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聖剣に仇なす者たち
ほぁっ!?
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「……着いたぞ」
「ふぁ……早いね?」
欠伸を噛み殺し、腕を大きく上に伸ばすチェル。
整然と墓石が並ぶ墓地の中でも、一際大きな墓石の前。二人の母であるスーチェ・ユーリィの名が刻まれた墓石の前で、カイナはしゃがみこんでチェルに降りるように促した。
しかし、チェルは首に回した腕を解くことはなく背中にひっついたままだった。
「どうした?」
「もう立つのもやだ……このまま城に帰るまでおぶって」
「母さんの前だぞ。少しは成長したところを見せたらどうだ?」
「死んだ人にどう思われるかなんてどうでもいい……それよりも目先の休憩の方が大事」
不服ではあったが、死者に対するスタンスとしてはチェルとカイナは同意見であった。優先すべきは死者よりも生者であり、死者の為に生者が苦しむなんてことはあってはならない。
しかしカイナはチェルほどドライというわけではない。死者に思いを馳せることも、死者への弔いも、それは生者にとって重要な意味を持つ。墓参りも、生者が死者への想いを整理するためには必要なのだ。
「それに、自分の足で立ったくらいで上がる評価なんて、無いのと一緒だよ」
「それは……その通りかもしれないな」
「でしょ?」
顔を見なくとも、チェルがしたり顔をしているであろうことが伝わってきた。誇れるようなことでも無いのだが、兄を言い負かしたことが嬉しいのだろう。
「それじゃあ、少しだけ待っていてくれ。俺はしばらく母様に祈る」
「んー……」
興味も無さそうに生返事を返すチェルの声は眠そうだった。起きたばかりだというのに、またカイナの背で一眠りする腹積もりなのだろう。
右手で背のチェルを支え、左手でクレイモアを握ったまま、カイナは目を瞑って頭を下げた。そして記憶に残る母親、スーチェ・ユーリィの姿を思い浮かべた。
チェルをそのまま大きくしたかのような容貌だった。長く煌びやかな金髪と、いつも微笑んでいた表情。チェルのマイペースな性格も、スーチェのおっとりとした性分を起因としているのだろう。
誰にでも優しかったスーチェは、自爆テロに巻き込まれて死んでしまった。まだ、チェルが聖剣の加護を得るよりも前のことだ。
当時のイクスガルドはただの小国に過ぎず、猪の魔獣の脅威に怯え続ける状況だった。強国に救援を頼もうとも、見返りとして属国化を求められる。自国で何とかしたくとも、兵力に国力を割けば民を圧迫し反発を生む。
そんな状況に追い詰められた国民の一人がテロを起こした。体調不良を装い、近づいてきたスーチェを巻き込んで自爆した。テロリストの目には、王族が民を苦しめる元凶に映っていたのだろう。
「すー……すー……」
チェルの本格的な寝息がカイナの耳をくすぐる。首に回された腕もだらんと脱力しており、チェルがずり落ちないようにカイナは背を曲げた。
テロを受けて、カイナとフートラは失う物が無い者を生み出してはならないと学んだ。捨て鉢になった人間は容易く周囲の人間を巻き込んで命を散らす。そのような人間を救えるような国を目指し、その意思を国民に知らしめることが重要なのだと考えた。
一方で、チェルは真逆だった。当時のチェルはまだ物心もあやふやな時期であり、母が亡くなったことを悲しめるだけの情緒も育っていなかった。それでも、周囲の人間の様子から悟ったのだろう。自分の母親は悪意によって殺され、それによって周囲の人間が悲しんでいると。
聖剣の力を手に入れたチェルは自らの手を汚して悪を罰するようになった。私刑はチェルなりに民を慮ってのことであり、スーチェの死の影響を受けていることは間違いない。だからこそフートラもチェルを強く咎めることができないのであろう。
スーチェが生きていれば何と言っただろうか。そもそも、スーチェが生きていればチェルが民を勝手に殺すようなことも無かったのかもしれないけれども。
亡き母への想いと、背中で寝息を立てているチェルへの想いを馳せるカイナ。その耳元で突然金属音が鳴り響いた。
「ほぁっ!?」
「ふぁ……早いね?」
欠伸を噛み殺し、腕を大きく上に伸ばすチェル。
整然と墓石が並ぶ墓地の中でも、一際大きな墓石の前。二人の母であるスーチェ・ユーリィの名が刻まれた墓石の前で、カイナはしゃがみこんでチェルに降りるように促した。
しかし、チェルは首に回した腕を解くことはなく背中にひっついたままだった。
「どうした?」
「もう立つのもやだ……このまま城に帰るまでおぶって」
「母さんの前だぞ。少しは成長したところを見せたらどうだ?」
「死んだ人にどう思われるかなんてどうでもいい……それよりも目先の休憩の方が大事」
不服ではあったが、死者に対するスタンスとしてはチェルとカイナは同意見であった。優先すべきは死者よりも生者であり、死者の為に生者が苦しむなんてことはあってはならない。
しかしカイナはチェルほどドライというわけではない。死者に思いを馳せることも、死者への弔いも、それは生者にとって重要な意味を持つ。墓参りも、生者が死者への想いを整理するためには必要なのだ。
「それに、自分の足で立ったくらいで上がる評価なんて、無いのと一緒だよ」
「それは……その通りかもしれないな」
「でしょ?」
顔を見なくとも、チェルがしたり顔をしているであろうことが伝わってきた。誇れるようなことでも無いのだが、兄を言い負かしたことが嬉しいのだろう。
「それじゃあ、少しだけ待っていてくれ。俺はしばらく母様に祈る」
「んー……」
興味も無さそうに生返事を返すチェルの声は眠そうだった。起きたばかりだというのに、またカイナの背で一眠りする腹積もりなのだろう。
右手で背のチェルを支え、左手でクレイモアを握ったまま、カイナは目を瞑って頭を下げた。そして記憶に残る母親、スーチェ・ユーリィの姿を思い浮かべた。
チェルをそのまま大きくしたかのような容貌だった。長く煌びやかな金髪と、いつも微笑んでいた表情。チェルのマイペースな性格も、スーチェのおっとりとした性分を起因としているのだろう。
誰にでも優しかったスーチェは、自爆テロに巻き込まれて死んでしまった。まだ、チェルが聖剣の加護を得るよりも前のことだ。
当時のイクスガルドはただの小国に過ぎず、猪の魔獣の脅威に怯え続ける状況だった。強国に救援を頼もうとも、見返りとして属国化を求められる。自国で何とかしたくとも、兵力に国力を割けば民を圧迫し反発を生む。
そんな状況に追い詰められた国民の一人がテロを起こした。体調不良を装い、近づいてきたスーチェを巻き込んで自爆した。テロリストの目には、王族が民を苦しめる元凶に映っていたのだろう。
「すー……すー……」
チェルの本格的な寝息がカイナの耳をくすぐる。首に回された腕もだらんと脱力しており、チェルがずり落ちないようにカイナは背を曲げた。
テロを受けて、カイナとフートラは失う物が無い者を生み出してはならないと学んだ。捨て鉢になった人間は容易く周囲の人間を巻き込んで命を散らす。そのような人間を救えるような国を目指し、その意思を国民に知らしめることが重要なのだと考えた。
一方で、チェルは真逆だった。当時のチェルはまだ物心もあやふやな時期であり、母が亡くなったことを悲しめるだけの情緒も育っていなかった。それでも、周囲の人間の様子から悟ったのだろう。自分の母親は悪意によって殺され、それによって周囲の人間が悲しんでいると。
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スーチェが生きていれば何と言っただろうか。そもそも、スーチェが生きていればチェルが民を勝手に殺すようなことも無かったのかもしれないけれども。
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「ほぁっ!?」
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