上司に連れられていったオカマバー。唯一の可愛い子がよりにもよって性欲が強い

papporopueeee

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親睦偏

呪われました

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「いいですか、アキラさん。世間ではお化けなんて存在しない、なぜなら科学的に証明できないからだ、なんて言っている人たちがいますがそれは違います。お化けが存在する証明ができないのなら、お化けが存在しない証明もできないということなんです。いえ、むしろ逆ですよ。存在しない証明ができないから、存在している証明ができないんです。むしろ証明を迫られているのは存在しない派閥の人たちなんです。だから、お化けが存在しない証明ができるまでは、人間は当たり前のようにお化けを恐れるべきなんですよ。ちょっと、アキラさん話聞いてますか?」

 聞いているか聞いていないかで言えば、聞いてはいる。
 ツキの声は聴こえてるし、その言葉の意味もわかっている。

 ただ、聞き流しているだけだ。

 映画館から移動して徐々に元気を取り戻し始めたツキは、
 自身がホラー映画でギブアップしたことの正当性を並べ立て始めた。

 もうそんなことを気にしているのはツキだけなので、翠相手にそんなことをする意味もないのだけれど。
 ツキなりに理論武装でもしているのだろうか。

「アキラさん、アキラさんってば!」
「どうした?」
「だから、さっきから私の話聞いてるんですか? 可愛い子の話をちゃんと聞くのは童貞さんの義務なんですよ?」

 そんな義務は初めて聞いた。
 モテないやつはせめて話を聞くくらいはしないと、いつまで経っても童貞は卒業できないということなのだろうか。

 それはそれとして、お洒落な喫茶店にいるのだから童貞とか口にするのは止めてほしい。

「えーっと……それで、なんだっけ?」
「だから~……アキラさんも映画怖かったですよね?」
「……いや、別に」
「嘘ですよ! アキラさん震えてましたもん! もうイク寸前かってくらいビクビクしてましたから!」

 なんてあからさまな嘘だろうか。
 スクリーンもまともに見れていなかったくせに、こちらの様子まで把握できていたはずもないだろうに。

 というか、下ネタ言うの止めてほしい。
 本当に。

「いや、まだビビるようなシーンまでいってなかったし……。それに、さっきも言ったけどあれはあくまで作り物なんだから――」
「作り物だからなんだって言うんですか? アキラさん呪いのビデオをご存知ないんですか!?」
「いや、あれもフィクションだろ……。それに、そんな見た人間を不幸にするような代物を映画館で大々的に上映してたら大事だよ。お化けも残業地獄で倒れるわ」
「私にだけ呪いがかかるかもしれないじゃないですか!」
「なんでだよ……そんなピンポイントに呪われる覚えがあるのかよ……」
「むーっ! ……アキラさん、その腕時計貸してください」
「……なんで?」
「いいから!」

 ツキの勢いに押されて、言われるがままに腕時計を渡す。

「……これ、初めて会った日も着けてましたよね。仕事の時も着けてるんですか?」
「社会人だからな。ただ、就業中は外してるけど」

 キーボードを主武装とする業種に就いているため、手首に何かを巻いていると邪魔になるのである。
 したがって平日に限っては出勤時と退勤時にしか着けていない、文字通りお飾りな腕時計である。

「ふーん……。それじゃあ、アキラさんだけがこの腕時計を外せなくなる呪いをかけてあげますね」
「おい、壊すなよ?」
「むしろ逆ですよ。能力をエンチャントして差し上げます」
「は?」

 ツキは腕時計を両手で握り込んで、祈るようなポーズを取ると――

「――どうか、アキラさんのお仕事が上手くいきますように――
 ――どうか、アキラさんを悪いことから守ってくれますように――
 ――どうか、アキラさんに幸運が訪れますように――」
「っ――」
「…………はい、どうですかアキラさん? これで、アキラさんは腕時計を外せなくなりましたね?」
「……いや、外すけど」
「アキラさんの人でなし! 鬼! 悪魔! 童貞さん!」
「なんでそこだけ敬称付きなんだよ……」

 ツキから返された腕時計を左手に着け直す。

「……」

 何も変わっていないはずなのに。
 さっきまでは着けていることすら少しも意識していなかったのに。

 どうしてだろうか。
 今はなんだか少しだけ温かく、そして重みを感じるような気がした。
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