センのひき方

2章

取調

「すいません。人が…死んでます。救急車と警察を。場所は…。」

なんでだよ。
こんなもの見るはずじゃなかった。血だらけの先輩。包丁を片手に壊れたように座り込む奥さん。何も知らずに幸せそうに眠るお子さん。

「どうしてこんなことに？奥さん。」
『私のせいじゃない。あの人が…。あの人が私を愛してくれないから。」
そう言うと奥さんは箍が外れたように泣き崩れた。

しばらくすると遠くからサイレンの音が近づいてくるのがわかった。ぞろぞろと制服の人間がはいってきて、その間もずっと奥さんの涙が止むことはなかった。俺も第一発見者として取り調べを受けることになって。警察署に向かったんだ。

簡潔に、結果だけ。
まず、先輩。もう帰らぬ人となった。多くの人間がその早すぎる死に悲しみを抱いた。
次に奥さん。言わずもがなこの事件の犯人だ。刺した動機は"私を愛さなかったから"。キャバクラに行った日から日に日に不満がたまったらしい。
えっ？それだけで？って思うよね。これにはわけがあった。そう、奥さんがボーダーだったんだ。だから先輩はなんの心配もかけないように完璧人間になったらしい。やっぱりあの時、俺がついて行けば少しは奥さんの誤解も解けたはずなのに。

最後に子供。まだ2歳の娘さん。父は他界、母は刑務所。きっと苦労の多い人生になる、それでも生きていかないといけない。殺人の罪の大きさが分かる。被害者はもちろん、残された人間への被害も大きい。