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夜が明けると、昨日の雨がまるで嘘の様に晴れていた
藤本の様子が気に掛り、結局一睡も出来なかった戸河内
額にのる、すっかり温くなってしまったタオルを取り
熱を確認するため額に触れる
熱は、下がっていた
その事に安堵の溜息を吐けば、藤本の目がゆるり開く
ぼんやりとした視線
だがその眼はしっかりと戸河内の方を向く
「おはよ。樹」
「おはよ。調子は?辛くない?」
身体を起こしてきた藤本へ、確認する様に問うてやれば
大丈夫だと見せてくる笑み
だが喉は乾いたとの藤本へ、戸河内は水を持って来てやった
「ね、樹。これ飲み終わったら、少し、付き合ってくれる?」
ソレを飲み干すと藤本はベッドから降り
早々に身支度を整えると、戸河内を連れ車へと乗る
何処へ行くのだろう、とその横顔をまじまじと見やれば
「これで、本当に最後だから」
口元に微かな笑みを浮かべ、それ以上何を言う事もなく
唯々車を走らせた
暫く走り、到着したのは霊園
備え付けの桶に水を汲み杓子を取ると藤本は墓群の中を歩きだし
そして、とある墓の前でその脚を止める
佐藤家の墓
藤本は暫くその場に立ち尽くし、そして膝を折ると花を活け始めた
此処に(中)が居るのだろう
彼女をイメージしたのか、可愛らしい色合いの花々に
藤本がどれだけ(中)を想っていたのかが良く分かる
「私も、手伝っていい?」
やはりいつも通り、手際よく動かない藤本の手
微かに震える藤本のソレに触れてやれば
藤本はフッと表情を和らげ、頷いて返していた
その藤本から花を受け取ると、戸河内も生ける事を始める
「樹、ありがと。おかげで可愛く生けられた」
ありがとうと改めて戸河内へと向けると、藤本は両の手を墓前に合わせる
戸河内も同じように手を合わせ眼を閉じていた
次の、瞬間
戸河内の身体がふわり引き寄せられ藤本の腕の中へ
驚き目を開ければ、だが藤本は前を見据え
「……ね、中。俺は、今からを生きて行っても、いいかな?」
全てを忘れる訳ではなく、受け入れた上で(今)を生きていきたいと
想う人に、思う事を伝えてやる
返答がある筈はない、すべては自己満足に終わる
それでも、きっと伝わっているだろうと思った、次の瞬間
柔らかな風が吹き、生けたばかりの花をユラユラと揺らしていた
やっと、前に進んでくれるのだと、まるで喜んでいるかの様に
勝手な思い込みだ、それは解っている
だが頬を撫でる様なその風は、本当に優しかった
「……中さん、あのね!私、愛美の傍にずっといるよ!約束するから!」
その(中)に返してやる様に、戸河内が大声を上げる
「だから、だからもう、止まって無くていいよね!(今)を生きても、いいよね!?」
何度も何度も大声を張り上げる
その場にそぐわないのは重々承知だ、それでも
言わずには、どうしてもいられなかったのだ
全てを言い終え、肩で呼吸する戸河内
暫く後、また風が吹いてきた
良いよと言ってくれているかの様に更に優しく、そして柔らかく
「……ありがと、樹。これで俺は前に、進める。(今)を生きていけるよ」
「本、当?」
「うん。だから樹、俺の傍に居てくれる?」
ずっと居て
そう訴えられてしまえば、否など返せる筈がない
(今)を生きてくれると、言ってくれたのだ
ソレを傍で見届ける義務が自分にはある、と
戸河内は涙にぐしゃぐしゃになってしまった顔をなんとか笑みに変えながら
藤本へと何度も頷いて返して居たのだった……
藤本の様子が気に掛り、結局一睡も出来なかった戸河内
額にのる、すっかり温くなってしまったタオルを取り
熱を確認するため額に触れる
熱は、下がっていた
その事に安堵の溜息を吐けば、藤本の目がゆるり開く
ぼんやりとした視線
だがその眼はしっかりと戸河内の方を向く
「おはよ。樹」
「おはよ。調子は?辛くない?」
身体を起こしてきた藤本へ、確認する様に問うてやれば
大丈夫だと見せてくる笑み
だが喉は乾いたとの藤本へ、戸河内は水を持って来てやった
「ね、樹。これ飲み終わったら、少し、付き合ってくれる?」
ソレを飲み干すと藤本はベッドから降り
早々に身支度を整えると、戸河内を連れ車へと乗る
何処へ行くのだろう、とその横顔をまじまじと見やれば
「これで、本当に最後だから」
口元に微かな笑みを浮かべ、それ以上何を言う事もなく
唯々車を走らせた
暫く走り、到着したのは霊園
備え付けの桶に水を汲み杓子を取ると藤本は墓群の中を歩きだし
そして、とある墓の前でその脚を止める
佐藤家の墓
藤本は暫くその場に立ち尽くし、そして膝を折ると花を活け始めた
此処に(中)が居るのだろう
彼女をイメージしたのか、可愛らしい色合いの花々に
藤本がどれだけ(中)を想っていたのかが良く分かる
「私も、手伝っていい?」
やはりいつも通り、手際よく動かない藤本の手
微かに震える藤本のソレに触れてやれば
藤本はフッと表情を和らげ、頷いて返していた
その藤本から花を受け取ると、戸河内も生ける事を始める
「樹、ありがと。おかげで可愛く生けられた」
ありがとうと改めて戸河内へと向けると、藤本は両の手を墓前に合わせる
戸河内も同じように手を合わせ眼を閉じていた
次の、瞬間
戸河内の身体がふわり引き寄せられ藤本の腕の中へ
驚き目を開ければ、だが藤本は前を見据え
「……ね、中。俺は、今からを生きて行っても、いいかな?」
全てを忘れる訳ではなく、受け入れた上で(今)を生きていきたいと
想う人に、思う事を伝えてやる
返答がある筈はない、すべては自己満足に終わる
それでも、きっと伝わっているだろうと思った、次の瞬間
柔らかな風が吹き、生けたばかりの花をユラユラと揺らしていた
やっと、前に進んでくれるのだと、まるで喜んでいるかの様に
勝手な思い込みだ、それは解っている
だが頬を撫でる様なその風は、本当に優しかった
「……中さん、あのね!私、愛美の傍にずっといるよ!約束するから!」
その(中)に返してやる様に、戸河内が大声を上げる
「だから、だからもう、止まって無くていいよね!(今)を生きても、いいよね!?」
何度も何度も大声を張り上げる
その場にそぐわないのは重々承知だ、それでも
言わずには、どうしてもいられなかったのだ
全てを言い終え、肩で呼吸する戸河内
暫く後、また風が吹いてきた
良いよと言ってくれているかの様に更に優しく、そして柔らかく
「……ありがと、樹。これで俺は前に、進める。(今)を生きていけるよ」
「本、当?」
「うん。だから樹、俺の傍に居てくれる?」
ずっと居て
そう訴えられてしまえば、否など返せる筈がない
(今)を生きてくれると、言ってくれたのだ
ソレを傍で見届ける義務が自分にはある、と
戸河内は涙にぐしゃぐしゃになってしまった顔をなんとか笑みに変えながら
藤本へと何度も頷いて返して居たのだった……
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