お兄ちゃんと最強から最弱に成り下がった弟

papporopueeee

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剣の落ちた日

誰にも届かない、独りよがりの謝罪

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「止めるか?」

 死にたいのなら止めはしない。見上げるチェルを見下ろすカイナの瞳はそう言っていた。

 死ぬべきかどうかで言うなら、チェルはきっと死ぬべきだ。チェルの行いの善悪について、多くの民たちが悪だと言っているのだから。悪を為した人間を殺してきた責任として、悪を為した人間はきっと死ぬべきだ。

「嫌だ……死にたくない……」

 それでもチェルは死にたくなかった。まだ自身が死ぬべき悪なのだと信じ切れていない。自身が死ぬべき悪なのだと納得できていない。これほどの殺意をぶつけられても、まだ心は受け入れられていない。

 皆から憎まれた化け物ではなく、チェルは人でありたかった。

「……それなら、落ちないようにしないとな」

 開いた城門から中に入ろうと民衆が押し寄せる。盾を持った兵士たちが道を作ろうと押しているが、数が多すぎるのか進むどころか侵入を阻むので精一杯だ。

 このままでは逃げるどころか追い詰められて刃傷沙汰になりかねない。そうチェルが思い始めたところで、兵士たちは三角形の物体を民衆に向けて投げ込んだ。

「え……聖剣?」

 城門から飛び出してきた投擲物に、民衆は注目せざるをえなかった。それが今まで心を支配していた恐怖の対象であれば尚のこと。民衆は頭上を飛び去って行くそれに目を奪われ、声を失い、一瞬の静寂が生まれた。

 聖剣が飛んできた。誰かがそう叫んだ途端に、パニックが巻き起こった。今この時もチェルが聖剣を失っていることなど知らない民たちは、蜘蛛の子を散らすように城門から逃げ出し始めた。

「っ……違うのに……聖剣じゃないのに……」

 兵士が投げたのは形が似ているだけの聖剣の贋作だ。贋作が自在に空を駆けるはずがなく、頭にぶつかったところでたんこぶを作るのが精々な代物に違いない。

「僕っ……そんなことした……? 皆からは、そう見えてたの?」

 何より、チェルはこんなことはしない。仮に今この瞬間に聖剣の加護が戻ってきたとしても、民を傷つけたり脅すためだけに聖剣を使ったりはしない。

 民との間にある絶望的なまでの壁を、チェルは目の当たりにしていた。チェルなら今この瞬間に民たちを八つ裂きにしてもおかしくないと、彼らは本気で思っていた。

「道ができた。行くぞ」

 民が逃げ出したことによって生まれた空間に盾兵たちが入り込むことで作った道。カイナは加速するのに十分な長さがあることを確認してから、馬を走らせ始めた。

 カイナの言葉通り、一度走り出した馬を止めようとする者は居なかった。贋作の聖剣で心を揺すられ恐怖を煽られたせいか、道を開けるように必死に逃げるばかりだった。

 チェルが横目で倒れる民の様子を見ると、目が合った女性はまるで魔物に出くわしたかのように怯えた。

 チェルが顔を伏せれば、耳にはありとあらゆる糾弾が飛び込んできた。それは今までの殺人に対する責任の言及であったり、逃げることへの誹りであったり、謝罪の要求から、殺された人間を返せという懇願であったりした。

「ごめんなさい……ごめんなさい……っ」

 それは誰にも届かない、独りよがりの謝罪。ただ許されたい一心で、チェルは何度も謝罪を呟き続けた。
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