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第十四話 奇跡の治癒師の帰国、そして各人物視点からの話
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バレンシア王国内のロッグダメージの被害者もまた多かった。
俺は今回の遠征で二百人程度の患者を治したけれど、全体からすれば、ほんの一部。
だけど約束通りターサンド王国に帰国することにした。往復二十日、滞在十日、その約束だからな。
次の遠征時にも、より多くの患者を治せるようバレンシア国の王族貴族、そしてギルドもシートピアに患者を集めておくよう約束してくれたし、とりあえず最初のバレンシア遠征は終了した。
俺は港でソニアとレイラと別れを交わした。
「ごめんね、嫁にしてくれたのはいいけれど、まだ私たち男を受け入れられる体じゃないから」
「…グレンの言う美味い食事と適度な運動を心がけて、次の遠征の時は抱いてもらえるよう体を作っておくから」
「焦らずともいいさ。夫婦の絆は体の繋がりだけじゃないしな…。でも楽しみにしている」
「「うん」」
「第一夫人のサナにも貴女たちのことは伝えておくよ。元は同じ冒険者、第四夫人の私とも仲良くしてくれると嬉しい」
ミファンが両手を差し出すと、ソニアとレイラはその手を握り
「ええ、もちろん」
「いや、うらやましいですな、ケンジ殿。また見目麗しい美女を伴侶にしてしまわれた」
いや、リチャード卿も船旅とシートピア滞在時に何人か女を作っていたじゃないか。七十越している爺さんなのに、男として、すげえと思うのはこっちの方だよ。前世の俺が七十のころなんて枯れていたし。
俺、ミファン、リチャード卿は多くの人に見送られてターサンド王国への帰途についた。
船旅の最中はリチャード卿から武芸の稽古をつけてもらう。
この爺、昨日も若い娘を堪能したろうに全く腰が砕けていないね。俺とミファンを余裕であしらってくる。
「ケンジ殿は斧の柄の方をもっと上手く使えるようにならねばなりませんな。せっかくの武器も使い方を熟知していなければ何もなりませんぞ」
斧(上)である俺を子ども扱い、なんてチート爺だ。俺のあとにミファンが格闘術で挑むが、これまた子ども扱い。
「ミファン殿、技に入る前の予備動作で次の攻撃が丸分かりですぞ」
「そんなの見破られるのリチャード卿だけですよ…。ふう、いい修行だ。楽しくてならない」
考えてみれば、王室に仕える執事が稽古をつけてくれる展開なんて、異世界転生ファンタジー小説ではあまり見かけないな。だいたい主人公は信じられない武勇を持ち、そういう立場の人たちにも負けないのが定番だ。
だけど俺はこれでいいと思う。驕らずに済む。この世で一番強いと思った時が身の破滅の第一歩だ。
リチャード卿は今回のバレンシア遠征の俺の治療内容をすべて記録して王室に提出してくれるそうだ。助かる、そういう仕事は苦手だ。
というより武勇無双で事務方も優秀って、どんだけすごい爺なんだよ。いや、俺も爺だけどさ。
ターサンド王国に帰国する船旅初日、船内の大食堂で俺、ミファン、リチャード卿でディナーを過ごした。
「今後もケンジ殿のバレンシア遠征には私が同行させてもらえるよう頼んでみます。私も日ごろの職務から離れられたので少し羽を伸ばしましてね…。何人か親しい女性が出来てしまったのですよ」
「老いてますます盛んですね。リチャード卿」
ミファンの言葉に苦笑するリチャード卿。
「こればかりは永遠に卒業することが出来ませんからな、男って生き物は」
「確かに」
俺がそう言うとテーブルは笑いに包まれた。
そして数日後、ターサンド王国の港町ダーフィーに到着。三人して思い切り腰を伸ばした。
たった三十日しか離れていなかったが、ずいぶん久しぶりのように思える。
ダーフィーで一泊して、そこから再び船に乗って王都ブルドンへと。
ブルドンに到着してリチャード卿と別れ、俺とミファンは自宅の屋敷へと。ミファンが
「あ~あ、旦那を独り占めできるのも今日までなのね」
「今日までありがとうな、ミファン、護衛としても頼もしかったし夜は俺を癒してくれて本当にありがたかったよ」
「癒しをもらったのは私の方だよ。離れていた分、今日からしばらく、サナ、アザレア、マリナを可愛がってあげてね」
「ああ、そうする…」
屋敷の門前までサナ、アザレア、マリナ、アイカが出迎えてくれた。サナとアザレアの腕の中には赤ちゃんが。
ああ、やっぱり俺の居場所はここなんだなぁと思う。
「みんなー!」
俺はサナたちの元へと走り、一人一人抱きしめた。
「何よ、もう大げさね。たった三十日の遠征だってのに何年も離れていたかのように」
と、言いつつサナも嬉しそうだった。アザレア、マリナ、アイカも抱きしめる。
「ただいま!」
「「おかえりなさい!!」」
<リチャード視点>
「という次第で、今回の遠征で治療を受けられたのは二百名ほど。バレンシア国内全体で言えば、わずかです。ケンジ殿は、もう少し治療を続けるべきかと滞在期間の延長を考えたのですが、それは私がお諫めしました。最初の約定通りにすべきであると」
「そうだな。情に流されてズルズルと日程を伸ばせばバレンシアの方も『利用してやろう』と考えるだろう」
と、宰相閣下が言った。私も頷く。
私は王城に帰ると宰相閣下と陛下にケンジ殿の治療内容の報告をした。
治癒(大)の術者であり、私には及ばないものの武勇もある。
しかしまだ若い。つい情に流されてしまう。私の今回の任務で絶対にしなければならないことは『治療期間十日でキッチリ帰国させること』だった。達成してよかった。続けて陛下が
「バレンシア国内でも顔面溶解を元に戻せる術者が訪れたと言う話は瞬く間に広まり、半信半疑だった王族や貴族たちも本格的に協力を申し出、シートピアに患者を寄越すことになったと聞く。どうやらバレンシアでもロッグダメージは大きな社会問題らしい。改めて二ヶ月後の遠征を依頼してきた」
それはそうだ。ロッグダメージの被害者女性は働くことが出来ないし、家族とも不和が生じ、その挙句、殺傷事件すら起こりうるのだ。元からロッグダメージそのものが食い止められれば良いのだが自暴自棄になっている男には死刑すら制御効果は無い。深刻な問題だ。
「ともあれケンジ殿にはしばらく静養するように伝えておいた。治癒師の不摂生とも言うからな。それと」
「はっ」
「リチャード、若い娘もほどほどにしておけ」
「はっ、はは!」
陛下はお見通しか…。宰相閣下も笑っておられた。二人とも好きなくせに…言われたくありませんよ。
<サナ視点>
「何か、すごい額がギルドカードに記されているけれど」
私は夫のケンジのギルドカードが点滅していたので、覗き込んでみると、そういう内容だった。
ケンジは、こういうの秘密にしない人だから覗き込んでも怒られない。
「ああ、先のバレンシア遠征の報酬だな。あっと、サナ、シートピアで元仲間であった魔法使いと魔法剣士と再会して第五夫人と第六夫人にしたのは言ったよな」
「ええ、聴いたわ」
私の腕の中に彼との愛の結晶、息子のレオンがいる。私の命よりも大切な存在。
「事情を聴いてみればロッグの被害者になってから、属していたパーティーも脱退。二人でひっそりと暮らしていたらしい。今も収入は無いみたいだから二人の生活が落ち着くまで仕送りをしようと思う」
「どのくらい?」
「ああ、すぐに王都からシートピアに居を移して、体が回復次第、ソニアは給仕、レイラは市場で働くことにするらしいから…だいたい月二十万ゴルダーを彼女たちのギルドカードに転送するよ。もう年齢的に冒険者は無理だからな。十分な暮らしが出来るようしないと」
「まあ、妥当な額ね。当分先の話だろうけど子供生まれたら増やしてあげなさいよ」
「ああ、ありがとう、サナ」
平民とはいえ、国王や宰相にも認められ、かつ護衛に王室執事が同行するとなれば、それはもう名士。嫁の数が私含めて四人というのは逆に少ない。
六人か…。これからも彼の嫁は増えるだろうけど第一夫人としてしっかりしなくちゃね。
というより第一夫人の私が嫁の中で一番年下って、何かやりにくい。
今更だけど、ケンジは本当に変わり者だった。それは育児にも積極的に参加してくること。
育児は女の領域なので私とアザレアも当初渋っていたけれど、私の息子レオン、アザレアの娘シルクを幸せそうに抱いている姿を見たら、もう何にも言えなくなってしまった。何かこう…そんな彼の姿を見ていると私とアザレアまで幸せな気分になっちゃって。
他所の家庭では父親がオムツを変えて、寝かしつけているところなんて、まず見られない。ケンジはそれを普通にやっている。しかも手際がいい。本当に変わり者だなぁと思う。
「俺とメイドたちで子供たちを見ているから二人でショッピングでもしてきたら?」
そう言われた時は本当に嬉しかった。ケンジのバレンシア遠征時、初めての子供で色々とストレスも溜まっていたからね。お言葉に甘えさせてもらった。
でも結局、私たちがショッピングで買ったのは子供たちのものばっかり。ケンジがレオンを抱きながら
「ドレスでも買えばいいのに」
と苦笑していたけれど、アザレアが
「そんなもん着る機会ないし。それより、このエプロンどう?」
と、得意げにお気に入りのエプロンを二人してケンジに見せると
「頼みがある。それを裸の上に着てほしい」
「「絶対にイヤ!」」
と断った。変態絶倫男め…。
<エレナ視点>
あの日、シートピアの港でケンジの船出を見送った。あんないい男を逃がすなんて、お母さんの言う通り、私は本当に馬鹿だな、と思いました。
桟橋で涙に暮れる私をお母さんは慰めてくれた。
「せっかく彼が残してくれた前途、私たちも前を向いて生きていきましょう」
「お母さん…」
前途…。そうだ。彼は私が娼婦を辞められるよう導いてくれた。私が好きでもない男に抱かれる生業をしていたのはお母さんの病気に治癒魔法をかけてもらうため。その必要が無くなった今、もう私とお母さんは自由なんだ。
「それにあれほどの治癒師…。国外追放したことを必ず、この国は悔やむことになるわ。たった一度の過ちで、その人物の器を見ようともしない…。情けない国よ、ここは」
お母さんは吐き捨てるように港にある王室出先機関の建物を見た。思えば大病のお母さんに対しても国は何もしてくれなかったし。
「今にケンジに頭下げて戻ってきてくれと言うかもね」
「今から楽しみだわ」
そう笑いながら私とお母さんは桟橋をあとにした。
娼婦を辞めた私は改めて職探しをしたところ、漁業ギルドの事務員として採用されることになった。お母さんは市場で魚を捌く包丁人として母娘で再出発。母娘して、ケンジみたいないい男を探そうね、と仲良く暮らしていた。
そんな生活のなか、私を見初めてくれた人がいた。漁師さんだった。そして包丁さばきは一流とお母さんが太鼓判を押してくれた人、私と同じ歳のその人は元娼婦と言うのも一切気にせず私を妻にしてくれた。嬉しかった。お母さんも大喜びだった。
やがて、彼の子を身籠ったころだった。海を経た西の大陸ターサンド王国に奇跡の治癒師と呼ばれる人の噂を耳にした。私とお母さんは、すぐにケンジのことだと分かった。
そうよ、腐っていたお母さんの四肢を魔法でアッという間に治してしまった、あの奇跡の技は忘れようにも忘れられるものじゃない。
そして、それは大当たり。戦闘中に仲間を置き去りにして逃走した、あの勇者グレンと奇跡の治癒師が同一人物だと判明した。痛快だった。私とお母さん、そして事情を知った夫三人で大笑いした。この国の王室と冒険者ギルドの見る目の無さを。
国外追放を取り消すので国民を助けに来てください、王室は、そうケンジに願ったのだ。当時、ケンジの国外追放を処断した職員とギルドマスターは王室から『治癒(大)を持つ者を国外追放するとは』と大目玉。ざまぁみろと思った。
そしてケンジは国外追放から一転して国賓待遇として、このバレンシアに帰ってきた。
治療会場は漁業ギルド、私の職場だ。港にケンジが降りたという知らせが届くや、私たち漁業ギルドの職員たちは玄関、そして講堂に進む廊下両脇でケンジに頭を下げて出迎える。
やったねケンジ!堂々たる凱旋だよ!
そしてケンジは私の前に立ち止まる。気づいてくれたんだ。そして私の少し膨れたお腹を見るとニコリと笑い『嬉しいよ』と幸せそうな私を見て言ってくれた。
ええもう、あの炭焼き小屋で貴方に習った魚の調理で亭主の胃袋ばっちり掴んで、すごく大切にされて幸せいっぱい!お母さんも元気になって、今度再婚もするのよ。
奇跡の治癒師ケンジ、私は貴方から治癒魔法は受けていないけれど人生を助けられたわ。
ありがとうケンジ、私は貴方のお嫁さんにはなれなかったけれど、今も大好きよ。
<バレンシア王国王都ギルド職員トーマス視点>
「『鋼鉄の絆』からアラン、ソニア、レイラが離脱!?どういうことだ」
リーダーのカシム、副リーダーのルビーノは俺の問いかけに中々答えられない。
「アランがソニアとレイラにロッグ浴びせたうえ逃走しやがった」
カシムの言葉に俺は絶句した。アランはソニアとレイラを娶り、幸せにやっていると思っていた。
結婚パーティーも、ここギルドの講堂で行った。ギルドも彼らを心から祝福した。
お世辞にも美男と言えないアランが、こんな美人さん二人を嫁にした。
俺は本当に嬉しかったんだ。
「あの馬鹿が…」
俺はカウンターの内側で項垂れた。
「何とか治癒(中)で熱傷は治した。が…それで終わりだ。治癒(大)で無ければ顔は元に戻せない。ソニアとレイラも顔が溶けてしまい、もう冒険者は無理だ。脱退させた」
「…………」
「メンバーから死刑に該当する罪をやらかした者が出たうえ逃げられた。私たち『鋼鉄の絆』も遠からず解散するのでよろしく」
そう言ったルビーノの肩を抱いてギルドから出て行くカシム。元から冒険者なんて長くやるものじゃない。リーダーの夫婦であるカシムとルビーノは二十五歳くらい。そろそろ子供も欲しいだろう。それに邪竜ゲドラを討った際、死者は出なかったもののパーティーのダメージも大きかった。退け時だと思ったのかもしれない。
そして数日後、カシムとルビーノがパーティーの解散届を出してきた。その時
「アランはまだ見つからない」
そう伝えるとカシムは
「そうですか…。悪いですが私たち夫婦と元仲間たちも、あいつの捜索などで貴重な人生の時間を割きたくありませんので放置します。ギルドと騎士団に任せますので」
「ああ、それでいい」
カシムはこれ以降ギルドに来ることは無かった。
シートピアで凱旋パレードをしたほどのパーティーがな…。解散の時はこんなものか、そう思っていた。
カシムたち『鋼鉄の絆』が王都のギルドから去って、しばらく経ったころだった。
王室から使者が来た。大物だった。現国王の末弟イノセント公爵だ。
ギルドに入るや『ギルド職員のトーマス、それとギルドマスターと会わせなさい』と有無を言わさぬ口調だった。
俺とギルドマスターはワケも分からないままギルド内の応接間で公爵と会った。お茶を出そうとしても『いらぬ』と言われる有様、そうとう怒っていると思うが私とギルドマスターは分からない。
「訊ねる。元勇者グレンの罪を糾弾し、国外追放の処罰を下したのは君たちで相違ないか」
俺とギルドマスターは顔を見合い、そして俺が答えた。
「その通りですが…」
公爵は『はあ~』と呆れるようなため息をついた。
「おさらいをするが、その勇者グレンが冒険者ギルドのクエスト、バゴー山のレッドベア退治の戦闘中において仲間の女二人を置き去りにして逃走、これが罪状で間違いないかね?」
「その通りです。戦闘中に仲間を置き去りにして逃走は冒険者として、もっともやってはいけないルール違反です。幸いに仲間二人の女は無事でしたが、それで帳消しというわけにもいきません。我らギルドは冒険者の資格と勇者の称号を剥奪、国外追放を言い渡しました」
ギルドマスターが答えると
「たったそれだけのことでか…!冒険者ギルドは何てことをしてくれた…!」
たったそれだけ?それがどれほどの大罪であるのか分かっていないのかと言い返そうとしたが、ギルドマスターに止められた。そしてそのままギルドマスターが公爵閣下に訊ねた。
「グレンがどうしたのですか」
「ターサンド王国に現れた奇跡の治癒師ケンジのことは聞いているか」
「噂には…」
「その人物と勇者グレンは同一人物だ」
「「なっ…!?」」
「お前たちは治癒(大)を使える者を国外追放にしたのだぞ…。どれほど国益を損ない、かつ海を経ているとはいえ海路繋がる隣国ターサンド王国に莫大な利をもたらしたか…」
「「…………」」
信じられない。グレンのパーティー『アカツキ』は確かにグレンとアランが治癒(中)の使い手だった。いつ治癒(大)になったのか。
「たとえグレンが申告せずとも、登録のさいに触れる水晶玉でレベルや能力などは閲覧できるはずだろう。どうして分からなかったのだ」
「おっ、お待ち下さい、公爵閣下、私とトーマスはグレンの登録のさい治癒(小)を確認し、むしろ治癒魔法は仲間の方のアランが(中)で格上でした。グレンが治癒(中)を体得したのも、先のクエストの数日前のこと。それが、こんな短期間で(大)になるなんて、ありえませんよ!」
「ありえんと言っても、実際その治癒師は多くのロッグダメージ被害者女性たちの溶けた顔を元に戻しているのは事実だ。人が生来ある痣さえも消せると言う、そんな貴重な術者をお前たちは…」
「「…………」」
「近々、私はターサンド王国に赴いて術者の借用をあちらの王室に願い出てくるが…ギルドはこのままでは済まないと思うことだ。国王も大変立腹している。むざむざ隣国に有為な人材をくれてやった馬鹿どもとな。ギルドに権力を与えすぎたわ。大幅な権限の削減、お前たちの減俸降格も覚悟しておけ」
「「…………」」
公爵閣下は去っていった。ワケが分からない。グレンと、奇跡の治癒師が同一人物?
あの男は治癒(小)でさえ、治療代をボッたくっていた最低の男だぞ。
「トーマス、信じられるか…。グレンと奇跡の治癒師ケンジが同一人物なんてことに」
「信じられません…。私には勇者の称号に溺れた馬鹿者にしか見えませんでしたから…」
「…しかし公爵閣下が嘘を言っているようには見えない。我らが治癒(大)の術者を国外追放にしたのは確かなようだな…」
「だとしても!治癒(大)を使えることをグレンが申告していれば、我らとて即座に冒険者を辞めさせてターサンド王国のギルドと同様な永年依頼を出したでしょう!」
「トーマス、我らは間違った処罰はしていない。公爵閣下は置き去りの罪を軽視していたが我ら冒険者の上に立つ者からすれば重罪の極み、だから国外追放の処分をした。当時、グレンに治癒(大)が使えると分かっていても同様の処罰はした。しかし、それが『治癒(大)の術者を国外追放にした』という事実だけが国のエラいさんの逆鱗に触れたのなら、堂々とその処罰を受けよう…。公爵閣下が言うように各種のギルドは少々力を持ちすぎた。尾大の弊という言葉もある。これを機に、ちょうどいい具合になるかもしれん」
「ギルドマスター…」
「大したもんじゃねえか。国外追放された者が奇跡の治癒師様だってよ。はははは!」
俺は応接室から出て行った。一つの依頼書を王室に書くようギルドマスターより命じられていた。
その依頼書を書いて定期的に王城へと向かう通信員に持たせた。内容は
『奇跡の治癒師殿がバレンシアに訪れた時、当ギルドに属していたソニアとレイラという女性二人の顔面溶解を元に戻して下さい』
というものだった。被害者女性に罪は無い。これで国も救済のリストに二人を入れてくれるだろう。
「グレン、今度は見捨てず、助けてやれよ…」
俺は今回の遠征で二百人程度の患者を治したけれど、全体からすれば、ほんの一部。
だけど約束通りターサンド王国に帰国することにした。往復二十日、滞在十日、その約束だからな。
次の遠征時にも、より多くの患者を治せるようバレンシア国の王族貴族、そしてギルドもシートピアに患者を集めておくよう約束してくれたし、とりあえず最初のバレンシア遠征は終了した。
俺は港でソニアとレイラと別れを交わした。
「ごめんね、嫁にしてくれたのはいいけれど、まだ私たち男を受け入れられる体じゃないから」
「…グレンの言う美味い食事と適度な運動を心がけて、次の遠征の時は抱いてもらえるよう体を作っておくから」
「焦らずともいいさ。夫婦の絆は体の繋がりだけじゃないしな…。でも楽しみにしている」
「「うん」」
「第一夫人のサナにも貴女たちのことは伝えておくよ。元は同じ冒険者、第四夫人の私とも仲良くしてくれると嬉しい」
ミファンが両手を差し出すと、ソニアとレイラはその手を握り
「ええ、もちろん」
「いや、うらやましいですな、ケンジ殿。また見目麗しい美女を伴侶にしてしまわれた」
いや、リチャード卿も船旅とシートピア滞在時に何人か女を作っていたじゃないか。七十越している爺さんなのに、男として、すげえと思うのはこっちの方だよ。前世の俺が七十のころなんて枯れていたし。
俺、ミファン、リチャード卿は多くの人に見送られてターサンド王国への帰途についた。
船旅の最中はリチャード卿から武芸の稽古をつけてもらう。
この爺、昨日も若い娘を堪能したろうに全く腰が砕けていないね。俺とミファンを余裕であしらってくる。
「ケンジ殿は斧の柄の方をもっと上手く使えるようにならねばなりませんな。せっかくの武器も使い方を熟知していなければ何もなりませんぞ」
斧(上)である俺を子ども扱い、なんてチート爺だ。俺のあとにミファンが格闘術で挑むが、これまた子ども扱い。
「ミファン殿、技に入る前の予備動作で次の攻撃が丸分かりですぞ」
「そんなの見破られるのリチャード卿だけですよ…。ふう、いい修行だ。楽しくてならない」
考えてみれば、王室に仕える執事が稽古をつけてくれる展開なんて、異世界転生ファンタジー小説ではあまり見かけないな。だいたい主人公は信じられない武勇を持ち、そういう立場の人たちにも負けないのが定番だ。
だけど俺はこれでいいと思う。驕らずに済む。この世で一番強いと思った時が身の破滅の第一歩だ。
リチャード卿は今回のバレンシア遠征の俺の治療内容をすべて記録して王室に提出してくれるそうだ。助かる、そういう仕事は苦手だ。
というより武勇無双で事務方も優秀って、どんだけすごい爺なんだよ。いや、俺も爺だけどさ。
ターサンド王国に帰国する船旅初日、船内の大食堂で俺、ミファン、リチャード卿でディナーを過ごした。
「今後もケンジ殿のバレンシア遠征には私が同行させてもらえるよう頼んでみます。私も日ごろの職務から離れられたので少し羽を伸ばしましてね…。何人か親しい女性が出来てしまったのですよ」
「老いてますます盛んですね。リチャード卿」
ミファンの言葉に苦笑するリチャード卿。
「こればかりは永遠に卒業することが出来ませんからな、男って生き物は」
「確かに」
俺がそう言うとテーブルは笑いに包まれた。
そして数日後、ターサンド王国の港町ダーフィーに到着。三人して思い切り腰を伸ばした。
たった三十日しか離れていなかったが、ずいぶん久しぶりのように思える。
ダーフィーで一泊して、そこから再び船に乗って王都ブルドンへと。
ブルドンに到着してリチャード卿と別れ、俺とミファンは自宅の屋敷へと。ミファンが
「あ~あ、旦那を独り占めできるのも今日までなのね」
「今日までありがとうな、ミファン、護衛としても頼もしかったし夜は俺を癒してくれて本当にありがたかったよ」
「癒しをもらったのは私の方だよ。離れていた分、今日からしばらく、サナ、アザレア、マリナを可愛がってあげてね」
「ああ、そうする…」
屋敷の門前までサナ、アザレア、マリナ、アイカが出迎えてくれた。サナとアザレアの腕の中には赤ちゃんが。
ああ、やっぱり俺の居場所はここなんだなぁと思う。
「みんなー!」
俺はサナたちの元へと走り、一人一人抱きしめた。
「何よ、もう大げさね。たった三十日の遠征だってのに何年も離れていたかのように」
と、言いつつサナも嬉しそうだった。アザレア、マリナ、アイカも抱きしめる。
「ただいま!」
「「おかえりなさい!!」」
<リチャード視点>
「という次第で、今回の遠征で治療を受けられたのは二百名ほど。バレンシア国内全体で言えば、わずかです。ケンジ殿は、もう少し治療を続けるべきかと滞在期間の延長を考えたのですが、それは私がお諫めしました。最初の約定通りにすべきであると」
「そうだな。情に流されてズルズルと日程を伸ばせばバレンシアの方も『利用してやろう』と考えるだろう」
と、宰相閣下が言った。私も頷く。
私は王城に帰ると宰相閣下と陛下にケンジ殿の治療内容の報告をした。
治癒(大)の術者であり、私には及ばないものの武勇もある。
しかしまだ若い。つい情に流されてしまう。私の今回の任務で絶対にしなければならないことは『治療期間十日でキッチリ帰国させること』だった。達成してよかった。続けて陛下が
「バレンシア国内でも顔面溶解を元に戻せる術者が訪れたと言う話は瞬く間に広まり、半信半疑だった王族や貴族たちも本格的に協力を申し出、シートピアに患者を寄越すことになったと聞く。どうやらバレンシアでもロッグダメージは大きな社会問題らしい。改めて二ヶ月後の遠征を依頼してきた」
それはそうだ。ロッグダメージの被害者女性は働くことが出来ないし、家族とも不和が生じ、その挙句、殺傷事件すら起こりうるのだ。元からロッグダメージそのものが食い止められれば良いのだが自暴自棄になっている男には死刑すら制御効果は無い。深刻な問題だ。
「ともあれケンジ殿にはしばらく静養するように伝えておいた。治癒師の不摂生とも言うからな。それと」
「はっ」
「リチャード、若い娘もほどほどにしておけ」
「はっ、はは!」
陛下はお見通しか…。宰相閣下も笑っておられた。二人とも好きなくせに…言われたくありませんよ。
<サナ視点>
「何か、すごい額がギルドカードに記されているけれど」
私は夫のケンジのギルドカードが点滅していたので、覗き込んでみると、そういう内容だった。
ケンジは、こういうの秘密にしない人だから覗き込んでも怒られない。
「ああ、先のバレンシア遠征の報酬だな。あっと、サナ、シートピアで元仲間であった魔法使いと魔法剣士と再会して第五夫人と第六夫人にしたのは言ったよな」
「ええ、聴いたわ」
私の腕の中に彼との愛の結晶、息子のレオンがいる。私の命よりも大切な存在。
「事情を聴いてみればロッグの被害者になってから、属していたパーティーも脱退。二人でひっそりと暮らしていたらしい。今も収入は無いみたいだから二人の生活が落ち着くまで仕送りをしようと思う」
「どのくらい?」
「ああ、すぐに王都からシートピアに居を移して、体が回復次第、ソニアは給仕、レイラは市場で働くことにするらしいから…だいたい月二十万ゴルダーを彼女たちのギルドカードに転送するよ。もう年齢的に冒険者は無理だからな。十分な暮らしが出来るようしないと」
「まあ、妥当な額ね。当分先の話だろうけど子供生まれたら増やしてあげなさいよ」
「ああ、ありがとう、サナ」
平民とはいえ、国王や宰相にも認められ、かつ護衛に王室執事が同行するとなれば、それはもう名士。嫁の数が私含めて四人というのは逆に少ない。
六人か…。これからも彼の嫁は増えるだろうけど第一夫人としてしっかりしなくちゃね。
というより第一夫人の私が嫁の中で一番年下って、何かやりにくい。
今更だけど、ケンジは本当に変わり者だった。それは育児にも積極的に参加してくること。
育児は女の領域なので私とアザレアも当初渋っていたけれど、私の息子レオン、アザレアの娘シルクを幸せそうに抱いている姿を見たら、もう何にも言えなくなってしまった。何かこう…そんな彼の姿を見ていると私とアザレアまで幸せな気分になっちゃって。
他所の家庭では父親がオムツを変えて、寝かしつけているところなんて、まず見られない。ケンジはそれを普通にやっている。しかも手際がいい。本当に変わり者だなぁと思う。
「俺とメイドたちで子供たちを見ているから二人でショッピングでもしてきたら?」
そう言われた時は本当に嬉しかった。ケンジのバレンシア遠征時、初めての子供で色々とストレスも溜まっていたからね。お言葉に甘えさせてもらった。
でも結局、私たちがショッピングで買ったのは子供たちのものばっかり。ケンジがレオンを抱きながら
「ドレスでも買えばいいのに」
と苦笑していたけれど、アザレアが
「そんなもん着る機会ないし。それより、このエプロンどう?」
と、得意げにお気に入りのエプロンを二人してケンジに見せると
「頼みがある。それを裸の上に着てほしい」
「「絶対にイヤ!」」
と断った。変態絶倫男め…。
<エレナ視点>
あの日、シートピアの港でケンジの船出を見送った。あんないい男を逃がすなんて、お母さんの言う通り、私は本当に馬鹿だな、と思いました。
桟橋で涙に暮れる私をお母さんは慰めてくれた。
「せっかく彼が残してくれた前途、私たちも前を向いて生きていきましょう」
「お母さん…」
前途…。そうだ。彼は私が娼婦を辞められるよう導いてくれた。私が好きでもない男に抱かれる生業をしていたのはお母さんの病気に治癒魔法をかけてもらうため。その必要が無くなった今、もう私とお母さんは自由なんだ。
「それにあれほどの治癒師…。国外追放したことを必ず、この国は悔やむことになるわ。たった一度の過ちで、その人物の器を見ようともしない…。情けない国よ、ここは」
お母さんは吐き捨てるように港にある王室出先機関の建物を見た。思えば大病のお母さんに対しても国は何もしてくれなかったし。
「今にケンジに頭下げて戻ってきてくれと言うかもね」
「今から楽しみだわ」
そう笑いながら私とお母さんは桟橋をあとにした。
娼婦を辞めた私は改めて職探しをしたところ、漁業ギルドの事務員として採用されることになった。お母さんは市場で魚を捌く包丁人として母娘で再出発。母娘して、ケンジみたいないい男を探そうね、と仲良く暮らしていた。
そんな生活のなか、私を見初めてくれた人がいた。漁師さんだった。そして包丁さばきは一流とお母さんが太鼓判を押してくれた人、私と同じ歳のその人は元娼婦と言うのも一切気にせず私を妻にしてくれた。嬉しかった。お母さんも大喜びだった。
やがて、彼の子を身籠ったころだった。海を経た西の大陸ターサンド王国に奇跡の治癒師と呼ばれる人の噂を耳にした。私とお母さんは、すぐにケンジのことだと分かった。
そうよ、腐っていたお母さんの四肢を魔法でアッという間に治してしまった、あの奇跡の技は忘れようにも忘れられるものじゃない。
そして、それは大当たり。戦闘中に仲間を置き去りにして逃走した、あの勇者グレンと奇跡の治癒師が同一人物だと判明した。痛快だった。私とお母さん、そして事情を知った夫三人で大笑いした。この国の王室と冒険者ギルドの見る目の無さを。
国外追放を取り消すので国民を助けに来てください、王室は、そうケンジに願ったのだ。当時、ケンジの国外追放を処断した職員とギルドマスターは王室から『治癒(大)を持つ者を国外追放するとは』と大目玉。ざまぁみろと思った。
そしてケンジは国外追放から一転して国賓待遇として、このバレンシアに帰ってきた。
治療会場は漁業ギルド、私の職場だ。港にケンジが降りたという知らせが届くや、私たち漁業ギルドの職員たちは玄関、そして講堂に進む廊下両脇でケンジに頭を下げて出迎える。
やったねケンジ!堂々たる凱旋だよ!
そしてケンジは私の前に立ち止まる。気づいてくれたんだ。そして私の少し膨れたお腹を見るとニコリと笑い『嬉しいよ』と幸せそうな私を見て言ってくれた。
ええもう、あの炭焼き小屋で貴方に習った魚の調理で亭主の胃袋ばっちり掴んで、すごく大切にされて幸せいっぱい!お母さんも元気になって、今度再婚もするのよ。
奇跡の治癒師ケンジ、私は貴方から治癒魔法は受けていないけれど人生を助けられたわ。
ありがとうケンジ、私は貴方のお嫁さんにはなれなかったけれど、今も大好きよ。
<バレンシア王国王都ギルド職員トーマス視点>
「『鋼鉄の絆』からアラン、ソニア、レイラが離脱!?どういうことだ」
リーダーのカシム、副リーダーのルビーノは俺の問いかけに中々答えられない。
「アランがソニアとレイラにロッグ浴びせたうえ逃走しやがった」
カシムの言葉に俺は絶句した。アランはソニアとレイラを娶り、幸せにやっていると思っていた。
結婚パーティーも、ここギルドの講堂で行った。ギルドも彼らを心から祝福した。
お世辞にも美男と言えないアランが、こんな美人さん二人を嫁にした。
俺は本当に嬉しかったんだ。
「あの馬鹿が…」
俺はカウンターの内側で項垂れた。
「何とか治癒(中)で熱傷は治した。が…それで終わりだ。治癒(大)で無ければ顔は元に戻せない。ソニアとレイラも顔が溶けてしまい、もう冒険者は無理だ。脱退させた」
「…………」
「メンバーから死刑に該当する罪をやらかした者が出たうえ逃げられた。私たち『鋼鉄の絆』も遠からず解散するのでよろしく」
そう言ったルビーノの肩を抱いてギルドから出て行くカシム。元から冒険者なんて長くやるものじゃない。リーダーの夫婦であるカシムとルビーノは二十五歳くらい。そろそろ子供も欲しいだろう。それに邪竜ゲドラを討った際、死者は出なかったもののパーティーのダメージも大きかった。退け時だと思ったのかもしれない。
そして数日後、カシムとルビーノがパーティーの解散届を出してきた。その時
「アランはまだ見つからない」
そう伝えるとカシムは
「そうですか…。悪いですが私たち夫婦と元仲間たちも、あいつの捜索などで貴重な人生の時間を割きたくありませんので放置します。ギルドと騎士団に任せますので」
「ああ、それでいい」
カシムはこれ以降ギルドに来ることは無かった。
シートピアで凱旋パレードをしたほどのパーティーがな…。解散の時はこんなものか、そう思っていた。
カシムたち『鋼鉄の絆』が王都のギルドから去って、しばらく経ったころだった。
王室から使者が来た。大物だった。現国王の末弟イノセント公爵だ。
ギルドに入るや『ギルド職員のトーマス、それとギルドマスターと会わせなさい』と有無を言わさぬ口調だった。
俺とギルドマスターはワケも分からないままギルド内の応接間で公爵と会った。お茶を出そうとしても『いらぬ』と言われる有様、そうとう怒っていると思うが私とギルドマスターは分からない。
「訊ねる。元勇者グレンの罪を糾弾し、国外追放の処罰を下したのは君たちで相違ないか」
俺とギルドマスターは顔を見合い、そして俺が答えた。
「その通りですが…」
公爵は『はあ~』と呆れるようなため息をついた。
「おさらいをするが、その勇者グレンが冒険者ギルドのクエスト、バゴー山のレッドベア退治の戦闘中において仲間の女二人を置き去りにして逃走、これが罪状で間違いないかね?」
「その通りです。戦闘中に仲間を置き去りにして逃走は冒険者として、もっともやってはいけないルール違反です。幸いに仲間二人の女は無事でしたが、それで帳消しというわけにもいきません。我らギルドは冒険者の資格と勇者の称号を剥奪、国外追放を言い渡しました」
ギルドマスターが答えると
「たったそれだけのことでか…!冒険者ギルドは何てことをしてくれた…!」
たったそれだけ?それがどれほどの大罪であるのか分かっていないのかと言い返そうとしたが、ギルドマスターに止められた。そしてそのままギルドマスターが公爵閣下に訊ねた。
「グレンがどうしたのですか」
「ターサンド王国に現れた奇跡の治癒師ケンジのことは聞いているか」
「噂には…」
「その人物と勇者グレンは同一人物だ」
「「なっ…!?」」
「お前たちは治癒(大)を使える者を国外追放にしたのだぞ…。どれほど国益を損ない、かつ海を経ているとはいえ海路繋がる隣国ターサンド王国に莫大な利をもたらしたか…」
「「…………」」
信じられない。グレンのパーティー『アカツキ』は確かにグレンとアランが治癒(中)の使い手だった。いつ治癒(大)になったのか。
「たとえグレンが申告せずとも、登録のさいに触れる水晶玉でレベルや能力などは閲覧できるはずだろう。どうして分からなかったのだ」
「おっ、お待ち下さい、公爵閣下、私とトーマスはグレンの登録のさい治癒(小)を確認し、むしろ治癒魔法は仲間の方のアランが(中)で格上でした。グレンが治癒(中)を体得したのも、先のクエストの数日前のこと。それが、こんな短期間で(大)になるなんて、ありえませんよ!」
「ありえんと言っても、実際その治癒師は多くのロッグダメージ被害者女性たちの溶けた顔を元に戻しているのは事実だ。人が生来ある痣さえも消せると言う、そんな貴重な術者をお前たちは…」
「「…………」」
「近々、私はターサンド王国に赴いて術者の借用をあちらの王室に願い出てくるが…ギルドはこのままでは済まないと思うことだ。国王も大変立腹している。むざむざ隣国に有為な人材をくれてやった馬鹿どもとな。ギルドに権力を与えすぎたわ。大幅な権限の削減、お前たちの減俸降格も覚悟しておけ」
「「…………」」
公爵閣下は去っていった。ワケが分からない。グレンと、奇跡の治癒師が同一人物?
あの男は治癒(小)でさえ、治療代をボッたくっていた最低の男だぞ。
「トーマス、信じられるか…。グレンと奇跡の治癒師ケンジが同一人物なんてことに」
「信じられません…。私には勇者の称号に溺れた馬鹿者にしか見えませんでしたから…」
「…しかし公爵閣下が嘘を言っているようには見えない。我らが治癒(大)の術者を国外追放にしたのは確かなようだな…」
「だとしても!治癒(大)を使えることをグレンが申告していれば、我らとて即座に冒険者を辞めさせてターサンド王国のギルドと同様な永年依頼を出したでしょう!」
「トーマス、我らは間違った処罰はしていない。公爵閣下は置き去りの罪を軽視していたが我ら冒険者の上に立つ者からすれば重罪の極み、だから国外追放の処分をした。当時、グレンに治癒(大)が使えると分かっていても同様の処罰はした。しかし、それが『治癒(大)の術者を国外追放にした』という事実だけが国のエラいさんの逆鱗に触れたのなら、堂々とその処罰を受けよう…。公爵閣下が言うように各種のギルドは少々力を持ちすぎた。尾大の弊という言葉もある。これを機に、ちょうどいい具合になるかもしれん」
「ギルドマスター…」
「大したもんじゃねえか。国外追放された者が奇跡の治癒師様だってよ。はははは!」
俺は応接室から出て行った。一つの依頼書を王室に書くようギルドマスターより命じられていた。
その依頼書を書いて定期的に王城へと向かう通信員に持たせた。内容は
『奇跡の治癒師殿がバレンシアに訪れた時、当ギルドに属していたソニアとレイラという女性二人の顔面溶解を元に戻して下さい』
というものだった。被害者女性に罪は無い。これで国も救済のリストに二人を入れてくれるだろう。
「グレン、今度は見捨てず、助けてやれよ…」
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