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三章
第45話 求婚
しおりを挟む「どういうことでしょう、王妃様…私は王室の血は流れておりません!」
王侯貴族、特に上流貴族には多少の王室の血は含まれている。かくいうラファエル家も同じで、だが私の父は全く王室の血の混ざらない男性だ。
貴族は、多少の王室の血を含む男女の婚姻によってなんとか血を保っている。
しかし私は違う。
他の人よりも薄い私は、なおさら相応しくないのだが…。
「今や血縁は関係ありません。王族も代々薄れてきているのですから、同じことでしょう」
「全く違います!」
王妃様は、何を言っているのだろう。
薄れてきていると言ってもまだまだ濃い。私とは比にもならないというのに。
「…アメリア。国とは、教養のある者が治めるべきです。血筋だけではないわ。今残る中で、最も王として相応しい教育を受けているのは、アメリア、あなたです」
「ですが…」
本当は、お姉様の方が相応しい。
だけど、あのジークフリート王太子と同じように、お姉様を無理矢理連れ帰る真似はしたくない。
「覚悟を決めなさい、アメリア」
◇◇◇
「…いい加減教えて欲しいのです。レアンドル様、あなたはなぜ私の元に来るのでしょうか」
「予定よりは早いが…まあいいか」
「…?レアンドル様、何をおっしゃって…」
ぶつぶつと小声で何かを言っていたが、彼は顔をあげると、なんでもありません、とにっこり笑った。
「…セシリア・ラファエル嬢」
レアンドル様は、急に膝をつき、私の手の甲に口付けしようとしてーー私は思わず手を引っ込めてしまう。
「あ、すみません…悪意はありませんが…」
急に驚いたものでして、と言い訳すると、一瞬顔が曇ったが、すぐにいつもの晴れやかな顔に戻る。
「左様でしたか」
彼はもう一度膝をついて、言った。
「私と結婚して欲しいのです」
「…はい?」
けっこん…?
それは、私がアレクシス様との婚姻を破棄したことを念頭において、のことだろうか。
そうであるならば、私が傷心中だとか、そんなことは考えなかったのだろうか。
「…私は国に利益をもたらせませんわ」
「それで良い。あなたは賢いのです。資質も十分備わっておられる」
「ですが…」
アレクシス様を諦めることになってしまった。
だけど、だからとほいほい彼の誘いに乗って、彼に八つ当たりなどしてしまわないだろうか。
もしくは、傷つけてしまわないだろうか。
アレクシス様と重ねてしまわないだろうかーー。
「考えさせてください」
「ええ。もちろんです。ですが、これだけは覚えていて欲しいーー私はあなたが好きですと」
予想外の言葉に思わずドキッとする。
そりゃもちろん、人間は「好き」と好意を向けられたらドキッとするものだ。だけど、私はーー。
「セシリア様。レアンドルに、告白されたようですわね」
告白、というか、求婚ですけれど。
「ええ。耳が早いのですね」
「すでに城内で噂になっておりますのよ」
全く、どうしてこうも皇族や王族と関わるのだろう。
それに、非難されるかもしれないーージークフリート王太子、アレクシス皇太子。そして次はレアンドル次期皇太子か、と。
「…おめでとうございます」
「!?まだ決まったわけではありません、の、よ……」
その時私は気づいた。
クレア様のお顔が、とても浮かないということに。そして、どこか上の空だ。
「…クレア様?」
「あ、ええ…すみません」
何か、心配事でもあったのだろうか。
後日、それが私と大きく関わることになるとは、思いもしなかったーー。
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