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激情
開かれた未来
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――― ♪~♪
玄関に出てみると真啓と白河だった。
「やぁ。」
(真啓!)
「突然来てごめん。白河さんが今日ここに来るって言ってたから、僕も一緒に付いてきちゃった。」
応接室にふたりを案内した。
(どうぞ…今お茶出しますから。)
お茶を出すとソファに座った。
「早速ですが、仕事のお話をしたいのですけれど…。」
白河が切り出した。
「CDを出してみませんか?」
(CD?)
「ええ。あなたが弾きたいもの。ピアノ・ソロですね。あなたはオーケストラで以前は弾いていましたけれど、今回はソロでお願いしたいんです。」
白河は、今後のプランについて事前にメールで、理紗に送ってきていた。
「その方が、時間の調整もつき易いでしょう?あなたの時間に合わせて、レコーディングもすれば良い。」
真啓の気持ちは有り難かったが、イヴァンの事もまだ解決してないのに、決心がつかない。
「できれば伏見さんのアイディアであなたとのコラボレーションも考えているんですよ。」
理紗は不安げな顔で真啓をちらりと見た。
「君なら出来るよ。」
学生時代も真啓はいつも理紗を励ましていた。
…君なら出来るよ。
それは真啓の口癖だった。
「僕は君を説得しに来たんだよ?」
「時間を掛けて作り上げていきましょう。」
理紗はふたりの顔を交互に眺めていた。
(ごめんなさい。もう少しお時間を頂けますか?)
「ええ勿論です。あなたが了承して下さるまで何度でもこちらに足を運ぶつもりですから。」
白河は、諦める気は無さそうだ。
「久しぶりに君の得意だった、ショパンの第18番 を聞かせてくれないかな?」
…エチュード18番 嬰ト短調
頷いてピアノ室へと2人を案内した。
パデレフスキ版を真啓と一緒に練習させられた思い出がある。
運指パターンについて度々話したことがつい昨日の事の様に思い出された。約2分程の曲だがエチュードの中でも難曲だ。
…私のピアノを真啓が聞いている。
技術を競った昔のライバルが、今自分の眼の前で演奏を聞いていると思うと、自然に力が入ってしまう。
3度和音のトリル、スピードとテンポに圧倒されないように体が覚えるまで何百回となく練習した覚えがあった。
…指が…滑らかに動かない。
自分の技術が錆びつき始めていることに理紗は気が付いていたけれどこれほどとは思わなかった。
…練習時間が足りない。
頭ではわかっているものの指がついていかない気がした。
(ごめんなさい。練習不足ね。)
「ううん。流石だよ!君のピアノが聞けるようになるなんて僕は嬉しいよ。」
真啓はまるで自分のことのように喜んでいた。
(ありがとう…。)
「理紗さんありがとうございます。では…僕たちはこれで。」
白河は名残惜しそうに部屋を出て行った。積もる話もあるでしょうからと、真啓とふたりっきりの時間を白河はわざわざ作ってくれた。
「外で待ってますのでごゆっくり。」
白河が玄関を出たのを確認しつつ理紗は筆記をし始めた。
(イヴァンが、お店に来たの。)
「えっ。」
(わたしを連れて帰ると言うの。)
「一体誰が君の居場所…あっ。」
真啓には思い当たる人物が一人居た。
「恩田さん…。」
(恩田さんって音楽教師の?)
「うん。古い知りあいなんだ。」
真啓と恩田は同窓生だった。
(その方なら良くお店にいらっしゃってたわ。)
「…そうか…。」
真啓は黙ったまま何かを考えて居た。
「でもコンスタンティー二教授は、セルマと一緒にアメリカにもうすぐ帰る筈だよ。」
セルマはスウェーデン人でイヴァンの恋人だ。
(ええ。知ってるわ。)
「彼が日本に居る間だけでも、ここでは無くて、ホテルで過ごす…とか。僕のマンションに来てもらっても良い。」
(駄目よ…レッスンがあるもの。)
真啓は、何か言いたそうであったが、暫く考えていた。
「コンスタンティー二教授も流石に、日本で無理なことはしないと思うけれど気を付けて。何かあったら、僕でも白河さんでも良いので、連絡して。?」
真啓は理紗にハグをすると、白河の車で帰って行った。
🐈⬛
「あら?どうしたの?今日は学校じゃ無かったの?」
出張前日、隆は昼頃には家へと帰ってきた。
「うん。準備があるので、今日は半日にして貰ったんだ。」
「あら…言ってくれれば良かったのに。」
「今日は天気も良いし、少し海辺で散歩しない?」
帰宅早々、隆と理紗は2人で海辺へと散歩へ出掛けた。
平日で、海水浴シーズンでも無いので、人は居なかった。
理紗は、心配させるとは思ったが、イヴァンがタエの店に来た事を正直に話した。
真啓と同じく、屋敷を離れることを強く勧めた。
(でも…生徒さんも居るし、レッスンは休めないわ。)
「君の事が心配だよ。僕が居ない時に何かあったら…タスクさんにお願いしておこう。」
(いいえ。大丈夫だから、心配しないで。)
…これ以上迷惑は掛けられない。
「今度こそ、サイズはあってるよ。」
隆は、ポケットから小さなビロードの箱を取り出すと、ゆっくりと跪いた。
「僕と…結婚して欲しい。」
理紗は、もう返事はしてるでしょ?と言って笑った。
「僕が君を心から愛しているし、これからもずっと心はいつも君のそばに居る。」
隆は大きく深呼吸をしてもう一度理紗に言った。
「結婚して下さい。」
(はい。)
隆はパッと立ち上がり、抱きしめた。
(隆さん…こちらこそ宜しくお願い致します。)
隆が開けた箱の中にはキラキラと小さなダイアモンドがついた指輪が光っていた。
「僕はね、これからは毎年君にプロポーズをするよ。昨日よりも、君が好きだし、明日はもっと好きになる。」
理紗の眼から涙が零れた。
隆は優しく笑うと、理紗の左手中指にリングを填めた。
(ありがとう…隆さん)
理紗は泣きながら笑っていた。
🐈⬛
今日最後のレッスンが終わり、
生徒を送り出した後だった。
――― ♪~♪
隆からのメッセージだった。
(今日は、出来るだけ早く帰る様にするよ。)
今日は隆が1週間の出張から帰ってくる予定だった。
(体調はどう?)
最近疲れ易いと話していた理紗を気遣い、
隆は暇を見つけてはメッセージを送って来てくれた。
(大丈夫よ。気をつけて帰って来て)
理紗は、ソファ座り隆への返信を送った後、少し疲れたので、ソファで横になるとうたた寝をしてしまった。
…サ
…リサ。
誰かに呼ばれて飛び起きた。
「親切な人が、君の家を教えてくれたんだよ。」
(イヴァン!)
「チャイムを鳴らしても、返事が無かったけれど、明かりが見えたから…。」
部屋の中まで入って来ていた。
(帰って下さい…あなたと話すことは何も無いわ!!弁護士を通して下さい!!)
イヴァンは室内を歩き回り、次々と部屋のドアを勝手に開けて見て回った。
「なかなか古いけれど趣のある屋敷じゃないか。」
キッチンやリビング、
ピアノルームなどを止めるのも聞かず、見て回った。
(帰ってください!!!!)
「君が送った浮気の証拠動画のお陰で親戚中に非難されてね、私の味方は今じゃ誰も居ないよ。」
イヴァンは嫌味な笑いを浮かべた。
「君のような才能のあるピアニストが、素人にピアノを教えてるなんて、全く持って、才能の無駄遣いだよ。」
イヴァンは初心者用のピアノ教本を勝手に本棚から出して眺めながらため息をつき、ゆっくりと寝室の前へ行きドアを開けようとしたので、理紗は慌てて止めた。
(そこは寝室よ!何も無いわ。入らないで頂戴。)
勿論イヴァンがそんなことを聞く筈が無かった。ドアを開けて寝室へと入った。
男物のコロンの香り。
そして、イヴァンがそこで目にしたものは寝室の横にあるバスルームのハンガーに掛けてあった男性用ローブだった。
「君は…君は男と住んでいるのかい?!」
イヴァンの目に怒りが浮かんだ。
(ええ。内縁の夫よ。日本人で高校で数学教師をしているの。)
「わたしという夫がありながら、君こそ不貞行為をしているじゃないか!」
イヴァンは怒りに任せて理紗をベッドに押し倒した。
(やめて!)
美しいピアニストの妻が、他の男に寝取られるとは、想像しても居なかったし、理紗に限ってそんなことはしないと考えていた。
雇った探偵から、男の存在は聞いていたが、
自分を遠ざけるための、口実だと思っていた。
「わたしのセックスじゃないと満足できない身体にした筈なのに…いけない子だね。君の男は君を満足させられているのかい?」
イヴァンは、嫉妬と怒りに満ち満ちた顔で、バスローブの紐を取るとあっという間に理紗の両手にグルグルと巻き付け、押し倒すとベッド枠に紐の先を結んだ。
(やめて!!)
理紗はバタバタと暴れた。縛られた手には、見覚えのないエンゲージリングが光っていた。
それを見てイヴァンは、自分が海外遠征から戻って来た時のことを突然思い出していた。
空港から自宅や携帯に電話を何度掛けても呼び出し音が鳴るだけだった。
タクシーで家の前に着くと、郵便ボックスからは、手紙が溢れるように溜っていた。
玄関のドアを開け、荷物もそのままに理紗の名を呼んだ。
「リサ?」
部屋は真っ暗のまま寒々としていた。
Kawaiのコンサート用グランドの隣にあるはずの、理紗のスタインウェイが忽然と消えていた。
イヴァンのピアノの上には、イヴァンが買った理紗の指輪と、DVDが一枚置かれていた。
理紗がいる筈の寝室はもぬけの殻だった。
慌ててクローゼットを開けるとそこには、綺麗な理紗の衣装や宝石類は残ったままだったが、普段着が無くなっていた。
そこで電話の留守番メッセージがあることを知らせる赤いライトが点灯しているのに気が付いた。
――― 留守番メッセージは 30件です。
無機質な女性の声が伝えた。全てイヴァンの年老いた両親からで、理紗の心配とイヴァンを激しく責めるものだった。
母親のすすり泣きを聞きながら、DVDをプレイヤーに入れると、そこには女達と自分の情事が大きな画面に映し出された。
「…ああ…なんてことだ…。」
イヴァンはそこで初めて、理紗が自分を捨てて出て行ったことに気が付いたのだった。
――― ごほっ…ごほっ…。
イヴァンが気が付くと、理紗の首を無意識に締め付けていた。理紗がもがくたびにキラキラと光る指輪に触れると、理紗はギュッと拳を作り、取られないように必死で抵抗した。
「…こんな安物の指輪を身に着けてるなんて君らしくないな。」
男が買い与えたであろう指輪を見ると、理紗に裏切られた苛立ちがふつふつと湧いて来た。
理紗はイヴァンに唾を吐いた。
「!!!!!」
――― バシーンッ!
イヴァンは力いっぱい理紗の頬を叩いた。
「君はわたしのものだ!わたしがこんなに心がつぶれる思いで君をさがしていたというのに、君は浮気をしてたのか?」
(裏切ったのはあなたじゃないっ!)
――― ブチブチブチッ。
わたしはあなたを愛していたのに!!!)
理紗のブラウスを力いっぱい引き千切り、スカートは下着と共に乱暴に引き下ろした。締め付けられていた首は、真っ赤になっていた。
もがき続ける理紗のブラを外し、象牙色の美しい肌に吸い付いた。
「わたしのリサ…君はわたしのものだ。」
怒りと嫉妬で、イヴァンは猛り狂っていた。
(いやぁあああーーー!!)
理紗の足の間に割って入ると、自分のズボンと下着を脱いだ。乱暴に指で探り掻きまわした。
(やめてっ!!お願い!!)
鈍い痛みを感じて、理紗はもがいた。
「今度こそ子供を作ろう。わたしと君の子供だ。」
イヴァンは唾液を大きくなったペニスに吐きかけて、先端を濡らすと、一気に穴の中へと押し込んだ。理紗は涙を流しながらその痛みに耐えていた。
「ああ…相変わらず君のPussyはきついね。他の女達とは比べものにならない程、わたしを締め付ける名器だ。」
何度も腰を打ち付ける度に、そこは潤いを増していった。
「ほら…君の身体はすぐに私を思い出すよ?…相性は最高だよね。」
イヴァンは理紗が出て行った後、毎晩のように女を抱き、理紗への思いと欲望を吐き出した。
その行為はただただ虚しいだけで、決して満たされることは無かった。
「君を…ずっと…探して…た…。」
―――ぐちゅっ…ぐちゅっ。
卑猥な音と共に、理紗の愛液の甘い香りが立ち上り始めた。
「ああ…リサ…気持が良いよ…君がわたしを咥え込んで離さないんだ。」
その香りに酔いながら、欲望が溜まる腰を激しくうちつけた。
――― ぐちゅ…ぐちゅ。
「はぁ…はぁ…はぁ…。君が…どんなに…拒んだって…ここは正直だ…よ。」」
イヴァンは理紗の上で荒い息を吐いていた。きついオードトワレと体臭に理紗は顔を背けた。
いやらしい音が短く早くなり、律動でベッドがギシギシと揺れていた。
理紗は、現実から引き剥がされていくような感覚に落ち居ていた。
「あ…あ…君の大好きな…奥に…」
激しく揺れる風景を理紗はうつろな目で眺めていた。
窓から見える夕焼けに染まる海、そして、バスルームにお揃いで並んで掛かっている白いローブ。それら全てが色褪せ始めた。
「ああ…いきそうだ…ああ…でるでるっ!!」
イヴァンは、激情を放出しながらも、抵抗しなくなった理紗の中で動き続けた。
ぷちゅぷちゅと音を立てて、白い液体が溢れ出て来て、イヴァンの陰毛を濡らした。
果てた後も、理紗の形の良い胸を貪り続けていた。
「君の中にもう一度出そう…わたしは子供が欲しいんだ。君の子でなくちゃ駄目だ。わたしと君の最高傑作を作ろう。」
尖った胸の先端を舌でちろちろと舐め続けた。
「わたしから逃げるなんて、お仕置きが必要だね。」
イヴァンは突然理紗の白い胸に歯形が出来る程に噛みついた。
(痛いっ!!)
「君はわたしのものだ…誰にも渡さない。君はわたしの傍にいるんだ。」
自分以外の男に理紗が愛されたと思うと気が狂いそうだったが、気持ちとは裏腹に再び股間は膨張し始めた。
ベタベタとした、それを自分の手で何度も扱き、奮い立たせると、それを乳白色の液がたらたらと流れ出て来る穴の中に再び突き立てた。
優しさの欠片も無い腰の前後運動。反復しながらイヴァンは、二度目のその時が近いことを知り、激しく動かした。
「わたしの子を…今度こそ…産むんだ…わたしと君の子を…。」
イヴァンは獣の様に咆哮しながら、白い嫉妬を再び理紗の中へと放出した。
ベッドの上で放心状態の理紗を残し、イヴァンは洗面所で水を飲み、タオルで汗を拭いた。
理沙は、ベッドに横たわったまま動かずに,窓の外へ虚ろな視線を向けていたが、相変わらずの美しさにイヴァンは見惚れた。
下着を拾いズボンを履き、身なりを整えてから、理紗の手に巻き付けてあるベルトを外した。
「わたしの…子供を産むんだ…私の子を。」
イヴァンは、カチャカチャとベルトをズボンに通しながら言った。
「わたしとアメリカに一緒に帰ろう。一緒にツアーに回って貰うよ?いいね?皆が君の復帰を待っている。」
理紗は無残な恰好のまま、突然ベッドから起き上るとテラス窓を開けて、裏庭の崖へと裸足で走り出した。
…そうよ。
家の裏は、断崖絶壁になっていて、危ないので立ち入らないように木の柵が張り巡らされていたが、、潮風で腐食して数カ所がボロボロに腐り崩れていた。
…これは、多分…悪い夢。
「リサっ!!」
慌ててイヴァンは理紗の後を追いかけたが、間に合わなかった。
…きっと…そう。
理紗は破れたブラウスに下半身は裸のまま、夕日が照らす崖の上から海へと身を投げた。
長いふわふわとした時間が続き、白波が立つ海の中へと吸い込まれた。
(そうよ…これは…きっと悪い夢…夢なら……これで…覚める筈…だわ。)
理沙はこの苦しみから、胸の痛みから逃げ出したかった。
荒ぶる冷たい波の中で海水が理紗の肺を浸していき、吐き出された空気がゴボゴボと耳元で音を立てて、最後の一息を吐き出した。
永遠の様に長く続いた酷い苦しみの後、
理紗の意識も海の中へと溶けた。
玄関に出てみると真啓と白河だった。
「やぁ。」
(真啓!)
「突然来てごめん。白河さんが今日ここに来るって言ってたから、僕も一緒に付いてきちゃった。」
応接室にふたりを案内した。
(どうぞ…今お茶出しますから。)
お茶を出すとソファに座った。
「早速ですが、仕事のお話をしたいのですけれど…。」
白河が切り出した。
「CDを出してみませんか?」
(CD?)
「ええ。あなたが弾きたいもの。ピアノ・ソロですね。あなたはオーケストラで以前は弾いていましたけれど、今回はソロでお願いしたいんです。」
白河は、今後のプランについて事前にメールで、理紗に送ってきていた。
「その方が、時間の調整もつき易いでしょう?あなたの時間に合わせて、レコーディングもすれば良い。」
真啓の気持ちは有り難かったが、イヴァンの事もまだ解決してないのに、決心がつかない。
「できれば伏見さんのアイディアであなたとのコラボレーションも考えているんですよ。」
理紗は不安げな顔で真啓をちらりと見た。
「君なら出来るよ。」
学生時代も真啓はいつも理紗を励ましていた。
…君なら出来るよ。
それは真啓の口癖だった。
「僕は君を説得しに来たんだよ?」
「時間を掛けて作り上げていきましょう。」
理紗はふたりの顔を交互に眺めていた。
(ごめんなさい。もう少しお時間を頂けますか?)
「ええ勿論です。あなたが了承して下さるまで何度でもこちらに足を運ぶつもりですから。」
白河は、諦める気は無さそうだ。
「久しぶりに君の得意だった、ショパンの第18番 を聞かせてくれないかな?」
…エチュード18番 嬰ト短調
頷いてピアノ室へと2人を案内した。
パデレフスキ版を真啓と一緒に練習させられた思い出がある。
運指パターンについて度々話したことがつい昨日の事の様に思い出された。約2分程の曲だがエチュードの中でも難曲だ。
…私のピアノを真啓が聞いている。
技術を競った昔のライバルが、今自分の眼の前で演奏を聞いていると思うと、自然に力が入ってしまう。
3度和音のトリル、スピードとテンポに圧倒されないように体が覚えるまで何百回となく練習した覚えがあった。
…指が…滑らかに動かない。
自分の技術が錆びつき始めていることに理紗は気が付いていたけれどこれほどとは思わなかった。
…練習時間が足りない。
頭ではわかっているものの指がついていかない気がした。
(ごめんなさい。練習不足ね。)
「ううん。流石だよ!君のピアノが聞けるようになるなんて僕は嬉しいよ。」
真啓はまるで自分のことのように喜んでいた。
(ありがとう…。)
「理紗さんありがとうございます。では…僕たちはこれで。」
白河は名残惜しそうに部屋を出て行った。積もる話もあるでしょうからと、真啓とふたりっきりの時間を白河はわざわざ作ってくれた。
「外で待ってますのでごゆっくり。」
白河が玄関を出たのを確認しつつ理紗は筆記をし始めた。
(イヴァンが、お店に来たの。)
「えっ。」
(わたしを連れて帰ると言うの。)
「一体誰が君の居場所…あっ。」
真啓には思い当たる人物が一人居た。
「恩田さん…。」
(恩田さんって音楽教師の?)
「うん。古い知りあいなんだ。」
真啓と恩田は同窓生だった。
(その方なら良くお店にいらっしゃってたわ。)
「…そうか…。」
真啓は黙ったまま何かを考えて居た。
「でもコンスタンティー二教授は、セルマと一緒にアメリカにもうすぐ帰る筈だよ。」
セルマはスウェーデン人でイヴァンの恋人だ。
(ええ。知ってるわ。)
「彼が日本に居る間だけでも、ここでは無くて、ホテルで過ごす…とか。僕のマンションに来てもらっても良い。」
(駄目よ…レッスンがあるもの。)
真啓は、何か言いたそうであったが、暫く考えていた。
「コンスタンティー二教授も流石に、日本で無理なことはしないと思うけれど気を付けて。何かあったら、僕でも白河さんでも良いので、連絡して。?」
真啓は理紗にハグをすると、白河の車で帰って行った。
🐈⬛
「あら?どうしたの?今日は学校じゃ無かったの?」
出張前日、隆は昼頃には家へと帰ってきた。
「うん。準備があるので、今日は半日にして貰ったんだ。」
「あら…言ってくれれば良かったのに。」
「今日は天気も良いし、少し海辺で散歩しない?」
帰宅早々、隆と理紗は2人で海辺へと散歩へ出掛けた。
平日で、海水浴シーズンでも無いので、人は居なかった。
理紗は、心配させるとは思ったが、イヴァンがタエの店に来た事を正直に話した。
真啓と同じく、屋敷を離れることを強く勧めた。
(でも…生徒さんも居るし、レッスンは休めないわ。)
「君の事が心配だよ。僕が居ない時に何かあったら…タスクさんにお願いしておこう。」
(いいえ。大丈夫だから、心配しないで。)
…これ以上迷惑は掛けられない。
「今度こそ、サイズはあってるよ。」
隆は、ポケットから小さなビロードの箱を取り出すと、ゆっくりと跪いた。
「僕と…結婚して欲しい。」
理紗は、もう返事はしてるでしょ?と言って笑った。
「僕が君を心から愛しているし、これからもずっと心はいつも君のそばに居る。」
隆は大きく深呼吸をしてもう一度理紗に言った。
「結婚して下さい。」
(はい。)
隆はパッと立ち上がり、抱きしめた。
(隆さん…こちらこそ宜しくお願い致します。)
隆が開けた箱の中にはキラキラと小さなダイアモンドがついた指輪が光っていた。
「僕はね、これからは毎年君にプロポーズをするよ。昨日よりも、君が好きだし、明日はもっと好きになる。」
理紗の眼から涙が零れた。
隆は優しく笑うと、理紗の左手中指にリングを填めた。
(ありがとう…隆さん)
理紗は泣きながら笑っていた。
🐈⬛
今日最後のレッスンが終わり、
生徒を送り出した後だった。
――― ♪~♪
隆からのメッセージだった。
(今日は、出来るだけ早く帰る様にするよ。)
今日は隆が1週間の出張から帰ってくる予定だった。
(体調はどう?)
最近疲れ易いと話していた理紗を気遣い、
隆は暇を見つけてはメッセージを送って来てくれた。
(大丈夫よ。気をつけて帰って来て)
理紗は、ソファ座り隆への返信を送った後、少し疲れたので、ソファで横になるとうたた寝をしてしまった。
…サ
…リサ。
誰かに呼ばれて飛び起きた。
「親切な人が、君の家を教えてくれたんだよ。」
(イヴァン!)
「チャイムを鳴らしても、返事が無かったけれど、明かりが見えたから…。」
部屋の中まで入って来ていた。
(帰って下さい…あなたと話すことは何も無いわ!!弁護士を通して下さい!!)
イヴァンは室内を歩き回り、次々と部屋のドアを勝手に開けて見て回った。
「なかなか古いけれど趣のある屋敷じゃないか。」
キッチンやリビング、
ピアノルームなどを止めるのも聞かず、見て回った。
(帰ってください!!!!)
「君が送った浮気の証拠動画のお陰で親戚中に非難されてね、私の味方は今じゃ誰も居ないよ。」
イヴァンは嫌味な笑いを浮かべた。
「君のような才能のあるピアニストが、素人にピアノを教えてるなんて、全く持って、才能の無駄遣いだよ。」
イヴァンは初心者用のピアノ教本を勝手に本棚から出して眺めながらため息をつき、ゆっくりと寝室の前へ行きドアを開けようとしたので、理紗は慌てて止めた。
(そこは寝室よ!何も無いわ。入らないで頂戴。)
勿論イヴァンがそんなことを聞く筈が無かった。ドアを開けて寝室へと入った。
男物のコロンの香り。
そして、イヴァンがそこで目にしたものは寝室の横にあるバスルームのハンガーに掛けてあった男性用ローブだった。
「君は…君は男と住んでいるのかい?!」
イヴァンの目に怒りが浮かんだ。
(ええ。内縁の夫よ。日本人で高校で数学教師をしているの。)
「わたしという夫がありながら、君こそ不貞行為をしているじゃないか!」
イヴァンは怒りに任せて理紗をベッドに押し倒した。
(やめて!)
美しいピアニストの妻が、他の男に寝取られるとは、想像しても居なかったし、理紗に限ってそんなことはしないと考えていた。
雇った探偵から、男の存在は聞いていたが、
自分を遠ざけるための、口実だと思っていた。
「わたしのセックスじゃないと満足できない身体にした筈なのに…いけない子だね。君の男は君を満足させられているのかい?」
イヴァンは、嫉妬と怒りに満ち満ちた顔で、バスローブの紐を取るとあっという間に理紗の両手にグルグルと巻き付け、押し倒すとベッド枠に紐の先を結んだ。
(やめて!!)
理紗はバタバタと暴れた。縛られた手には、見覚えのないエンゲージリングが光っていた。
それを見てイヴァンは、自分が海外遠征から戻って来た時のことを突然思い出していた。
空港から自宅や携帯に電話を何度掛けても呼び出し音が鳴るだけだった。
タクシーで家の前に着くと、郵便ボックスからは、手紙が溢れるように溜っていた。
玄関のドアを開け、荷物もそのままに理紗の名を呼んだ。
「リサ?」
部屋は真っ暗のまま寒々としていた。
Kawaiのコンサート用グランドの隣にあるはずの、理紗のスタインウェイが忽然と消えていた。
イヴァンのピアノの上には、イヴァンが買った理紗の指輪と、DVDが一枚置かれていた。
理紗がいる筈の寝室はもぬけの殻だった。
慌ててクローゼットを開けるとそこには、綺麗な理紗の衣装や宝石類は残ったままだったが、普段着が無くなっていた。
そこで電話の留守番メッセージがあることを知らせる赤いライトが点灯しているのに気が付いた。
――― 留守番メッセージは 30件です。
無機質な女性の声が伝えた。全てイヴァンの年老いた両親からで、理紗の心配とイヴァンを激しく責めるものだった。
母親のすすり泣きを聞きながら、DVDをプレイヤーに入れると、そこには女達と自分の情事が大きな画面に映し出された。
「…ああ…なんてことだ…。」
イヴァンはそこで初めて、理紗が自分を捨てて出て行ったことに気が付いたのだった。
――― ごほっ…ごほっ…。
イヴァンが気が付くと、理紗の首を無意識に締め付けていた。理紗がもがくたびにキラキラと光る指輪に触れると、理紗はギュッと拳を作り、取られないように必死で抵抗した。
「…こんな安物の指輪を身に着けてるなんて君らしくないな。」
男が買い与えたであろう指輪を見ると、理紗に裏切られた苛立ちがふつふつと湧いて来た。
理紗はイヴァンに唾を吐いた。
「!!!!!」
――― バシーンッ!
イヴァンは力いっぱい理紗の頬を叩いた。
「君はわたしのものだ!わたしがこんなに心がつぶれる思いで君をさがしていたというのに、君は浮気をしてたのか?」
(裏切ったのはあなたじゃないっ!)
――― ブチブチブチッ。
わたしはあなたを愛していたのに!!!)
理紗のブラウスを力いっぱい引き千切り、スカートは下着と共に乱暴に引き下ろした。締め付けられていた首は、真っ赤になっていた。
もがき続ける理紗のブラを外し、象牙色の美しい肌に吸い付いた。
「わたしのリサ…君はわたしのものだ。」
怒りと嫉妬で、イヴァンは猛り狂っていた。
(いやぁあああーーー!!)
理紗の足の間に割って入ると、自分のズボンと下着を脱いだ。乱暴に指で探り掻きまわした。
(やめてっ!!お願い!!)
鈍い痛みを感じて、理紗はもがいた。
「今度こそ子供を作ろう。わたしと君の子供だ。」
イヴァンは唾液を大きくなったペニスに吐きかけて、先端を濡らすと、一気に穴の中へと押し込んだ。理紗は涙を流しながらその痛みに耐えていた。
「ああ…相変わらず君のPussyはきついね。他の女達とは比べものにならない程、わたしを締め付ける名器だ。」
何度も腰を打ち付ける度に、そこは潤いを増していった。
「ほら…君の身体はすぐに私を思い出すよ?…相性は最高だよね。」
イヴァンは理紗が出て行った後、毎晩のように女を抱き、理紗への思いと欲望を吐き出した。
その行為はただただ虚しいだけで、決して満たされることは無かった。
「君を…ずっと…探して…た…。」
―――ぐちゅっ…ぐちゅっ。
卑猥な音と共に、理紗の愛液の甘い香りが立ち上り始めた。
「ああ…リサ…気持が良いよ…君がわたしを咥え込んで離さないんだ。」
その香りに酔いながら、欲望が溜まる腰を激しくうちつけた。
――― ぐちゅ…ぐちゅ。
「はぁ…はぁ…はぁ…。君が…どんなに…拒んだって…ここは正直だ…よ。」」
イヴァンは理紗の上で荒い息を吐いていた。きついオードトワレと体臭に理紗は顔を背けた。
いやらしい音が短く早くなり、律動でベッドがギシギシと揺れていた。
理紗は、現実から引き剥がされていくような感覚に落ち居ていた。
「あ…あ…君の大好きな…奥に…」
激しく揺れる風景を理紗はうつろな目で眺めていた。
窓から見える夕焼けに染まる海、そして、バスルームにお揃いで並んで掛かっている白いローブ。それら全てが色褪せ始めた。
「ああ…いきそうだ…ああ…でるでるっ!!」
イヴァンは、激情を放出しながらも、抵抗しなくなった理紗の中で動き続けた。
ぷちゅぷちゅと音を立てて、白い液体が溢れ出て来て、イヴァンの陰毛を濡らした。
果てた後も、理紗の形の良い胸を貪り続けていた。
「君の中にもう一度出そう…わたしは子供が欲しいんだ。君の子でなくちゃ駄目だ。わたしと君の最高傑作を作ろう。」
尖った胸の先端を舌でちろちろと舐め続けた。
「わたしから逃げるなんて、お仕置きが必要だね。」
イヴァンは突然理紗の白い胸に歯形が出来る程に噛みついた。
(痛いっ!!)
「君はわたしのものだ…誰にも渡さない。君はわたしの傍にいるんだ。」
自分以外の男に理紗が愛されたと思うと気が狂いそうだったが、気持ちとは裏腹に再び股間は膨張し始めた。
ベタベタとした、それを自分の手で何度も扱き、奮い立たせると、それを乳白色の液がたらたらと流れ出て来る穴の中に再び突き立てた。
優しさの欠片も無い腰の前後運動。反復しながらイヴァンは、二度目のその時が近いことを知り、激しく動かした。
「わたしの子を…今度こそ…産むんだ…わたしと君の子を…。」
イヴァンは獣の様に咆哮しながら、白い嫉妬を再び理紗の中へと放出した。
ベッドの上で放心状態の理紗を残し、イヴァンは洗面所で水を飲み、タオルで汗を拭いた。
理沙は、ベッドに横たわったまま動かずに,窓の外へ虚ろな視線を向けていたが、相変わらずの美しさにイヴァンは見惚れた。
下着を拾いズボンを履き、身なりを整えてから、理紗の手に巻き付けてあるベルトを外した。
「わたしの…子供を産むんだ…私の子を。」
イヴァンは、カチャカチャとベルトをズボンに通しながら言った。
「わたしとアメリカに一緒に帰ろう。一緒にツアーに回って貰うよ?いいね?皆が君の復帰を待っている。」
理紗は無残な恰好のまま、突然ベッドから起き上るとテラス窓を開けて、裏庭の崖へと裸足で走り出した。
…そうよ。
家の裏は、断崖絶壁になっていて、危ないので立ち入らないように木の柵が張り巡らされていたが、、潮風で腐食して数カ所がボロボロに腐り崩れていた。
…これは、多分…悪い夢。
「リサっ!!」
慌ててイヴァンは理紗の後を追いかけたが、間に合わなかった。
…きっと…そう。
理紗は破れたブラウスに下半身は裸のまま、夕日が照らす崖の上から海へと身を投げた。
長いふわふわとした時間が続き、白波が立つ海の中へと吸い込まれた。
(そうよ…これは…きっと悪い夢…夢なら……これで…覚める筈…だわ。)
理沙はこの苦しみから、胸の痛みから逃げ出したかった。
荒ぶる冷たい波の中で海水が理紗の肺を浸していき、吐き出された空気がゴボゴボと耳元で音を立てて、最後の一息を吐き出した。
永遠の様に長く続いた酷い苦しみの後、
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