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親睦偏
好きなのは童貞でした
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ツキの腕が絡んできて引っ張られる。
力ではツキは翠に敵わないはずなのに、翠の体は容易に椅子から離れようとしている。
何故なら、これは喜ばしいことだから。
ツキは人気者だ。
多くの人から求められ、愛されている人間だ。
そんなツキが、翠のことを特別だと言ってくれている。
翠のことが好きで、翠を求めてくれている。
どんな形であれ、人に好意を向けられるのは気持ちの良いことだ。
それがツキのような人間からであれば猶更で、嬉しくないわけがない。
ツキは時間をかけて、
収入も犠牲にして、
気持ちと感情を一心に翠に費やしている。
だから、翠も少しはツキに報いるべきで――
――ツキが望むのなら、いっしょにホテルに行くべきで――
「…………」
「アキラさん……?」
でも、と脳が叫んでいる。
立つな、と体に必死に命令している。
忘れてはいけないことがあるから。
無視してはならないことがあるから。
ツキは選ぶことができる側の人間だ。
恋人が欲しいなら、元からツキを好いてくれている中から選べばいいだけの話だ。
そんなツキがどうして翠を選んだのか。
川崎翠はこれといって特徴の無い人間だ。
目立ったルックスでもないし、モテたこともない、凡庸な人間だ。
それなのに、どうしてツキは翠に惹かれているのか。
ツキが翠に恋した切っ掛けはなんだったか。
『私、好きなんです……アキラさんみたいな人を落とすの……♡ 童貞で、男の子に興味なくて、むしろ同性との性行為なんて嫌悪してるような人……。そんな人の初めてを奪って、一生女の人じゃ満足できなくさせるのが……大好きなんですよ……♡』
忘れてはいけなかった。
本当はずっと前から気付いていたけれど、
考えないようにしていただけなのかもしれない。
ツキが語っていた自身の性癖。
童貞を好むというツキの趣味嗜好。
この発言は――
ツキの言葉は――
――童貞を落としてきた人間の言葉だ。
おそらくは、ツキが落としてきた数は少なくなくて。
多分、翠に出会うずっと前から続けられていることで。
ツキは今までに何人の童貞を食べてきて――
――翠は一体何人目なのだろうか。
「……ツキ」
「なんですか?」
翠は童貞だ。
だから、ツキは翠に惹かれた。
では、翠が童貞ではなかったらツキは惹かれなかったということではないのか。
それじゃあ、ここでツキについていってホテルに行ったら?
あの日、ツキのことを抱いていたら?
翠とツキの関係は、とっくのとうに終わっていたんじゃないかって――
「俺の童貞を奪った後は、また別の童貞を探しに行くのか?」
「…………♡」
意味深に微笑むツキ。
それは恋する少女の顔ではなく――
発情した小悪魔の顔でもなく――
――童貞を貪ってきた悪女の顔だった。
力ではツキは翠に敵わないはずなのに、翠の体は容易に椅子から離れようとしている。
何故なら、これは喜ばしいことだから。
ツキは人気者だ。
多くの人から求められ、愛されている人間だ。
そんなツキが、翠のことを特別だと言ってくれている。
翠のことが好きで、翠を求めてくれている。
どんな形であれ、人に好意を向けられるのは気持ちの良いことだ。
それがツキのような人間からであれば猶更で、嬉しくないわけがない。
ツキは時間をかけて、
収入も犠牲にして、
気持ちと感情を一心に翠に費やしている。
だから、翠も少しはツキに報いるべきで――
――ツキが望むのなら、いっしょにホテルに行くべきで――
「…………」
「アキラさん……?」
でも、と脳が叫んでいる。
立つな、と体に必死に命令している。
忘れてはいけないことがあるから。
無視してはならないことがあるから。
ツキは選ぶことができる側の人間だ。
恋人が欲しいなら、元からツキを好いてくれている中から選べばいいだけの話だ。
そんなツキがどうして翠を選んだのか。
川崎翠はこれといって特徴の無い人間だ。
目立ったルックスでもないし、モテたこともない、凡庸な人間だ。
それなのに、どうしてツキは翠に惹かれているのか。
ツキが翠に恋した切っ掛けはなんだったか。
『私、好きなんです……アキラさんみたいな人を落とすの……♡ 童貞で、男の子に興味なくて、むしろ同性との性行為なんて嫌悪してるような人……。そんな人の初めてを奪って、一生女の人じゃ満足できなくさせるのが……大好きなんですよ……♡』
忘れてはいけなかった。
本当はずっと前から気付いていたけれど、
考えないようにしていただけなのかもしれない。
ツキが語っていた自身の性癖。
童貞を好むというツキの趣味嗜好。
この発言は――
ツキの言葉は――
――童貞を落としてきた人間の言葉だ。
おそらくは、ツキが落としてきた数は少なくなくて。
多分、翠に出会うずっと前から続けられていることで。
ツキは今までに何人の童貞を食べてきて――
――翠は一体何人目なのだろうか。
「……ツキ」
「なんですか?」
翠は童貞だ。
だから、ツキは翠に惹かれた。
では、翠が童貞ではなかったらツキは惹かれなかったということではないのか。
それじゃあ、ここでツキについていってホテルに行ったら?
あの日、ツキのことを抱いていたら?
翠とツキの関係は、とっくのとうに終わっていたんじゃないかって――
「俺の童貞を奪った後は、また別の童貞を探しに行くのか?」
「…………♡」
意味深に微笑むツキ。
それは恋する少女の顔ではなく――
発情した小悪魔の顔でもなく――
――童貞を貪ってきた悪女の顔だった。
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