お兄ちゃんと最強から最弱に成り下がった弟

papporopueeee

文字の大きさ
9 / 67
聖剣に仇なす者たち

人のこと乱暴に扱っておいて……その言い草は酷いよ

しおりを挟む
「ひぃ~っ……ひぃ~っ……」

 煌びやかな金髪の先端を地面に擦りながら、老人のような姿勢で歩みを進めるチェル。足を満足に持ち上げることもできておらず、ほとんどすり足に近い歩き方だった。

「はぁーっ……はぁーっ……ね、ねえ……もう、いいでしょ? カイナ兄、おんぶして?」

 街外れの小高い丘の上にある墓地まで続く坂道。街とは違って舗装も行き届いていない歩きにくい道はチェルには余程辛いのだろう。墓地まであと半分程度まで来たところで、ついにチェルは弱音を吐き始めた。

「あともう少しだ。ここまで来たら最後まで自分の足で歩いたらどうだ?」

「な、なんで……もう帰るぅ~……」

「ここまで来たら進んだ方が楽だろう。上まで辿り着けば、ベンチで休めるぞ」

「ベンチじゃなくていいもん……休もうと思えば、どこだって休めるし……」

 そう言うとチェルは地べたに尻もちをついてしまった。白くひらひらとした衣服を土で汚し、だらしなく足を広げて座り込んでしまう。駄々をこねる振舞いは、チェルの精神年齢の幼さを如実に表していた。

 聖剣による戦果で褒められ甘やかされ、聖剣による恐怖で我儘放題をしてきた結果なのだろう。軽い登山すらもできないような体たらくでも、チェルは問題なくこの年まで生きてこれてしまった。おそらく、この先もチェルは変わらないのだろう。

「まったく……ほら、こっちに来い」

 カイナは背負っていたクレイモアを手に持つと、しゃがみこんでチェルに背を向けた。

「え~? カイナ兄がこっちに来てよ……お墓参りに無理矢理連れ出したのはそっちでしょ?」

「ダメだ。誘ったのは俺だが、チェルも快諾しただろう。その責任を取って、頑張ってここまでは来て見せろ」

「快諾なんてしてない……うぅ~……」

 しばらく唸っていたものの、観念したチェルは四つん這いになり、膝と手を土で汚しながらもカイナの元へと近寄った。そして弱々しい手つきでカイナの背中をよじ登ると、細い腕を首にしっかりと回した。

「ふぅーっ……ふぅーっ……もう、動けない……死んじゃう……」

 チェルを背負い歩き出すカイナ。その背の上で揺られながら、チェルは深呼吸を繰り返している。カイナの背に伝わる鼓動も、まるで小動物のように小さく速かった。

「冗談になっていないな。このままでは死にかねない。少しは運動して、食生活も改善したらどうだ。偶には肉を食え」

「やだ……お肉とか硬いし。それに、運動なんてしなくてもカイナ兄よりも強いし……必要無いよ」

「贅沢なことだ」

 質の良い肉など、食べたくとも食べられない者が多い。伸びしろしかない虚弱な肉体を伸ばす意思も無い。それでもチェルは日々を何不自由なく過ごせてしまっている。ただ一つ、聖剣の加護だけを頼りにして。

「だって、僕王子様だよ? カイナ兄こそ、何をそんなに頑張ってるの? 僕が居れば、敵なんて居ないでしょ?」

「慢心はよせ。現に、今のチェルは死にかけているだろう」

「カイナ兄のせいじゃん。人のこと乱暴に扱っておいて……その言い草は酷いよ」

「その誤解を招くような言い方はやめろ。チェルに対して暴力など、振るいたくても振るえないだろう」

「……暴力、振るいたいの?」

「身体を鍛えてくれるのなら、涙を呑んで振るうだろうな。チェルが生きていくためだ」

「だから、これくらいじゃ死なないって。疲れてるだけで聖剣は動くし。今この状態でも、僕のことを殺せる人なんて居ないよ?」

 チェルを背負うカイナの周囲に浮かぶ8本の聖剣。今この瞬間も鉄壁は有効であり、チェルを背負っているカイナまでついでに守られている状況だ。

「あっ……でも、今のカイナ兄なら僕のこと殺せる?」

「……」

「え……どうして黙るの? カイナ兄、僕のこと殺す気なの?」

「そんなわけないだろう……。冗談でも、あまりそういうことは言うな」

「ありえないんだったら、別に冗談で言ってもいいんじゃないの? だって、ありえないんでしょ?」

「それでもだ。家族とは、そういうものだ……」

「ふーん……よくわかんないね?」

 それ以降、チェルとカイナはお互いに口を閉じた。疲労のためか、チェルはカイナの背中に何度も頭をぶつけながらも船を漕いでいて。カイナはチェルとの他愛の無い会話のやり方を忘れてしまっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...