浮気したあなたたちのことなんて、もう知りません。私は幸せになりますけどね。

月橋りら

文字の大きさ
50 / 65
四章

第50話 言い争い

しおりを挟む
 
「あなたがそれを言いますか?」

ただそれだけの一言には、幾分もの冷たさがこもっていた。

「…どういうこと?」
「クレア様、あなたはーーセシリア嬢に、求婚を断るよう言ったそうですね」
「…っ!」

ーーバレていた。
よりにもよって、彼に。
自制がきかなくなった、なんて言っても信じてもらえないし、おかしくなったと思われるだけ。
私はそのまま何も言えずに突っ立っていると、さらに彼は歩いてきて私が仕事をしている机をバン、と叩いた。

「私たちの自由を制限しないでください。あなた様は皇女殿下ですが、なんでもできるわけではありません」

ーー彼の言う通りだ。
何度だって、皇女に生まれたことを悔やんできた。皇女だから余計に気遣わないといけないし、皇女だから恋なんてもってのほか。

普通の市民なら、あるいは貴族なら。喜んで彼に恋《こ》うことができただろう。

「…そうね」
「は?…開き直らないでください!なんですか、それはーー私たちの恋路を邪魔しないでください!!」
「っ…わかっているわ」

適当な返しがわからない。
全ての非は私にあるのだから、なぜ一生懸命弁明しようとしているのかすらわからない。

「いいえ、クレア様はわかっていない!今までそんな風に人に接していたのですか?ーー皇女であることを使って、人を傷つけていたのですか?」
「違うわ!!」

違う、違う。
昔の努力まで、否定しないで。ーー私は「皇女」だからこそ、一生懸命隠していたのよ。
あなたの気持ちだって、他の人への嫌な気持ちも、全部。
好き嫌いはしてはいけない。それが「皇女」で、私はそれを努力して、なるべく彼らにいい顔をしてきた。

正直言うと、辛かった。

好意的でも、非好意的でも、私は彼ら皆に「同じ皇女」でないといけないから。
それが国を背負う者の務めだから。

それを否定されて、黙っている私ではない。

「そんなこと言わないで!私は、ずっとーー」

ずっとーー何?
私は何が言いたいの?

「…クレア様。あなたは間違っている」

ーーは?
初めて、レアンドルに憤りを感じた。何も知らないくせに、まるで知っているかのような素ぶりーー。

「あなたに説かれるのは、どうなのかしら。レアンドルは、あなたはーー私の何を知っていて!?」
「…それ、は…」
「っ…」

でも、こんな彼のことでもーー好きになる自分が恨めしい。
彼は、こんなことを言う人だったかしら。ーーいや、そうなのかもしれない。

私が知らないだけで。

いつも、貼り付けたその薄っぺらい微笑みがそれを感じさせているのだ。

「…とりあえず、この話はおしまいよーー部屋から出てってちょうだい」

ああ、なんで。なんでこうなるのーー。
彼とはもう、永遠に、分かち合えないのだろうーー。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

【完結】王妃を廃した、その後は……

かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。 地位や名誉……権力でさえ。 否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。 望んだものは、ただ一つ。 ――あの人からの愛。 ただ、それだけだったというのに……。 「ラウラ! お前を廃妃とする!」 国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。 隣には妹のパウラ。 お腹には子どもが居ると言う。 何一つ持たず王城から追い出された私は…… 静かな海へと身を沈める。 唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは…… そしてパウラは…… 最期に笑うのは……? それとも……救いは誰の手にもないのか *************************** こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

愛は全てを解決しない

火野村志紀
恋愛
デセルバート男爵セザールは当主として重圧から逃れるために、愛する女性の手を取った。妻子や多くの使用人を残して。 それから十年後、セザールは自国に戻ってきた。高い地位に就いた彼は罪滅ぼしのため、妻子たちを援助しようと思ったのだ。 しかしデセルバート家は既に没落していた。 ※なろう様にも投稿中。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

わたくしは、すでに離婚を告げました。撤回は致しません

絹乃
恋愛
ユリアーナは夫である伯爵のブレフトから、完全に無視されていた。ブレフトの愛人であるメイドからの嫌がらせも、むしろメイドの肩を持つ始末だ。生来のセンスの良さから、ユリアーナには調度品や服の見立ての依頼がひっきりなしに来る。その収入すらも、ブレフトは奪おうとする。ユリアーナの上品さ、審美眼、それらが何よりも価値あるものだと愚かなブレフトは気づかない。伯爵家という檻に閉じ込められたユリアーナを救ったのは、幼なじみのレオンだった。ユリアーナに離婚を告げられたブレフトは、ようやく妻が素晴らしい女性であったと気づく。けれど、もう遅かった。

処理中です...