死の間際、あなたは親友ですか?

papporopueeee

文字の大きさ
82 / 84
最終日:朝焼けの中、涙を拭って微笑んで

あなたは――

しおりを挟む
「ボクに会えなくなるのが嫌って……それが死にたくないってことなんじゃないのか? それなのに何で死にたいってことになるんだよ!」
「逆だよ、タク……。あぁ、そうだ……逆なんだよな……」
「逆……?」

 もう少女は笑えていない。
 涙を堪えられていない。

 どうしてだろうか。
 ボクはその様子を見て、こう形容するのが相応しいと感じてしまった。
 もう、保つことが難しいのだと。

「……タク、俺たちは親友か?」
「当たり前だろ。そんなの」
「そうだよなあ。俺たちは親友だ。高伊勢抄と伊那西拓は親友で。同時に俺とお前も親友だ……。うん、そうだよ……間違いない。間違いない筈なんだよな……」

 ボクは迷いなく親友だと答えた。

 それが正しい答えで、それが真実なのだと思っているから。

 でも、もしかしたら、それはボクだけだったのかもしれない。
 頭を抱える少女を見て、ボクはそう感じずにはいられなかった。

「ショウ……?」

 少女が頭を横に振った。

 ボクの声を嫌悪しているわけではない。
 ボクのことを拒絶しているわけではない。
 その否定は、自身にかけられた呼び名に対して……。

「……タクと抄は親友だ」

 そんなこと言うまでもない。

「そして抄が死んだ今、その事実は決して変わらない。絶対に覆らない」

 それは生きていたってそうだ。

「俺は抄として生きているけど、本物じゃないから。偽物だから、その事実を変えることはできない……変えていけない。そんなことは、俺が許さない。許せないんだよ……」

 抄が死んだ今、ボクと抄の関係は良くも悪くもならない。

 抄とボクの全てはあの日に過去形になって止まってしまった。
 人が過去に干渉できない以上、ボクと抄の関係が進展することはありえない。

 しかしもしも過去への干渉を許された存在が居るとしたら。
 超常の力を持った化け物か、その化け物によって生み出された人間であれば……。

「……っ、だから、俺とタクは親友でないとならないんだ。偽物の俺は、偽物だからこそ俺は、親友としてタクの傍に居続けなくちゃいけないんだ。それが、俺が抄にしてやれる唯一の手向けなんだよ」
「そんなこと、わざわざ気にする必要もないだろ。意識しなくたって、ボクたちは親友だ。偽物かもしれないけど、親友だよお前は。何があっても、何もなくてもな」
「……その言葉を、素直に喜べない俺がいたとしても?」

 これからも、良い友達でいようね。

 それがどんな状況で吐かれる言葉なのか。
 これを喜べない人間が抱いている感情とは何なのか。

 そんなこと、ボクにだってわかる。

「……体のせいなのかもしれない。だって、男の時はこんなことはありえなかった。こんな思いも、悩みも……欠片も抱いたことなかった……ほんとだぜ?」

 それはボクに向けての念押しなのか。
 自身に向けての確認なのか。

「最初は、タクのことを親友だと思ってたよ。この体になっても、性別が男と女に変わっても、タクは親友だった。……今でもそうだぜ? タクは俺の友人で、友達で、親友だ…………なのに、それなのに……!」

 その顔は抄のものではなかった。
 ましてや少女のものでもない。

 抄ではなく、純粋な少女でもない。
 紛い物である彼女の顔。

 高伊勢抄のフリをしてきた誰かが。
 高伊勢抄としてしか振る舞えない何者かが。
 その苦しみを吐露していた。

「俺は高伊勢抄だ。体は変わっても抄なんだ! タクの親友なんだ! それなのに……それなのに……っ、処女をお前に捧げちまった……!」

 後悔を語る姿は痛々しく。
 涙を流す姿は弱々しく。
 それは見ている方が耐えられなくなるような様相だった。

「ありえねえ……ありえちゃいけないんだよ、そんなことは! 抄がそのトラウマを克服できるわけないんだ!」
「でも、それはボクを助ける為だろ? 抄だって、友達の命を救う為だったらトラウマに打ち克つことも――」
「……打ち克つことなら、できたかもな。でも違うんだ、タク……俺は、そうじゃなかったんだよ……」
「っ!?」

 突然、彼女がボクの胸に向かって飛び込んできた。

「……心臓が早いな、タク」
「そりゃ、こんなことされたらそうなるだろ」
「そうだよな……。こういう風に、何度もタクのことからかってたよな、俺」

 顔を埋めているため、その表情はわからない。
 背中に手を回されているため、離れることもできない。

「色気を見せつけてからかうと、タクが動揺するだろ? それが面白くてさ。男の時にはできなかったことだから……だから、最初は好奇心とか、ただの興味本位。それだけだった……それが、いつからだろうなあ?」

 ボクの背に回された手が、シャツをギュッと握りしめた。

「タクが動揺するってことは、俺に女を感じてるってことだ。タクが俺に性的魅力を感じてるから、だから動揺してるんだ。それに気づいて、楽しさじゃなくて喜びを見出して……そして――」
「ボクがそれだけ滑稽だったってだけだろ。お前は、ボクを通して自分の魅力を確認して、承認欲求を満たしてたってだけだよ」
「……それじゃあ、今は? 今のこの状況はなんて説明を付ける? 女が、男を抱きしめてるんだぜ?」
「……別に、男同士だってハグくらいはするだろ。何も特別なことじゃない」
「そうだな。確かに、日常的にハグする男たちもいる……。それじゃあ、タクと抄は? 抄はタクに対して、こんなハグをするのか?」
「……」
「……教えてやるよ、タク。女がこういう風に男を抱きしめてたらな……大抵は、抱いてくれってことなんだよ……。わかるか? 俺は今、お前に抱いてくれって言ってるんだぜ……?」

 彼女は泣いていた。
 声を震わせて。
 ボクの胸の中で。
 泣きながら、それでも決してボクから離れようとはしなかった。

「俺は、結局はそれを求めてたんだ……! ずっとそれを欲してたんだ! 俺は処女へのトラウマを乗り越えたんじゃない! ただ……っ、喜びと期待が勝っただけだったんだよ、タク……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...