生え、いい爺さんになっていた。前世でやった愚行を悔いているのだな。

「僧都…!その若さで!?」
「はい、律師を世襲で受けたあと教会への貢献と徳行が認められて僧都へと」
門番が驚くのも無理はない。僧都は本来三十歳以上の優れた信徒が就くことが出来る僧階。今の俺は十七歳なのだから。偽装のしようもない信徒カードのため疑いようもないのだが。
「いや、若いのに大したものだ。この国には?」
「母国のディアラバ王国から諸国漫遊の旅に。しばらくこの城下町を拠点にして路銀を稼ごうと思います。冒険者でもありますから」
信徒カードの画面をスライドさせてギルドカードを見せた。
「ほう、銅級か。その若さで大したものだ。通っていいよ」
「ありがとうございます」

城門をくぐると
「おおおお…」
『おお…』
町中が復興作業に取り掛かっていた。町の所々からハンマーを叩く音や大工たちの声が。
「活気があるなぁ。これならギルドに行けば土木の仕事が山盛りあるんじゃないか」
さっそく俺は喜び勇んで冒険者ギルドへと駆けたのだった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

それから半年が経った。
俺はこの町の復興のため土木工事に精を出している。ハイゼル教の神殿には来訪の証と寄進を済ませた初日以降は行っていない。東大陸と異なり、それほど僧都トシ、もしくはレッドクロスの名前は伝わっておらず、子種を求められなかったのだ。何か残念。
何より、東大陸の信徒が南大陸にいるというのは無理があるからな。

それはそうと、この町は復興で賑わい土木職人が多いので当然夜の街も活発だ。
毎夜、職人仲間と飲んで笑い、一夜の花を抱く。
他の異世界転生作品の主人公のように、冒険者ギルドで魔物と戦うクエストを受けて仲間たちと共に立ち向かい冒険者としてランクを上げていく、という王道ストーリーからずいぶん逸れているが断然いい。危険を冒さない者と書いても冒険者ではないか。俺はこの国に来て以来、武器を抜かず、ずっと土木の仕事しかしていない。ああ、労働の喜び、ここにあり。

スキルの『製図』も活躍中だ。消防の火災調査で必須の焼損物件の図面作成、事務方は苦手でも図面だけは得意だったせいか異世界でまさかの特技化。
セイラシア、かつサウスレッドの建築文化に合わせて建物の図面を引いたところ冒険者ギルドで大いに喜ばれてまさかの採用、ボーナスも出たよ。というか、ここの冒険者ギルドは実質土木ギルドになっているけどな。


その土木ギルドが用意してくれた定宿に帰り、ベッドで横になる。
「そろそろ、ブルムフルト王国のシスターたちが出産するころだよな…。いや、もう生んだか」
彼女たちを皮切りに、東大陸で俺が立ち寄った町や村では出産ラッシュとなるだろう。
でも見損なうなよ。全員に当面の生活費は渡してあるし、名前も顔も全部覚えている。
出産にも立ち合わない。令和日本なら外道扱いだろうが、セイラシアの女性たちは地球の女性より恵まれた体に進化している。出産のリスクゼロ。悪阻もなければ出産に伴う苦痛もなく、あっさりポンと生んでしまう。出産死の可能性もゼロなのだから夫が立ち合う必要などありはしない。所変わればというが…。

セイラシアは『やり逃げ』が不道徳どころか大絶賛される世ではあるけれど、それに胡坐はかかないのだ。何て言ったって、つい最近まで素人童貞の俺、女の方から抱いてくれと言われる展開には、まだ正直慣れていない。慣れてはいけないとも思うし。

魔力や闘気を豊富に持つ男は、一日に何人もの女性と性行為が出来る。しかも生まれる子は夭折しない頑丈な子供。
セイラシアの女性たちは出産にリスクがないためか、子供を欲しがる本能が地球より強い。しかも子供を生める体のうちに何人も欲しいと望む。だから当然性欲も強い。健康で障害がない子が生まれることを保証されている子種は欲しがられて当然のことで、だから俺みたいな男は自然と一つの家庭に収まるより、複数の女性と交わり子種を仕込むという生き方になってしまう。その結果、多くの子供が生まれても父親になることは出来ないという、何ともちぐはぐな在り様だけど、それがセイラシアでは当たり前なのだ。
『生まれた子が見たいのなら、一度ブルムフルト王国に転移してはどうか』
「そうしよう。やはり我が子は見てみたいから」


翌朝、俺は転移で久しぶりに最初の拠点であるブルムフルト王国王都へとやってきた。
真っすぐに神殿に向かうと
「僧都様、ようこそ神殿へ」
シスターアンナが出迎えてくれた。
「元気そうだね。安心したよ」
「はい」
最初に訪れた時と同じように守護神ハイゼルの神像がある本殿へと歩く。
「子供は無事に…」
「はい、私を含め、元気な赤ちゃんが生まれましたよ」
「そ、そうか…。よかった…」
「見ていきますか?」
「ぜひ」


「本日は王都に泊っていくのですか?」
「ああ、自宅でのんびりしようかと思っているから」
俺の自宅は、ここブルムフルト王国王都にあり、市民権も得ている。いわば本籍地だ。
「でしたら今宵、よろしいですか?」
「それは君を含めたシスター四人と?」
「はい、我が子に弟か妹を」
「かまわないが、前のような作業みたいな性行為はいやだな。君にしたように一人一人ベッドで堪能したいと伝えてほしい」
「はい、そのように伝えます」

守護神ハイゼルへの祈りと旅の報告を終えると俺は赤子が眠っている部屋に案内された。
四人ともスウスウと眠っている。複数のシスターが面倒を見ているようだ。
「男の子二人、女の子二人です。全員障害等もなく男の子は闘気を宿し、女の子は魔力を有しています。さすが僧都様の種です」
「本当に頑丈な子が生まれるのか…」
「はい、乳母の乳もたくさん飲みますよ」
シゲさんから豊富な魔力と闘気を有する俺の子種は強く、障害もなく夭折もしない頑丈な子供が生まれると聞かされたことを改めて思い出す。父親の闘気と魔力を継承することもあり得ると。話半分と思っていたけれど俺の『鑑定』で見ても、全く健康的に申し分なく、アンナの言う通り、生まれて間もないと言うのに男の子は闘気、女の子は魔力を有していたよ。
「この四人はハイゼル教の御子として私たちが大切に育てます。では僧都様、浴室へと」
「俺は大丈夫だけど、君たちの方は心の準備とか大丈夫か。これからいきなり性行為なんて」
「もちろんです。神聖なる儀式ですから」
俺との行為を神聖なる儀式とな…。これは頑張らないといけませんね。


入浴後、俺は神殿の寄宿舎内に用意された寝室へと。シスターが来るのを待った。
最初に来たのはシスターアマンダ、アンナの上司だ。

「以前の行為は大変失礼いたしました。猛る僧都様の陰茎を私の膣内に入れて精を得たら、そのまま退室するなんて、さぞや不快であったと思います。申し訳ございません」
「いや、不快というより驚いたかな」
「ですから二度目の今宵は精いっぱい悦んでもらおうと、体の線を崩さないよう努力してまいりました」
シスターアマンダはバスローブを脱いだ。年のころは二十代後半、実年齢五十五の俺からすればよだれが出るほどの若い娘でござるよ。
「美しい…。さ、こちらに」
「はい」

こうして俺はシスター四人に再び子種を仕込み、ブルムフルト王国をあとにして現在拠点としているサウスレッド王国に転移魔法で戻ったのだった。
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