2 / 67
聖剣使いの王子様
どっちにせよ、そんな大きな剣で殴られたら死んじゃわない?
しおりを挟む
城の1階にある兵士たちの修練場。多くの兵士が集って剣を振るうことのできる広い空間と、剣の打ち込みができる木人が並ぶ、兵たちが日々己を鍛える場所。チェルが聖剣の加護を得てからは、熱気が薄れてしまった場所でもある。
「カイナ様、チェル様! おはようございます!」
チェルを修練場に連れ込んだ途端に、カイナは髪を金髪に染めた若い兵士に声をかけられた。
「ラノイか。おはよう」
カイナに掴まれていない方の手をヒラヒラと振って、チェルもラノイへと挨拶を返した。
「修練場を使わせてもらってもいいか? いつもの模擬戦をしたいんだが」
「はい、それはもちろん問題ありませんが……チェル様、お怪我でもなされたのですか?」
「なんだって?」
ラノイの言葉に振り返って見ると、チェルの衣服に赤い染みが出来ていた。大方、食べ終わったトマトの汁を服で拭ったのだろう。きょとんとしているチェルの様子からも、特に痛みを感じているようには見えなかった。
本来ならば王族であるチェルにはそれなりのマナーが求められ、衣服で手を拭うなどあってはならない。しかし本人にマナーを修める気が無く、私刑による殺人を繰り返すチェルに対してマナーの注意ができる人間など皆無だ。
カイナであれば注意することはできるが、当のチェルがカイナを舐め切っているために効果が無い。明日からもチェルの衣服はハンカチ代わりに使われてしまうのだろう。
「……気にしないでくれ。訓練用のクレイモアを持ってきてもらえるか?」
「承知しました。チェル様、頑張ってくださいね!」
ラノイはチェルに激励の言葉をかけると走り去って行った。カイナの目の前で堂々と弟であるチェルに肩入れしていたが、ラノイに悪気はない。ラノイは普段からあの調子であり、同じようにチェルを慕う兵士も少なくない。聖剣による圧倒的な強さと、チェルの感情の薄い振舞いが若い兵士からの人気を集めているらしい。
「……頑張るって、何を?」
一方のチェルにはラノイの熱意は伝わっていなかったようだ。チェルからすればこの模擬戦もただのイジメであり、頑張るようなことでもないのだろう。
カイナがラノイから模擬戦用の大剣を受け取る頃には、周囲に話を聞きつけた兵士が集まってきていた。兄弟での模擬戦は何度も行っているが、それでも見飽きるものではないのだろう。それほどにチェルの操る聖剣は華麗であり、そして容赦が無い。
兵士たちの中にはカイナの剣捌きに期待している者もいるが、数でいえば聖剣に期待している者が大多数だ。
「前から気になってたんだけど、その訓練用の剣って何が違うの?」
「刃を潰してある。このブレードの上で指を滑らせても、決して斬れることはない。訓練で腕を切り落とすわけにもいかないだろう」
「……どっちにせよ、そんな大きな剣で殴られたら死んじゃわない?」
「無防備な状態の人間を思い切り殴れば死ぬだろうな。訓練中は気を張って防御するから、死ぬようなことはない。仮に体勢を崩して隙を晒したとしても、振るう側が手を抜く。殺し合いではなく、あくまで訓練だからな」
「ふーん……」
チェルが納得できたのかどうかは、その気だるげな無表情からは窺いしれなかった。
「チェルは準備はいいか?」
「なんか準備しないといけないことがあるの?」
無いのだろう。常日頃から聖剣を侍らせているチェルはいつだって臨戦態勢だ。次の瞬間にだって、目の前の人間をその聖剣で刺し貫くことができる。
カイナは棒立ちのチェルから10メートルほどの距離を取って大剣を構えた。周囲の兵士たちも静まり返り、模擬戦の始まりを待っている。
そんな静寂の中で、チェルはいつもの調子でカイナに話しかけた。離れているカイナが聞き取りやすいようにという配慮が微塵も感じられない、全く張りの無い話し声であった。
「いつものことだけど、どうしてそんなに離れるの? どうせ始まったらカイナ兄は僕に近づいてくるんでしょ? 二度手間じゃない?」
「至近距離から始まったら訓練にならないだろう。すぐに終わってしまう」
一瞬で負けるのがどちらかというのは、言うまでもないだろう。
「? ……すぐに終わるかどうかは、僕の匙加減でしょ」
チェルの左腕付近に浮いていた1本の聖剣が矢のような速度で射出され、カイナはそれをクレイモアで防ぎ、それが開始の合図となった。
「カイナ様、チェル様! おはようございます!」
チェルを修練場に連れ込んだ途端に、カイナは髪を金髪に染めた若い兵士に声をかけられた。
「ラノイか。おはよう」
カイナに掴まれていない方の手をヒラヒラと振って、チェルもラノイへと挨拶を返した。
「修練場を使わせてもらってもいいか? いつもの模擬戦をしたいんだが」
「はい、それはもちろん問題ありませんが……チェル様、お怪我でもなされたのですか?」
「なんだって?」
ラノイの言葉に振り返って見ると、チェルの衣服に赤い染みが出来ていた。大方、食べ終わったトマトの汁を服で拭ったのだろう。きょとんとしているチェルの様子からも、特に痛みを感じているようには見えなかった。
本来ならば王族であるチェルにはそれなりのマナーが求められ、衣服で手を拭うなどあってはならない。しかし本人にマナーを修める気が無く、私刑による殺人を繰り返すチェルに対してマナーの注意ができる人間など皆無だ。
カイナであれば注意することはできるが、当のチェルがカイナを舐め切っているために効果が無い。明日からもチェルの衣服はハンカチ代わりに使われてしまうのだろう。
「……気にしないでくれ。訓練用のクレイモアを持ってきてもらえるか?」
「承知しました。チェル様、頑張ってくださいね!」
ラノイはチェルに激励の言葉をかけると走り去って行った。カイナの目の前で堂々と弟であるチェルに肩入れしていたが、ラノイに悪気はない。ラノイは普段からあの調子であり、同じようにチェルを慕う兵士も少なくない。聖剣による圧倒的な強さと、チェルの感情の薄い振舞いが若い兵士からの人気を集めているらしい。
「……頑張るって、何を?」
一方のチェルにはラノイの熱意は伝わっていなかったようだ。チェルからすればこの模擬戦もただのイジメであり、頑張るようなことでもないのだろう。
カイナがラノイから模擬戦用の大剣を受け取る頃には、周囲に話を聞きつけた兵士が集まってきていた。兄弟での模擬戦は何度も行っているが、それでも見飽きるものではないのだろう。それほどにチェルの操る聖剣は華麗であり、そして容赦が無い。
兵士たちの中にはカイナの剣捌きに期待している者もいるが、数でいえば聖剣に期待している者が大多数だ。
「前から気になってたんだけど、その訓練用の剣って何が違うの?」
「刃を潰してある。このブレードの上で指を滑らせても、決して斬れることはない。訓練で腕を切り落とすわけにもいかないだろう」
「……どっちにせよ、そんな大きな剣で殴られたら死んじゃわない?」
「無防備な状態の人間を思い切り殴れば死ぬだろうな。訓練中は気を張って防御するから、死ぬようなことはない。仮に体勢を崩して隙を晒したとしても、振るう側が手を抜く。殺し合いではなく、あくまで訓練だからな」
「ふーん……」
チェルが納得できたのかどうかは、その気だるげな無表情からは窺いしれなかった。
「チェルは準備はいいか?」
「なんか準備しないといけないことがあるの?」
無いのだろう。常日頃から聖剣を侍らせているチェルはいつだって臨戦態勢だ。次の瞬間にだって、目の前の人間をその聖剣で刺し貫くことができる。
カイナは棒立ちのチェルから10メートルほどの距離を取って大剣を構えた。周囲の兵士たちも静まり返り、模擬戦の始まりを待っている。
そんな静寂の中で、チェルはいつもの調子でカイナに話しかけた。離れているカイナが聞き取りやすいようにという配慮が微塵も感じられない、全く張りの無い話し声であった。
「いつものことだけど、どうしてそんなに離れるの? どうせ始まったらカイナ兄は僕に近づいてくるんでしょ? 二度手間じゃない?」
「至近距離から始まったら訓練にならないだろう。すぐに終わってしまう」
一瞬で負けるのがどちらかというのは、言うまでもないだろう。
「? ……すぐに終わるかどうかは、僕の匙加減でしょ」
チェルの左腕付近に浮いていた1本の聖剣が矢のような速度で射出され、カイナはそれをクレイモアで防ぎ、それが開始の合図となった。
0
あなたにおすすめの小説
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる