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大人ノ関係ノ勧メ
それはビジネスライク的な何か
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―――数日後の日勤。
小鳥遊は、いつものように朝早く来ては、スタッフと軽い冗談を言って笑っていた。
冬が挨拶をすると、優しい笑顔を浮かべておはようございますと返した。
朝のミーティングが終わり、患者の元へと向かう。
不意に背後に気配を感じ、振り返ると小峠が立っていた。
…‼︎
「あれが最後じゃ寂しいから…食事行こう♪小鳥遊先生とだなんて…他に好きな医者でも出来ちゃった?」
冬の尻を鷲掴みにした。
…禿。一度死ね。
「ちょっと…他の人に見られますよ。」
完全に仕事モードのスイッチが入っている冬は、軽くあしらった。
「ねぇ…最後はちゃんとホテルでお別れしようよぉ」
意識の無い患者の部屋へと入ると、小峠も後をついて来た。
「先生とお付き合いをした覚えは、ありません。私に構う暇があったら、沢山いらっしゃる彼女さん達を大切にして差し上げたら、どーですか?」
備品の不足や、ドレーン類に点滴など…トラブルは無いかを、丁寧に確認する。
「あ~もしかして…月性ちゃん…嫉妬してるの?」
シーツの皺を整えて、ベッド柵や棚などを除菌用シートで丁寧に拭く。
嬉しそうに小峠は白衣のポケットに手を突っ込んだまま聞いて来た。
…スナップ利かせて,その禿げ頭をぶっ叩いてやろうか?
「…だから,もう別れるとか,臍曲げちゃった?」
冬が患者の吸引をすると人工呼吸器のアラームが鳴り、それを小峠がすかさず止めた。
「体位変換手伝って下さい」
…居るなら働けよ。ハゲ!
人口呼吸器の蛇腹を小峠に頼み、冬はゆっくりと患者の身体を横に向けた。患者の背中に床ずれが無いか等も、確認しつつ衣類の皺を伸ばす。
「女の子なんていないよぅ」
…嘘つけ禿。他科の看護師が嬉しそうに話してたのを聞いたぞ。
人口呼吸器の位置を整え、小峠は、今度は冬に変わり、反対側に患者をゆっくりと横に向けたまま支えると、その間に冬はすかさず枕を当てがう。
「では…外科の子は?」
小峠は、その間に人工呼吸器の設定を確認しつつ、冬はその隣で吸引を行う。
咳嗽反射が起こり、アラームが病室内に響く。
その度に小峠は、アラームを切った。
冬が冷たく聞くと、小峠の言葉が一瞬滞った。
「あ…あれは友達だよ」
小峠は、神経質な笑いを浮かべた。
…このタコ…完全に目が泳いでいるぞ。
海へ帰れ。
「心療内科のクラークさん…でしたっけ?とっても可愛らしい人ですよね」
小峠の反応を冬は観察していた。
「あぁ…あの子?言い寄られているだけ」
小峠は、完全に動揺している。
…笑止!お前が言い寄ったんだろーが?
「もうおしまいです。」
冬は冷静に小峠をじっと見据えた。
「ホテルが嫌なら、
今度、僕のマンションに来て話そう」
…どっちも嫌じゃ!ボケッ!
ふと個室前にある、ナースステーションに小鳥遊がいるのが見えた。
「無理です…。お話はこれでおしまいです。」
PC前に座っていた小鳥遊と冬は目が合った。
「え~寂しいなぁ。月性ちゃん僕を信じてくれないの?僕は君に一途だよ?。」
…黙れ!虫唾が走る!!
愚図る小峠に手を焼いていると、小峠の背後から小鳥遊が突然現れた。
「小峠先生,来月の当直のことでお話があるんですけれど…ちょっと良いですか?」
小峠は、ビクッとすると慌てて振り向いた。
小鳥遊に聞かれていたかも知れないと、焦った様だ。
「小峠先生は、もしかして月性さん狙いですか?実は僕もなんですよ…。」
冗談とも本気ともつかないことを言うと、
小峠を連れ出した。
…ああ もう!
心臓に悪いよこのシュチュエーション。
去り際に小峠は、懲りずに冬に言った。
「僕は…関係を公にしても良いと思ってる」
小鳥遊もそれを聞いて苦笑い。
…だが 断る。
「そんなことしたら,恋人が沢山いらっしゃる小峠先生が困るんじゃないでしょうか?」
「はいはい…痴話喧嘩はそこまでにして…小峠先生…。」
小鳥遊はなだめる様に小峠を個室から連れ出した。小鳥遊を味方に付けた以上、怖いものはなかった。
…言いたいならどうぞ。誰も信じないと思うけど。
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+ 🐈⬛
冬は病棟師長に呼び出された。
「学会へ行ってみない?」
「…学会?ですか?」
…って医者の…よね?
医師学会で小鳥遊が症例発表をするのだが、
助手を頼めないかという話だった。
「有給消化になっちゃうけど?あなた行ってくれない?新人じゃ無理だし、あいにく私も行けないの」
毎年、病棟師長か助手で付き添う学会だ。
「…分かりました。お引き受けします」
冬は即答した。
「良かったわ~♪他のスタッフじゃ、心許なかったのよ」
師長は、人望の厚い冬を頼りにしていた。
今は空席になっている主任のポストに、
冬が就くのでは無いかと、スタッフの間で噂されている。
「では、お願いしますね。小鳥遊先生には伝えておきますから。」
師長は他のスタッフに呼ばれて、去っていった。
小峠は相変わらずしつこく冬にアプローチし続けていたが、小鳥遊医局長は約束通り?さりげなく冬から小峠を引きはがした。
…ポーカーフェイスの医局長。グッジョブ!
あの‟あなたが相手なら光栄です事件“以来、
何も変わったことは無い。
毎日が忙しく過ぎて、あれは夢だったのか?と冬は思うようにさえなった。
…夢でもちょっと得した気分♪
そんな風に冬は思っていたある日。
患者を検査に出す為、エレベーターに乗り込むと、偶然小鳥遊が先に乗っていた。
「お疲れ様です」
冬は車いすに乗せた患者と共に乗り込んだ。
「息子の嫁に来てよ。美人だし、しっかりしてるし、歳は少し上だけど、今の時代そんなのあんまり関係ねーだろ?」
歳は少しじゃ無くて、
かなりの姉さん女房ですよ?と冬は笑った。
「面会に来た時にさ、月性さんのことを気に入ったみたいで…電話番号聞いといてって頼まれちゃったんだ」
小鳥遊にも説明している患者。
病棟には若くて可愛いスタッフが沢山居るのに、何故自分なのかと、冬は笑って相手にしなかった。
「あいつは、なかなかここに来れないし,来る時には月性さん居ないんだよね。だからね、こうして俺が息子の為に聞いてやってるの」
エレベーターはゆっくりと静かに降りていく。
「タバコ吸うな、酒飲むな、油ものは控えて…とか煩い嫁になりますよ?それに嫁になっても、仕事は続けたいですし、専業主婦は無理ですよ?」
結婚して家庭に入ることなど、想像できなかった。
「そんなことぁ判ってるよ。でもこの間…若造に告白されていただろう?あいつは絶対駄目だ。ありゃヒモになるタイプだ」
冬はケラケラと笑い、
患者の情報網に関心した。
「えっ?月性さんそんなことがあったんですか?誰だろ…?」
小鳥遊が口を挟んだ。
「あぁ…SAH|で入院されていた遠藤さん…のお友達です」
冬はエレベーターの表示の数字がどんどん減っていくのを眺めていた。
「それだけじゃ無いだろ?高橋先生だって月性さんのことが好きだって言ってたぞ」
「えっ?」「そうなのっ!!」
小鳥遊と冬が同時に声をあげた。
脳外科の若い大人しくて、人畜無害の医者だ。
「知らなかったんですか?」
小鳥遊が再び驚いて口を挟んだ。
「知りませんよ!びっくりです…。仕事が、し難くなるので、聞かなかったことにしますっ」
冬が真面目な顔で答えたので、小鳥遊はそれが無難ですねと笑った。
「まぁ~上司の居る前で言うのも何だが、手癖の悪い小峠先生よりも高橋先生の方が真面目で良いと思うんだよね。あーあ。やっぱり高橋先生が相手じゃ俺の息子に勝ち目はねぇなぁ…。」
物知り顔でいう患者に小鳥遊も冬も思わず噴き出した。
「あと…は…ほら…誰だっけ?」
小鳥遊は、患者の話に聞き耳を立てている。
冬は慌てた。
「あーっ。もう良いですよ!何でそんなにゴシップに詳しいんですか?」
…変な汗が出てきた…ょ。
「そんなことはどーだっていいんだ。要するに息子のライバルは一杯居るってことだ。どうせ彼氏居ないんだろ?」
…どーせって何さ。
小鳥遊が横でクスクスと笑っている。
「彼氏が居るって申し上げたら、諦めてくださいます?」
「えっ?彼氏居るの?」
患者と小鳥遊が同時に聞いた。
…医局長…何で会話に混じってるの?
「いえ…居ないですけど」
とても小さな声で冬は答えた。
「なんだよ月性さん。びっくりさせやがって!」
小鳥遊が声を出して笑ったので、
冬はじろりとにらんだ。
「今度息子に電話番号教えてやってくれ。頼むっ!!お願いだ。」
冬はただ笑うだけで、それ以上は返事をしなかった。
「僕だって月性さんの電話番号知らないのに…ずるい」
医局長が口を挟んだ。
「そりゃぁ…小鳥遊先生は奥さん居るんだろ?それなのに看護師に手ぇ出しちゃぁ…まずいでしょう」
「うん…確かに」
小鳥遊は神妙な顔をして頷いた。
…そうだ離婚したことを公表していないんだっけ?
そして患者と笑った。
ーーーチーン。
エレベーターのドアが開き、小鳥遊は降り掛けた所で、ああそうだと言って、大きな手で閉まりそうになるドアを止めた。
「あ…月性さん。後で、当直室にちょっと来て貰えますか?」
…あ…そっか。今日は先生が当直か。
「あ…はい。わかりました…。」
冬は、そう言い残して足早に去る小鳥遊の背中を、ドアが閉まるまでじっと眺めていた。
「月性さん…小鳥遊センセはカッコ良いけど、奥さん持ってるひとじゃぁ駄目だ。不倫は止めときな。」
「大丈夫ですって。」
冬は笑った。
「小鳥遊先生みたいに、仕事が出来る男はね、女遊びも激しいって相場は決まってんの!
泣くのは女だからね…」
その様子を見て、患者が真面目な顔で諭した。
冬はエレベーターを降りてから気が付いたが、小鳥遊の院内携帯は知っていても、流石にこんな事でかけるわけにもいかない。
いつ当直室へ行けば良いのかも分からない。
…連絡…どうしよう。
日勤の間、色々考えていたが、そんな心配は無用だった。日勤終わりに緊急入院が3件入った。
「もう…マジで…信じられない。」
冬の同僚岩田が呟いた。
それに賛同して看護師達は頷いた。なんで、師長はベット空いてるからって他科取っちゃうかなぁ。しかもその後2件 ヘビーなのだし…と看護師達の口からは次々に文句が飛び出した。
「手伝うから、目標20時!」
「えええーっ。」
「月性さん絶対そんなの無理だよ…。」
「もしそれまでに終わらなかったら、ご飯おごっちゃう♪飲みにでも良いよ。」
こういう時こそ、遊び心が必要だ。
「マジで?月性さん一緒に行ってくれるの?!だったらゆっくり仕事しよう♪」
「コラ…そんなの駄目」
若い子達は一気に盛り上がった。小鳥遊医局長が病棟にあがってきた。
「みんな本当に…済まないね。後でピザ頼むから許して…」
小鳥遊が済まなそうに言った。
「わーい♪ それなら私頑張れそう!」
若い子たちも一斉に張り切った。他の医者は外来がまだ忙しいと言って病棟には上がってきていなかった。
「出てない指示や処方が合ったら、僕が出しますから言って下さい。あと入院指示書くから…担当看護師さん誰~?」
小鳥遊の仕事は早く無駄が無い。
しかもそこに居るだけで、士気があがる。
新人二人が入院を取ったが、冬が手伝った。1時間後には看護計画を立てるだけの状態になった。
「うわぁ…まだ7時前だぁ。今日は小鳥遊先生が居てくれたし、月性さんに沢山手伝って貰ったから早く終わったぁ~。後は看護計画だけだから楽勝。」
日勤と準夜勤者に小鳥遊が頼んだピザが届いた。狭い休憩室で皆で肩を寄せ合って、ワイワイ言いながら食べた。その様子を小鳥遊も冬も嬉しそうに眺めていた。
「医局長~。小峠先生に時間外に大量に指示を変えたり、オーダー出すの止めて貰うように言ってください。」
3年目の看護師が小鳥遊に直訴した。
「あぁ…どおりで、準夜勤で薬剤部から薬が沢山あがってくるなぁと思ってたんですけどね。」
小鳥遊は看護師に言われる前に気が付いて既に小峠には注意をしていたのを冬は知っていた。
「もう~新人さんも独り立ちして夜勤に入るようになったから…。仕事をこなすだけでも大変なのに、臨時オーダーなんて取れないっすよ。」
男性看護師が文句を言った。
「そうでしたか…大変申し訳ありません。本人には伝えて置きますから。僕に出来ることがあったら言ってくださいね。」
小鳥遊は誰に対しても、それが、新人看護師であろうと、掃除のおばさんであろうととても丁寧だった。
「医局長はマメで奥さん羨ましいなぁ。きっとお家で家事の手伝いとかもしてるんでしょうね?」
「いえいえ…僕は殆ど家に居ないので、奥さんにおんぶに抱っこです。」
そう言ってはにかんで笑う小鳥遊を冬は静かに見ていたが、皆がピザ休憩を時間休憩している間、冬はそっと抜け出し看護計画を仕上げた。新人が戻って来る頃には、既に仕事が終了していた。
「月性さん。ほんとに済みませぇん。」
ぞろぞろと休憩室から出て来た看護師達が冬にお礼を言った。
後輩にダラダラ仕事をさせるのは好きじゃ無かったし,押し付けたままにするのも嫌だった。
「良いのよ…気にしないで。お互いにフォローできるところは、先輩後輩関係なく協力し合いましょうね。それに、自分が指導する立場になったら、同じように新人を手伝ってあげてね。」
静かに微笑み、まだ終わらないスタッフの仕事を何も言わずに黙々と手伝う冬を小鳥遊は、見つめていた。
結婚は、一度で充分。外で遊びはすれど、前妻と別れて以来,新たな結婚相手を探す…そんな気も小鳥遊には起こらなかった。
大人の関係を迫った返事は、
次の当直迄に返事を聞くことになって居る。
…断られてしまったら仕方が無い。
そう思いつつも、
気になる女性は必ず手に入れてきた
小鳥遊には、少しばかりの自信もあった。
時間を置いたのは、
冬の反応や、様子を見る為だ。
これで今後の動向がわかるというものだ。
はしゃいだり、ベタベタされるのは御免だ。
そんな場合には、冗談だったよ…と、はぐらかすか、その話題に触れなければ良い。
…遊ぶのには距離感が必要だ。
大抵の女性は、関係を迫れば自分の事を気にするというもの。
だが、冬は全く違った。
「医局長…小峠先生の患者さんですが…。」
小鳥遊がPCの前で、ぼーっとして居ると突然、冬に声を掛けられた。
いつも患者のことだ。
「あっじゃぁ日にち変えて検査を…。
あと、昼前に、この人の血液検査迅速でオーダー出しておきました。検査科に伝えて下さいね。」
冬は、もう結果届いてますと、小鳥遊に迅速血液検査結果の紙を渡した。
「肝機能かなり悪いでしたものね。
消化器内科受診は、他の検査してからにしますか?」
淡々と業務をこなす冬。
冬の態度は全くと言って良いほど普段と変わらなかった。
…もしかしたら、断られるかも知れない。
この僕が?
逆に小鳥遊自身の方が、冬を盗み見する事が多くなってしまった。
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:🐈⬛+:-:+:-:+
小鳥遊の当直の日。
あの時の返事をする日。
あの告白があってから、勤務中に小鳥遊からの視線を感じる様になった。
冬の方はと言えば、
新人が、その監督役で先輩看護師であるプリセプター無しで、夜勤へと配置される時期が来たことで、目の回る忙しさだった。
…そっか…今日返事しなくっちゃいけなかったんだ。
冬は公私混同をしない自信はあったが、小鳥遊医局長に迷惑を掛けないか…それだけが心配だった。
冬がお先に~と帰ろうとすると、看護師の休憩室に居た医局長が、ちょっと当直室へ行ってくる~と出て行った。当直室は、更衣室と同じ方向にある。
…気まずい
小鳥遊は先にエレベーターに乗り込み、後から冬が続く。誰が乗り込んでくるか分からないので、話は出来なかった。
―チーン
地下に着いた。B1には看護師のロッカールームと当直室…霊安室やリネン室、MRIにCTなどがあった。小鳥遊がまず当直室へと入り、冬も周りの様子を見ながらその後に続いた。
「ほら…こんなにスムーズにいった。凄いですね。」
小鳥遊は無邪気な笑顔を冬に向けた。
短い沈黙が流れ,冬が話し出した。
「小鳥遊先生…私…先生のことがを尊敬してますし好きです…が…。」
冬が言い終わらないうちに、小鳥遊は唇を塞いだ。
唇に優しく触れるだけのキスから,唇全体を包み込むようなキス,そして舌を絡ませる濃厚な口づけへと変わっていく。
蕩ける様な甘いキスに,冬の体の芯が痺れるようだった。
一度離れた小鳥遊の唇は、再び確認をするように優しく冬のぽってりとした唇を包み、優しく吸った。
…キスが…上手。
今まで経験した事が無いほどの、蕩けそうなキス。
…続けられたら、到底抗えない。
「ちょ…ちょっと…待って…。」
冬は慌てて小鳥遊から離れ、真っ赤な顔のまま俯いた。
「後々関係が上手く行かなくなった時に、
お互いが、気まずくなるのは嫌で…。」
「月性さんは、そんなことで気まずくなるんですか?」
小鳥遊は、冬の言葉に被せ気味に答えた。その顔は、まるで少年のようで、冬の慌てふためくのを楽しんでいるようにも見えた。
「いいえ…普通に…対応できると思いますけれど…でも…。」
冬の心臓は今にも飛び出しそうだった。
「だったら…良いじゃないですか。僕も平気ですから。」
小鳥遊は、急に真面目な顔に戻った。
「遊びじゃないけど、遊び…僕の言って居る事分かるかな?」
…要するに定期的に会ってセックスをするような関係…ね。
「…はい。先生が仰りたい事は、良く分かりました。」
冬の顔が少し曇った。
「君を束縛しないし、僕もされたくない。“大人の関係”ですね。」
…都合の良い女ってことね。
冬は配属された当時から,密かに憧れていた小鳥遊に声を掛けて貰い、とても嬉しかった…と同時に少し寂しい気分だった。
だが、見え透いた嘘をつかれるよりも潔いと冬は感じた。
どちらにせよ,やはり小鳥遊は魅力的だった。仕事や周りとのかかわり方も、小鳥遊と自分は似ているように思っていた。
…仕事が一番、自分の時間2番、3番目が恋愛…ぐらいの感じなのかな?
冬自身、今迄そのように過ごしてきた。しつこい彼氏はすぐ捨てたし、逆に、冷めた女だと捨てられたこともあった。
「判りました。」
冬が答えた途端、また小鳥遊は唇を貪った。
唇を甘噛みし、長い舌は冬を探して口の中で動き回った。
…ん…ん…。
そして、不意に置かれたその手は、冬の胸の上で、ゆっくりと優しく動いた。
その芳しい刺激に久しぶりに下半身が熱くなった。冬の舌が小鳥遊の後を追いかけようした時だった。
「はい♪今日はここまで。」
小鳥遊は突然キスを辞め、この続きは、学会の時にしましょう…と笑った。濃厚なキスの余韻は冬の唇に長い間残った。
冬は、ぼーっとした頭でマンションへと帰り、ゆっくりと風呂に浸かった。
…甘くて蕩ける様なキスの感触。
まるで麻薬のように冬の心も体も数分で痺れさせた。敬慕が化学反応を起こした瞬間だった。そして久しぶりに、冬は自慰に耽った。勿論…小鳥遊を思い出しながら…。
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:🐈⬛+:-:+:-:+:-:+
小鳥遊は、いつものように朝早く来ては、スタッフと軽い冗談を言って笑っていた。
冬が挨拶をすると、優しい笑顔を浮かべておはようございますと返した。
朝のミーティングが終わり、患者の元へと向かう。
不意に背後に気配を感じ、振り返ると小峠が立っていた。
…‼︎
「あれが最後じゃ寂しいから…食事行こう♪小鳥遊先生とだなんて…他に好きな医者でも出来ちゃった?」
冬の尻を鷲掴みにした。
…禿。一度死ね。
「ちょっと…他の人に見られますよ。」
完全に仕事モードのスイッチが入っている冬は、軽くあしらった。
「ねぇ…最後はちゃんとホテルでお別れしようよぉ」
意識の無い患者の部屋へと入ると、小峠も後をついて来た。
「先生とお付き合いをした覚えは、ありません。私に構う暇があったら、沢山いらっしゃる彼女さん達を大切にして差し上げたら、どーですか?」
備品の不足や、ドレーン類に点滴など…トラブルは無いかを、丁寧に確認する。
「あ~もしかして…月性ちゃん…嫉妬してるの?」
シーツの皺を整えて、ベッド柵や棚などを除菌用シートで丁寧に拭く。
嬉しそうに小峠は白衣のポケットに手を突っ込んだまま聞いて来た。
…スナップ利かせて,その禿げ頭をぶっ叩いてやろうか?
「…だから,もう別れるとか,臍曲げちゃった?」
冬が患者の吸引をすると人工呼吸器のアラームが鳴り、それを小峠がすかさず止めた。
「体位変換手伝って下さい」
…居るなら働けよ。ハゲ!
人口呼吸器の蛇腹を小峠に頼み、冬はゆっくりと患者の身体を横に向けた。患者の背中に床ずれが無いか等も、確認しつつ衣類の皺を伸ばす。
「女の子なんていないよぅ」
…嘘つけ禿。他科の看護師が嬉しそうに話してたのを聞いたぞ。
人口呼吸器の位置を整え、小峠は、今度は冬に変わり、反対側に患者をゆっくりと横に向けたまま支えると、その間に冬はすかさず枕を当てがう。
「では…外科の子は?」
小峠は、その間に人工呼吸器の設定を確認しつつ、冬はその隣で吸引を行う。
咳嗽反射が起こり、アラームが病室内に響く。
その度に小峠は、アラームを切った。
冬が冷たく聞くと、小峠の言葉が一瞬滞った。
「あ…あれは友達だよ」
小峠は、神経質な笑いを浮かべた。
…このタコ…完全に目が泳いでいるぞ。
海へ帰れ。
「心療内科のクラークさん…でしたっけ?とっても可愛らしい人ですよね」
小峠の反応を冬は観察していた。
「あぁ…あの子?言い寄られているだけ」
小峠は、完全に動揺している。
…笑止!お前が言い寄ったんだろーが?
「もうおしまいです。」
冬は冷静に小峠をじっと見据えた。
「ホテルが嫌なら、
今度、僕のマンションに来て話そう」
…どっちも嫌じゃ!ボケッ!
ふと個室前にある、ナースステーションに小鳥遊がいるのが見えた。
「無理です…。お話はこれでおしまいです。」
PC前に座っていた小鳥遊と冬は目が合った。
「え~寂しいなぁ。月性ちゃん僕を信じてくれないの?僕は君に一途だよ?。」
…黙れ!虫唾が走る!!
愚図る小峠に手を焼いていると、小峠の背後から小鳥遊が突然現れた。
「小峠先生,来月の当直のことでお話があるんですけれど…ちょっと良いですか?」
小峠は、ビクッとすると慌てて振り向いた。
小鳥遊に聞かれていたかも知れないと、焦った様だ。
「小峠先生は、もしかして月性さん狙いですか?実は僕もなんですよ…。」
冗談とも本気ともつかないことを言うと、
小峠を連れ出した。
…ああ もう!
心臓に悪いよこのシュチュエーション。
去り際に小峠は、懲りずに冬に言った。
「僕は…関係を公にしても良いと思ってる」
小鳥遊もそれを聞いて苦笑い。
…だが 断る。
「そんなことしたら,恋人が沢山いらっしゃる小峠先生が困るんじゃないでしょうか?」
「はいはい…痴話喧嘩はそこまでにして…小峠先生…。」
小鳥遊はなだめる様に小峠を個室から連れ出した。小鳥遊を味方に付けた以上、怖いものはなかった。
…言いたいならどうぞ。誰も信じないと思うけど。
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+ 🐈⬛
冬は病棟師長に呼び出された。
「学会へ行ってみない?」
「…学会?ですか?」
…って医者の…よね?
医師学会で小鳥遊が症例発表をするのだが、
助手を頼めないかという話だった。
「有給消化になっちゃうけど?あなた行ってくれない?新人じゃ無理だし、あいにく私も行けないの」
毎年、病棟師長か助手で付き添う学会だ。
「…分かりました。お引き受けします」
冬は即答した。
「良かったわ~♪他のスタッフじゃ、心許なかったのよ」
師長は、人望の厚い冬を頼りにしていた。
今は空席になっている主任のポストに、
冬が就くのでは無いかと、スタッフの間で噂されている。
「では、お願いしますね。小鳥遊先生には伝えておきますから。」
師長は他のスタッフに呼ばれて、去っていった。
小峠は相変わらずしつこく冬にアプローチし続けていたが、小鳥遊医局長は約束通り?さりげなく冬から小峠を引きはがした。
…ポーカーフェイスの医局長。グッジョブ!
あの‟あなたが相手なら光栄です事件“以来、
何も変わったことは無い。
毎日が忙しく過ぎて、あれは夢だったのか?と冬は思うようにさえなった。
…夢でもちょっと得した気分♪
そんな風に冬は思っていたある日。
患者を検査に出す為、エレベーターに乗り込むと、偶然小鳥遊が先に乗っていた。
「お疲れ様です」
冬は車いすに乗せた患者と共に乗り込んだ。
「息子の嫁に来てよ。美人だし、しっかりしてるし、歳は少し上だけど、今の時代そんなのあんまり関係ねーだろ?」
歳は少しじゃ無くて、
かなりの姉さん女房ですよ?と冬は笑った。
「面会に来た時にさ、月性さんのことを気に入ったみたいで…電話番号聞いといてって頼まれちゃったんだ」
小鳥遊にも説明している患者。
病棟には若くて可愛いスタッフが沢山居るのに、何故自分なのかと、冬は笑って相手にしなかった。
「あいつは、なかなかここに来れないし,来る時には月性さん居ないんだよね。だからね、こうして俺が息子の為に聞いてやってるの」
エレベーターはゆっくりと静かに降りていく。
「タバコ吸うな、酒飲むな、油ものは控えて…とか煩い嫁になりますよ?それに嫁になっても、仕事は続けたいですし、専業主婦は無理ですよ?」
結婚して家庭に入ることなど、想像できなかった。
「そんなことぁ判ってるよ。でもこの間…若造に告白されていただろう?あいつは絶対駄目だ。ありゃヒモになるタイプだ」
冬はケラケラと笑い、
患者の情報網に関心した。
「えっ?月性さんそんなことがあったんですか?誰だろ…?」
小鳥遊が口を挟んだ。
「あぁ…SAH|で入院されていた遠藤さん…のお友達です」
冬はエレベーターの表示の数字がどんどん減っていくのを眺めていた。
「それだけじゃ無いだろ?高橋先生だって月性さんのことが好きだって言ってたぞ」
「えっ?」「そうなのっ!!」
小鳥遊と冬が同時に声をあげた。
脳外科の若い大人しくて、人畜無害の医者だ。
「知らなかったんですか?」
小鳥遊が再び驚いて口を挟んだ。
「知りませんよ!びっくりです…。仕事が、し難くなるので、聞かなかったことにしますっ」
冬が真面目な顔で答えたので、小鳥遊はそれが無難ですねと笑った。
「まぁ~上司の居る前で言うのも何だが、手癖の悪い小峠先生よりも高橋先生の方が真面目で良いと思うんだよね。あーあ。やっぱり高橋先生が相手じゃ俺の息子に勝ち目はねぇなぁ…。」
物知り顔でいう患者に小鳥遊も冬も思わず噴き出した。
「あと…は…ほら…誰だっけ?」
小鳥遊は、患者の話に聞き耳を立てている。
冬は慌てた。
「あーっ。もう良いですよ!何でそんなにゴシップに詳しいんですか?」
…変な汗が出てきた…ょ。
「そんなことはどーだっていいんだ。要するに息子のライバルは一杯居るってことだ。どうせ彼氏居ないんだろ?」
…どーせって何さ。
小鳥遊が横でクスクスと笑っている。
「彼氏が居るって申し上げたら、諦めてくださいます?」
「えっ?彼氏居るの?」
患者と小鳥遊が同時に聞いた。
…医局長…何で会話に混じってるの?
「いえ…居ないですけど」
とても小さな声で冬は答えた。
「なんだよ月性さん。びっくりさせやがって!」
小鳥遊が声を出して笑ったので、
冬はじろりとにらんだ。
「今度息子に電話番号教えてやってくれ。頼むっ!!お願いだ。」
冬はただ笑うだけで、それ以上は返事をしなかった。
「僕だって月性さんの電話番号知らないのに…ずるい」
医局長が口を挟んだ。
「そりゃぁ…小鳥遊先生は奥さん居るんだろ?それなのに看護師に手ぇ出しちゃぁ…まずいでしょう」
「うん…確かに」
小鳥遊は神妙な顔をして頷いた。
…そうだ離婚したことを公表していないんだっけ?
そして患者と笑った。
ーーーチーン。
エレベーターのドアが開き、小鳥遊は降り掛けた所で、ああそうだと言って、大きな手で閉まりそうになるドアを止めた。
「あ…月性さん。後で、当直室にちょっと来て貰えますか?」
…あ…そっか。今日は先生が当直か。
「あ…はい。わかりました…。」
冬は、そう言い残して足早に去る小鳥遊の背中を、ドアが閉まるまでじっと眺めていた。
「月性さん…小鳥遊センセはカッコ良いけど、奥さん持ってるひとじゃぁ駄目だ。不倫は止めときな。」
「大丈夫ですって。」
冬は笑った。
「小鳥遊先生みたいに、仕事が出来る男はね、女遊びも激しいって相場は決まってんの!
泣くのは女だからね…」
その様子を見て、患者が真面目な顔で諭した。
冬はエレベーターを降りてから気が付いたが、小鳥遊の院内携帯は知っていても、流石にこんな事でかけるわけにもいかない。
いつ当直室へ行けば良いのかも分からない。
…連絡…どうしよう。
日勤の間、色々考えていたが、そんな心配は無用だった。日勤終わりに緊急入院が3件入った。
「もう…マジで…信じられない。」
冬の同僚岩田が呟いた。
それに賛同して看護師達は頷いた。なんで、師長はベット空いてるからって他科取っちゃうかなぁ。しかもその後2件 ヘビーなのだし…と看護師達の口からは次々に文句が飛び出した。
「手伝うから、目標20時!」
「えええーっ。」
「月性さん絶対そんなの無理だよ…。」
「もしそれまでに終わらなかったら、ご飯おごっちゃう♪飲みにでも良いよ。」
こういう時こそ、遊び心が必要だ。
「マジで?月性さん一緒に行ってくれるの?!だったらゆっくり仕事しよう♪」
「コラ…そんなの駄目」
若い子達は一気に盛り上がった。小鳥遊医局長が病棟にあがってきた。
「みんな本当に…済まないね。後でピザ頼むから許して…」
小鳥遊が済まなそうに言った。
「わーい♪ それなら私頑張れそう!」
若い子たちも一斉に張り切った。他の医者は外来がまだ忙しいと言って病棟には上がってきていなかった。
「出てない指示や処方が合ったら、僕が出しますから言って下さい。あと入院指示書くから…担当看護師さん誰~?」
小鳥遊の仕事は早く無駄が無い。
しかもそこに居るだけで、士気があがる。
新人二人が入院を取ったが、冬が手伝った。1時間後には看護計画を立てるだけの状態になった。
「うわぁ…まだ7時前だぁ。今日は小鳥遊先生が居てくれたし、月性さんに沢山手伝って貰ったから早く終わったぁ~。後は看護計画だけだから楽勝。」
日勤と準夜勤者に小鳥遊が頼んだピザが届いた。狭い休憩室で皆で肩を寄せ合って、ワイワイ言いながら食べた。その様子を小鳥遊も冬も嬉しそうに眺めていた。
「医局長~。小峠先生に時間外に大量に指示を変えたり、オーダー出すの止めて貰うように言ってください。」
3年目の看護師が小鳥遊に直訴した。
「あぁ…どおりで、準夜勤で薬剤部から薬が沢山あがってくるなぁと思ってたんですけどね。」
小鳥遊は看護師に言われる前に気が付いて既に小峠には注意をしていたのを冬は知っていた。
「もう~新人さんも独り立ちして夜勤に入るようになったから…。仕事をこなすだけでも大変なのに、臨時オーダーなんて取れないっすよ。」
男性看護師が文句を言った。
「そうでしたか…大変申し訳ありません。本人には伝えて置きますから。僕に出来ることがあったら言ってくださいね。」
小鳥遊は誰に対しても、それが、新人看護師であろうと、掃除のおばさんであろうととても丁寧だった。
「医局長はマメで奥さん羨ましいなぁ。きっとお家で家事の手伝いとかもしてるんでしょうね?」
「いえいえ…僕は殆ど家に居ないので、奥さんにおんぶに抱っこです。」
そう言ってはにかんで笑う小鳥遊を冬は静かに見ていたが、皆がピザ休憩を時間休憩している間、冬はそっと抜け出し看護計画を仕上げた。新人が戻って来る頃には、既に仕事が終了していた。
「月性さん。ほんとに済みませぇん。」
ぞろぞろと休憩室から出て来た看護師達が冬にお礼を言った。
後輩にダラダラ仕事をさせるのは好きじゃ無かったし,押し付けたままにするのも嫌だった。
「良いのよ…気にしないで。お互いにフォローできるところは、先輩後輩関係なく協力し合いましょうね。それに、自分が指導する立場になったら、同じように新人を手伝ってあげてね。」
静かに微笑み、まだ終わらないスタッフの仕事を何も言わずに黙々と手伝う冬を小鳥遊は、見つめていた。
結婚は、一度で充分。外で遊びはすれど、前妻と別れて以来,新たな結婚相手を探す…そんな気も小鳥遊には起こらなかった。
大人の関係を迫った返事は、
次の当直迄に返事を聞くことになって居る。
…断られてしまったら仕方が無い。
そう思いつつも、
気になる女性は必ず手に入れてきた
小鳥遊には、少しばかりの自信もあった。
時間を置いたのは、
冬の反応や、様子を見る為だ。
これで今後の動向がわかるというものだ。
はしゃいだり、ベタベタされるのは御免だ。
そんな場合には、冗談だったよ…と、はぐらかすか、その話題に触れなければ良い。
…遊ぶのには距離感が必要だ。
大抵の女性は、関係を迫れば自分の事を気にするというもの。
だが、冬は全く違った。
「医局長…小峠先生の患者さんですが…。」
小鳥遊がPCの前で、ぼーっとして居ると突然、冬に声を掛けられた。
いつも患者のことだ。
「あっじゃぁ日にち変えて検査を…。
あと、昼前に、この人の血液検査迅速でオーダー出しておきました。検査科に伝えて下さいね。」
冬は、もう結果届いてますと、小鳥遊に迅速血液検査結果の紙を渡した。
「肝機能かなり悪いでしたものね。
消化器内科受診は、他の検査してからにしますか?」
淡々と業務をこなす冬。
冬の態度は全くと言って良いほど普段と変わらなかった。
…もしかしたら、断られるかも知れない。
この僕が?
逆に小鳥遊自身の方が、冬を盗み見する事が多くなってしまった。
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:🐈⬛+:-:+:-:+
小鳥遊の当直の日。
あの時の返事をする日。
あの告白があってから、勤務中に小鳥遊からの視線を感じる様になった。
冬の方はと言えば、
新人が、その監督役で先輩看護師であるプリセプター無しで、夜勤へと配置される時期が来たことで、目の回る忙しさだった。
…そっか…今日返事しなくっちゃいけなかったんだ。
冬は公私混同をしない自信はあったが、小鳥遊医局長に迷惑を掛けないか…それだけが心配だった。
冬がお先に~と帰ろうとすると、看護師の休憩室に居た医局長が、ちょっと当直室へ行ってくる~と出て行った。当直室は、更衣室と同じ方向にある。
…気まずい
小鳥遊は先にエレベーターに乗り込み、後から冬が続く。誰が乗り込んでくるか分からないので、話は出来なかった。
―チーン
地下に着いた。B1には看護師のロッカールームと当直室…霊安室やリネン室、MRIにCTなどがあった。小鳥遊がまず当直室へと入り、冬も周りの様子を見ながらその後に続いた。
「ほら…こんなにスムーズにいった。凄いですね。」
小鳥遊は無邪気な笑顔を冬に向けた。
短い沈黙が流れ,冬が話し出した。
「小鳥遊先生…私…先生のことがを尊敬してますし好きです…が…。」
冬が言い終わらないうちに、小鳥遊は唇を塞いだ。
唇に優しく触れるだけのキスから,唇全体を包み込むようなキス,そして舌を絡ませる濃厚な口づけへと変わっていく。
蕩ける様な甘いキスに,冬の体の芯が痺れるようだった。
一度離れた小鳥遊の唇は、再び確認をするように優しく冬のぽってりとした唇を包み、優しく吸った。
…キスが…上手。
今まで経験した事が無いほどの、蕩けそうなキス。
…続けられたら、到底抗えない。
「ちょ…ちょっと…待って…。」
冬は慌てて小鳥遊から離れ、真っ赤な顔のまま俯いた。
「後々関係が上手く行かなくなった時に、
お互いが、気まずくなるのは嫌で…。」
「月性さんは、そんなことで気まずくなるんですか?」
小鳥遊は、冬の言葉に被せ気味に答えた。その顔は、まるで少年のようで、冬の慌てふためくのを楽しんでいるようにも見えた。
「いいえ…普通に…対応できると思いますけれど…でも…。」
冬の心臓は今にも飛び出しそうだった。
「だったら…良いじゃないですか。僕も平気ですから。」
小鳥遊は、急に真面目な顔に戻った。
「遊びじゃないけど、遊び…僕の言って居る事分かるかな?」
…要するに定期的に会ってセックスをするような関係…ね。
「…はい。先生が仰りたい事は、良く分かりました。」
冬の顔が少し曇った。
「君を束縛しないし、僕もされたくない。“大人の関係”ですね。」
…都合の良い女ってことね。
冬は配属された当時から,密かに憧れていた小鳥遊に声を掛けて貰い、とても嬉しかった…と同時に少し寂しい気分だった。
だが、見え透いた嘘をつかれるよりも潔いと冬は感じた。
どちらにせよ,やはり小鳥遊は魅力的だった。仕事や周りとのかかわり方も、小鳥遊と自分は似ているように思っていた。
…仕事が一番、自分の時間2番、3番目が恋愛…ぐらいの感じなのかな?
冬自身、今迄そのように過ごしてきた。しつこい彼氏はすぐ捨てたし、逆に、冷めた女だと捨てられたこともあった。
「判りました。」
冬が答えた途端、また小鳥遊は唇を貪った。
唇を甘噛みし、長い舌は冬を探して口の中で動き回った。
…ん…ん…。
そして、不意に置かれたその手は、冬の胸の上で、ゆっくりと優しく動いた。
その芳しい刺激に久しぶりに下半身が熱くなった。冬の舌が小鳥遊の後を追いかけようした時だった。
「はい♪今日はここまで。」
小鳥遊は突然キスを辞め、この続きは、学会の時にしましょう…と笑った。濃厚なキスの余韻は冬の唇に長い間残った。
冬は、ぼーっとした頭でマンションへと帰り、ゆっくりと風呂に浸かった。
…甘くて蕩ける様なキスの感触。
まるで麻薬のように冬の心も体も数分で痺れさせた。敬慕が化学反応を起こした瞬間だった。そして久しぶりに、冬は自慰に耽った。勿論…小鳥遊を思い出しながら…。
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:🐈⬛+:-:+:-:+:-:+
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