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母さんの幸せ

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 レオンの母は毎日、存分に料理の腕をふるっている。なにしろ食べ盛りの子供たちが五人もいるのだから。
 レオンは剣術学校に入ってからというもの、成長期ということもあって大人の二倍は食べるようになり、ぐんぐん背が伸びて筋肉も発達し、日に日にたくましくなって行く。
 食糧は以前とは違って豊富に手に入る。それでも食糧が足りないときには家事の息抜きがてら、自ら荷馬車を御して市場へ買い物に行けばよいのだ。
 懐かしい「土曜市の街」でも、「日曜市の街」でも、毎日どこの街にでも行って買い物ができる。そんなときにはお駄賃を払って、領民のおかみさんたちや娘さんたちに子守りを頼めばよかった。
「新しい領主さまんとこの奥さまは、ちっとも偉そぶることがなくって、私たちと同じ庶民感覚を忘れない謙虚なお方だねえ」
 彼女の奥さまとしての評判も上々だった。
 だけどやっぱり彼女が買い物に出かけるのは、土曜日が多かった。朝、洗濯婦と掃除婦のおかみさんたちがやってくると、子供たちに手を振り、それからいそいそと荷馬車に乗り込んで土曜市の街へと出かけて行くのだ。市場でなじみの顔ぶれと挨拶を交わしておしゃべりをすれば、良い気分転換になる。彼女は幸せに満ち足りていた。
 毎日しっかり食べられるようになってからというもの、やせっぽちだった小さな子供たちは日に日に太ってゆく。そして彼女自身もどんどんふくよかに。特におなかのあたりが……。
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