浮気したあなたたちのことなんて、もう知りません。私は幸せになりますけどね。

月橋りら

文字の大きさ
3 / 65
一章

第3話 説得

しおりを挟む
それから、事の経緯をお父様に説明した。
お父様は、今回ばかりはアメリアを許さなかった。

ーーそう。今回ばかりは。

お父様は、アメリアをひどく可愛がった。
父にとっては、産後亡くなった、愛した妻が残した忘れ形見、それがアメリアだ。二番目ということもあって、比較的自由に育てられたきた妹は、しかし私のものをたくさん奪っていった。
筆記用具からドレス、家具、メイド、最終的に部屋も移動させられた。けれど、お父様は何も言わなかった。

だから今回も許してしまうのでは、とも思ったが、流石にそれは杞憂だったようだ。
これは、私を心配してのことじゃない、「家」の失態とその処罰を案じてだが…。

私は婚約破棄の書類を作る。
そして、それを父に提出した。

「セシリア…。お前は、この家がどうなってもいいのか?」
「…いいえ。ですから、アメリアを…」

ヒュンッ。

ペンが飛んできた。なんとか、横をかすっただけだった。

「アメリアに、王太子妃が務まると思うか?」
「いいえ」
「なら、お前しかいないだろう!」

父はやっぱり、今回のことで憤っているようだ。
それでもアメリアを手元に置いておきたいのかと、我が父ながら呆れた。

「私は、いわば「浮気された傷物」です。そんな私には醜聞が絶えないでしょう。ですから、ここで悲しみに暮れる令嬢として最後に…と婚約破棄を望むのです。世間は私に同情いたします」
「それが上手く行くと思うか?私にはとてもそうだとは思えない」
「お父様。この上手く行くと思われた婚姻さえ、上手くいかなかったのです。ですから、逆にこの計画が成功する可能性も十分にあるかと」

こういう、説得は上手い方だと思っている。
幼い頃から、一から丁寧に教育してくださった王妃様にはとても申し訳ないけれど、私は婚約破棄を望むのだ。

小さい頃に、自分の気持ちに蓋をした。
殿下は、私に振り向いてくれることなど、一度もなかったからーー。

そして浮気された。
よりにもよって、妹と。

「お父様。世間の目を気になさるのならば、娘に優しい方が同情を引きます。「アメリアには罰を与えた」とでも言っておけば、たとえ軽い刑でも安心でしょう。それとも、代わりに慰謝料を請求してこの家の発展に繋げることも可能かと」
「ふむ…。そうだな、お前に任せよう」

やった。

「お父様。ついでに、エスコートを」
「ああ。わかっている」

家のことを言っておけば、説得できる。
それを幼いながらに気づいたのだ。アメリアのように物をねだるときは、アメリアと一緒ではいけない。
「家」に利益があるように、頼み事をするのだ。


私はこうして、婚約破棄の許可を得たのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】王妃を廃した、その後は……

かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。 地位や名誉……権力でさえ。 否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。 望んだものは、ただ一つ。 ――あの人からの愛。 ただ、それだけだったというのに……。 「ラウラ! お前を廃妃とする!」 国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。 隣には妹のパウラ。 お腹には子どもが居ると言う。 何一つ持たず王城から追い出された私は…… 静かな海へと身を沈める。 唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは…… そしてパウラは…… 最期に笑うのは……? それとも……救いは誰の手にもないのか *************************** こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

わたくしは、すでに離婚を告げました。撤回は致しません

絹乃
恋愛
ユリアーナは夫である伯爵のブレフトから、完全に無視されていた。ブレフトの愛人であるメイドからの嫌がらせも、むしろメイドの肩を持つ始末だ。生来のセンスの良さから、ユリアーナには調度品や服の見立ての依頼がひっきりなしに来る。その収入すらも、ブレフトは奪おうとする。ユリアーナの上品さ、審美眼、それらが何よりも価値あるものだと愚かなブレフトは気づかない。伯爵家という檻に閉じ込められたユリアーナを救ったのは、幼なじみのレオンだった。ユリアーナに離婚を告げられたブレフトは、ようやく妻が素晴らしい女性であったと気づく。けれど、もう遅かった。

処理中です...