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049 ムーンバレット
しおりを挟むこんばんは。「エリーの日曜日は終わらない」パーソナリティーの淵神利栄子です。4月14日、月曜日の午前6時になりました。少しずつ暖かくなってきました。しかし例年になく気温が安定しないな、と感じます。皆様、如何お過ごしでしょうか。今日は久しぶりにゲストの方をお迎えして、色々と話をうかがえたらと思います。では、さっそく紹介したいと思います。ロックバンド「Moon Bullet」のボーカル、南野歌奈さんです。
「どうも。エリーファンの皆様、こんばんは。ムーンバレットのボーカル南野歌奈です。よろしくお願いします」
本当にようこそお越しいただきました。これね、信じて貰えないかもしれないけど、私はムーンバレットーーファンはバレットと略して呼ぶのですが、バレットのみんなが高校生の頃から拝見拝聴していたんですね。すごい子たちが現れたな、って。
「ホントですか? ありがとうございます」
それで、そのままメジャーシーンに進出するのかな、って思っていたら解散してしまって。その後2年を経て、再結成のニュースを聞いたんです。私は喜びで胸を踊らせました。よかった。またバレット聴ける。おかえり、バレット。歌奈ちゃん、ありがとう。
「いえいえ、とても恐縮です。私はエリーさんのリスナーとして育ったんで。昨日なんですよ。実は。出演のオファーを頂いたのは」
突然、ごめんね。ライブ後の楽屋にお邪魔して、直談判しました。そしたら歌奈ちゃんだけなら、とスケジュールを割いてもらえることになりまして。
「いや、嬉しかったです。呼んでいただいてありがとうございます」
で、これはデリケートな問題だから触れるかどうか迷ったんです。けど、触れないまま進行すると、逆に心配されるファンもいると思います。ドラムの倉持里子さんは、バレット解散後、アポロニオスのメンバーとして活躍していました。しかし体調不良を原因にアポロニオスを脱退。その後、里子さんの容態はわからないままでした。いま、里子さんの体調は大丈夫?
「はい。とても順調に回復しています。ファンの皆様にはご心配かけましたが、これからもバレットの里子を暖かく見守っていただければ、と思います」
私も昨日のライブを観て安心しました。アポロニオスのときは笑顔を見せなかった里子さんが、笑顔で、楽しそうに、ドラムを叩いていたんです。再びステージに立てるようになるまで、メンバーの支えもあったんだろうな、って勝手に想像しちゃって。
「もちろん一概に、これが原因だ、とは言えないんですけど、私たちが追い詰めてしまった部分もあったんです。バレットを抜けて、里子はメジャーの真ん中をいくアポロニオスに加入した。私たちは心から里子の成功を願っていたんですけど、彼女からしたら、自分はバレットの裏切り者という想いがずっとあったみたいで」
難しいよね。こう、力と心、どちらを取って先に進むのか。これはオーバーグラウンドに行くと必ずぶち当たる問題よね。でも結果、里子さんはバレットに帰ってきて、順調に回復している。本当に安心しました。ファンの皆もそう思っているんじゃないかな。
「皆様、安心してください。里子は元気ですので。よく食べてますから」
よかった、よかった。それで、ここからの質問は音楽をライトに楽しんでいるリスナーを少しぽかんとさせてしまうかも。エリーのわがままに付き合ってもらいます。
再結成後のバレットなんですけど、私の観たところ、メンバー全員がパワーアップしていると思ったんですね。その中でも特にベースの朝丘恵さん。バレットファンはアサちゃんと呼ぶのですが、アサちゃんのベースが特に変わった印象です。以前は五弦のベースだったんです。けど、いまは四弦に。何か理由が?
「そうですね。私たちは解散した後もメンバーそれぞれ陰ながら練習を続けていたので、ちょっとパワーアップしたかな、と自負しています」
うんうん。
「アサに関しては、無理をしなくなったのが一番の理由ですね。最初、私たちは音楽経験値がまったく違う中で集まったんです。私と、いまは抜けてしまったギターの子が初心者。アサは、私からすると上級者だったんですけど、世間的には中級者。それでリコは上級者。リコの超絶スキルと、私たち初心者組の間で、アサはバランスを取らないといけなかった。だからなんでも対応できるように五弦ベースを選択したんですけど、解散後に四弦で練習していたらしっくりきたみたいで。ミュートめちゃくちゃ楽だって言ってました」
そうなんだ。で、これまたリスナーを置いてけぼりにしそうな質問なんだけど、プレシジョンベースからジャズベースにしたのは、どうして? 前のアサちゃんはプレベでゴリゴリした音を出していたのに、ジャズベになってすごく落ち着いたよね。地味になったワケじゃなくて、上品になったというか。スラップの音がすごくスッキリして、シャープになったよね。
「エリーさん、細かいトコ見てますね」
ごめんね。ファンはもっとパーソナルな質問をして欲しいと思うけど、どうしても気になって。
「いや、嬉しいですよ。アサは元から責任感強いから、みんなに足りないものを補おうと頑張っちゃう癖があって。リコはめちゃくちゃ正確無比なリズムを刻めるんですけど、逆にいうと、なんか単調でつまらないよね、って声もあったんです。あとは私もギターを始めたばかりでコード覚えるので精一杯で。だからアサは自分が前に出なきゃと思っていた。だけどいまは、私もリコも自分らしさを表現できるようになったので、アサは裏方に専念できるようになったし、さっきも言いましたけど四弦でベースを楽しめるようになったのが一番の理由だと思います」
いやあ、本当にアサちゃんは格好良くなったんです。こういうトコ、エリーは掘っていきますよ。六弦ベースを選ぶ人は少ないと思うけど、四弦と五弦どっちを選ぶか。プレベとジャズベどっちを選ぶか。これね、初心者ベーシストを惑わせる問題なのよね。大は小をかねるから、とりあえず五弦にしとこう、って始めたら難しくてやめちゃう人もいるよね?
「そうですね。アサもそんな感じでしたね。ずっと無理をさせていたので、四弦にして良かったなって思います」
四弦ベースだと、五弦ベースの曲がそのままできなくてアレンジが必要だけど、これからムーンバレットの曲をコピーしたい人は四弦を選んでまったく問題ない、ってことだもんね。
「さすがエリーさん。ありがとうございます。バンドスコアの宣伝までしてくれて」
特に初期の曲はバレットも初心者だったから、これからバンドを始める人たちにもオススメです。同じスタートラインに立っている感じ、すると思います。ただ、ドラムはね、ハッキリいってムズかしいよ。リコちゃんだから。最初から完成されてるからね。ごめんなさい。朝さんも里子さんもファンの気分で名前を呼んでしまうのよね。
「本人たちも喜んでますよ。リコなんてエリーさんの曲で練習してたんですから」
ウソ? ホントに? いやはや恥ずかしいですね。だけど嬉しいですね。次の世代にバトンを渡せたようで。それでいよいよ今日のゲスト、カナちゃん。すんごくアホみたいな褒め方していい? カナちゃん、声がおっきくなったよね。それでいて、歌詞が聴きやすくなった。
「ははっ。そうなんです。私、声が大きくなったんですよ。バンド解散してから一人でストリートに出てみたんです。アコギ一本で。そうしたら自分がいかにマイクに頼っていたか身に沁みたんですね。全然声が小さい。だから発声から見直しました。歌詞が聴きやすくなったのも、それが関係していますね。前はわざとちょっと声をこもらせて歌っていたんです。お洒落な感じ出したくて。でもそれじゃイカンな、と。お客様は必ずしも歌詞カードを見るわけじゃないし、直接耳から聞き取れないと意味ないな、って。当たり前のことなんですけどね」
いやあ、わかる。わかります。私も時々専門学校の特別講師として招いていただくんですけど、最近ポップスでもロックでも、みんなリズム&ブルースみたいな歌い方するんです。あなたが良い声なのは、わかった。で、何を伝えたかったの? と質問すると、皆答えられない。一見上手くは聴こえるけれど、心に響かない。歌はあくまで伝達手段のひとつだから、まずは心の中で音をしっかり奏でて、言葉をイメージして、誰かに届くように、自分だけの歌い方を模索しなさい。私はそうやって生徒さんに伝えています。
「耳が痛いです。私も専門学校でめちゃくちゃ言われました。あなたの歌は、あなた以外の誰かの歌として生きるんだから、そのイメージだけは常にしなさいって」
でもカナちゃんは見つけたわけだよね。自分にとってベストな方法を。
「はい。時間はかかりましたけど。だからバンドの解散はバレットにとって通らないといけない道だったんです。あのまま続けていたら、どのみち崩壊していました。いまは三人とも、自分の役割にしっかり責任を持てるようになりましたし、去った仲間の意思も継いでいますから」
それは抜けてしまったギターの?
「ええ。ギターの彼女は抜けてしまったけれど、自分のいたムーンバレットがいまでも輝き続けていたら、嬉しいと思うんです。アサは意外とロマンチストだから、四弦ベースにしたのは、メンバーを弦にたとえて、四人で活動していたときを忘れないためなんじゃないかって、私は勝手に思ってるんです」
ありえるね。アサちゃんなら、ありそう。はい、ここでいつもなら一旦コマーシャルなんですが、その前に、今日はゲストのスペシャルライブ。バレットの原点であるアノ曲を。カナちゃんのソロで。アコースティックバージョンで。しかもフル尺でお届けしたいと思います。
カナちゃん、準備はいいですか?
「……はい。大丈夫です。よろしくお願いします」
では、今日最初にお届けするナンバーは。
ーー「南野歌奈/月」ーー
今夜は月が美しい
嘘だね 昨日も同じ輝き
放っていた
皮肉だね
雲に好かれないから
無視されたから
輝けるなんて
墜ちてきてよ 白い月
少しだけ ほんの少しだけ
アタシの夢を 聴いて
種を植えたんだよ
いつか いつか 咲かせるって
約束したんだよ
鏡を割ったんだよ
二度と 二度と 泣かないって
強がったんだよ
夢をもらったんだよ
ぜんぶ ぜんぶ 叶えるって
自分で 決めたんだ
夢が芽吹くまで 待ってられないから
声を 歌声だけを 先に
届けに きたよ
今夜も月は独りだね
そうだね 昨日も同じ寂しさ
抱えていた
優しいね
夜に人が眠るから
起こしたくないから
無口だなんて
欠けないでよ 白い月
少しだけ ほんの少しだけ
アナタの声を 聴かせて
夜を盗んだんだよ
いつか いつか 返すからって
目をつむったんだよ
絆を結んだんだよ
二度と 二度と 離さないって
誓ったんだよ
夢を失ったんだよ
ぜんぶ ぜんぶ 消えたって
諦めきれないよ
夢が枯れるまで 腐ってられないから
君を アナタだけを 先に
迎えに きたよ
月冴ゆる夜に 手を伸ばして
届かなくて 届かなくて 届かなくて
それでも手を伸ばして ひとり
名残の 月に なる
花が咲いたんだよ
いつか いつか 咲かせるって
約束した花よ
夜を返したんだよ
いつか いつか 返すからって
隠していた月夜
ひとつだったんだよ
夢と 絆 繋がりあって
ずっと ずっと 心にあったんだ
喉が枯れるまで 歌ってられないから
君の アナタの 思い出に
残りに きたよ
歌が尽きるまで 歌ってあげるから
声を 歌声だけを 頼りに
ここまで きてよ
聴きに きてよ
ーー「エリーの日曜日は終わらない」お送りしています。淵神利栄子です。いやあ、よかった。素晴らしかった。カナちゃん、ありがとうございました。
「いえいえ。こちらこそフル尺で歌わせて頂ける機会なんて中々ないので、嬉しかったです。ありがとうございます」
昨日のライブも良かったけど、ソロだとまた違った雰囲気がありますね。カナちゃん、昨日はカバーも歌ってたよね?
「ええ。Tornですね」
若い方はちょっと知らないかもしれません。なので、私から少しだけ解説しますね。
「Torn」という曲は、そもそも1993年にデンマークの歌手リス・ソーレンセンが最初にリリースしました。タイトルもデンマーク語で「ブレント」でした。次に1995年、この曲を生み出した作曲者たちがつくったバンド「エドナスワップ」が「Torn」で発表。さらに翌年1996年にトリーネ・レインがカバー。そしてまた翌年1997年にナタリー・インブルーリアがカバーし、これがこの曲の最大ヒットになったんですね。
カナちゃんは誰の「Torn」を意識しているとかあります?
「最初はやっぱりナタリーでしたね。というか、ナタリーしか知らなかった。でも母にちゃんと勉強しなさいって怒られて、全部聴きました」
お母さん中々英才教育ですね。お母さんも音楽好きなんだ?
「そうですね。母はミュージシャンじゃなくて、演劇をやっていたらしいんですけど、役のイメージを膨らますために音楽はよく聴いていたらしいです。だから私の音楽の始まりは、母のCDコレクションを聴き漁ることがきっかけでしたね」
そうか。だからかな、バレットを聴いているとさ、90年代の懐かしさがすごくするのよ。
「多分知らず知らずのうちに影響は受けていますね」
それで話を戻すと、全部のバージョンを聴いてみて、どうだった?
「リスは少し低音が強くて、深海。エドナスワップはハスキーで、海の浜辺。トリーネはセクシーで、陸地。ナタリーは爽やかで、天空。歌い手が変わる度に、そんなイメージが湧きました。どれも素晴らしいんですけど、やっぱり私はナタリーが一番肌に合うかなって」
なんか生命の誕生っぽいね。全ては海から始まった、みたいな。
「ムダに壮大にしてすみません。でも私はナタリーを聴いた瞬間、背中に翼が生えたんです。おお、飛んでる、って」
そうなんだよね。やっぱりナタリーなのよね。本当に他のバージョンのファンには申し訳ないけど、私も個人的にナタリーが一番好きですね。いや、最初トリーネ版を聴いたときは驚いたのよ。こんな暗い歌詞の歌がこれほどグラマラスでゴージャスになるとは思いもしなかったよって。ほら、あれ「私はもうボロボロよ」みたいな歌詞じゃない。それがナタリー版の出現によって、もっと爽やかで聴きやすくなった。
それでね、カナちゃんの歌も、すごくイイのよ。私は久しぶりに「Torn」が聴けて凄く嬉しいです。
「いえ、恐縮です。これも元はといえば母に言われたんです。あんた若い頃のナタリーに似てるって。だから私もちょっとその気になっちゃって」
ああー、言われてみれば! あの黒髪ショートの頃のね! はいはい、いやカナちゃんのお母さん、名プロデューサーだね。
「母はただの会社員なんですけどね」
いやいやいや、すごい会社員ですよ。我が子にナタリー・インブルーリアに似てるって言える母親、なかなかいないと思うよ。カナちゃんはお母さん似?
「そうかもしれないですね」
じゃあ多分、お母さんが若い頃言われていたんじゃないかな。ナタリーに似てるって。後で現在のナタリーの動画観て、カナちゃんのお母さん想像するね。
「それ、連想し過ぎゲームですよ」
ごめんごめん、でもカナちゃんのルーツが知れてよかったな。
今度は「Wrong Impression」とかも聴きたいですね……と、残念ながら、お時間のほうがきてしまいました。
今日はせっかくゲストが来ているので、カナちゃんからのリクエストをかけてお別れしたいと思います。
どうしてカナちゃんはこの曲を?
「これもまた母のコレクションからディグったんです。有名な方なので他にもヒット曲はあるんですけど、私はなぜかこの曲をずっと繰り返して聴いて、歌っていましたね」
なるほど。たしかにこの曲もカナちゃんに影響与えているんだろうな、って感じました。今日のゲストはMoon Bulletのボーカル、南野歌奈さんでした。ありがとうございました。
「ありがとうございました」
今日お届けするリクエストナンバーは。
ー「BONNIE PINK/Heaven's Kitchen」ー
曲が流れると、淵神利栄子は南野歌奈に向かって合掌した。
「ホントに急にオファーしてごめんね。今度はメンバー全員で来てね」
【ムーンバレット・了】
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