END roll

秋 睡蓮

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7日前

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 「今から何処へ行くのかって?」
目的地がどこかを告げる事なく家を飛び出して暫く歩いた後
彼女からそんな問い掛けがあった
これと言って決めていた訳じゃない
唯、世界の終わりが成るべく遅く来る場所があれば
そんな望み薄な事を考えてしまっている自身に、彼女には分からないように舌を打つ
「ん?悪い、何でもない」
自分の様子がおかしい事を察したのか、心配げに彼女が顔を覗き込んでくる
心配は、させたくない
作った笑みを浮かべ、また歩き出せば
遠くに、遊園地の観覧車が見えた
「アレ、行ってみるか?」
彼女もあれが気になったのか
そこへ行く様促してやれば、それを良しとしてくれたらしく大きく頷く
互いに手を取ると、その方向へと歩き始めた
「何?」
途中、後をついてくる彼女が自分の服の裾を引き
脚を止め、首だけを振り向かせてみれば
やはりその顔から不安の色が消えることはない
「……何時化た面してんだ。今から遊びに行こうって時に」
また作った笑みを浮かべてやりながら
彼女の頬へと手を伸ばすとそのまま頬をつねり横に伸ばしてやった
何をするのかと彼女
そう、これでいい
普段通りに話して、喧嘩して、無理かもしれないけれど笑って
あの遊園地に辿り着くまで
そんな他愛のないやり取りをせめて続けていたいと願う
「そろそろ日が暮れてきたか」
ゆるり歩きながら
自分は一日の終わりを告げる夕暮れを眺め見る
このまま夜通し歩き続けるわけにもいかず
近くあったホテルへと泊まる事に
部屋へと入るなり、彼女は窓越しに夜景へと変わった外の景色を眺めながら
徐に初めてだねを呟いた
「初めてって、何がだ?」
何の事かが思い至らず問う事をしてみれば
彼女はベッドに横になった自分の傍らへと腰を降ろし
何故か不機嫌そうな顔をして見せる
何か、気に障る事でも言ってしまっただろうか
思い当たる節がなく、暫く考え込んでしまえば
彼女が肩を揺らしたのが知れた
自分の頬へとその手を触れさせ顔を覗き込んでくる
そして自分の身体を抱きしめながら
二人で外泊することが初めてなのだとその実を話した
言われてみれば、そうかもしれない
漸く、彼女が言わんとしている事を理解した
鈍すぎる、と起った彼女が自分の頬を抓り
その僅かな痛みに、だが自分はつい笑みを浮かべる
どんな形であれ、触れてくる手がまだある事が嬉しかったからだ
「……明日もまだ歩くから、もう寝ろ」
気付けば眠たげな表情の彼女
座ったまま器用に船をこぎ始めてしまっている彼女を自身の横へとゆるり寝かせてやり
「……おやすみ」
せめていい夢を
そう耳元で呟いてやり、自分もそのまま寝に入ったのだった……
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