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ある晴れた1月のカーナビ
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これはある年の新年。私の身に起きた出来事です。
小売業店長の私は仕事で社用車に乗っていました。この車は中古車で、購入時から外付けのカーナビが付いていました。このカーナビは、あるときからタッチパネルが不具合を起こし、テレビ画面しか映らなくなりました。タッチパネルの「現在地」を押してもすぐに勝手にまたテレビ画面に戻り、「選局」を押しても「ピッ」と音がするだけでテレビのチャンネルは変わりません。どうやらタッチパネルの下部のボタンが効かなくなっているようでした。タッチパネル上部にある「オフ」を押して画面を消すことはできますが、車内で無音というのも何ですので、車内はだいたいヒルナンデスが流れていました。
ヒルナンデス出演者の女性芸人のグルメリポートを耳にしながら運転していると不意に「ピッ」「ピッ」とカーナビ(TV)から音が聞こえました。タッチパネルに触れていないのにおかしいなと思い、画面に目をやると画面が地図に切り替わっており、現在地を示すカーソルが勝手に動いていました。
パネルをタッチした際の誤認識はあれど、勝手に動くなんてことは今まで一度もありませんでした。こうした突然のハプニングに対応するのも店長の腕の見せ所です。私は瞬時に原因を考えました。多角的な思考と熟練した経験により、出来るだけ多くの可能性を考えられてこそデキる店長と言っていいでしょう。私は考えました。
① 新年最初の初乗りであったため、数日ぶりにエンジンをかけたことにより機器が上手く動作していない
② いよいよ壊れた
と、2つしか浮かびませんでしたがよしとしましょう。
その間も「ピッ」「ピピッ」と操作音が勝手に鳴っています。
そこで、デキる店長である賢明な私は第三の可能性に至りました。
③ ユーレイの仕業である
これは怪奇現象なのではないか。ホラー、オカルト、心霊、超常現象、シャーマニズム。新年早々私の身に何か起こっているのではないかと。
しかし、私もいい大人です。店長という社会的立場もあり規範的な人間を目指してここまで生きてきました。そんな私がユーレイなどとたわけた事を。
カーナビはまだ音を立てて動いています。画面が地図からテレビに再び切り替わりました。テレビが勝手に選局し始めます。「ピッ」「ピピピッ」
普通の大人ならこれはもう心霊現象だと思うに違いありません。しかし私は規範的人間です。そんな妄想には踊らされません。「サスペリア」や「ハロウィン」などのホラー雑誌を愛読し、テレビは「ハイスクールミステリー学園七不思議」「ゲゲゲの鬼太郎」「世にも奇妙な物語」を好み。人面犬に怯え心霊写真やUFOの本を読み漁った小学生時代。
「ピッ」「ピピッ」尚もカーナビは選局を繰り返しています。
某ホラー文庫を読み漁り、伊藤潤二や高橋葉介や諸星大二郎にハマった中学、高校生時代。恋人とデートしたり友人と海に行ったり、もっとまともな学生生活を過ごせばよかった。いや、そんなことはどうでもいいです。どうでもよくないですが、今はどうでもいいのです。後悔はありますが後悔はしていません。もう一度生まれ変わったらまた私で生きていきます。話が逸れました。
私は確信しました。
カーナビが壊れた。
実にシンプルな答えです。シンプルな答えほど辿り着くのが難しいのです。答えを聞いて「なんだそんなことか」と嘲笑するのは莫迦のすることです。
そのシンプルな事実に気付いた私がカーナビに目をやると、画面が地図に切り替わっていました。画面が地図のまま音声はいろいろなチャンネルに切り替わっていきます。女性芸人のグルメリポートの音声が、ドラマになり、料理番組になり、男性俳優の語りになり、調味料のCMになり、と次々に変わっていきます。地図の裏側でテレビのチャンネルがどんどん回っていきます。
ホラー小説だったらここで幽霊の声になるんだよな。そうなったら話のネタにはなるけど、そんなわけ。
「カーナビから『オマエモ、シネ』と声がして、気が付いたら目の前は崖だった」とか「画面がノイズになり『ウう・・・・うゥ・・』と声が聞こえました」とかよくある陳腐な展開を私は何億冊と読んできました。
すると・・・。
「観自~在菩~薩行深 般若~波~羅~蜜~多~時~・・・」
実家が真言宗の檀家のため、私はそれが般若心経だとすぐに分かりました。
そうです。お経です。
法要の度に幼い頃から耳にしてきたお経です。怖ッ・・・。
「カーナビに手を触れていないのに勝手に動き、突然お経が流れてきたのです・・・」
・・・立派なホラーを体験しました・・・。
と、なるところですが、繰り返しますが私は規範的な大人です。まがりなりにも店の長です。そんな曖昧なまま終わらせては店舗運営出来ません。原因究明です。
ある可能性が浮かびました。
今はまだ1月初旬です。NHKか地方局のテレビかラジオで新年の法要をやっていてもおかしくないだろう。お坊さんが並んでお経を唱えていたり、滝に打たれたりしている映像を見た記憶があるようなないような気がします。
しかし画面には地図が表示されており、それを確かめることができません。・・・と、そのとき、画面が切り替わりました。そしてそれが恐るべき結末に辿り着くことになるのです。
「ピッ」
切り替わった画面はメニュー画面でした。メニュー画面を見たのは初めてでした。画面の左上に「音楽ファイル」の文字が。「これだ!」賢い私は気付きました。
◇ この車は中古車である → したがってカーナビも中古である(確かに購入時初期化されていなかった) → 前の持ち主が録音した音楽ファイルが再生されている
見事、この推理は当たりました。音楽ファイルのボタンを押すとそこには「高野山真言宗○○派○○寺 般若心経 読経」の文字が。
なんだ。やっぱりオカルトではなかったのだ。あー怖かった。
安心してスキップボタンで次の曲へ。
「・・・はんにゃ~は~~ら~~み~た~じぃ~・・・」
あれっ。
画面には「般若心経その2」の文字が。
まさかの連続般若心経です。連続般若心経なんて言葉を発する日が来るなんて思いもよりませんでした。
このまま般若心経無間地獄(極楽か?)に突入するのを覚悟しましたが、さらにスキップすると無事に坂本冬美さんの「また君に恋してる」が流れ出したのでどうやら無間地獄は突破出来たようです。かくして私は坂本冬美さんの美声と般若心経により、キリっとした気持ちで新年の仕事を始めることが出来たのでした。
・・・ところで、車内で般若心経を流す状況って何でしょうね。前の持ち主に何かあったんですかね・・・。
小売業店長の私は仕事で社用車に乗っていました。この車は中古車で、購入時から外付けのカーナビが付いていました。このカーナビは、あるときからタッチパネルが不具合を起こし、テレビ画面しか映らなくなりました。タッチパネルの「現在地」を押してもすぐに勝手にまたテレビ画面に戻り、「選局」を押しても「ピッ」と音がするだけでテレビのチャンネルは変わりません。どうやらタッチパネルの下部のボタンが効かなくなっているようでした。タッチパネル上部にある「オフ」を押して画面を消すことはできますが、車内で無音というのも何ですので、車内はだいたいヒルナンデスが流れていました。
ヒルナンデス出演者の女性芸人のグルメリポートを耳にしながら運転していると不意に「ピッ」「ピッ」とカーナビ(TV)から音が聞こえました。タッチパネルに触れていないのにおかしいなと思い、画面に目をやると画面が地図に切り替わっており、現在地を示すカーソルが勝手に動いていました。
パネルをタッチした際の誤認識はあれど、勝手に動くなんてことは今まで一度もありませんでした。こうした突然のハプニングに対応するのも店長の腕の見せ所です。私は瞬時に原因を考えました。多角的な思考と熟練した経験により、出来るだけ多くの可能性を考えられてこそデキる店長と言っていいでしょう。私は考えました。
① 新年最初の初乗りであったため、数日ぶりにエンジンをかけたことにより機器が上手く動作していない
② いよいよ壊れた
と、2つしか浮かびませんでしたがよしとしましょう。
その間も「ピッ」「ピピッ」と操作音が勝手に鳴っています。
そこで、デキる店長である賢明な私は第三の可能性に至りました。
③ ユーレイの仕業である
これは怪奇現象なのではないか。ホラー、オカルト、心霊、超常現象、シャーマニズム。新年早々私の身に何か起こっているのではないかと。
しかし、私もいい大人です。店長という社会的立場もあり規範的な人間を目指してここまで生きてきました。そんな私がユーレイなどとたわけた事を。
カーナビはまだ音を立てて動いています。画面が地図からテレビに再び切り替わりました。テレビが勝手に選局し始めます。「ピッ」「ピピピッ」
普通の大人ならこれはもう心霊現象だと思うに違いありません。しかし私は規範的人間です。そんな妄想には踊らされません。「サスペリア」や「ハロウィン」などのホラー雑誌を愛読し、テレビは「ハイスクールミステリー学園七不思議」「ゲゲゲの鬼太郎」「世にも奇妙な物語」を好み。人面犬に怯え心霊写真やUFOの本を読み漁った小学生時代。
「ピッ」「ピピッ」尚もカーナビは選局を繰り返しています。
某ホラー文庫を読み漁り、伊藤潤二や高橋葉介や諸星大二郎にハマった中学、高校生時代。恋人とデートしたり友人と海に行ったり、もっとまともな学生生活を過ごせばよかった。いや、そんなことはどうでもいいです。どうでもよくないですが、今はどうでもいいのです。後悔はありますが後悔はしていません。もう一度生まれ変わったらまた私で生きていきます。話が逸れました。
私は確信しました。
カーナビが壊れた。
実にシンプルな答えです。シンプルな答えほど辿り着くのが難しいのです。答えを聞いて「なんだそんなことか」と嘲笑するのは莫迦のすることです。
そのシンプルな事実に気付いた私がカーナビに目をやると、画面が地図に切り替わっていました。画面が地図のまま音声はいろいろなチャンネルに切り替わっていきます。女性芸人のグルメリポートの音声が、ドラマになり、料理番組になり、男性俳優の語りになり、調味料のCMになり、と次々に変わっていきます。地図の裏側でテレビのチャンネルがどんどん回っていきます。
ホラー小説だったらここで幽霊の声になるんだよな。そうなったら話のネタにはなるけど、そんなわけ。
「カーナビから『オマエモ、シネ』と声がして、気が付いたら目の前は崖だった」とか「画面がノイズになり『ウう・・・・うゥ・・』と声が聞こえました」とかよくある陳腐な展開を私は何億冊と読んできました。
すると・・・。
「観自~在菩~薩行深 般若~波~羅~蜜~多~時~・・・」
実家が真言宗の檀家のため、私はそれが般若心経だとすぐに分かりました。
そうです。お経です。
法要の度に幼い頃から耳にしてきたお経です。怖ッ・・・。
「カーナビに手を触れていないのに勝手に動き、突然お経が流れてきたのです・・・」
・・・立派なホラーを体験しました・・・。
と、なるところですが、繰り返しますが私は規範的な大人です。まがりなりにも店の長です。そんな曖昧なまま終わらせては店舗運営出来ません。原因究明です。
ある可能性が浮かびました。
今はまだ1月初旬です。NHKか地方局のテレビかラジオで新年の法要をやっていてもおかしくないだろう。お坊さんが並んでお経を唱えていたり、滝に打たれたりしている映像を見た記憶があるようなないような気がします。
しかし画面には地図が表示されており、それを確かめることができません。・・・と、そのとき、画面が切り替わりました。そしてそれが恐るべき結末に辿り着くことになるのです。
「ピッ」
切り替わった画面はメニュー画面でした。メニュー画面を見たのは初めてでした。画面の左上に「音楽ファイル」の文字が。「これだ!」賢い私は気付きました。
◇ この車は中古車である → したがってカーナビも中古である(確かに購入時初期化されていなかった) → 前の持ち主が録音した音楽ファイルが再生されている
見事、この推理は当たりました。音楽ファイルのボタンを押すとそこには「高野山真言宗○○派○○寺 般若心経 読経」の文字が。
なんだ。やっぱりオカルトではなかったのだ。あー怖かった。
安心してスキップボタンで次の曲へ。
「・・・はんにゃ~は~~ら~~み~た~じぃ~・・・」
あれっ。
画面には「般若心経その2」の文字が。
まさかの連続般若心経です。連続般若心経なんて言葉を発する日が来るなんて思いもよりませんでした。
このまま般若心経無間地獄(極楽か?)に突入するのを覚悟しましたが、さらにスキップすると無事に坂本冬美さんの「また君に恋してる」が流れ出したのでどうやら無間地獄は突破出来たようです。かくして私は坂本冬美さんの美声と般若心経により、キリっとした気持ちで新年の仕事を始めることが出来たのでした。
・・・ところで、車内で般若心経を流す状況って何でしょうね。前の持ち主に何かあったんですかね・・・。
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