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美しき蝶
赤いドレス
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春にお風呂に誘われた。
「え~っ。今?」
冬は小鳥遊とソファーの上で寛いでいた。
愛され過ぎて体が怠く結局海には行かず,
本を読んでいる小鳥遊の膝の上に白い足を乗せてテレビを観ていた。
「ええ。今よ。」
こんな時は大抵何か言いたいことがある時だ。
「わかったわ。」
重い体を起こした。
「ちょっと行ってきます。」
そう言って冬は小鳥遊にキスし浴室へ向かう春の後ろについていった。
脱衣場で服を脱ぎながら春は言った。
「もう大人だから私は何も言わない。けれど、ちゃんとけじめをつけて責任を取らなきゃいけないわよ?」
冬は鏡越しに春の背中を見た。背中には小さな頃から見慣れた傷が残って居た。美容整形で何とかなるのに、春はそのままにしていた。
「うん…それは判ってる。」
ボディーソープをつけ、体を洗う。
「いつか選ばなきゃいけない時が来ると思うわ。辛い選択になるわよ。」
そうかも知れない…冬もそれは薄々気が付いている。
「判ってる…だけど今はどちらか一方なんて選べないの。」
シャワーの音だけが響いた。
「でも…二人を同時に愛す…なんて大変じゃないかしら?今回もそれが原因じゃないの?」
それはあるかも知れないけれど、今は仕事が忙しいから、色々滞っている気がした。
「たまに…二人の間で苦しくなる時があるのは事実。でも今はふたりに傍に居て欲しい。」
「お父さんが帰ってくると言うことは、またパーティーね?」
冬はため息をついた。
「御付き合いがあるから仕方が無いのよ。」
今泉と小鳥遊のステータスをどうするかだ。
「確かに…今まで男の影が少なくとも無かったように見えるあなたが、二人も連れていると、やはり、何か言われると思うわ。私はあなたの破天荒な振る舞いには慣れているけど。」
春は笑った。
「その言葉、そのままそっくりそちらにお返しします。」
あなた程私は酷く無いわよと春は笑った。
「…でもお母さんの言う通り、けじめはちゃんとつけるわ。もう逃げない…大丈夫よ。」
突然風呂場のドアが開いた。
「わっ…済みません…誰も居ないと思って…。」
今泉だった。
良いわよ折角来たんだから一緒に入りましょう。春が笑った。
「静さん…もう良いよ…ここまで来たんだから、入っちゃえ♪」
今泉は二人の顔を見比べてやっぱり似ているな…と思った。
湯船にはだいぶ余裕があったので、今泉は少し離れたところに入った。
「そんな他人行儀な…こっちへらっしゃいよ。」
春は言った。
「…何言ってるのよ。もうっ。私が静さんの傍に行くわ。」
冬は言った。
「なんか…落ち着かないですね。」
今泉は苦笑した。
「そうよねぇ…こんなおばさんと一緒じゃ。」
冬は言った。
「いえ…そう言うことでは無くて…多分こういうシチュエーションは、小鳥遊先生だったら喜んでたかも知れません。」
…確かに。
「パーティーですって…。」
冬はため息をついた。
「嫌なの?」
「だって…着飾った人ばっかりがおべっか使って愛想笑いしているのなんて…面倒くさいだけけよ。」
「あ…私ドレスないからパーティーいけない!」
冬が嬉しそうに言った。
「あら…大丈夫よ♪お母さんのドレス貸してあげる。」
「えーっ。露出度高いし、どうせprostituteみたいなのでしょ?」
「またそんなこと言って…失礼ね。じゃあ自分で選べばいいじゃない。」
…言われなくてもそうするわよ。
「お父さんが帰ってくるってことは、お兄ちゃんも一緒?」
「今回は健太郎さんだけで、秋さんは帰って来ないみたい。」
「トウコさんにはお兄ちゃんがいたんですね。」
「ええ。。」
冬は湯船の中で手を繋いでいた。
「へー知らなかった。」
あら…あなたたちいつもそんな感じなの?
「病院の人達が居ない時にはね。」
冬は春を見ずに言った。
「別に公表しても良いんですけれど、冬さんが嫌みたいです。」
今泉は笑った。
「早く孫の顔が見たいわ。」
春が言った。
「まだ結婚だって先になりそうなのに。」
冬は不機嫌になった。
「きっと小鳥遊先生とトウコさんなら男の子でも女の子でも可愛い子が生まれるんじゃないでしょうか?」
今泉は微笑んだ。
「じゃあ…おふたりさんはごゆっくり。」
春はすっと立ち上がって湯船から出た。
「おっと…。」
今泉は慌てて目を伏せた。
「ちょっと…偽おっぱいの露出狂。ちゃんと隠して出なさいよ!」
「何言ってるのついてるものは皆同じでしょう。先生達は見慣れてるから平気よ。」
春はそう言って笑ったが、冬はさっと今泉の眼を手で隠した。
「はいはい…どうぞ若い二人でごゆっくり。」
春は脱衣場へと去って行った。
「僕が小鳥遊先生だったら、絶対…戦闘態勢に入ってたと思う。」
あーびっくりしたと今泉は笑った。
「私と間違える位だから、そうでしょうね。」
冬は笑った。
「でも僕は偽物よりもこっちのおっぱいの方がいいなぁ。」
そう言って冬を抱き寄せた。
「えっ…じゃあ見たんだ?偽物おっぱい。」
今泉は何も言わずに笑って冬を抱きしめた。
「そうやって誤魔化しても駄目。」
もう見ちゃうのは男のサガですよと今泉は笑った。
小鳥遊は残念そうに言った。
「えー今泉先生だけずるい。僕も偽物おっぱい見たかった!!」
…絶対言うと思った。
「そんなに見たいなら聞いてみれば?」
…きっと見せてくれるから。
冬はムッとした。
翌日は良く晴れて暑かった。冬と今泉は二人で浜辺へと来ていた。
思っていた以上に冬はビキニが似合っていた。今泉が選んだ、可愛らしさもあるが甘すぎず、冬も気に入っていた。
「とっても似合ってる!」
今泉も嬉しそうだった。二人で大きなバスタオルに横たわった。家族連れが何組か来ているが、静かだった。冬は日焼け止め、今泉はサンタンローションをお互いに塗り合った。うつ伏せになった冬は背中の紐を外した。
「なんか…ムラムラしそうです。」
今泉は優しく触れた。
「違うのよ…塗り残しがちょっとでもあると、真っ赤になっちゃうから、紐の下も塗って欲しかっただけ。」
冬は笑い、塗り終わるとすぐ紐を結ぼうとした。
「あ…僕やりたい♪」
今泉はとても嬉しそうだった。
二人で見つめ合っていた。
「静さんは、もし私が2-3年待ってて欲しいと言ったら待っていてくれる?」
…え?
「その間は、全く会えないかもって言うこと?」
「ううん…半年に一度ぐらいなら会えるかも…。」
…うーん。
「その時になってみないと分からないけど、待ってて欲しいって言うんだったら、待つかなぁ。」
二人はじっと見つめ合っていた。
「その理由を聞いちゃ駄目?」
冬は暫く考えた。
「あと半年…ぐらいしたら言えると思うの。その時には必ずちゃんと説明するから。」
「わかったよ。」
「だから…。主任の話も断るかなぁ。」
ため息をついた。
「えっ!断っちゃうの?どうして?」
日差しがじりじりと照り付けていた。
「全部一緒には出来ないことなの。」
今泉は黙って考えた。
「病院辞めちゃうとか?」
冬は一瞬戸惑いを見せたが、
「うーん判らない。」
と笑った。
…多分そうなんだ…辞めてしまってどこかへ行くのかも知れない。
今泉は直感的にそう思った。
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「パーティー・ダンスとか先生達は踊れますか?」
冬は聞いた。
「うーん…なんとか?かも。」
今泉は困惑した。小鳥遊は昔だけど、アメリカに居る時に友達にちょっと教えて貰ったと笑った。
「そう…それは良かった。じゃあトーコは静さんと、私は学さんと一応練習しましょうか。」
春は笑った。
「あなたは来賓の人に合わせて踊ってね。パートナーだったシモーネも来るし、一緒に踊れば良いじゃない。」
…ヤバい…最近やってないから忘れてる。
「ちょっとお母さん 後で一緒に練習してくれる?多分ちょっとやれば思い出すと思うんだけど。」
「それよりドレス何着か出しといたから、着替えて見せて頂戴。とびっきり素敵なの選んどいたから。」
…でた…露出度絶対高い系だ。
冬はため息をついた。
「自分で選びたい…。」
「あなたは若いのにいつも地味なものばっかり選ぶからダメっ。」
冬は春の部屋へと行った。
「あの子きっと叫ぶわよ。」
ふたりに言って春が耳を澄ませた。
「ぎゃー!!何これ?こんなの着れないよ。」
春がほらね。と言って笑うと、ふたりともつられて笑ってしまった。
「良いから、全部持ってこっちに来て頂戴。男性陣に見て貰えば良いんじゃない?」
色も形も全く違うものだった。真っ赤な血の色のドレス。スクープネックでフロントはシンプルだが、背中は大胆に腰の下まで開いていて、屈んだらお尻の割れ目が見えるんじゃないかと思うほどにしっかりと開いていた。
「私はこれが一番お勧めだと思うんだけど…。」
春は腰に手を当てて、得意げだった。
太ももの中間ほどまでスリットが入っていて。歩くたびに、冬の艶めかしい足が見えた。男性2人は暫く見惚れていた。
…ちょっと回ってみなさい。
春が言った。えーっと言いつつも、後ろを向くと真っ白な背中が見えた。
「おー。僕は好きですね。」
今泉は微笑んだ。
「足さばきは良さそうだけど…布少なくない?」
冬はクローゼットについている大きな鏡で自分の姿をチェックした。
春のチョイスは間違って居ないと小鳥遊は思った。
「じゃあ次の着て来る。」
ピンクのAラインドレスで、上腕から胸元までは総レースの切り替えになっており、透け感があった。胸元からウエストまでは、足元まではチュールで出来ており、優しく可愛らしい印象を与えた。
「私…これがいい…。」
冬が言った。
「ね…何の面白みも無いでしょう?ちょっとあなたには甘すぎる感じね。」
…はい…じゃあ次。
真っ白のマーメイドドレスだったが、Vネックで胸の谷間が強調されていた。沢山のスパンコールが付いているものだった。
「なんかこれ引っかかりそうでいやだな…。それにちょっと重い。」
冬は独り言を言いながら回って見せた。
「それは、駄目だったわね。」
冬は顔をしかめた。次はホルターネックのベージュのドレスだった。シフォンとビーズ、にスパンコールが付いていて、首の回りにはベージュのラメで動くたびにキラキラと光た。
胸の辺りには透けていた。背中は大きく開いていて、丁度首元から、左右2本のレースで、腰の下まで続いていた。背中の中心はひし形に綺麗に開いていた。
「これも良いかなぁ。」
冬は再び鏡の前で回って見せた。
「うーん。これは上品でおとなし過ぎるわね。主張が全くないって言うか…平凡ね。」
春は首を横に振った。
冬と春の好みは全くの正反対だった。
「うーん…セクシーさが足りないわね。」
次は、ゴールドのトランペットの様に少し裾が広がったマーメイド。ハイネックでホルターになっていた。丁度前から見ても判る、ウェストの辺りにスリットが入り腹のサイドが開き、肌が見えた。背中で肩ひもがクロスするようになっていてこのドレスもまた背中も大きく開いていた。
じゃあ多数決で決めましょう。冬だけが甘いドレスを選び、春も男性二人も、一番最初に着た赤いマーメード・ドレスを選んだ。
「ほら…トーコのチョイスはイマイチなのよ。」
自分のことを全く判って無いのねと春は苦笑いをした。
「えーでもこれセクシー過ぎない?」
年齢の割に少し幼く見える冬には、これぐらいが丁度良いかも知れないと
小鳥遊は思った。
「ほら やっぱり赤が良いですよ。ねえ小鳥遊先生?」
今泉は笑った。
「ええ…。」
小鳥遊は冬の姿に心を奪われていた。
「ほら…やっぱりこのドレスですよ。」
冬が差し出した手に優しく触れながら今泉も言った。
「あとは化粧ね…当日は私がするから。」
冬は少しがっかりして部屋へと帰って行った。
「僕が見て来ます。」
小鳥遊は冬を追いかけた。では、今泉先生は一緒に練習しましょうか。春は笑った。冬は自室のベットで横になっていた。
「トーコさん?」
「…。」
「トーコさん…聞いて下さい。」
「…。」
「とても似合ってましたよ。」
「私にはふたりが居るのに、なんでセクシーにしなくっちゃいけないの?ふたりに見せるだけで別に他に見せる為に着る必要は無いじゃない。」
「トーコさんぜひ着てください。」
「…でも。」
「何故なら…僕はあなたの姿に欲情してしまったからです。」
そう言って冬を強く抱きしめた。
…今ここでまた…したくなってしまいました。
小鳥遊は耳元で囁いた。
「…だから、機嫌を直して下さい。」
「そんなこと言って、先生はしたいだけでしょ?」
「まぁ…そんな感じです。」
そう言って、小鳥遊は笑った。
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冬の父親、健太郎が帰って来た。健太郎は春に比べると物静かな印象を受けた。小鳥遊と今泉に挨拶をした。
…美男美女カップル。
小鳥遊は思った。冬の父は背も高く、グレイの髪の毛は短く切られていて、何よりも姿勢が良かった。60は過ぎていると思われるが、40代と言っても良い程若々しかった。
「冬、ちょっと私の部屋に来なさい。」
そう言って冬を連れて行った。
冬はもう何を言われるのか分かっていた。
「春さんから聞きました。あなたは2人の男性と御付き合いしているそうですね?それについて説明して下さい。」
…ほらやっぱりね。
自由奔放な春に比べ、健太郎はいい加減なことが好きでは無かった。
「説明することは何もありません。二人とも好きだから、選べないからです。」
冬は健太郎の顔を見て、きっぱりと答えた。
「それでは相手のご家族だって納得はされんだろう。」
健太郎の書斎は嫌いだった。
小さなころから怒られる時には、必ずここに呼ばれるからだ。
「私は、相手のご家族とお付き合いをしているわけではありません。」
健太郎はため息をついた。
「あなたももう大人でしょう?それぐらいのことが判らなくってどうしますか?」
冬を諭すように言った。
「判っています…充分に…。お父さんが心配されなくても、自分で何とかします。」
「娘がそんないい加減なことをしていて止めない親がどこにいますか?」
口調が厳しくなった。
「少なくともお母さんは何も言わないわ。」
健太郎は首を振った。
「あの人は特別です。わざわざあなたが春さんの真似をしなくっても良いんです。」
…そのぐらいわかるでしょう?
という目で冬を見た。
「真似をしているわけじゃないわ!好きだから一緒に居る…それが何が悪いの?別に不倫をしているわけでは無いんだから。」
健太郎の眉が動いた。
「お父さんがあの二人に聞いて見ると良いわ。そうしたらわかるから。この話が、まだ続くようでしたら、私帰ります。」
冬は絶対に折れなかった。健太郎もそれは良く分かっていたが、言わなければならないと思った。
部屋を出ると春が心配そうな顔をしていた。
「健太郎さんだって、あなたのことを心配しているのよ。だって愛する娘なんですもの。」
…そんなことは分かってる。
「別に誰も理解してくれなくても良いわ。」
冬の顔は強張り、それ以上何も言わなかった。
「私は理解しているわ…分かるでしょう冬?」
春は冬の顔をじっと見つめて言った。
「あなた達の選択に私はとやかく言わないわ。だってもう大人ですもの。自分の好きにすればいい。責任が取れるなら。」
…責任って何?
「あなたが傷ついたり、悲しい思いをするのはもう私達だって見たくないもの。それに非難するつもりは無いわ。」
春は少し寂しそうに冬を見つめた。
「健太郎さんもこれ以上の事は何も言わないと思うわ。ただ私も健太郎さんもあなたの事をいつも心配していることを忘れないで居て頂戴。」
冬はふたりが待つリビングでは無く、自室へと向かった。
「ごめんちょっと昼寝してくるって二人に言っといて。」
冬は大きため息をつきベッドに横になった。
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朝からパーティーの準備で人の出入りが激しかった。大きなフラワーアレンジメントやケータリング、春のアシスタント達や、屋敷のお手伝いなどが総動員だった。
18時過ぎには、会場の準備が整った。パーティーが始まる15分程前に二人は呼ばれた。春は、胸を強調する体にぴったりとした真っ白なドレスを着ていた。
「とても素敵ですね。」
ふたりが同時に言うと、あらありがとう♪と嬉しいそうに春は言った。
「あら?冬はまだ来てないの?もしかして逃げた?小鳥遊先生ちょっと見て来てくれる?」
春は、綺麗なドレスの裾を優雅にさばきながら去った。小鳥遊は冬の部屋に向かった。
「トーコさん?大丈夫ですか?」
ドアをノックして外から声を掛けた。
「うん…大丈夫。入って。」
ドレッサーの椅子に座って、ネックレスを付けている所だった。
「手伝いましょう。」
鏡越しに冬に声を掛けた、そう言うと小鳥遊は冬の後ろに回った。真っ赤なドレスは冬にぴったりだった。耳にはキラキラと光るロングピアス、
髪の色もカラーリングで黒に戻していた。長い髪は緩めのアップになっていた。
「ちょっと胸の周りが緩い気がしたので、頑張って寄せてあげてたの。以前はサイズもほとんど同じだったのに、あの人大きくしちゃったから、合わなくなっちゃったの。」
冬は笑ったが、よく似合っていて、小鳥遊は思わずため息をもらした。
「トーコさんとっても素敵ですよ。セクシーです。」
しっかりと化粧をした冬は大人っぽい美しい女性になっていた。少しぽってりとさせた唇には真っ赤で艶やかな口紅が塗られていた。
「母が化粧してくれたんだけど、やっぱり濃いわよねぇ。」
自分の顔じゃないみたいと言って笑った。
「いえいえ…とても素敵です。いつものナチュラルなトーコさんも素敵ですが、女の色香が漂う今のあなたも好きです。」
真っ白な冬の肩に優しく触れた。
「せんせ…最初のダンスは、私と踊ってください。」
長い睫毛は、冬の眼をより大きくみせた。
「ええ…喜んで。」
…そうだ。ホールへ行く前に写真を撮らせて下さい。
「えー。こんなケバケバしい恰好?嫌だ―。」
「お願いします…。」
「でも…。」
「お願いします。」
「誰にも見せないって約束してくれる?」
「僕たちのことは誰も知らないのに、一体誰に僕が見せると言うんですか?」
小鳥遊は笑った。
「お願いします。今携帯取って来ますから。」
そう言って部屋に戻り今泉も呼んだ。
「わぁトウコさん。大人の女性になってる。そこら辺の女優よりも綺麗ですよ!」
二人に褒められて恥ずかしかった。
小鳥遊と冬の写真を今泉が撮り、今泉と冬の写真を小鳥遊が撮った。今泉は冬の隙を見て、頬にキスをした。
「あ…。」
小鳥遊先生はオフィシャル彼氏ですし、今はこのぐらいしても良いでしょう?と言って笑った。
「でも…。」
冬は少し不満そうだった。
「僕は友人で良いです。」
今泉はそう言って笑った。
「こそこそする必要は無いわ。だって二人とも私の恋人だもの」
冬はいつもの仁王立ちになって言った。
「あ…やっぱり綺麗になっても、いつものトウコさんだ。」
今泉が言うと、小鳥遊が笑った。
堅苦しくないパーティーとはいえ、来賓は大人は50人ほどで、子供もちらほら居た。ホストとホステスの二人は来賓への挨拶で忙しく動き回っていた。
「あなたは行かなくって良いんですか?」
小鳥遊が言った。
「そのうち、誰か嫌でも来るから壁の花でも大丈夫。」
冬は健太郎に呼ばれたり、春に呼ばれたりしてそのたびに来賓の相手をしており、既に疲れていた。
小鳥遊と今泉は、それを眺めていた。冬が言っていた通り、パーティーに冬が来るのは暫くぶりだったようで、どの客とも、春や健太郎よりも冬と長く話をしていた。
真っ赤なドレスを着てスタイルも身のこなしも良い美しい冬は、着飾った他の多くの女性達よりも、そして何処に居てもよく目立った。
「素敵なトウコさん…僕は惚れ直しました。」
今泉はため息をついた。
小鳥遊も気が付けば冬を目で追っている自分に驚いた。
「Buona sera!Toko! Mi sei mancata!!!」
ひときわ大きな声が聞こえた。
これまた小鳥遊でも見上げるように背の高い男性が、冬に近づき軽々と抱き上げると、その白い首元にキスをした。
「君は相変わらず小鳥の様に小さくて可愛らしいね!ドレスとっても素敵だよ!!」
春が小鳥遊をチラリとみた。
「ねぇ。後でダンスを一緒に踊ってくれる?」
抱き上げられて暫くその男の腕の中に居た冬は、笑って言った。
「シモーネ。お久しぶり。元気だった?」
シモーネと呼ばれた男は冬の手にキスをし、そのまま話して居る間ずっと冬の手を握っていた。冬はこちらに向かってくる小鳥遊を手招きして。
「シモーネ。紹介したい人が居るの。」
春は微笑んだ。
「il mio fidanzato. Dr.Takanashiよ。」
冬はその小さな手を小鳥遊に差し出しながら言った。大きな男性ふたりに手を繋がれた冬の姿は、奇妙だった。シモーネは大きな瞳を見開いて小鳥遊をマジマジと見た。
「初めまして。ガクです。宜しく。」
そう言って小鳥遊は手を差し出したが、シモーネは困惑した様子で言った。
「僕のトーコ。これは一体どういうことだい?」
「私の〝婚約者“の小鳥遊先生よ。」
気もそぞろでふたりは握手を交わした。
「彼氏よりも婚約者にしといた方が良いわ。後で説明するから。」
春が小鳥遊に囁いた。
「トーコさんには国際色豊かな沢山のファンが居たんですね。」
小鳥遊は苦笑した。
「ええ…日本人男性よりも、ファンが多いのよ。不思議と。」
春は静かに囁いた。
「僕を置いてお嫁に行ってしまうのかい?」
そう言って冬を再びふわりと抱き上げた。とても自然な横抱き。とても絵になるふたりだった。
「何言ってるのシモーネには、恋人が沢山いるじゃない。」
冬は慌てて言った。
「お嫁に行く前に…今度デートしよう。これが僕の最後のお願いだ。」
シモーネが冬にキスをするんじゃないかと思うほど顔を近づけて、悲しそうに言った。
「ガク…トーコはまだあなたのものじゃ無い。だからデートぐらい良いよね?」
小鳥遊に向かってシモーネが言った。これほど押しが強いと、小鳥遊は呆れるしかなかった。
「残念ながら…。」
小鳥遊が言いかけた時に,冬が話を割って入った。やっとシモーネから解放された冬は、小鳥遊の腕に甘えるように手を絡ませた。普段なら決してしない行動に小鳥遊は驚いたが、嬉しかった。
「ごめんなさいね。ガクのことを心から愛しているの。私の全ては彼のものなの。」
小鳥遊は、上目遣いで自分を見上げた冬の顎を指で少しあげると、絶妙なタイミングで優しくキスをした。
「ガク…愛してるわ。」「僕もです。」
まるでシモーネなど居ないかのように見つめ合うふたりを呆然とシモーネは、眺めて居た。
「さぁ…最近のあなたのことをもう少しお話して頂戴。」
春は悲しみに暮れるシモーネを無理やり健太郎のところへ連れて行った。
「先生…お嫌でしょうけれど、シモーネが見てるからちょっとこのままで居てくれない?」
小鳥遊は笑った。
「僕は別に嫌ではありませんよ。」
そう言って、冬に優しくキスをした。
「シモーネはね…女ったらしなの。私じゃ無くても、女性なら誰でも口説くのよ。」
冬は笑った。
「あれ…でもさっき会えなくって寂しかったって言われてませんでした?」
…しまった…イタリア語も分かるのか。
「ええ…まぁね。」
冬は笑った。
「以前 お付き合いしてたとか?」
…今日のエロは鋭いな。
「そうだったのかなぁ。」
冬は誤魔化した。
「後で僕はその話をもっと詳しく聞きたいですね。それに、人前で美しく着飾ったあなたに甘えて貰うって、新鮮で良いですね。」
小鳥遊は冬の耳元で囁いて、微笑むと再び冬にキスをした。
バンドが演奏している間、それぞれがおしゃべりをしたり、食事を食べたり自由に過ごしていた。
「ねぇ…先生ちょっと抜け出しちゃおう♪」
冬は、小鳥遊の手を引っ張って会場を後にした。
「ここなら誰も来ないから。」
室内プールにやってきた。
使われていないせいで、中はひんやりとしていた。
「会場から離れちゃって大丈夫ですか?」
プールサイドに冬の軽やかなヒールの音が響いた。
「うん。」
テラスの側にある木製のベンチにふたりで座った。
「パーティーなんて面白くもなんとも無いでしょう?」
冬はため息をついて小鳥遊に寄り掛かった。
「そうですかね。美味しい食事に、綺麗な女性達に音楽。僕は好きですけれど。」
小鳥遊は微笑みそっと冬の細い肩を抱き優しく撫でた。
「あら綺麗な女性以外に好きなものがあったなんて知りませんでした。」
冬は意地悪く笑った。
「僕の知らないトーコさんはまだ沢山居るのでしょうか?」
小鳥遊はぽつりと言った。
「別に隠しているつもりは無いんです。」
小鳥遊の頬をそっと撫でた。
「僕は…トーコさんがどこかへ行ってしまいそうで心配になる時があります。」
それを聞いて冬は優しく微笑んだだけだった。小鳥遊は美しいその顔にそっとキスをした。
「妖艶なトーコさんをここで愛したい。」
欲情してとろりとした視線を冬に向けた。
「私も…。」
冬は妖艶に微笑んだ。ズボンを下すと小鳥遊のそれは、はち切れんばかりに膨張していた。カツカツとヒールの音を響かせて、冬は小鳥遊の上にそっと座ろうとするのと同時に、小鳥遊の手が冬の真っ赤なドレスのスリットの中へと忍び込んだ。
「トーコさん…履いてないんですか?」
「ラインがでちゃうから…ドレスの時は履かないの。」
冬のそこは、もう十分すぎる程に潤っていた。
「最後はお口で良い?…後で流れてきちゃうから。」
冬は耳元で囁いた。
「はい…。」
小鳥遊は、冬の欲望に満ち溢れた部分に太い赤銅色の自身を押し当てて、そっと手で抑えていると冬がゆっくりと腰を下ろしていく。
「…ああ。」「ん…ん。」
何の抵抗も無く深くまで入った。冬に包まれた温かさの中で、小鳥遊のそれは大きく拍動した。
「あなたに…包まれてます。」
いつもよりきつめの冬の香水の香りが、小鳥遊を酔わせた。
「…せんせ?気持ちがいい?」
動くたびに、薄暗いプールサイドのテラス窓から覗く月の光で、冬のピアスがキラキラと光った。
「ええ…とっても。」
二人は見つめ合い、そして唇に触れるか触れないかのキスをした。
「トーコさん…僕もう動きたい…。」
「…駄目。じゃあ私が動いてあげる。」
冬はゆっくりと上下に動き出した。冬のネックレスが動くたびに音をたてた。ふっくらとした赤い唇から、小さな吐息が漏れている。
「いやらしい…エッチなトーコさん…が見たい…です。」
小鳥遊は冬の背中に指を這わせた。
「エッチな先生に…そう言われると…複雑かも。」
冬は甘い刺激に酔い始めた艶かしい目で小鳥遊を見つめて居た。
「きっと…僕より…あなたの方が…実はエッチな気がします。」
小鳥遊の手は冬の尻を支え、その動きをアシストしていた。
…ちゅく…くちゅ。
蜜をかき混ぜる音がし始めた。
「そうよ。だから…言ったじゃない…。」
冬は蓄積され始めた快感を楽しんでいた。
「そうでした…ね。」
小鳥遊は笑った。冬は柔らかい腰使いで、深く浅く蠢いた。
「綺麗に美しく着飾ったあなたと…こうして出来るのなら、パーティーもたまには悪くないかも知れません。」
少しづつ動きが早くなった。その動きを早くしているのは小鳥遊だった。
「せんせ…駄目…まだ…楽しむん…だから。」
「もう…もっと深く突きたい。トーコさんに主導権を握られるとどうも僕は駄目ならしい。」
自分の膝から冬を下し、テーブルに手を突いて立たせた。
「バック…でしたい。」
裸でするよりも、こうして服を着て居た方が小鳥遊は興奮した。冬を突き上げるたびに、耳元のピアスが煌めいた。
「トーコさん…綺麗です。あなたをこうしていっぱい犯したい。」
「…あん…あん。」
冬の甘い声がプールサイドに響いた。
「トーコ…もう…いき…そぅ。」
深く何度か突いた後、小鳥遊は冬から引き抜いた。冬はそれを口ですかさず咥え、舌先でチロチロと刺激した。小鳥遊は、自分で上下に動かした。
「あ…いく…いく…うっ。」
小鳥遊の脚が何度か震え、冬の口の中で果てた。冬の口の中に愛しい苦みが広がった。
…ゴクリ。
冬はそれを飲みこんだ後、自分の愛液で汚れた小鳥遊を舌を使って綺麗にした。
「あ…トーコさん…出したばっかりだから…刺激が強くって…あ…やめて。」
小鳥遊は身もだえた。
…せんせ…可愛い。
小鳥遊はズボンをあげ、崩れるようにして椅子に座った。
「さっ…先生♪ダンスホールに戻りますよ。」
小鳥遊の手を引っ張った。
「…ちょっと休ませて…トーコさん。」
「駄目です…先生は私のボディーガードですから、傍についていてくれないと困ります。」
そう言って小鳥遊を無理やり歩かせた。ホールに戻るとダンスが始まっていた。皆それぞれがパートナーと一緒にゆったりと踊りながら、会話を楽しんだりしていた。
「先生…一緒に踊りましょう。」
そう言って冬はホールに連れ出した。小さな子供がカップルで踊っていて可愛らしく、大人の微笑みを誘っていた。冬はその子供達を見ながら言った。
「ねぇ…前妻さんとの間にお子さんは居なかったの?」
小鳥遊は驚いた。今までに冬からそんなことを聞かれたことは一度もなかったからだ。
「え?…ええ。僕は忙しかったですし、彼女もまだ欲しくないと言ってました。」
「そうだったんですか。ご結婚されてどのぐらいだったんですか?」
「5年程でした。お互いすれ違いの様な生活でしたけれど…。珍しいですねあなたが僕の事を聞くなんて。どうしちゃったんですか?」
小鳥遊は優しく微笑んだ。
「聞かれるのお嫌でしたか?ごめんなさい。ただ何となく聞いてみたかっただけ…。」
冬はそれっきり、それ以上は何も聞かなかった。
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:
「え~っ。今?」
冬は小鳥遊とソファーの上で寛いでいた。
愛され過ぎて体が怠く結局海には行かず,
本を読んでいる小鳥遊の膝の上に白い足を乗せてテレビを観ていた。
「ええ。今よ。」
こんな時は大抵何か言いたいことがある時だ。
「わかったわ。」
重い体を起こした。
「ちょっと行ってきます。」
そう言って冬は小鳥遊にキスし浴室へ向かう春の後ろについていった。
脱衣場で服を脱ぎながら春は言った。
「もう大人だから私は何も言わない。けれど、ちゃんとけじめをつけて責任を取らなきゃいけないわよ?」
冬は鏡越しに春の背中を見た。背中には小さな頃から見慣れた傷が残って居た。美容整形で何とかなるのに、春はそのままにしていた。
「うん…それは判ってる。」
ボディーソープをつけ、体を洗う。
「いつか選ばなきゃいけない時が来ると思うわ。辛い選択になるわよ。」
そうかも知れない…冬もそれは薄々気が付いている。
「判ってる…だけど今はどちらか一方なんて選べないの。」
シャワーの音だけが響いた。
「でも…二人を同時に愛す…なんて大変じゃないかしら?今回もそれが原因じゃないの?」
それはあるかも知れないけれど、今は仕事が忙しいから、色々滞っている気がした。
「たまに…二人の間で苦しくなる時があるのは事実。でも今はふたりに傍に居て欲しい。」
「お父さんが帰ってくると言うことは、またパーティーね?」
冬はため息をついた。
「御付き合いがあるから仕方が無いのよ。」
今泉と小鳥遊のステータスをどうするかだ。
「確かに…今まで男の影が少なくとも無かったように見えるあなたが、二人も連れていると、やはり、何か言われると思うわ。私はあなたの破天荒な振る舞いには慣れているけど。」
春は笑った。
「その言葉、そのままそっくりそちらにお返しします。」
あなた程私は酷く無いわよと春は笑った。
「…でもお母さんの言う通り、けじめはちゃんとつけるわ。もう逃げない…大丈夫よ。」
突然風呂場のドアが開いた。
「わっ…済みません…誰も居ないと思って…。」
今泉だった。
良いわよ折角来たんだから一緒に入りましょう。春が笑った。
「静さん…もう良いよ…ここまで来たんだから、入っちゃえ♪」
今泉は二人の顔を見比べてやっぱり似ているな…と思った。
湯船にはだいぶ余裕があったので、今泉は少し離れたところに入った。
「そんな他人行儀な…こっちへらっしゃいよ。」
春は言った。
「…何言ってるのよ。もうっ。私が静さんの傍に行くわ。」
冬は言った。
「なんか…落ち着かないですね。」
今泉は苦笑した。
「そうよねぇ…こんなおばさんと一緒じゃ。」
冬は言った。
「いえ…そう言うことでは無くて…多分こういうシチュエーションは、小鳥遊先生だったら喜んでたかも知れません。」
…確かに。
「パーティーですって…。」
冬はため息をついた。
「嫌なの?」
「だって…着飾った人ばっかりがおべっか使って愛想笑いしているのなんて…面倒くさいだけけよ。」
「あ…私ドレスないからパーティーいけない!」
冬が嬉しそうに言った。
「あら…大丈夫よ♪お母さんのドレス貸してあげる。」
「えーっ。露出度高いし、どうせprostituteみたいなのでしょ?」
「またそんなこと言って…失礼ね。じゃあ自分で選べばいいじゃない。」
…言われなくてもそうするわよ。
「お父さんが帰ってくるってことは、お兄ちゃんも一緒?」
「今回は健太郎さんだけで、秋さんは帰って来ないみたい。」
「トウコさんにはお兄ちゃんがいたんですね。」
「ええ。。」
冬は湯船の中で手を繋いでいた。
「へー知らなかった。」
あら…あなたたちいつもそんな感じなの?
「病院の人達が居ない時にはね。」
冬は春を見ずに言った。
「別に公表しても良いんですけれど、冬さんが嫌みたいです。」
今泉は笑った。
「早く孫の顔が見たいわ。」
春が言った。
「まだ結婚だって先になりそうなのに。」
冬は不機嫌になった。
「きっと小鳥遊先生とトウコさんなら男の子でも女の子でも可愛い子が生まれるんじゃないでしょうか?」
今泉は微笑んだ。
「じゃあ…おふたりさんはごゆっくり。」
春はすっと立ち上がって湯船から出た。
「おっと…。」
今泉は慌てて目を伏せた。
「ちょっと…偽おっぱいの露出狂。ちゃんと隠して出なさいよ!」
「何言ってるのついてるものは皆同じでしょう。先生達は見慣れてるから平気よ。」
春はそう言って笑ったが、冬はさっと今泉の眼を手で隠した。
「はいはい…どうぞ若い二人でごゆっくり。」
春は脱衣場へと去って行った。
「僕が小鳥遊先生だったら、絶対…戦闘態勢に入ってたと思う。」
あーびっくりしたと今泉は笑った。
「私と間違える位だから、そうでしょうね。」
冬は笑った。
「でも僕は偽物よりもこっちのおっぱいの方がいいなぁ。」
そう言って冬を抱き寄せた。
「えっ…じゃあ見たんだ?偽物おっぱい。」
今泉は何も言わずに笑って冬を抱きしめた。
「そうやって誤魔化しても駄目。」
もう見ちゃうのは男のサガですよと今泉は笑った。
小鳥遊は残念そうに言った。
「えー今泉先生だけずるい。僕も偽物おっぱい見たかった!!」
…絶対言うと思った。
「そんなに見たいなら聞いてみれば?」
…きっと見せてくれるから。
冬はムッとした。
翌日は良く晴れて暑かった。冬と今泉は二人で浜辺へと来ていた。
思っていた以上に冬はビキニが似合っていた。今泉が選んだ、可愛らしさもあるが甘すぎず、冬も気に入っていた。
「とっても似合ってる!」
今泉も嬉しそうだった。二人で大きなバスタオルに横たわった。家族連れが何組か来ているが、静かだった。冬は日焼け止め、今泉はサンタンローションをお互いに塗り合った。うつ伏せになった冬は背中の紐を外した。
「なんか…ムラムラしそうです。」
今泉は優しく触れた。
「違うのよ…塗り残しがちょっとでもあると、真っ赤になっちゃうから、紐の下も塗って欲しかっただけ。」
冬は笑い、塗り終わるとすぐ紐を結ぼうとした。
「あ…僕やりたい♪」
今泉はとても嬉しそうだった。
二人で見つめ合っていた。
「静さんは、もし私が2-3年待ってて欲しいと言ったら待っていてくれる?」
…え?
「その間は、全く会えないかもって言うこと?」
「ううん…半年に一度ぐらいなら会えるかも…。」
…うーん。
「その時になってみないと分からないけど、待ってて欲しいって言うんだったら、待つかなぁ。」
二人はじっと見つめ合っていた。
「その理由を聞いちゃ駄目?」
冬は暫く考えた。
「あと半年…ぐらいしたら言えると思うの。その時には必ずちゃんと説明するから。」
「わかったよ。」
「だから…。主任の話も断るかなぁ。」
ため息をついた。
「えっ!断っちゃうの?どうして?」
日差しがじりじりと照り付けていた。
「全部一緒には出来ないことなの。」
今泉は黙って考えた。
「病院辞めちゃうとか?」
冬は一瞬戸惑いを見せたが、
「うーん判らない。」
と笑った。
…多分そうなんだ…辞めてしまってどこかへ行くのかも知れない。
今泉は直感的にそう思った。
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「パーティー・ダンスとか先生達は踊れますか?」
冬は聞いた。
「うーん…なんとか?かも。」
今泉は困惑した。小鳥遊は昔だけど、アメリカに居る時に友達にちょっと教えて貰ったと笑った。
「そう…それは良かった。じゃあトーコは静さんと、私は学さんと一応練習しましょうか。」
春は笑った。
「あなたは来賓の人に合わせて踊ってね。パートナーだったシモーネも来るし、一緒に踊れば良いじゃない。」
…ヤバい…最近やってないから忘れてる。
「ちょっとお母さん 後で一緒に練習してくれる?多分ちょっとやれば思い出すと思うんだけど。」
「それよりドレス何着か出しといたから、着替えて見せて頂戴。とびっきり素敵なの選んどいたから。」
…でた…露出度絶対高い系だ。
冬はため息をついた。
「自分で選びたい…。」
「あなたは若いのにいつも地味なものばっかり選ぶからダメっ。」
冬は春の部屋へと行った。
「あの子きっと叫ぶわよ。」
ふたりに言って春が耳を澄ませた。
「ぎゃー!!何これ?こんなの着れないよ。」
春がほらね。と言って笑うと、ふたりともつられて笑ってしまった。
「良いから、全部持ってこっちに来て頂戴。男性陣に見て貰えば良いんじゃない?」
色も形も全く違うものだった。真っ赤な血の色のドレス。スクープネックでフロントはシンプルだが、背中は大胆に腰の下まで開いていて、屈んだらお尻の割れ目が見えるんじゃないかと思うほどにしっかりと開いていた。
「私はこれが一番お勧めだと思うんだけど…。」
春は腰に手を当てて、得意げだった。
太ももの中間ほどまでスリットが入っていて。歩くたびに、冬の艶めかしい足が見えた。男性2人は暫く見惚れていた。
…ちょっと回ってみなさい。
春が言った。えーっと言いつつも、後ろを向くと真っ白な背中が見えた。
「おー。僕は好きですね。」
今泉は微笑んだ。
「足さばきは良さそうだけど…布少なくない?」
冬はクローゼットについている大きな鏡で自分の姿をチェックした。
春のチョイスは間違って居ないと小鳥遊は思った。
「じゃあ次の着て来る。」
ピンクのAラインドレスで、上腕から胸元までは総レースの切り替えになっており、透け感があった。胸元からウエストまでは、足元まではチュールで出来ており、優しく可愛らしい印象を与えた。
「私…これがいい…。」
冬が言った。
「ね…何の面白みも無いでしょう?ちょっとあなたには甘すぎる感じね。」
…はい…じゃあ次。
真っ白のマーメイドドレスだったが、Vネックで胸の谷間が強調されていた。沢山のスパンコールが付いているものだった。
「なんかこれ引っかかりそうでいやだな…。それにちょっと重い。」
冬は独り言を言いながら回って見せた。
「それは、駄目だったわね。」
冬は顔をしかめた。次はホルターネックのベージュのドレスだった。シフォンとビーズ、にスパンコールが付いていて、首の回りにはベージュのラメで動くたびにキラキラと光た。
胸の辺りには透けていた。背中は大きく開いていて、丁度首元から、左右2本のレースで、腰の下まで続いていた。背中の中心はひし形に綺麗に開いていた。
「これも良いかなぁ。」
冬は再び鏡の前で回って見せた。
「うーん。これは上品でおとなし過ぎるわね。主張が全くないって言うか…平凡ね。」
春は首を横に振った。
冬と春の好みは全くの正反対だった。
「うーん…セクシーさが足りないわね。」
次は、ゴールドのトランペットの様に少し裾が広がったマーメイド。ハイネックでホルターになっていた。丁度前から見ても判る、ウェストの辺りにスリットが入り腹のサイドが開き、肌が見えた。背中で肩ひもがクロスするようになっていてこのドレスもまた背中も大きく開いていた。
じゃあ多数決で決めましょう。冬だけが甘いドレスを選び、春も男性二人も、一番最初に着た赤いマーメード・ドレスを選んだ。
「ほら…トーコのチョイスはイマイチなのよ。」
自分のことを全く判って無いのねと春は苦笑いをした。
「えーでもこれセクシー過ぎない?」
年齢の割に少し幼く見える冬には、これぐらいが丁度良いかも知れないと
小鳥遊は思った。
「ほら やっぱり赤が良いですよ。ねえ小鳥遊先生?」
今泉は笑った。
「ええ…。」
小鳥遊は冬の姿に心を奪われていた。
「ほら…やっぱりこのドレスですよ。」
冬が差し出した手に優しく触れながら今泉も言った。
「あとは化粧ね…当日は私がするから。」
冬は少しがっかりして部屋へと帰って行った。
「僕が見て来ます。」
小鳥遊は冬を追いかけた。では、今泉先生は一緒に練習しましょうか。春は笑った。冬は自室のベットで横になっていた。
「トーコさん?」
「…。」
「トーコさん…聞いて下さい。」
「…。」
「とても似合ってましたよ。」
「私にはふたりが居るのに、なんでセクシーにしなくっちゃいけないの?ふたりに見せるだけで別に他に見せる為に着る必要は無いじゃない。」
「トーコさんぜひ着てください。」
「…でも。」
「何故なら…僕はあなたの姿に欲情してしまったからです。」
そう言って冬を強く抱きしめた。
…今ここでまた…したくなってしまいました。
小鳥遊は耳元で囁いた。
「…だから、機嫌を直して下さい。」
「そんなこと言って、先生はしたいだけでしょ?」
「まぁ…そんな感じです。」
そう言って、小鳥遊は笑った。
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:
冬の父親、健太郎が帰って来た。健太郎は春に比べると物静かな印象を受けた。小鳥遊と今泉に挨拶をした。
…美男美女カップル。
小鳥遊は思った。冬の父は背も高く、グレイの髪の毛は短く切られていて、何よりも姿勢が良かった。60は過ぎていると思われるが、40代と言っても良い程若々しかった。
「冬、ちょっと私の部屋に来なさい。」
そう言って冬を連れて行った。
冬はもう何を言われるのか分かっていた。
「春さんから聞きました。あなたは2人の男性と御付き合いしているそうですね?それについて説明して下さい。」
…ほらやっぱりね。
自由奔放な春に比べ、健太郎はいい加減なことが好きでは無かった。
「説明することは何もありません。二人とも好きだから、選べないからです。」
冬は健太郎の顔を見て、きっぱりと答えた。
「それでは相手のご家族だって納得はされんだろう。」
健太郎の書斎は嫌いだった。
小さなころから怒られる時には、必ずここに呼ばれるからだ。
「私は、相手のご家族とお付き合いをしているわけではありません。」
健太郎はため息をついた。
「あなたももう大人でしょう?それぐらいのことが判らなくってどうしますか?」
冬を諭すように言った。
「判っています…充分に…。お父さんが心配されなくても、自分で何とかします。」
「娘がそんないい加減なことをしていて止めない親がどこにいますか?」
口調が厳しくなった。
「少なくともお母さんは何も言わないわ。」
健太郎は首を振った。
「あの人は特別です。わざわざあなたが春さんの真似をしなくっても良いんです。」
…そのぐらいわかるでしょう?
という目で冬を見た。
「真似をしているわけじゃないわ!好きだから一緒に居る…それが何が悪いの?別に不倫をしているわけでは無いんだから。」
健太郎の眉が動いた。
「お父さんがあの二人に聞いて見ると良いわ。そうしたらわかるから。この話が、まだ続くようでしたら、私帰ります。」
冬は絶対に折れなかった。健太郎もそれは良く分かっていたが、言わなければならないと思った。
部屋を出ると春が心配そうな顔をしていた。
「健太郎さんだって、あなたのことを心配しているのよ。だって愛する娘なんですもの。」
…そんなことは分かってる。
「別に誰も理解してくれなくても良いわ。」
冬の顔は強張り、それ以上何も言わなかった。
「私は理解しているわ…分かるでしょう冬?」
春は冬の顔をじっと見つめて言った。
「あなた達の選択に私はとやかく言わないわ。だってもう大人ですもの。自分の好きにすればいい。責任が取れるなら。」
…責任って何?
「あなたが傷ついたり、悲しい思いをするのはもう私達だって見たくないもの。それに非難するつもりは無いわ。」
春は少し寂しそうに冬を見つめた。
「健太郎さんもこれ以上の事は何も言わないと思うわ。ただ私も健太郎さんもあなたの事をいつも心配していることを忘れないで居て頂戴。」
冬はふたりが待つリビングでは無く、自室へと向かった。
「ごめんちょっと昼寝してくるって二人に言っといて。」
冬は大きため息をつきベッドに横になった。
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:
朝からパーティーの準備で人の出入りが激しかった。大きなフラワーアレンジメントやケータリング、春のアシスタント達や、屋敷のお手伝いなどが総動員だった。
18時過ぎには、会場の準備が整った。パーティーが始まる15分程前に二人は呼ばれた。春は、胸を強調する体にぴったりとした真っ白なドレスを着ていた。
「とても素敵ですね。」
ふたりが同時に言うと、あらありがとう♪と嬉しいそうに春は言った。
「あら?冬はまだ来てないの?もしかして逃げた?小鳥遊先生ちょっと見て来てくれる?」
春は、綺麗なドレスの裾を優雅にさばきながら去った。小鳥遊は冬の部屋に向かった。
「トーコさん?大丈夫ですか?」
ドアをノックして外から声を掛けた。
「うん…大丈夫。入って。」
ドレッサーの椅子に座って、ネックレスを付けている所だった。
「手伝いましょう。」
鏡越しに冬に声を掛けた、そう言うと小鳥遊は冬の後ろに回った。真っ赤なドレスは冬にぴったりだった。耳にはキラキラと光るロングピアス、
髪の色もカラーリングで黒に戻していた。長い髪は緩めのアップになっていた。
「ちょっと胸の周りが緩い気がしたので、頑張って寄せてあげてたの。以前はサイズもほとんど同じだったのに、あの人大きくしちゃったから、合わなくなっちゃったの。」
冬は笑ったが、よく似合っていて、小鳥遊は思わずため息をもらした。
「トーコさんとっても素敵ですよ。セクシーです。」
しっかりと化粧をした冬は大人っぽい美しい女性になっていた。少しぽってりとさせた唇には真っ赤で艶やかな口紅が塗られていた。
「母が化粧してくれたんだけど、やっぱり濃いわよねぇ。」
自分の顔じゃないみたいと言って笑った。
「いえいえ…とても素敵です。いつものナチュラルなトーコさんも素敵ですが、女の色香が漂う今のあなたも好きです。」
真っ白な冬の肩に優しく触れた。
「せんせ…最初のダンスは、私と踊ってください。」
長い睫毛は、冬の眼をより大きくみせた。
「ええ…喜んで。」
…そうだ。ホールへ行く前に写真を撮らせて下さい。
「えー。こんなケバケバしい恰好?嫌だ―。」
「お願いします…。」
「でも…。」
「お願いします。」
「誰にも見せないって約束してくれる?」
「僕たちのことは誰も知らないのに、一体誰に僕が見せると言うんですか?」
小鳥遊は笑った。
「お願いします。今携帯取って来ますから。」
そう言って部屋に戻り今泉も呼んだ。
「わぁトウコさん。大人の女性になってる。そこら辺の女優よりも綺麗ですよ!」
二人に褒められて恥ずかしかった。
小鳥遊と冬の写真を今泉が撮り、今泉と冬の写真を小鳥遊が撮った。今泉は冬の隙を見て、頬にキスをした。
「あ…。」
小鳥遊先生はオフィシャル彼氏ですし、今はこのぐらいしても良いでしょう?と言って笑った。
「でも…。」
冬は少し不満そうだった。
「僕は友人で良いです。」
今泉はそう言って笑った。
「こそこそする必要は無いわ。だって二人とも私の恋人だもの」
冬はいつもの仁王立ちになって言った。
「あ…やっぱり綺麗になっても、いつものトウコさんだ。」
今泉が言うと、小鳥遊が笑った。
堅苦しくないパーティーとはいえ、来賓は大人は50人ほどで、子供もちらほら居た。ホストとホステスの二人は来賓への挨拶で忙しく動き回っていた。
「あなたは行かなくって良いんですか?」
小鳥遊が言った。
「そのうち、誰か嫌でも来るから壁の花でも大丈夫。」
冬は健太郎に呼ばれたり、春に呼ばれたりしてそのたびに来賓の相手をしており、既に疲れていた。
小鳥遊と今泉は、それを眺めていた。冬が言っていた通り、パーティーに冬が来るのは暫くぶりだったようで、どの客とも、春や健太郎よりも冬と長く話をしていた。
真っ赤なドレスを着てスタイルも身のこなしも良い美しい冬は、着飾った他の多くの女性達よりも、そして何処に居てもよく目立った。
「素敵なトウコさん…僕は惚れ直しました。」
今泉はため息をついた。
小鳥遊も気が付けば冬を目で追っている自分に驚いた。
「Buona sera!Toko! Mi sei mancata!!!」
ひときわ大きな声が聞こえた。
これまた小鳥遊でも見上げるように背の高い男性が、冬に近づき軽々と抱き上げると、その白い首元にキスをした。
「君は相変わらず小鳥の様に小さくて可愛らしいね!ドレスとっても素敵だよ!!」
春が小鳥遊をチラリとみた。
「ねぇ。後でダンスを一緒に踊ってくれる?」
抱き上げられて暫くその男の腕の中に居た冬は、笑って言った。
「シモーネ。お久しぶり。元気だった?」
シモーネと呼ばれた男は冬の手にキスをし、そのまま話して居る間ずっと冬の手を握っていた。冬はこちらに向かってくる小鳥遊を手招きして。
「シモーネ。紹介したい人が居るの。」
春は微笑んだ。
「il mio fidanzato. Dr.Takanashiよ。」
冬はその小さな手を小鳥遊に差し出しながら言った。大きな男性ふたりに手を繋がれた冬の姿は、奇妙だった。シモーネは大きな瞳を見開いて小鳥遊をマジマジと見た。
「初めまして。ガクです。宜しく。」
そう言って小鳥遊は手を差し出したが、シモーネは困惑した様子で言った。
「僕のトーコ。これは一体どういうことだい?」
「私の〝婚約者“の小鳥遊先生よ。」
気もそぞろでふたりは握手を交わした。
「彼氏よりも婚約者にしといた方が良いわ。後で説明するから。」
春が小鳥遊に囁いた。
「トーコさんには国際色豊かな沢山のファンが居たんですね。」
小鳥遊は苦笑した。
「ええ…日本人男性よりも、ファンが多いのよ。不思議と。」
春は静かに囁いた。
「僕を置いてお嫁に行ってしまうのかい?」
そう言って冬を再びふわりと抱き上げた。とても自然な横抱き。とても絵になるふたりだった。
「何言ってるのシモーネには、恋人が沢山いるじゃない。」
冬は慌てて言った。
「お嫁に行く前に…今度デートしよう。これが僕の最後のお願いだ。」
シモーネが冬にキスをするんじゃないかと思うほど顔を近づけて、悲しそうに言った。
「ガク…トーコはまだあなたのものじゃ無い。だからデートぐらい良いよね?」
小鳥遊に向かってシモーネが言った。これほど押しが強いと、小鳥遊は呆れるしかなかった。
「残念ながら…。」
小鳥遊が言いかけた時に,冬が話を割って入った。やっとシモーネから解放された冬は、小鳥遊の腕に甘えるように手を絡ませた。普段なら決してしない行動に小鳥遊は驚いたが、嬉しかった。
「ごめんなさいね。ガクのことを心から愛しているの。私の全ては彼のものなの。」
小鳥遊は、上目遣いで自分を見上げた冬の顎を指で少しあげると、絶妙なタイミングで優しくキスをした。
「ガク…愛してるわ。」「僕もです。」
まるでシモーネなど居ないかのように見つめ合うふたりを呆然とシモーネは、眺めて居た。
「さぁ…最近のあなたのことをもう少しお話して頂戴。」
春は悲しみに暮れるシモーネを無理やり健太郎のところへ連れて行った。
「先生…お嫌でしょうけれど、シモーネが見てるからちょっとこのままで居てくれない?」
小鳥遊は笑った。
「僕は別に嫌ではありませんよ。」
そう言って、冬に優しくキスをした。
「シモーネはね…女ったらしなの。私じゃ無くても、女性なら誰でも口説くのよ。」
冬は笑った。
「あれ…でもさっき会えなくって寂しかったって言われてませんでした?」
…しまった…イタリア語も分かるのか。
「ええ…まぁね。」
冬は笑った。
「以前 お付き合いしてたとか?」
…今日のエロは鋭いな。
「そうだったのかなぁ。」
冬は誤魔化した。
「後で僕はその話をもっと詳しく聞きたいですね。それに、人前で美しく着飾ったあなたに甘えて貰うって、新鮮で良いですね。」
小鳥遊は冬の耳元で囁いて、微笑むと再び冬にキスをした。
バンドが演奏している間、それぞれがおしゃべりをしたり、食事を食べたり自由に過ごしていた。
「ねぇ…先生ちょっと抜け出しちゃおう♪」
冬は、小鳥遊の手を引っ張って会場を後にした。
「ここなら誰も来ないから。」
室内プールにやってきた。
使われていないせいで、中はひんやりとしていた。
「会場から離れちゃって大丈夫ですか?」
プールサイドに冬の軽やかなヒールの音が響いた。
「うん。」
テラスの側にある木製のベンチにふたりで座った。
「パーティーなんて面白くもなんとも無いでしょう?」
冬はため息をついて小鳥遊に寄り掛かった。
「そうですかね。美味しい食事に、綺麗な女性達に音楽。僕は好きですけれど。」
小鳥遊は微笑みそっと冬の細い肩を抱き優しく撫でた。
「あら綺麗な女性以外に好きなものがあったなんて知りませんでした。」
冬は意地悪く笑った。
「僕の知らないトーコさんはまだ沢山居るのでしょうか?」
小鳥遊はぽつりと言った。
「別に隠しているつもりは無いんです。」
小鳥遊の頬をそっと撫でた。
「僕は…トーコさんがどこかへ行ってしまいそうで心配になる時があります。」
それを聞いて冬は優しく微笑んだだけだった。小鳥遊は美しいその顔にそっとキスをした。
「妖艶なトーコさんをここで愛したい。」
欲情してとろりとした視線を冬に向けた。
「私も…。」
冬は妖艶に微笑んだ。ズボンを下すと小鳥遊のそれは、はち切れんばかりに膨張していた。カツカツとヒールの音を響かせて、冬は小鳥遊の上にそっと座ろうとするのと同時に、小鳥遊の手が冬の真っ赤なドレスのスリットの中へと忍び込んだ。
「トーコさん…履いてないんですか?」
「ラインがでちゃうから…ドレスの時は履かないの。」
冬のそこは、もう十分すぎる程に潤っていた。
「最後はお口で良い?…後で流れてきちゃうから。」
冬は耳元で囁いた。
「はい…。」
小鳥遊は、冬の欲望に満ち溢れた部分に太い赤銅色の自身を押し当てて、そっと手で抑えていると冬がゆっくりと腰を下ろしていく。
「…ああ。」「ん…ん。」
何の抵抗も無く深くまで入った。冬に包まれた温かさの中で、小鳥遊のそれは大きく拍動した。
「あなたに…包まれてます。」
いつもよりきつめの冬の香水の香りが、小鳥遊を酔わせた。
「…せんせ?気持ちがいい?」
動くたびに、薄暗いプールサイドのテラス窓から覗く月の光で、冬のピアスがキラキラと光った。
「ええ…とっても。」
二人は見つめ合い、そして唇に触れるか触れないかのキスをした。
「トーコさん…僕もう動きたい…。」
「…駄目。じゃあ私が動いてあげる。」
冬はゆっくりと上下に動き出した。冬のネックレスが動くたびに音をたてた。ふっくらとした赤い唇から、小さな吐息が漏れている。
「いやらしい…エッチなトーコさん…が見たい…です。」
小鳥遊は冬の背中に指を這わせた。
「エッチな先生に…そう言われると…複雑かも。」
冬は甘い刺激に酔い始めた艶かしい目で小鳥遊を見つめて居た。
「きっと…僕より…あなたの方が…実はエッチな気がします。」
小鳥遊の手は冬の尻を支え、その動きをアシストしていた。
…ちゅく…くちゅ。
蜜をかき混ぜる音がし始めた。
「そうよ。だから…言ったじゃない…。」
冬は蓄積され始めた快感を楽しんでいた。
「そうでした…ね。」
小鳥遊は笑った。冬は柔らかい腰使いで、深く浅く蠢いた。
「綺麗に美しく着飾ったあなたと…こうして出来るのなら、パーティーもたまには悪くないかも知れません。」
少しづつ動きが早くなった。その動きを早くしているのは小鳥遊だった。
「せんせ…駄目…まだ…楽しむん…だから。」
「もう…もっと深く突きたい。トーコさんに主導権を握られるとどうも僕は駄目ならしい。」
自分の膝から冬を下し、テーブルに手を突いて立たせた。
「バック…でしたい。」
裸でするよりも、こうして服を着て居た方が小鳥遊は興奮した。冬を突き上げるたびに、耳元のピアスが煌めいた。
「トーコさん…綺麗です。あなたをこうしていっぱい犯したい。」
「…あん…あん。」
冬の甘い声がプールサイドに響いた。
「トーコ…もう…いき…そぅ。」
深く何度か突いた後、小鳥遊は冬から引き抜いた。冬はそれを口ですかさず咥え、舌先でチロチロと刺激した。小鳥遊は、自分で上下に動かした。
「あ…いく…いく…うっ。」
小鳥遊の脚が何度か震え、冬の口の中で果てた。冬の口の中に愛しい苦みが広がった。
…ゴクリ。
冬はそれを飲みこんだ後、自分の愛液で汚れた小鳥遊を舌を使って綺麗にした。
「あ…トーコさん…出したばっかりだから…刺激が強くって…あ…やめて。」
小鳥遊は身もだえた。
…せんせ…可愛い。
小鳥遊はズボンをあげ、崩れるようにして椅子に座った。
「さっ…先生♪ダンスホールに戻りますよ。」
小鳥遊の手を引っ張った。
「…ちょっと休ませて…トーコさん。」
「駄目です…先生は私のボディーガードですから、傍についていてくれないと困ります。」
そう言って小鳥遊を無理やり歩かせた。ホールに戻るとダンスが始まっていた。皆それぞれがパートナーと一緒にゆったりと踊りながら、会話を楽しんだりしていた。
「先生…一緒に踊りましょう。」
そう言って冬はホールに連れ出した。小さな子供がカップルで踊っていて可愛らしく、大人の微笑みを誘っていた。冬はその子供達を見ながら言った。
「ねぇ…前妻さんとの間にお子さんは居なかったの?」
小鳥遊は驚いた。今までに冬からそんなことを聞かれたことは一度もなかったからだ。
「え?…ええ。僕は忙しかったですし、彼女もまだ欲しくないと言ってました。」
「そうだったんですか。ご結婚されてどのぐらいだったんですか?」
「5年程でした。お互いすれ違いの様な生活でしたけれど…。珍しいですねあなたが僕の事を聞くなんて。どうしちゃったんですか?」
小鳥遊は優しく微笑んだ。
「聞かれるのお嫌でしたか?ごめんなさい。ただ何となく聞いてみたかっただけ…。」
冬はそれっきり、それ以上は何も聞かなかった。
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:
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この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
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