僕と精霊のトラブルライフと様々な出会いの物語。

ソラガミ

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【2】ざわめく森は何を知る。

54)情報収集、ザック編。

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 翌朝。

 周りの騒がしさに目を覚ましたザックはベッドから出ると先にアリオットの様子を見る。昨晩と変わらずスースーと寝息が聞こえてきたのでホッとする。枕元にいたセラフィの姿は既になく、またどこかへ行ってしまっているらしい。
 とりあえず身支度を整えて朝御飯の調達をしよう。今日は調査が大半だろう、お腹を満たさねば動きも鈍る。アリオットが起きた時にも食べさせてやりたい。

 部屋を出ようと思ったらコンコンとノックの音が。特に差し支えもないので「どうぞ」と答えると、現れたのはシェフ帽を被った戦闘蜂コンバットビーだった。

『おはようございます!ニンゲンの皆様のお口に合うかわかりませんが、食べられそうな物をご用意しました~!』

 テーブルの上に並べられたのは木の実や果物、焼いたキノコに魚。そして……


『私オススメのハチミツたっぷりの蒸しパンにございます~!ジャムもご用意しましたので、ホットミルクと一緒に是非ともお召し上がりくださいませ~!』


 ふんわりとした黄色い蒸しパンの生地はハチミツのおかげでしっとりと仕上がっており、ほのかに甘い香りが食欲をそそる。


「これ凄い美味しそうっす!キミが作ったんすか!?」
『はい~!申し遅れました、料理蜂シェフビーにございます~。収集蜂コレクタービーの亜種にございまして~食材の収集癖から調理に開花したのがきっかけにございます~』


 新たな蜂の名前が出てきたが一体どのくらいの種類がいるのだろう。役割ごとに存在しているのはなんとなく理解できる。が、さっきからお腹がグゥグゥと鳴り止まない。この蒸しパンを早く食べたいのだ。


「くぅーっ!丁度お腹空いてたんすよ!ありがとうっす!」
『魚も今朝、川から採りたてでございますよ~』

 亜種ということもあり、集めるのは得意らしい。彼の場合は食材収集特化だろうが、それにしても面白い戦闘蜂コンバットビーもいるものだ。……戦闘蜂と言っていいのかわからないが。


「色んな蜂がいるんすね!あ、これめっちゃ美味いっす!」

 口の中に広がるハチミツの甘さ!そして木の実のジャムの酸味と相まって手が止まらない。これ、王都で売ったら流行るんじゃないか??

『私の場合は支援型サポートになりますからね~戦闘には滅多に立ちませんが~種族を支える後方支援です~』
「あ、戦闘もするんすね」


 他にも支援型には子育て係とかハチミツ作成係とか医者の様な存在もいるらしい。そういえば昨日、最初に治療を施していたのはその医者の蜂だったのかもしれない。


『一部の者は毒物の扱いが得意ですから~』
「な、なるほど」

 いくら支援型とは言えどやはり戦闘蜂コンバットビー戦闘蜂コンバットビーだった。それぞれの得意分野で戦術を持ち合わせている、ということか。……ということは……


『あ、料理ならおまかせあれ~!敵でもちょちょいと仕留めますよ~!毒でも麻痺でも盛っちゃいますよ~!』

 ニコニコとしたまま片手間にスパパッと果物をカットする。その手さばきは速すぎて見えない。思わずゴクリと唾を飲み込んだ。


「……蒸しパン気に入ったのでキミは敵に回したくないっす」
『ふふふ、そんなに気に入っていただけたのですか~!嬉しいなぁ~!』



 のほほんとしながら怖い事をサラリと言いのける。でも蒸しパン美味しいんだ、ホント。


「そうだ、魔力とか疲労回復できる食べ物飲み物って何かないっすか?アル君が起きたらそれをあげたいんすけど……」
『木精霊の契約者様用にですね~!うーん……疲労回復ならハチミツだけど~他にも美味しくいただける様な物をちょっと見繕ってきますね~!』


 言うや否や彼はブーン!と飛んでいってしまった。
 魔力切れだったのだ。一晩寝ただけでは全快とまではいかないだろう。エーテルでもいいのだが、決戦の際にも使うのは目に見えているのでなるべく温存しておきたい。どこかに霊脈となるポイントがあれば……



「あ、そっか」



 そもそもここは地下とは言えど世界樹だ。ならば要となる場所がある筈。


「こういう時は探し物っすから、やっぱり……ウィスプ!」


 召喚陣を展開して喚び出す者。お馴染みのほわほわとした光の塊。



「ってことで、ちょいと霊脈とか魔力溜りとかあちこち探し出して欲しいっす!」
『了解ー!おまかせーっス!』



 ウィスプはフワッと霧散して捜索開始。蒸しパンをモグモグしながら報告を待つ事にしよう。



「あとは偵察の方っすね。女帝様に部隊編成聞いておかないと。誰を喚ぶかなぁ」



 今後の動きを予想しつつホットミルクを啜る。癒される温かさだ。とりあえず今はあちらこちらからの情報、料理蜂シェフビーが戻って来る事、そしてアリオットが目覚めるまで綺麗にカットされた果物をいただきながらゆっくり待つ事にした。

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