女として兄に尽くすよう育てられた弟は、当たり前のように兄に恋をする

papporopueeee

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兄と弟と弟だった人

逃走

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「っ!? っ……っ!?」

 フォークを口に咥えたまま、玲が硬直している。

 目を白黒させて。
 俺の顔を凝視して。
 頬を赤く染めて。

「……なんだよ、その反応は」

 確かに、いきなりフォークを口に突っ込まれたら驚きはするだろう。
 特に玲はずっと口に入れることを躊躇していたのだから、他者からそれを強制されたら反感も覚えるかもしれない。

 しかしそれにしたって大袈裟ではないか。

 フォークの先端が尖っていることは常識だ。
 ちゃんと口の中を刺さないよう気を遣ったし、実際にフォークはギリギリ玲の舌に触れている程度だ。
 玲は微塵も痛みを感じていないはずだ。

 だというのに、玲は先ほどから顔を真っ赤にして固まったまま動く気配がない。

「あっ……あぁっ……」

 フォークを咥えたまま、器用に狼狽える玲。
 ふるふると震えるフォークの柄は、まるで玲の心情を表してでもいるかのようだ。

「……まさかとは思うが、恥ずかしいのか?」
「っ! いっ、いふぇっ……そのっ……っ!」

 俺が玲にしたことは、言ってしまえばあーんだ。
 親しい仲である者たちがする行為だ。

 例えばそれは親が子に。
 もしくは恋仲の男女が。

 いきなりそれをされれば確かに羞恥に心を掻き立てられてもおかしくないかもしれない。
 ここには珠美の目もあるのだから、理解できなくはない。

 しかし、そもそも玲はあーんという行為を理解していないはずだ。
 したがって先ほどの俺の行為は、親愛を示し見せつけるようなものではなく、ただの食事の補助をしただけのはずだ。

 だが玲の様子を見ていると、恥ずかしがっているようにしか見えない。

 真っ赤になった顔も。
 荒く熱っぽい吐息も。
 潤んだ瞳も。
 夜伽でよがっている最中とほとんど同じだ。

「っ、かっ、家事が残っていますので、失礼いたします!」

 そう言うと、玲は一目散に逃げだした。
 よほど慌てていたのか、モンブランはテーブルに放置して、フォークを手に握ったまま。

「なんなんだ、あいつ……」
「……」
「……すみません、せっかく買って来ていただいたケーキなのに」
「構わないよ。私にも非があるしね」
「いや、珠美さんは何にも悪くないですよ」

 珠美の玲への態度はこれ以上なく真摯だ。

 玲に問題があったとしても、
 万が一俺が悪かったとしても、
 珠美には何一つ非はないだろう。

「そうでもないさ。玲君の心情を思えば、もう少し気を遣ってあげられたはずだからね。少し、配慮が足りなかったみたいだ……もしくは、気を回し過ぎたのかな?」
「? 珠美さんは、玲があの反応をした理由がわかるんですか?」

 珠美の言い振りだと、玲のあの反応は予想できたことだと言っているようだった。
 俺にだって理解できていないのに、珠美には理解できるなんてことがあるのだろうか。
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