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【2】ざわめく森は何を知る。
78)親父ーズ登場。
しおりを挟むさて、会議室に入るなりイグニスに怒られたジークレストであったが、そもそも事前に会議の日程を聞いていない。否、聞いたは聞いたがほんの5分程前のことである。それでも昨夜の深夜会議の事や今朝の国王含めた話もしているので、主要メンバーを集めて近々やりそうだなぁと薄々感づいていただけだ。
「いやぁ、だってホント伝令とか全然無くて聞いてませんでしたし!隊長・副隊長格だけが集まると思ってたんですよ!?」
今、会議室には一部を除く各部隊の隊長・副隊長が揃っている。長机が四角く並べられており、右側面の席には前方から第一部隊の隊長であるレドロックと副隊長のウィンザ、第二部隊の隊長であるオーギュストと副隊長のブリッツァが。左側面の席には前方から第三部隊の隊長代理兼副隊長のカイルと補佐のレストン、第四部隊の隊長であるオリヴィエラと副隊長のデンゼルが着席中だ。第五以降の部隊は通常任務ということで今回は除外らしい。
そして問題なのが前方の席にいる方々である。椅子は4つ、左から順にジークレストの席、団長イグニスの席、そして更に着席済みの騎士団員ではない人物が2人。片方はがっちりとした重装備の鎧を、もう一人は魔術師なのかローブを纏っているが、内側に軽鎧も着込んでいる様子。どちらも国王直属の証である勲章を身につけている。
「何で親父殿までいらっしゃるんでしょうかねぇ…!?聞いてたら俺出ませんでしたよあいたっ!」
「いいからお前は席に着け!話が進められん!」
「はっはっは!相変わらずやんちゃしとる様だなぁジーク!偶には家に帰って来い!」
「うわぁ……今言わなくてもいいだろぉー……っつかそれ親父もだろ!?」
2人のうちの重装備の方がジークレストの父親である。名をイルヴェスタ・ユグドレイン。現在、国王直属・近衛部隊に所属している。何故ここに来たのかと訪ねれば国王からの命令だという。近衛部隊屈指の実力者であることはもちろん知ってはいるが、何故国王はイルヴェスタを差し向けたのだろうか。こんなのある意味公開処刑だ。会議が始まれば空気は変わるだろうが、居た堪れないこの状況から早く抜け出したい。
「ほらほら坊ちゃん、早く会議始めましょ」
「坊ちゃん言うな」
オリヴィエラがすかさずおちょくってくる。こういった弱みを彼女に見せると厄介だというのに。色々文句はあるが進まなければ会議は延々と終わらないので大人しく席に着く。ドラゴンとの約束もあるので早く終わらせてさっさととんずらしてしまおう。
コホンとイグニスが咳払いをする。それを合図に全員が姿勢を正し、向き直る。
「さて、此度の議題だがトスリフ南方の森林地帯を中心に異常事態が発生している。一番厄介なのがオーク系魔物が北上、徐々に侵攻していきている事だ。由々しき事態であるが故に国王陛下も近衛部隊・宮廷魔術師であるこちらの2名を派遣なされた」
その説明からしてイルヴェスタの隣にいる人物が宮廷魔術師なのだろう。穏やかににっこりと佇む姿に一瞬だけ空気が和む。
壁面に貼り出されたここら一帯の地図を参考に、イグニスが各部隊の配置予定と該当箇所を指で示しながら話を進めていく。第二、第四部隊に関しては昨夜の会議通りの配置となった。
「さて出没したオークについてはお前の方が詳しいだろう、ジーク。説明を頼む」
コクリと静かに頷くとスッと席を立ち上がる。
「先日、イグニス団長の命でトスリフ南方の森に調査に向かった際、中庭にいるドラゴンが狩ってきたのが大将軍級のオークだ。場所は森とトスリフの間の平原、禍々しい黒い短刀を所持していた。森林地帯には他地区から邪な魔物が入らないようにと結界が張ってあった。が、その黒い短刀で結界を破りこちらの地方まで侵攻してきたと見ている」
『禍々しい黒い短刀』、そのキーワードに目の色を変えたのはカイルとレストンの2名だ。
「それって例の『契約切り』と似ているような……」
「そういう事だな。既に回収済、現在はリュシオン殿下のところで解析中だ」
2人は何故自分達も召集されたのか理解した様だ。王都内及び王都周辺の警護は第一部隊が、トスリフと森の間平原は第二部隊が、空路から森を通過し反対側から攻めるのが第四部隊が担当。第三部隊にはこれと言って指示が出ていなかったのだが、現在ザックが森の中心にいる事もあり森の中の戦闘を彼ら第三部隊に担当してもらう、とイグニスが決めたらしい。ザックの召喚術もある、慣れた者が一緒の方が連携も取れやすいと判断した様だ。
世界樹に関しては女帝蜂による秘匿がある。あれは許された者でなければ見ることも感じることも無い。彼女さえ健在であれば世界樹の存在が暴かれる心配はほぼほぼ無い。
更にドラゴンの話からすると現在交渉中らしいが、シルバーウルフの助力も得られるかもしれない。戦闘蜂達も含め、魔物の勢力もそこそこ多くなると考えられる。そんな中に何も知らない他部隊の者が混ざってしまったら混乱は避けられない。召喚術師も所属している彼らの部隊の方が慣れるのも早かろう。後程カイル達に彼らが味方である、ときちんと説明をしておかなければ。
「では王城中心にはなるが、その付近は我々近衛部隊も尽力すると約束しよう。なぁ?グレンストン」
「もちろんですよ、イルヴェスタ。みなさんと協力する為に我々もこの場にいるのですから」
ほっこり癒し系魔術師はグレンストンという名前らしい。イルヴェスタ同様になかなかの年齢、つまり親父と言っても差し支えの無い齢である筈なのだが、魔術師故か見た目がとても若々しい。深い緑から毛先にかけて紫という特殊な色合いの長い髪をサイドにゆったりと結わい、丸いレンズの奥に時折見える透き通った水色の瞳。ふんわりと纏うとても柔らかい空気、しかし芯はしっかりとしている。その独特な雰囲気に何故か既視感を覚えるのだが、どこでそれを感じていたのかイマイチ思い出せない。
そもそも豪傑豪快で周りを萎縮させまくるイルヴェスタに億劫もせずにいられる時点で只者ではない。
ずっとモヤモヤが晴れぬままに会議は進み、全体の方針は確認できた。程なく解散した後、グレンストンの元へと向かう。親父がお世話になっている事もあり、自己紹介がてらお礼をしようと思ったのだ。
が、まさかそこで新たな衝撃を受けることになろうとは。
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