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追及偏

童貞と言われました

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「……それなら、もう十分じゃないですか? 」
「じゅうぶん……? むしろ、アキラさんの美味しいところはこれからでは?」
「でも、もう童貞は昨日奪われたじゃないですか。私は憶えていないので、詳細はわかりませんが……でも、まんまとツキさんの思惑に嵌ったわけですし……ツキさん曰く、昨日の夜の私は情熱的だったようですし……」
「あぁ……なるほど……♡」
「正直、もう同性相手にありえないほどドキドキさせられています。今だってそうです。ツキさんには初めてを奪われたばかりか、恋愛観までぐちゃぐちゃにかき混ぜられました……。こんなひどいことをされているのに、絶縁を切り出せないほどに……」
「っ……♡」

 正直な話、そこが一番の問題だった。

 ツキには騙された。
 不意打ちを食らわされた。
 半ば無理やりに勝負に持ち込まれた。
 煽られて、馬鹿にされた。

 それでも、ツキのことを嫌悪することができない。
 憎む理由はいくらでもあるのに、感情がツキを許したいと言っている。

 例え男性だったとしても、ツキの顔が好みのタイプだからか。
 それとも嘘だったと告白されてもまだ、昨日の偽りの性格に惑わされているのか。

 ツキに惚れているのかはわからない。
 でもなんとなく、今まで異性に抱いてきた恋心とは毛色が違うことはわかる。

 ツキの挙動に興奮させられたとしても、キスや性行為をしたいとは思えない。
 しかしこれっきりでツキとはお別れというのも嫌だ。
 だからといって、ツキと男友達になりたいわけでもない。

 そんな矛盾した思いが、川崎翠がツキに抱いている本心だった。

「一度気持ちの整理がしたいんです。冷静になったら、もしかしたらツキさんの事を本当に好きだと思っている可能性もあって……だから、今日は一度仕切り直しに――」
「嘘だった……と言ったらどうしますか?」
「……うそ?」
「はい、嘘です♡ どうですか、アキラさん?」
「いや……そう言われても……。嘘って、いったい何が嘘なんですか?」

 ツキには嘘や演技が多すぎて、もうどれが嘘なのかてんでわからない。

「アキラさんはどれが嘘だと思いますか?」
「……ツキさんが男というのが嘘……とか……」
「えへへっ♡ そんなに犯されたいんですか?」
「いや、冗談ですよ……あはは……」
「……でも、方向性としては間違ってないですよ? 私の嘘というのは、きっとアキラさんが嘘であってほしいと思っていることですから……♡」
「そう言われましても……」

 嘘であって欲しいことなんていくらでもある。

 性別はもちろんのこと――

 昨日の控え室でのツキが演技だったというのも嘘であってほしい。
 今の逆レイプ上等な性格も嘘であってほしい。
 ちょっと強すぎて歪んでいる好意を向けてきているのも嘘であって欲しい。
 先ほどから口遊んでいる犯すという脅しも冗談であってほしい。

 挙げ始めればキリがないくらいだが、それらは現状を考えればただの願望でしかなくて、嘘である余地がない。

 嘘である可能性が残っていて、
 嘘であってほしいと思っているようなことと言えば――

「…………っ! ま、まさか……」
「えへへっ、気付きましたか? ……童貞さん♡」
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