上司に連れられていったオカマバー。唯一の可愛い子がよりにもよって性欲が強い

papporopueeee

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出会い偏

油断していました

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 紫色が混じった怪しげな光に照らされている店内。
 テーブル席が数席と、カウンターが10人も座れない程度。

 パっと見は小ぢんまりとした個人経営店という印象だ。
 客はまだ居ないようで、店員は目に見える範囲にはカウンターの奥に一人しかいない。

「いらっしゃいま――あら、テツさんじゃないの! ほんとに来てくれたのね」
「よう、ヨシミ。元気にしてるか?」

 どうやら、飯田は店員と顔見知りだったようだ。
 ヨシミと呼ばれた着物の男性は、飯田の呼び掛けに答えるとカウンターから外へ出てきた。

「こっちは元気よ。そっちはどうなの?」
「まあ、ぼちぼちってとこだな。こいつ、少し前からうちで働いてる新人。ミドリ、挨拶しろ」
「飯田さんの下で働かせていただいています。川崎翠と言います」
「あらまあ、ご丁寧にどうも。ふーん、人材派遣会社の技術者さんなのね」
「おいおい。オカマバーの店長に名刺渡してどうすんだよ。ここで雇ってもらうつもりか?」
「いえ、その……飯田さんのお知り合いということでしたので、一応……」

 誰彼構わず名刺を渡す習性があるわけではない。
 派遣先からの評価を上げる方法をいつでも探っているだけなのだ。

「うふふっ、私はここの店長をしているの。ヨシミって呼んでちょうだい。うち、見ての通りの有様だから、御社のお世話になることはなさそうだけれどね」
「オープンしてからずっとこんな調子なのか?」
「そうねえ……まあ、全く人が来ないってわけじゃ無いんだけれど……。少しずつリピーターを増やしていくしか無いわね」
「……」
「あら、アキラくん? それともミドリくんかしら? どうかしたの?」
「ああ、いえ……」

 店に入る前は、バラエティー番組に出ているような濃い顔の男たちが露出の高いだけでレベルの低い女装をして乱痴気騒ぎでも起こしているのかと思っていた。

 しかし実際のところ、
 店長が女性用の着物を着ていて、
 黒の長髪を後ろでまとめていて、
 言葉遣いがオネエ言葉というだけだ。

 オカマバーと書かれた看板に萎縮していたものの、ここは想像していたよりもずっと上品な店らしい。
 これならそこまで不快な思いをせずに済みそうだ。

「なんでもありません。それと、私のことは川崎と――」
「こいつはミドリって呼んでやってくれ。ほれ、名前がそうとしか読めんだろ?」
「そうね。この漢字、アキラって読めるなんて今まで知らなかったわ。ミドリくん、いい名前ね」
「……恐縮です」

 客先評価を上げるには、外堀を埋めることも重要である。
 飯田と親しい間柄と思われるヨシミに良い顔をするのも無駄では無いはずだ。

 いつか、この胃の痛みがキャリアへと繋がることを信じるしかない。

「テツさん、飲んでいくでしょ? まさか顔見せに来ただけだなんて言わないわよね?」
「ったりまえじゃねえか。今日一日で今までの売り上げ全部超えるくらい飲むからよ。うちのミドリが」
「いや、そんなには飲めないですよ」
「遠慮すんなって。いつもみたいに俺が奢ってやるから。綺麗なネエちゃんたちに可愛がってもらいながら楽しめ。ヨシミ、あそこのテーブル席ミドリ一人に独占させてやっていいか?」
「ええ、いいわよ。どうせ席が埋まることなんてないから。なんなら、キャストの子たちもたくさんつけてあげるわ」
「それ、裏で暇してる輩に給料払うのがもったいねえだけだろ?」
「うふ、どうとでもとって頂戴。さあ、ミドリくんはテーブルにどうぞ。テツさんはカウンターで飲むでしょ?」

 カウンターの方へと歩いていく飯田とヨシミ。
 上司の目があるよりも、無い方が気持ちよく飲めることは間違いない。

 どうやらキャストが相手をしてくれるらしいし、相手は接客のプロだ。
 オカマでもそこは変わらないはずだ。
 今までのキャバクラと同じように、会話の主導権を全面的に譲っていれば気まずい思いをすることもないだろう。

 息を一つ吐いてから、テーブル席の中央へと腰を沈めた。

「さあみんな、どうせ話は聞いてたでしょ。お客様よ。手が空いてる子はもてなしてあげてちょうだい」

 カウンターに立ったヨシミが、従業員控室があると思われる方へ声をかける。

 そして――

「いらっしゃいませーーー!!!」

 それはバラエティ番組でよく見るような。
 そんなオカマたちの集団が目の前に現れて。
 瞬きする間もなく、両脇を固められてしまった。
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