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親睦偏

お泊りされますか?

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 ということで、半ば強引に休日の予定が埋められてしまった。

 休日くらいゆっくりしたいというのは本音だが、
 何も予定が入っていなかったのも事実だ。

 2日ある休日の1日くらい、誰かと遊ぶというのも悪くはないだろう。
 ツキが相手なら退屈はしないだろうし、
 外なら拘束されることも不法侵入されることもない。

 ない……はずだと思いたい……。

「はい決定、けってー♡ やったー♡ 明日は何しようかなー……アキラさんは何がしたいですか?」
「いや、特になにも……」

 翠は学生時代からインドア寄りの人間だった。
 趣味は専ら家ですることばかりだ。

 好き好んで外に服を買いに行ったりしない。
 最近は映画だって少し待てばネットで配信される。
 流行りの歌も知らない状態ではカラオケにも行けない。

 ツキのような子と外で遊ぶとなった時、いったい何をすればいいと言うのだろうか。

「ふーん……それは、可愛いツキちゃんとならなんだって楽しい、っていう風に受け取っておきますね♡」
「さいですか……」

 他の要素はさておき、ツキのポジティブさは本当に尊敬に値すると思っている。

 その明るさは接しているこちらまで照らすほどだし。
 その軽さは気軽にコミュニケーションが取りやすい。

 ツキの純情な演技に惹かれたのは間違いないけれど。
 仮にあれがツキの素だったとしたら、翠はここまで気楽にツキと話すことはできなかっただろう。
 少なくとも、数か月の時間は要していたに違いない。

「それじゃあ予定も決まったことだし、ご飯にしましょうか。私、作っておいたんですよ♡」
「えっ? そんなことしてたの?」
「何ですか、その顔。食べたくないんですか?」
「いや、むしろその逆なんだけど……ほんとに作ったのか?」

 社会人始めたての頃は、自炊を頑張っている時期もあった。
 しかし今となっては食事と言えば近所のスーパーで値引きされた総菜や出来あい弁当ばかりだ。

 ツキの料理の腕が壊滅的でない限り、手料理が食べられるというのは素直に喜ばしい。

「あっ、それともー……アキラさんは先にお風呂がいいですか♡」
「いや、さすがにツキを放って風呂に入るのは無理……」
「やだなー……心配しなくても、ちゃんといっしょに入りますよ♡」
「いや、むしろそっちの方が心配……っていうか、風呂入っていく気!?」
「こんな可愛い子がお風呂に入らないで寝るわけないじゃないですか!」
「寝るって、泊まるつもりか?」
「当たり前じゃないですか。泊まらないなら、こんな格好してないですよ……♡」

 そう言って、ツキは大きく露出した肩と太ももを手で撫でて強調した。

 生地が薄くて、
 露出度も高くて、
 この季節には暖房も必須なその部屋着は、確かに泊まる気満々な格好だ。

「いや……まじ……?」

 突然言い渡されたツキとの同泊。
 それは明日のデートなんかよりもよっぽど重大な問題だ。

 確かに一度同じベッドで夜を明かして何もなかったようだが、今回もそうなるとは限らない。

 ツキには、切っ掛けさえあれば何でもしでかしそうな危うさがある。

「……くすっ♡ 冗談ですよ、アキラさん。今日はお泊りはする気ありません」
「……そうなの?」
「はい、まだアキラさんにすっぴんを見せる勇気もありませんから」
「すっぴん……? でも――」
「見せたことないですよ? いっしょのベッドで目覚めた朝も……シャワーを浴びた夜も……私はお化粧をしたままでしたから」

 化粧には詳しくないが、ナチュラルメイクとウォータープルーフという言葉くらいは知っている。
 ツキがそう言うのなら、本当にすっぴんを翠に見せたことはないのだろう。

「……落ちていただくまでは、私の本当の顔は秘密なんです……えへへっ……」

 そう言って笑ったツキの顔はどことなくぎこちなくて――
 それは一度も見たことのないもので――

 ――初めて、ツキの素顔を目撃したような気がした。
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