レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか

宮崎世絆

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学園編

4 クラス分け魔力測定だよ

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 鍛錬場に入ってみると、学園寮の玄関ロビーと同じくらいの広さだ。

 本革ソファーが随所に置かれていて、どこぞの高級ホテルのようなハイクオリティ感が漂う空間に、ここ本当に鍛錬場だよね? と疑いたくなる。

 ロビーの先にある中央の廊下の左右には、更衣室と書かれた扉がある。
 その廊下の先には、大きな扉が見える。多分あそこが実際の鍛錬場なのだろう。

「先に魔力測定方法を説明しますね。鍛錬場に設置してある的を、ご自身の得意魔法で攻撃していただきます。その威力や精度などを、的に取り付けられた測定器で測定し数値化して、その数値がそのまま点数となります。測定は一人一度だけ。やり直しは出来ません。
簡単な測定なので、制服のままで測定して頂きます。そして、この測定の順番ですが。公平を期すため皆さんにクジを引いていただき、引いたクジの順番で測定を執り行います」

(抽選、かあ。……そういえば、前世の私って抽選くじでは残念賞しか出なかったような……)

 ミーストは奥の大きな扉の前に設置された備え付けのカウンターに近づくと、その上に置かれていた箱を持った。前世でも馴染みのある抽選箱そっくりだ。
 軽く箱を左右に振ると、箱の中からゴロゴロと何かが転がる音がした。

「この中に番号が書かれた小さなボールが入っています。お好きな順番で構わないので一人ずつボールを一つ、取って下さい。あ、希望する順番で無かったとしても順番の交換は駄目ですよ? 手にしたボールは全員ボールを取るまで、手に持っておいて下さい。では、どなたからでもどうぞ」

 両手で持った抽選箱を、薦めるように笑顔で少し前に出した。


 実技試験は初っ端だとかなり緊張するものだ。
 ソレイユも皆の実力が知りたいのでトップバッターは避けたい。

 色々考えてしまい、他の生徒同様抽選箱に足が進まなかった。

 全員、抽選箱を見つめて動かなかったが、しばらくしてミーストに一番近かった生徒が意を決した様にミーストに近づいて、抽選箱に手を入れた。

 ゴロゴロといくつものボールが転がる音の後、生徒は箱から手を抜いた。
 かなり小さなボールの様で、手の平にしっかりと包まれていて番号は見えなかった。

 この生徒に触発されたのか、他の生徒も次々と抽選していく。

 ソレイユは焦らずに一番最後にクジを引くことにした。

(残り物には絶対、福がある……!!)


 希望通り最後になったソレイユは、勢いよく抽選箱に手を突っ込む。
 手をいじって残っていた最後のボールを掴むと、しっかりと握りしめてゆっくりと箱から引き抜いた。

「はい。これで全員ボールを手にしました。番号を確認して、私の前に『1』から順番に並んで下さい」

 そう言うとミーストは抽選箱を持ちながら、鍛錬場の入口らしき扉の前へと移動した。


 恐る恐る指を開き、手の平にあるボールを確認する。


「では、『1』のボールの方、こちらへ」

 ソレイユのボールに書かれた番号は




『39』



(ぅおっっしゃゃあああぁぁぁぁーー!!)


 嬉しさのあまりボールを握り潰しそうになって、慌てて手の力を緩めた。

 一番を引き当てた女子生徒はやや落胆した面持ちでミーストの前に移動する。次に二番三番と、番号を確認し合って次々に並んでいく。『39』のソレイユは最後尾だった。

「ボールを回収に回りますので列はそのままでお願いします。この抽選箱にボールを戻して下さいね」

 生徒の横に立って、順にボールを回収していく。

 ソレイユは手に持っているボールを感慨深く見つめた。

(『39』ボールよ。君をこれ以上愛おしく思えた日が、あっただろうか。いや、ない。心から感謝するよ『39』ボール、サンキュー!!)

 クソつまらない親父ギャグと共にボールを抽選箱へと戻した。

 ミーストは抽選箱をカウンターに置くと、そのままその奥の大きな扉に近づき、扉の中央に埋め込まれた魔法石に手を触れる。
 するとその大きな扉は左右に自動でゆっくり開いていき、完全に扉が開き切った。

「では皆さんお入りください。ここから先は魔力測定が完了するまでの間、専門の担当者が試験を執り行います。担当者に従って行動してくださいね」


 ぞろぞろと中に入り、最後尾のソレイユが入るのを確認したミーストが扉の外側に出た。

「では皆さん、魔力測定頑張って下さいね」

 扉が自動的に動き出した。微笑みを浮かべたミーストの姿が、徐々にその大きな扉に遮られていく。

 やがて完全に閉ざされた音が、やけに大きく響いた。



 外部から閉ざされた鍛錬場の中は、少し薄暗くひんやりとした冷たい空気が流れている。
 広さはアームストロング家の鍛錬場とほぼ同じ。作りもほぼ同じに見えた。

 観客席に囲まれた中央に闘技場のようなグラウンド。

 ソレイユ達から遥か先。かなり離れているのでよく見えないが、何やら金属で出来ていそうな的らしき物が設置されているのが分かった。

 手前側、入口の扉の少し先にはミーストと同じローブを纏った担当者らしき人物が数名、書類を持って立っていた。
 しかしミーストと違い、頭までフードを被っており、顔は見えない。
 その中の一人がこちらに歩いてきた。

「では、これから魔力測定を開始する。あちらの印のある位置に立って名前と得意属性を名乗った後、的を目掛けて魔法を撃つように。一番目の生徒、こちらに来なさい」
「は、はい!」

 トップバッターの生徒は緊張した面持ちで指定された場所に立った。

「ス、ストラと申します! 得意属性は火です! 宜しくお願いします!」
「ではストラ、自身の最大攻撃魔法であの的を攻撃しなさい。あの的は特殊な金属で出来ているので、どんな攻撃でも的確に魔力を測ることが出来る。全力で攻撃するように」
「わ、分かりました! では行きます!」

 ストラと名乗った生徒は深呼吸すると、意を決したように的を目掛けて両手を向けて掌を広げた。

「我の前に立ち塞がりし全てのものを焼き尽くせ! 激しい炎バーニングファイアー!!」

 掌から溢れ出た真っ赤な炎が一直線状に勢いよく放たれ、的が業火を受けたように燃え上がった。

「ハア、ハア、ハア…」

 魔力を大量に消費したのか肩で息を整えている。
 指示をしていた担当者とは別の担当者達が、炎の消えた的に向かって走り出す。的を念入りに観察した後、高らかに声を上げた。

「五、三、で合計八です!」
「五、三で八。では、次。二番の生徒は一番の生徒と交替。測定が完了した生徒はその辺の観覧席に座って待機。邪魔にならなければどこでも構わない。一番目の生徒、さっさと行きなさい。二番目の生徒、早くこちらに来なさい」
「「はいっ」」

 こうして次々と生徒が代わる代わる、的に向かって攻撃を繰り出していく。

 つぶさにそれらを観察していたソレイユはある事実に気が付いて、たらりと冷や汗を流した。


(み、皆んなのレベルが……低すぎる……!!)

 高い魔力の持ち主が勢揃いだから、さぞかし高威力の魔法が見られると思いきや。
 繰り出される攻撃はどれも一見派手だが、威力に乏しい魔法ばかり。

 見事なまでに見掛け倒しな魔法だった。


「ふむ。女子生徒は今年もこの程度か……」

 終盤に差し掛かり、側に居た担当者が小声で漏らした内容ですぐに気が付いた。

(あ、そうか。お母様を基準に考えたら駄目だった! 貴族のご令嬢だから、攻撃魔法が得意な生徒って少ないんだ! ……という事は、お母様のような戦闘型令嬢は結構レアな存在なのかも!?)

 やや高威力な魔法を繰り出した生徒が数名はいたが、特に目を惹く魔法は無くとうとうソレイユの番が回ってきた。

「君が最後の生徒か。では始めなさい」
「あの、すみません。私が最後ですし、せっかくなのでお聞きしたいのですが。男子生徒の魔法って、やっぱりもっと凄かったですか?」

 内容が内容だけに答えてくれないだろうなーと思いつつも、担当者にそれとなく質問してみた。

「ああ。それはその通りだ。中には過去最高得点を叩き出した生徒がいたな。まあ、女子生徒にこの試験は分が悪いのは仕方ないことだ。そう落ち込むことはない」
「ああっ、やっぱりそうなんですねー! 教えていただきありがとうございました! では、ラスト三十九番ソレイユ。水魔法、撃ちます!」

(なるほど。男子生徒にはあの公爵の嫡子達がいるもんね。ならそんなに手加減しなくても大丈夫かも? 筆記テストも一箇所わざと間違えたしな……。いやいや、やはり目立つのは良くない。ここは派手さや威力は最小限に抑えて、的確さを売りに的のど真ん中狙いでいこう!)

 右手を的目掛け水平に構えると、指をピストルのように構えた。

(カッコよく名うてのカウボーイスタイルで。とりあえず無言呪文は目立つだろうから、カッコつけで一言だけ付けておこう)


「敵を貫け水射撃ウォーターショット

 人差し指からピストルの如く発射された水魔法は、ジェット噴射のように目にも留まらぬ速さで的のど真ん中を完全に撃ち抜いた。


 そう、撃ち抜いた・・・・・


 的を突き抜けた際の金属音が、静かに響き渡った。


(……やばい。的貫通しちゃった。『貫け』って言葉が言霊になって、魔法の威力が勝手に上がっちゃった? ……って事は…………もしかして私、やらかしちゃいました?)
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