小鳥遊医局長の結婚

月胜 冬

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謝罪会見

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小鳥遊と今泉、冬との関係は、この事件でぎくしゃくしていた。

「ねぇトーコ。少し実家に帰ってみる?そうしなさいよ。華ちゃんも夏さんも私が見るから…。ね?そうなさい…あなただけでは無くて、ガクさんも静さんにも少し時間が必要なのよ。」

春は冬のことを心配して、
マンションに居続けた。

…またふたりを傷つけてしまった。

「判ったわ。お母さんには迷惑を掛けてばかりで本当にごめんね。でも…私がしなくちゃ…。」

昼ご飯の準備をしながら、
ふたりは話をしていた。

「判ってるわ。ガクさんからも静さんからも全て聞いたわ。あなたの無鉄砲さには呆れるけど、私の自慢の娘だわ。」

春の声は涙で震えていた。

「ホントに無茶ばっかりして…。」

冬を抱き寄せた。

――― 夕食。

子供達以外は、誰も殆ど話さない食事が事件から数日続いていた。

誰もあの事件のことを話さないし、小鳥遊は食事をとり自室に籠ってしまい、風呂まで出てくることが無かった。

華や夏が部屋へ行くと一緒に遊んだり、
本を読んだりしているようだった。

今泉も冬と他愛もない話をしたが、
どこかうわの空だった。

「私、実家に少し帰って来ようと思っているの。」

冬は静かに言った。

「華ちゃんと夏さん、それに食事の支度は私がするわ。」

春がすかさず口を挟み、
ふたりの様子を伺った。

「僕は、あなたの好きにすれば良いと思います。今まで頑張って来たのですから…。」

小鳥遊は冬に優しく微笑んだが、
その微笑みには寂しさを含んでいるように見えた。

「僕はトウコさんの傍に居たいけど、トウコさんが、そうしたいのなら僕は止めないよ。」

今泉は大きなため息をついた。

「判ったわ。ありがとう。」

冬が春の顔を見ると、大丈夫だからと静かに頷いた。



🐈‍⬛♬*.:*¸¸

現職医師ふたりが、児童買春やレイプ、薬の横流しに関わっており、年明けから大きなニュースとなった。

藤田麻酔科医局長は、副院長代理として淡々と後処理をこなし、小鳥遊もそれをサポートする形で加わった。

「まことに申し訳ありませんでした。」

病院の公式記者会見では、院長、藤田副院長代理、小鳥遊、石動薬剤部部長、事務長、弁護士などが並んで謝罪する形となった。

当時の薬剤部部長のずさんな管理に加え外科医局部長の児童買春、小峠の睡眠導入剤を使った複数の婦女暴行、殺人未遂など、ひとつずつについての説明を求められ、会見は2時間にも及んだ。

テレビのニュースとして流れたのは5分程であったが、今泉も春も食い入るようにして画面を見つめていた。

「あ…パパ?」「パパだ。」

子供達はテレビに映った小鳥遊を見て嬉しそうに声をあげた。

「しーっ。お話が聞こえなくなっちゃうから、ふたりともちょっとお静かに!」

今泉がボリュームをあげた。大まかな結果と後処理についての説明がなされた。

「あら♪やっぱり私が選んだネクタイとシャツ。とっても似合って素敵だわね。ほら他の人達よりもカッコよさが目立ってるもの。」

春も画面を見つめながら冬の代わりに自分が小鳥遊に選んだ、スーツのセンスの良さに酔いしれていた。

「しーっ。春さんも聞こえないよっ。」

記者が細かいことに触れ始めると、弁護士が止めた。誰もが余分なことは一切話さない徹底ぶりだった。

「やっぱり病院付きの弁護士さんって優秀ねぇ。」

春はその様子を見て感心していた。

「もーっ!春さんっ。」

はいはい分かりましたと笑って静かに聞いていた。



🐈‍⬛♬*.:*¸¸



警察が事件に関するもの全てを持ち去ってしまったため、脳外科と外科の業務は滞り続けて居た。真面目が取り柄の高橋もとうとう根を挙げた。

「小鳥遊先生…僕は限界です。」

「皆さんにお休みをあげられなくて申し訳ありません。半日ずつ交代でお休みを取りましょう。新規・紹介患者は別の病院へ、お願いしています。状態が落ち着いている患者は、次の再診の間隔を少し長めに設定してください。勿論事情をきちんと患者さんやご家族にお話ししたうえでです。」

…高橋に小峠の代わりはまだ早すぎる。

「小峠先生の患者さんは、僕が全て引き受けます。」

小鳥遊は、脳外科医たちの前で静かに話した。

「先生…いくら小鳥遊先生でも、そんなの無茶です。」

山口が叫んだ。

「僕はこれよりもっと酷い状況で、中国では働いていました。僕の心配はしなくて結構です。ご自分の体調管理をお願いいたします。」

小鳥遊は大きな手術が必要な患者は大学病院に送り付けた。

大学へ応援要請をしたものの、まだ手続きに時間が掛かりそうだった。

小鳥遊の顔にはいつの間にか笑みが零れていた。

「こんな苦境でも楽しめる余裕があるなんて…小鳥遊先生が、マゾだだったとは知りませんでした。」

高橋が真面目な顔で言った。

「こんなこと人生で何度もある出来事では無いでしょう?」

小鳥遊は可笑しそうに笑った。

皆一瞬、小鳥遊が忙しすぎて、おかしくなってしまったのかと思った。

「こんなことしょっちゅうあったら困りますよっ。」

真面目な高橋が、ムッとした。

「僕の見積もりでは、長くて3週間…いや2週間で落ち着いてくると思いますよ。」

「もし落ち着かなかったら?」

山口が心配そうに言った。

「もし雑務がそれまでに終わらなければ、うーん…そうですね。今年のハロウィンに僕が看護師さんの白衣を着て一日中仕事をしましょう。」

小鳥遊は嬉しそうに笑いながら去っていった。

他の医者達はぽかんとした顔をしていた。

いよいよ小鳥遊先生は…とお互いに顔を見合わせた。


🐈‍⬛♬*.:*¸¸

冬が実家に戻り1週間が経った。

小鳥遊は連日の仕事の調整などで疲れ切っていた。

小峠が居なくなった分、大学からほぼ日替わりで手伝いが来ていたが、その度に説明などをしなくてはならない。

そして小峠の勤務状況や手術など勤務の内容全てを警察に提出しなければならず、日々の仕事をこなしながら、事情聴取に呼ばれたり、雑務に追われていた。

「先生。ちゃんと休まれてますか?」

師長が心配して小鳥遊に声を掛けて来た。

「ええ…家ではそれなりに。」

「月性さん葉山の実家へ戻られてるんですって?」

「ええ…本人が一人になりたいと言うので。」

「そうですか…お子さんの世話は今泉先生が見てらっしゃるの?」

「ええ…あとは義母が手伝ってくれてますから。」

「そうですか…。」

「外科の方は如何です?」

「もう…大騒ぎですよ。今は藤田隆先生が医局長代理で、事後処理を任されているみたいですけれど。」

「でしょうね…でも、きっと彼なら淡々と雑務もこなすような気がします。」

「小鳥遊先生…私が口を出すような事ではありませんが…」

師長はゆっくりと言葉を選んでいるようだった。

「月性さんの無鉄砲な行いは、私も感心できません。けれど…彼女は、泣き寝入りするしか無かった女性達の苦しみ…その殆どは看護師なんです…を日の元に晒す結果となりました。」

小鳥遊は大きなため息をついた。見つかった動画は、几帳面な小峠らしく、日付とイニシャル、場所などが書き込まれていた。その数は聞いただけで2~30本はあるとのことだった。

「ええ…。」

「でもね…そうすることで、救われる人も居れば、また苦しむ人も居るという事。彼女はそれを知ってても、今回の事を公にしたかったんです。」

「…。」

「あなたたち家族も苦しいでしょうけれど、一番苦しんでいるのは、月性さんです。」

「ええ…判っています。」

師長が厳しい顔つきになった。

「…では…何故彼女を一人きりにさせるのです?」

「僕は…彼女が…。」

師長は小鳥遊の言葉を途中で遮った。

「あなた方が、彼女と距離を置きたかったからではないのですか?」

小鳥遊の頭は鈍器で叩かれたようだった。

「私が知っている小鳥遊先生は、
愛妻家だった筈ですが?違いましたか?」

師長は優しく微笑んで小鳥遊の前を去った。


🐈‍⬛♬*.:*¸¸


…以前は大嫌いだった家。

今は、その家の香りを嗅ぐとホッとするようだった。冬は大きな荷物を自分の部屋に運び込んだ。

…最後に来たのは、いつだっただろうか?

華と、夏が生まれたばかりの頃だ。
つい最近の事の様に思えた。

何も変わっていなかった。唯一変わったものと言えば、春が子供達の為に作った広い子供部屋だった。冬の部屋は最後に戻って来た時のままだった。

小鳥遊の会見を冬もテレビで見ていたが、とても疲れた顔をしていた。

小峠の悪事を暴いたことで、全ての皺よせを小鳥遊や他の医師たちが背負う形になった。

することも無いのに、目覚ましを掛けなくても冬は毎日決まった時間に起きた。

海岸へ走りに行き朝食を取り、ジムでまた汗を掻き、風呂に入り、その後は本を読んだり、昔の映画を観たりして過ごした。数日過ごすと、今日が何日で何曜日かも分からなくなった。

ここ数カ月休む間もなく動き続け、一気に空っぽになってしまった。小鳥遊からも今泉からも連絡が無かった。

…やっぱりそういう事だよね。

在宅待機が解除されて家に戻っても、ふたりが冬の元を去っていたとしても仕方が無いと覚悟を決めていた。

そのことについても冬は既に弁護士に相談済みだった。

…折角貰った休みだ。無駄にしたくない。

冬は、師長から言われていた試験勉強をしていた。

…でも…それもダメになるかも知れない。

時々、真夜中に起きると隣に寝ている小鳥遊や今泉を無意識に探してしまう自分にため息をついた。

…そうか…ふたりとも居ないんだ。

寒々とした部屋の中で、冬は布団にしっかりと包まった。


🐈‍⬛♬*.:*¸¸

葉山に戻って来て1週間ほど経った真夜中、人の気配で目が覚めた。目を覚ました冬はゆっくりと体を起こすと、廊下から洩れる眩しい光に目を抑えた。

「トーコさん。起こしてしまいましたか?」

忙しい筈の小鳥遊が立っていた。

「ガクさん?どうしたの?
こんな時間に?何かあった?」

冬の頭が混乱でズキズキと痛んだ。

「あなたをお迎えに来たんですよ。」

「そう…。」

冬は再び布団に潜り込んだ。

「あなた…寝ぼけてるんですか?」

小鳥遊は呆れて、冬の隣に横になった。暫くすると、冬は小鳥遊にいつものように身を寄せるとすぐに寝息が聞こえ始めた。

「あなたって人は…。」

小鳥遊は微笑みながら冬を抱きしめて、目を閉じた。


🐈‍⬛♬*.:*¸¸


朝、冬が目を覚ますと、小鳥遊はまだ隣で寝ていた。

…夢じゃ無かったんだ。

小鳥遊をそっと寝かせたままで、冬はいつものように浜辺を走り、戻って来て二人分の朝食を作った。

お風呂に入っていると小鳥遊がやって来た。

「まだ寝て居れば良いのに。」

冬は岩風呂で足を延ばしてゆったりとしていた。

「よく眠れましたから大丈夫です。」

冬は湯船からあがり、小鳥遊の背中を優しく洗った。

「病院は大変なんでしょう?」

「ええ…。」

「それなのに…ありがとう。」

冬の背中を洗う手が止まった。

「トーコさん?」

小鳥遊が振り返ると、冬は俯いていた。

「本当は…もう今度こそ…駄目かと思った。」

冬は慌ててシャワーを出して、
小鳥遊の背中を流した。

「トーコさん…。」

冬の声が震えていた。

「もしかしたら、他に方法があったかも知れない…そうしたら、ガクさんも静さんのことも傷つけなくてすんだのに…。ガクさん…私はどうしたら良かったんだろう?」

「僕こそ…済みませんでした。」

小鳥遊は冬の手を引いて湯船に入った。

「自己犠牲の必要があったのだろうかと何度も思いました。ただ、小峠先生が僕の事を陥れようとしていたことを知ったとしたら、多分あなたが心配していた通りのことが起こっていたと思います。」

「ガクさん…。」

「一番辛いのはあなたなのに…一人にさせてしまってごめんなさい。」

湯船の中で小鳥遊は冬を抱きしめた。

「僕はもう家族を失いたくないんです。
あなたの傍にずっといますから。」

「ただ…静さんは、時間が掛かるかも知れません。そもそも僕が小峠先生の策略に掛かっていなければ…。」

冬は小鳥遊を振り返った。

「私こそ本当にごめんなさい。ガクさんと2人の女の子との事…禿の策略だと知ってたら、家を飛び出してなんか居なかった。ただ…ショックで。」

冬と小鳥遊は長い間静かに抱き合っていた。

「明日には戻らなければなりません。
一緒に僕と戻って下さい。」

優しく微笑むと冬は小鳥遊の少し痩せてしまった頬に触れた。

「はい。今日はゆっくり寝ましょうね。」

ふたりは風呂からあがり寝室へと向かった。
バスローブを羽織ったまま、朝食を済ませると、ふたりは再びベッドに戻った。

「今日は、ずっとベッドの上で過ごしましょう。」

冬は小さな手で、硬い小鳥遊の髪を優しく梳いた。

「ガクさん…グレイヘアが増えたわね。」

トニックシャンプーの爽やかな香りがした。

「前からこれぐらいですよ。ただ床屋にいく時間が無いので…。」

小鳥遊は冬の胸に顔を埋めた。

「今日は、こうしてゆっくり過ごしましょう。」

冬は小鳥遊のバスローブを脱がせるとオイルマッサージを始めた。

病院の出来事を、小鳥遊は話していたが、すぐに寝てしまった。冬は長い間マッサージを続けていた。

🐈‍⬛♬*.:*¸¸

冬は、小鳥遊と一緒に家に戻った。今泉は冬を見るなり抱きしめた。

「トーコさん。おかえりなさい。」

冬が居ない間、被害者が弁護士とやってきたり家族と共に冬のマンションに来ていた。

その度に今泉と春はふたりで対応をしていた。春は冬が帰って来てからのふたりのぎこちなさを心配していた。

「止めるのも聞かず、私が勝手にしてしまったんですもの。仕方が無いわ。」

冬は目を伏せた。

…優しい静さんのことだ…言い出せないのかも知れない。

冬はずっと思っていたが、自分からも怖くて聞けなかった。

「お互いにどうすれば良いのか判らないのかも知れません。」

春と小鳥遊は、今泉の出発前に静かに話をしていた。

「ガクさんはわかり易いけど、静さんは…こういう時は本当に難しいわね。」

春が大きなため息をついた。

「ちょっと春さん…まるで僕が単純のような言い方をしないで下さいよ。」

春は声を出して笑った。

「ガクさんは、素直なのよ。嫌なものは嫌、駄目なものは駄目…だけど、静さんは相手の答えを考えて、それに合わせることをいつも優先しちゃうのよ。」

小鳥遊は納得がいかないような顔をしていた。

「時間が解決してくれるかも知れないし、それでも駄目かも知れないし…。」

「春さんは、あのふたりが心配じゃ無いんですか?」

長くかかるだろうとは思っていたが、どうやらふたりはあの時の話もしていないようだった。

「心配だけど…私はいつもトーコの味方…言えるのはただそれだけ。」


今泉がアメリカへ戻る日が来た。春は今泉と一緒にアメリカへ渡り片づけをしてくる予定だった。

「また3月に戻って来るから。」

今泉は優しく笑って冬を抱きしめた。

「春さんも一緒だし、心配ないからね。」

エアポートまで子供達と見送りに来た冬に優しくいった。

「うん…待ってるからね。」

むずがる夏を抱っこしてあやしながら
冬は言った。

「ダディ…バイバイ。」

華はにこにこ笑いながら春と今泉に手を振った。


🐈‍⬛♬*.:*¸¸

「静さんとは、連絡を取っていないのですか?」

冬は小鳥遊の隣で寝ていた。

「うん…母からは連絡が来るけれど、静さんからは無いの。」

仕方が無いと思いつつも、冬自身どうすれば良いのか判らなかった。

「そうですか…。」

小鳥遊は優しく冬の髪を撫でていた。その手は背中に回り、しっかりと冬を抱きしめた。

「トーコさん…したい…です。駄目でしょうか?」

冬は首を横に振った。

「ガクさんは、もう嫌になってしまったのかと思ってました。」

あの事件後から、毎日一緒に寝ていたが、あれ以来一度も求められることが無かったからだ。

「そんなことはありません。僕は…あなたさえ良ければ、いつだってしたかったですよ。僕はあなたが心配だったんです。」

小鳥遊は冬を仰向けにすると
パジャマを脱がせた。

「愛してるわガクさん。」

冬の耳を優しく小鳥遊は噛んだ。

「お願いですから、僕を困らせるのはこれで最後にして下さい。」

ぞわぞわと快感が走り出した冬の皮膚に小鳥遊は優しく触れた。

柔らかな胸を揉みながら、下半身へと唇を這わせ、ズボンを脱がせた。

「それが僕の為だとしても…お願いします。」

静かに冬の膝を開き、温かい肉丘の間に舌を這わせた。

…あ。

柔らかで小さな蕾の舌先でふるふると刺激した。

「あ…ん。」

「もう…こんなに…。」

小鳥遊は音を立ててたらたらと流れ出る蜜を啜った。

「トーコさんはもう感じてるんですね。もっと啼いて甘えて下さい。愛してるって言ってください。」

小鳥遊は冬の愛を何度も何度も確認した。

「愛してるわ。ガクさん…愛してる。」

快感で潤んだ眼と、少し開いたぽってりとした唇をみつめていた。

とても艶めかしく、入浴剤のユーカリの香りが冬の身体から立ち昇っていた。

「僕の…僕の眼を見て言ってください。」

何度も何度も絶頂を迎えながらも、冬は一生懸命小鳥遊を見つめて言った。

「あい…愛してるの…愛してる…。」

硬くなった胸の先端を口に含みながら、何度も繰り返し冬を愛した。

「もっと…もっと聞きたい。」

「あ…い…してる…またいっちゃうぅぅ。」

ぴくぴくと痙攣を続ける冬を愛し続けた。

「僕はあなたを愛してるんです。これから先もずっとずっと愛し続けたいんです。僕はあなたのものですし、あなたは僕のもの…確かめたいんです。」

小鳥遊は夜が白々と明ける頃まで冬を、一心不乱に愛し続けた。

「あなたは…僕のものです。」

何度も呟き、そしていつの間にか泣いていた。

冬の目が覚めた時には、
小鳥遊も子供達も既に出かけた後だった。

(チンして食べて下さいね。)

テーブルの上にはりんごとお皿には、目玉焼きとベーコンがラップに包まれて置いてあり、傍には小鳥遊の綺麗な字で書かれたメモが置いてあった。

…チンして食べたら折角の半熟が駄目になっちゃうじゃない。

冬はメモを指先で遊びながら笑った。

(今起きました。朝起きなくてごめんなさい。)

冬がメールを送ると小鳥遊からすぐに返信があった。

(また今夜もしたいです。リンゴは夏さんからです。)

冬はちらりと時計を見ると、電話を掛けた。

「もしもし…静さん?」

冬はドキドキしていた。今泉が日本を離れて1ヶ月が経っていた。

「トーコさん?」

電話の向こうの声は相変わらず優しく嬉しそうだった。

「今日…お誕生日でしょう?本当はもっと早くに電話しようと思ってたんだけど寝坊しちゃったの。」

「トーコさんが寝坊?!大丈夫。」

今泉が心配そうに言った。

「うん。大丈夫。プレゼント送ったから今週中には届くと思うの。」

冬はどうしようか悩んでいた。

「楽しみにしてるよ。」

暫くふたりの間に沈黙が流れた。

「あの…あの時の事。本当にごめんね。静さんが怒るのも無理は無いわ…だから、これから先の事は、静さんが決めて?」

今泉は静かに聞いていた。

「私は今でも静さんを変わらず愛してる…だけど、静さんが決めたことなら、私は受け入れるわ。」

泣かないで言えただけで、冬はホッとした。

「トーコさんは、そこまでの覚悟があった事は知っていたよ。でも、頭では判ってても、実際にあの状況を見たら、やっぱりとてもショックだった。」

…そうだ。ガクさんとあの子達とのことを目撃した時だって、ショックだった。

「うん。」

「まだ僕は…少し時間が必要だよ。」

今泉の声はとても辛そうだった。

「判ったわ。それじゃあ。夜遅くにごめんね。」

冬の胸はつぶれそうだった。

「うん。じゃぁね。」

今泉の声は、いつもと変わらず優しかったが、どれだけ傷つけ、苦しめているのかを冬は改めて感じた。


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