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親睦偏

弱点を知りました

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「すん、すん……♡ はぁ~……♡ アキラさんがかけてくれた、アキラさんのお布団……♡」
「……」
「あ゙あ゙ぁぁ~~っ!! いたいっ! 痛いです! こういう痛いのは嫌です! もっと愛のある痛いのがいいです!」

 洗濯バサミで鼻を挟むとツキが喚き始めた。
 ちゃんと人並みに痛みは感じているようだ。

「取って取って取って! アキラさん、取ってください!」
「……」
「ほんとにお願いします! もう匂い嗅がないですからー!」
「急にしおらしくなったな……。もうずっとこのままの方がいいんじゃないか?」

 演技ではなく、ツキは本当に鼻洗濯バサミを嫌がっているようだった。
 後ろ手に縛られても嬉しそうに喘いでいたくせに、どういう思考回路をしているのだろうか。

「やだやだやだ、跡が着いちゃうじゃないですか! アキラさん責任取ってくれるんですか!?」
「跡が着くって言っても、一晩寝れば治るだろ」
「治らない可能性だってあるじゃないですか! 絶対に跡は残らないって言い切れるんですか!? 100%って言い切れるんですか!?」
「いや、それは――」
「鼻の形が変わっちゃう可能性だってあるんですよ! やーだー……変な鼻になっちゃったらいやですー……」
「~~……ったく」

 あまりにもツキが喚くので洗濯バサミを取ってやった。
 どうやらツキは自身のビジュアルが損なわれることを人一倍気にしているようだ。

 ツキはナルシストというか、自身のビジュアルに多大な自信を持っている。
 その気質を考えれば、鼻洗濯バサミに拒絶反応を示すのも当然か。
 顔にストッキングなんて被せようものなら、きっと暴れまくるのだろう。

 それにしたって、どうしてツキに気を遣わなければならないのか。
 目の前に居るのは不法侵入者で犯罪者で変態だというのに。

「うぅ……アキラさん、鼻擦ってください……優しく、跡が取れるように……」
「……ああ、もう」

 ツキにせがまれると、どうしても邪険に扱うことができない。
 本当に、顔が良いというのは性別問わず恵まれている。

「……これでいいか?」

 ツキの鼻に親指と人差し指の腹を這わせて、ゆっくりと上下に擦ってやる。
 小ぶりな鼻は指先でも覆い隠せてしまえそうで――

 その行為があまりにも特殊なせいか、
 ツキが同性だとわかっているのに、
 少しだけ緊張した。

「……跡、残ってないですか?」
「残ってないよ」
「変な形になっちゃってないですか?」
「なってないよ」
「可愛いですか?」
「……」
「くすっ……顔赤いですよ♡」
「……」
「あ゙ぁ~っ!! やだやだ! 鼻伸びちゃいます! つままないでください~っ!!」

 拘束しているというのに、なぜかツキのペースに乗せられてしまっている気がする。

 しかし、ツキの弱点を知ることができたという意味では大きな進歩だ。
 ツキの鼻をつまむことなんて、それこそ赤子の手を捻るように容易い。
 いざという時の主導権を握る方法を得ることができたのは実に心強い。

「撫でてっ……アキラさん! 赤みが残らないようにさすさすしてください!」
「擦ったら逆に赤みは残るんじゃないか?」
「いいから! 撫でてくださいよー……!」
「まったく……」
「……すん、すん……はーっ……♡ アキラさんの手の匂い……♡」
「……」
「あ゙あ゙ぁ~っ!!」
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