僕と精霊のトラブルライフと様々な出会いの物語。

ソラガミ

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【2】ざわめく森は何を知る。

38)見えない…敵?

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 野営地を早々に片付け、奥へと進む。セラフィに案内を頼みつつ、念の為薬草と万能薬も探してもらう。今朝の治癒キュアはその力を借りたモノだ。使わずに発動できればいいのだがまだ自信はないし、万が一に備えておきたい。


 今日の森は少し空気が違う様だ。昨日に比べると重苦しさが少ない。そのせいなのか途中途中通常の魔物モンスターと遭遇する。蜥蜴型、鳥獣型、蛇型、昆虫型、襲われるのは決して好ましい状況ではないが、本来あるべき森の姿を垣間見れたような気がする。警戒しつつも戦闘に参加し、難なく撃退しては進んでいく。

 更に進めば蜂型魔物モンスターを治療した所を通過した。そこにあの魔物モンスター姿はなく、ポーションの空き瓶だけが転がっていた。無事に回復したんだなと思い、ちょっとだけホッとした。



「どうした?」
「いえ、ちょっとだけ空気が良いような気がしたので」
「確かにこの辺りは澄んでる気がするっすね!休憩とるなら今のうち?」


 あまり気にはしていなかったが、この辺りには不思議な清らかさがある。周りには見覚えのある草花が咲いている。この花の効能は何だったか。調合指南書を開けば出てくるはず。


「ここから先も何が起こるかわからないからな。戦闘もあったし、手入れしておくか」
「それなら僕は今のうちに調合しておきます。ジーク兄さん、これ約束の納品分です」



 丁度約束の期日である。今朝採ったハチミツを調合済みの【加護のエクストラポーション+】を20本。体力は8割、疲労も7割以上の回復、服用後しばらく状態異常無効と自然回復効果が得られたアリオット特製のポーションだ。加護だらけになっていてある意味恐ろしい。


「これ、本当に受け取って良いのか……?予想以上の効能で報酬と釣り合ってないぞ」
「いやいや、ジーク兄さん用に作ったので受け取ってくれないと逆に困りますよ!」


 これは店で売れないので、納品や譲渡分以外は自分で使うしかない。それでも今のところ4本は使用したが、まだストックはある。

「それに危険が残るこの森に連れてきてもらえました。奥地の解決にはジーク兄さん達の力が必要なんです。それならお互いの依頼と報酬で釣り合うでしょ?」


 無理矢理の説得ではあるが、出来てしまった物は仕方がない。失敗作どころか会心の成功作だったのだ。


「それならありがたくいただこう。今度追加で頼んでも良いだろうか……」
「もちろんです!あ、でも期間終わったら学校が」
「それなら学校の方へ依頼しに行こう。その方が騎士団から近いしな!」



 騎士団依頼品 ポーション20本の納品完了!





 納品のやり取りを終えると、ザックとジークレストは武器や装備の手入れをしている。アリオットは先程の花を調合指南書で調べる。
 清白花せいはくか、効果は龍仙花りゅうせんかと同じく魔除けや清浄の効果。だからこの辺り一帯の空気が清らかだったのだ。二つを混ぜれば『浄化のお香』ができるらしい。
 早速清白花をいくつか摘み取り、ハルから貰った龍仙花の匂い袋から花びらを少しだけ取り出す。今回の調合は擦り合わせるのがメインだ。調合セットからすり鉢を取り出し、2種類の花びらを入れる。ゴリゴリと擦り粉末状にしたら水を数滴垂らし、次は纏めるように練る。線香状や三角錐型にしたりと形は様々ある様だが、今回は三角錐型にする。形を整え、軽く乾燥させれば完成だ。乾燥させる時間がないので今は風魔法に当てておくことにした。サイズは小さいがなんとか3つ完成だ。



「ふぅ、出来たー」
『さすがますたー!ごほうびのばんのうやくです!』
「セラフィもありがとう!」


 万能薬のストックも4つになり、治癒キュアが必要になった場合でも何とかなりそうだ。
 ポーチの中を軽く整理し、剣も短剣もきちんと磨く。これで準備は良さそうだ。




「さて、準備万端かと思ったら早速お客様のようだぞ」
「えー、まさか変異体じゃないっすよね」
「通常種のオークだけど数がいるな」



 奥から向かってくる足音に耳を傾けながら、各々武器を構える。


「ザックはアル君と一緒に、アル君は拘束頼む。そっち側は任せる」
「っす!了解!」
「わかりました!」


 昨日の変異体と比べ、通常種は大人しいと思ってしまった。決して大人しいわけではないのだが、それだけ変異体が異常な狂気の塊だったのだ。
 おかげで昨日のような恐怖感はない。怯むことなく立ち向かえる。




「っし!アル君ナイスっす!」
「ザックさんもありがとうございます!」

「よし、前方が開いた!駆け抜けるぞ!」


 さすがに数が多いので捌ききるのは困難だ。躱して奥へと走り抜ける。気になるのは奥から漂ってくる例の空気だ。黒く澱んだ空気が辺りを包み込んでいる。奥に進めば進むほどに重たくなっていく。
 そして気になるモノはそれだけではなかった。
 首が落ちたオークがあちこちで見かけられたのだ。事切れたのは数時間前だろう。直視はあまりしたくないが、切り口は鮮やかに一直線。ただ、形相が様々なのだ。もちろん驚いている者もあるが、普段と変わらない表情の者もいる。一体誰がこのオーク達を仕留めたのだろうか。


「うっ!ここにもオークの……」
「うーむ……」
「敵の敵は味方って言いますし、味方になってくれないっすかね」


 このまま澱んだ空気の中で放置するわけにはいかないので、手分けして光魔法を掛けていく。少しだけ空気が柔らかくなった気がする。



「こういうのはヴィクがいれば楽なのにっ!いっその事リュシオンでも構わん!あいつに全部やらせろっ!!」
「いやいや、さすがに王子連れて来るのはまずいっすよー。ほら、手を動かすっすよー」



 半ばやけくそ気味のジークレストが叫ぶ。そもそも王子の扱い方がそれでいいのだろうか。



「落ち着いたら絶対連れてくる」
「やめてあげて!森無くなる!!」




 森に王子を連れてくるのはどうかと思ったが、ジークレストのあの目は本気だ。しかし何をしたら森が無くなるレベルの騒動になるのか。そして危険を察知したセラフィの目も光る。



「えーっと、とりあえず破壊だけはしないでくださいねー」



 お願いですから木精霊を敵にまわさないで下さいねー


 敵か味方かわからない存在を気にしつつも、味方からも敵が出るのを防がなければならない状況にチクリと胃に痛みが走った気がした。


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