魔王に見初められる

うまチャン

文字の大きさ
45 / 46

第44話 勉強会

しおりを挟む
「えっと……。じゃあ、圧縮して剣とかの形を作る感じなの?」

「そうだな。魔法は基本イメージから作り出される。人がこうしたいから動くように、魔法も頭の中で考えたことがそのまま出てくる。例えば『ハリクララ』は、よく使われる魔法。そして、人々はそれを聞いた途端最初に思い浮かぶのは、火属性の魔法が圧縮されてできた玉だよな?」

「あっ、確かにそうかも。わたしも『ハリクララ』って言われて最初に思い浮かんだのはそれだった!」

「だろ? でもそれって実はずっとそうやって教え込まれていたからだ」

「どういうこと?」

 ティフィーは、俺の方を振り向いて首を傾げた。
今、彼女に教えているのは魔法の根本的なところだ。
前回は、体に流れる魔力とは何なのかということを教えていた。
それに引き続き、今回は魔法とはそもそも何なのか、そして、魔法を詠唱する意味を教えていた。

「一番わかりやすいのは、俺たちが今喋っている言葉」

「言葉?」

「そうだ。言葉は人々と親しみやすくするため、交流するために発展して出来たものだ。共通の言葉を知っていれば、簡単にコミュニケーションが取れるだろ? それがその国の標準語として当たり前に使われていたわけだ。だがここでティフィーは考えてみて欲しい」

「―――?」

「今こうして言葉を話しているが、それは誰かがこうしようと決めて周りに広めたた。そして、それが便利で影響されて自然と標準語になっているって考えることが出来るよな。じゃあ、ここでティフィーに問題だ」

「うん!」

「今はこの言葉が当たり前になってるが、それを他の人が決めたらどうなる?」

 俺はティフィーに問題を投げた。
それを聞いたティフィーは、斜め上を見上げながら考え込んだ。

「んー? あ、違う言葉になっていたかも、しれない?」

「正解だ!」

「やったあ!」

 ティフィーは両手を上げて喜びを表現する。

「だから、本来は『ハリクララ』っていう詠唱は違う言葉でも良いんだ。ただ、『ハリクララ』と言っておけば、自然とそういう発想になるからそうしているだけだ。魔法の構築は全部想像だ。自分の魔法の適正に合わせた魔法を作り上げることで、自分に最適で強力な魔法が作ることができる。だから、俺みたいに不思議で誰も身につけていないような魔法を身につけられるってことだ」

「へえ……。じゃあ、魔法をオリジナルに作れるのは、わたしにも出来るってこと?」

「ああ。ティフィーにも出来るし、魔法をあまり上手く扱えない人々にも出来る」

「わあ、すごい! ルーカスは本当に天才だよね! ますます好きになっちゃう……」

 そう言って、ティフィーは頬を少し赤くしながら俺を見る。
本来なら、彼女のこの顔にドキッとさせられるのだろうが、俺はならない。
優しく笑ってあげることしか俺には出来ない。

「よし、じゃあ今日はここまでだ。俺は明日から前線に行かないといけないから、しばらくは教えられないな。だから、次は来週になるな」

「わたしはいつでも大丈夫。帰ってきて、ルーカスがしっかり休めたらまた言うから」

「おう」

「じゃあ、今日もありがとうございました先生!」

「はい、お疲れ様でした」

 お互い挨拶を交わすと、ティフィーはささっと書斎を出ていった。

「んーん! さて、アンラのところに行こうか」

 背伸びをしたあと、俺は書斎を後にした。
階段を上がり、アンラのもとへ向かうことにした。
城の廊下は月明かりで照らされ、幻想的な景色が広がる。

(夜の城の中も、昼とはまた違った綺麗さがあるよな。俺はけっこう好きなんだよな、この雰囲気)

 しばらく廊下の真ん中で立ち止まって、青白い光に照らされた廊下を眺めた。
本当に美しい……。
まるで絵に描いたような感じだ。
この景色を十分に堪能したあと、俺は部屋へ向かい、そしてドアを開けた。

「あ、おかえりルーカス」

「ただいま、遅くなってゴメン」

「ティフィーちゃんに教えていたんでしょ? それなら文句は言わないわ」

 サエイダの寝顔を見ながら、アンラはそう言った。
月明かりに照らされた彼女の姿は、廊下の景色よりももっと幻想的だった。
綺麗、美しい……。
俺は思わず見惚れてしまっていた。

「―――? どうかしたの?」

「あ、いや。アンラがあまりにも美しかったもんで……つい見惚れてしまっただけだ」

「―――! もう、ばか……」

 アンラは顔を赤くし、困った顔をしながら視線を逸した。
その表情に俺は喉をコクっと鳴らした。
アンラのその表情を見るのは、本当に久しぶりだったからだ。
 顔が一気に熱くなった。
俺もアンラと同じ、顔が真っ赤になってしまっているだろう。
少し気まずい空気になりながらも、俺はアンラの隣に座った。

「―――はは、サエイダは笑いながら寝てるな」

「うん。何か楽しそうな夢でも見てるのかしら」

 サエイダは口端から涎を垂らして、笑った顔で爆睡していた。
アンラの言う通り、何か楽しい夢でも見ているのだろう。
サエイダの寝顔を見ていると、こっちまで幸せに包まれるような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!

アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。 思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!? 生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない! なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!! ◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...