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四章
第52話 製紙技術で
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「どういうことでしょう。あなたたちは婚約破棄なされたはずです」
セシリアに求婚したとかいう男が聞いた。ーーまさかそれが、レアンドル次期皇太子であったとはーー。
そうではない得体の知れない男であれば、ひどく怒りを見せつけどんな方法であろうと引き離すつもりでーーなんて、いったいいつから、どれだけ束縛の強い男になったんだろう、私は。
でも、心配は無用だ。
強引だったが、あの方法を使って良かったと思う。
「…ええ。表面上は」
「?」
「実は、セシリアとは婚約破棄などしていません」
街に出た時、ある男が言っていたのだ。
ーー知ってるか?物事を見せかけにしたいときは、他のを使うんだ。
ーーどういうことだ?
ーー例えば、契約だったら。本物の契約書に書いてしまっては意味がない。だから、工作するんだよ。
ーーそれは、違反になるだろう。
ーーいいや、それがならないんだ。なぜなら、使うのは、ただの紙切れだからね。
彼は、その後も説明した。
アスレリカにはない製紙技術で作られた紙を、他国からの貿易により入手する。
しかし、大事な契約であれば、国内の紙に記さなければならない。それはアスレリカだけでなくどこでもそうだ。
なぜなら、製紙技術が優れているからといって、安全なわけではないからだ。
昔、貴族が取引をするために他国で作られた紙で契約書を作った。しかしその紙には、麻酔薬が大量に含まれていたのだ。
しかし、それは「正式に認められる」ときに、国内のを使うのであって、他国のを使えば「正式」でなくなるだけで、捕まるとか、そういう罰はない。
そしてその男は、それを利用した。
「例えば、レベッカ国の製紙技術で作られた紙は、通常のものよりも燃えにくい。だから、よく普段づかいされてるんだ」
燃えにくければ、もちろん紙の効果もない。
これは持ってこいだと、私はすぐに入手して、安全を確認し、書いたのだ。
「アレクシス・ドット・アスレリカと、セシリア・ラファエルは婚約を破棄するーー」
これは「正式」ではない。皇妃ミランダは、まんまとこれに騙された。
「…なるほど。では、二人は今婚約者なのですね」
レアンドルは、あっさりと言った。
「身を引くのが早いですね」
「まあ」
「好きだから求婚した」と聞いたが、どうやらそれは嘘だったようだ。
やはり、国益が目的だったかーーと思ったその時。
「なら、どうして求婚なさったのですか」
セシリアが口を開いた。
「…それ、は」
しかし、レアンドルは話すのを躊躇する。
何を躊躇うのだろうかーー巻き込んだのは、他でもない、彼自身だろうにーー。
「…レアンドルは、恋を諦めたのです。そうよね、レアンドル」
まるで、そう認めろと言わんばかりに、クレア皇女が口を挟んだ。
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